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第2章
第79話 研究員との邂逅
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アドベンチャー号の機密エリア、船体の下層にある研究施設に潜入していたアイナとシャーロット。
そんな2人の前に、怪しげな1人の男が現れた。神経質そうな風貌をしており、かけた眼鏡の左側にひびが入っている。
その奥にある瞳は血走っており狂気を感じさせる。白衣姿と、やせ細った体躯から研究者なのだろう。
見た目からして30代半ばぐらいの年齢ではないだろうか。そんな彼は見た目通り神経質そうなピリピリとした空気でアイナ達に声を掛けて来た。
「な、な、なんだお前たちは!? どうやってここに来た!?」
「落ち着いて。私は魔導協会の執行者、アイナ・クラーク・三島よ」
「同じく魔術師のシャーロット・ウィルソンですわ」
「な、何で魔術師がここに!?」
男は頭をガリガリと掻き毟りながら、ぶつぶつと独り言を呟き始めた。突然の行動に困惑するアイナとシャーロット。
何か怪しい薬物や精神系の魔術でも使用しているのか、それともこれが彼の素であるのか。
なまじ研究者とは変わり者が多い為、ここまでの言動だけでは判断がつかない。
とは言え、このエリアに居たという事は、少なくとも何らかの形でここの研究に関わっているのは確実だ。
違法行為にまで手を染めていたのか、そうでないのかは兎も角。それについては対話を試みるしかないが、話が通じるかは微妙なラインだ。
「良いから落ち着いて? 貴方の名前は?」
「わ、私は悪くない! 知らなかったんだ!?」
「分かったから落ち着いてくれる? 貴方は誰なの?」
男は半ば錯乱状態にある様で、自分のせいじゃないと言い続ける。ここで一体何があったのか、どうして男はこんな状態になったのか。
それが全く見えて来ない。恐らくだが男は、魔導協会の執行者が現れた事に焦っている様子だ。
ここでシーネストが行っている研究は明らかに違法である為、罪に問われる可能性を真っ先に考えたのも分からなくはない。
だからと言って、今ここで罪状も不明なまま刑罰の執行は行われない。現行犯でもない限り、先ずは事情聴取から始めるのは警察も執行者も変わらない。
「いい加減名前ぐらい名乗ったら如何かしら?」
「ひっ!? わ、私は、ま、真嶋幸二だ」
「それで、貴方はここで何をしていたの?」
真嶋と名乗った男は、シーネストの研究員で35歳。元々は海洋生物の研究者をしていただけの男だった。
それがある時シーネストから声が掛かり、好きに研究して良いとこの船に乗せられた。潤沢な資金を元手に何時でも自由に研究出来る。
そんな楽園の様な場所だと最初は思っていたらしい。殆ど海上に居る為、研究材料の収集も簡単だ。
最新の機器や潜水艇まで所有しているので、充実した日々を送れていた。これと言った不満も特に無く、様々な研究結果を会社に提出していた。
そんな毎日が大きく変わったのは、シーネストに所属して2年ほど経ってからだった。
「あ、あいつらがやれと言うから!?」
「待って、何の話なの?」
「わ、私も最初は反対した! だが、あいつらは私の研究を盾にしたんだ!?」
「ちゃんと順を追って説明して下さる?」
すぐに自分は悪く無いのだと言い出す為、中々事情が掴めない。そもそも何に対して話しているのかも分からず、事情聴取は難航する。
何があって何をしていて、彼がどの程度関わっていたのか。それが分からないと良いも悪いも無いのだ。
非常に厄介な相手であったが、アイナとシャーロットの2人は何とか話を聞きだしていく。
時系列もごちゃごちゃで、真嶋の主観が多分に入っているので理解するには結構な労力を要した。
それで分かった事はこの男こそがL細胞、つまりレヴィアタンの細胞の研究をしていた主要人物だという事。例のL細胞の主任研究員だったのだ。
「じゃあ何? 貴方が元凶ってわけ?」
「ち、ち、違う! 私は命令されていただけだ!?」
「でも、主任なのでしょう? その主張は無理がありませんこと?」
「違う! 信じてくれ!!」
話を聞く限りでは、都合良く利用されて主犯格となってしまった哀れな男。ただそれだけでしかない。
自分の研究を盾にされたと言っても、そこへの資金を提供していたのはシーネストだ。当然の権利としか言いようが無く、それで真嶋を無罪放免とはいかない。
