死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第2章

第85話 愛花とシャーロット

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 B級サメ映画の様な惨状に清志せいじ達が苦労させられていた頃、愛花あいかとシャーロットは船内の調査を続けていた。
 目的はイソギンチャク頭の怪物、SG03の増殖元と思われる存在の捜索だ。
 見た目の気持ち悪さから相変わらず愛花は気持ち悪がっているが、シャーロットの方はそれ程気にしていない様子だ。

「ねぇ、なんでシャーロットは平気なの?」

「何の話ですか?」

「気持ち悪いじゃん見た目が」

 真っ白い壁が続く研究エリアの一角で、SG03の死体があちこちに転がされている。
 シャーロットが得意とする氷の魔術で氷漬けにされた氷像や、頭部を鋭い氷柱で打ち抜かれた死体もある。
 この2人が使用する魔術は応用や小回りが効くものばかりである。以前にアイナとの模擬戦で見せた様な大技もあるが、普段使用する魔術は威力よりも技術で勝負する物が多い。
 Sランクの2人と比べれば派手さはないが、その分出る被害も少なくて済む。それはつまり、この様な状況下では非常に有利だという事。特に苦労する事無く2人は進んで行く。

「タコを食べる国の方がそれを言いますか?」

「えータコは美味しいし愛嬌もあるじゃない?」

「あれの何処に愛嬌が? 理解出来ませんわ」

 今でこそタコを食べる西洋人も増えはしたが、今でも気持ち悪いと思っている人も多い。シャーロットからすればタコもこのSG03も大して変わりはない。
 イソギンチャクが人間の頭部になっている点に不気味さは感じるが、頭部の見た目だけで言えばタコと抱く感想は変わらない。
 どちらも似た様なものだと感じているし、特にこれと言って外見に嫌悪感はない。あくまで海洋生物として見た場合、という話に限ってだが。
 刺胞動物と軟体動物という違いはあっても、ウネウネと動く見た目は似ている。それにシャーロットは日本での生活が長く、今更タコに過剰な苦手意識はない。

「生命への冒涜だとは思いますけど、それだけですわね」

「うーん、流石は氷の魔女。クールだねぇ」

「そんな事より、先に進みますわよ!」

 今2人はとある研究室へと向かっている。シャーロットがまだアイナと行動していた頃に得た、実験に関するデータを元にSG03が研究されていたエリアを特定した。
 そこに母体の様な存在が居るとは限らないが、あてもなく探すよりはマシだろう。何の手掛かりもなく広い船内を探し回って時間を無駄にするより現実的だ。
 仮に見付からなかったとしても、有効な対策や新しい情報が手に入る可能性だってある。そう言った観点からも行ってみる価値があると言える。
 そもそも分からない事の方が多いのだ、分かっている事から当たるのは調査の基本である。

「あら、また出ましたわね。愛花!」

「はいはい~」

「凍りなさい!」

 愛花が大量の水をSG03達の集団に向けて浴びせ掛ける。ずぶ濡れになった所にシャーロットが極低温の冷気を送り込んで凍らせる。
 液体窒素でも浴びたかの様に凍り付いていき、最後には人間サイズの氷像が出来上がる。あとは頭部を砕くかレイピアで貫いて終了だ。
 イソギンチャクは水棲生物だが、凍ってしまえばそれまでだ。しかも体は人間の死体である以上は、尚更抵抗の余地はない。
 人体が凍りつく程の低温環境で、人の体ではまともな行動など取る事は不可能である。先程からこの調子でサクサクと倒し続けている。

「こうも遭遇頻度が高いのを思えば、当たりかも知れません」

「あんまり嬉しくないんだけどね」

「どの道、殲滅しない限り居なくなりませんわよ?」

 SG03の性質上、死体があればその分だけ増殖する事が出来る。いつから船内で生活して来たのかは不明だが、船内の人間を全て殺して回るのに半年も掛からないだろう。
 乗船していた人数次第ではあるものの、広さを思えば相当数がうろついているのは間違いない。
 大元を倒すのはもちろん重要ではあるとしても、生存しているSG03は結局殲滅する以外に道はない。
 異界から逃げ出せたとしても、このまま船内を現状のまま放置する事は出来ない。この様な危険な存在を世に放つわけにはいかないのだから。

「分かってるけどさぁ~」

「ほら、進みますわよ!」

「はぁ~~やだなぁ。気持ち悪いなぁ」

 どうしても見た目が受け入れられない愛花は、愚痴を零しながらシャーロットの後ろを着いて行く。
 2人が現在進んでいるのは第2デッキの一角である。このエリアには実験で作った生命体の原種が保管されている。
 その保管庫の近くにSG03を研究していた研究室がある。それらの立地を考えると、そのどちらかで何かしら起きたのではないか、というのがシャーロットの予想である。
 概ねこの様な事態は、何らかの事故や事件が発端である事が多い。それに目的の研究室に近付くにつれて遭遇頻度が上がって来ている。
 これはそれなりの期待をしても良いのではないだろうかとシャーロットは考えている。

「ほら、シャキッとなさいな!」

「分かってるよぉ~」

 複数の氷像を作りながら、2人の少女達が船内を進んで行く。いまいち乗り気になれない相棒を𠮟咤激励しつつ、シャーロットは先を急ぐ。
 あれこれと問題が多い現状だが、彼女は1つだけ忘れている事がある。この船にはシャーロットが苦手としている幽霊も居るという事を。
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