情状酌量の余地はあるが、それでも主犯格という扱いは変わらない。今すぐここで殺処分とする程の悪行とは言い難い。
確かに主任研究員とは言え、その指示を出していたのはシーネストだ。それはここまでの調査でハッキリと判明している。
このまま真嶋が調査に協力的であるならば、多少の減刑ぐらいは望めるだろう。
「とりあえず、重要参考人として同行して貰いましょうか」
「お、お前達も私の研究員を取り上げるのか!?」
「その辺りは一旦甲板に上がって、魔導協会の指示待ちですわね」
「い、嫌だ!! 私の研究は誰にも渡さないぞ!!」
「ちょっ!? 何よ、その体は!?」
真嶋の背中から突然タコの様な触腕が複数出現し、彼の肉体を猛スピードで移動させて行く。
追跡しようとする2人に向かって、墨の様な黒煙が放出されて視界を奪われる。何らかの毒である可能性も捨てきれず、不用意に飛び込む事は出来ない。
シャーロットが風を操り黒煙を払ったが、その向こうには既に真嶋の姿は無かった。
そんな2人の前に、怪しげな1人の男が現れた。神経質そうな風貌をしており、かけた眼鏡の左側にひびが入っている。
その奥にある瞳は血走っており狂気を感じさせる。白衣姿と、やせ細った体躯から研究者なのだろう。
見た目からして30代半ばぐらいの年齢ではないだろうか。そんな彼は見た目通り神経質そうなピリピリとした空気でアイナ達に声を掛けて来た。
「な、な、なんだお前たちは!? どうやってここに来た!?」
「落ち着いて。私は魔導協会の執行者、アイナ・クラーク・三島よ」
「同じく魔術師のシャーロット・ウィルソンですわ」
「な、何で魔術師がここに!?」
男は頭をガリガリと掻き毟りながら、ぶつぶつと独り言を呟き始めた。突然の行動に困惑するアイナとシャーロット。
何か怪しい薬物や精神系の魔術でも使用しているのか、それともこれが彼の素であるのか。
なまじ研究者とは変わり者が多い為、ここまでの言動だけでは判断がつかない。
とは言え、このエリアに居たという事は、少なくとも何らかの形でここの研究に関わっているのは確実だ。
違法行為にまで手を染めていたのか、そうでないのかは兎も角。それについては対話を試みるしかないが、話が通じるかは微妙なラインだ。
「良いから落ち着いて? 貴方の名前は?」
「わ、私は悪くない! 知らなかったんだ!?」
「分かったから落ち着いてくれる? 貴方は誰なの?」
男は半ば錯乱状態にある様で、自分のせいじゃないと言い続ける。ここで一体何があったのか、どうして男はこんな状態になったのか。
それが全く見えて来ない。恐らくだが男は、魔導協会の執行者が現れた事に焦っている様子だ。
ここでシーネストが行っている研究は明らかに違法である為、罪に問われる可能性を真っ先に考えたのも分からなくはない。
だからと言って、今ここで罪状も不明なまま刑罰の執行は行われない。現行犯でもない限り、先ずは事情聴取から始めるのは警察も執行者も変わらない。
「いい加減名前ぐらい名乗ったら如何かしら?」
「ひっ!? わ、私は、ま、真嶋幸二だ」
「それで、貴方はここで何をしていたの?」
真嶋と名乗った男は、シーネストの研究員で35歳。元々は海洋生物の研究者をしていただけの男だった。
それがある時シーネストから声が掛かり、好きに研究して良いとこの船に乗せられた。潤沢な資金を元手に何時でも自由に研究出来る。
そんな楽園の様な場所だと最初は思っていたらしい。殆ど海上に居る為、研究材料の収集も簡単だ。
最新の機器や潜水艇まで所有しているので、充実した日々を送れていた。これと言った不満も特に無く、様々な研究結果を会社に提出していた。
そんな毎日が大きく変わったのは、シーネストに所属して2年ほど経ってからだった。
「あ、あいつらがやれと言うから!?」
「待って、何の話なの?」
「わ、私も最初は反対した! だが、あいつらは私の研究を盾にしたんだ!?」
「ちゃんと順を追って説明して下さる?」
すぐに自分は悪く無いのだと言い出す為、中々事情が掴めない。そもそも何に対して話しているのかも分からず、事情聴取は難航する。
何があって何をしていて、彼がどの程度関わっていたのか。それが分からないと良いも悪いも無いのだ。
非常に厄介な相手であったが、アイナとシャーロットの2人は何とか話を聞きだしていく。
時系列もごちゃごちゃで、真嶋の主観が多分に入っているので理解するには結構な労力を要した。
それで分かった事はこの男こそがL細胞、つまりレヴィアタンの細胞の研究をしていた主要人物だという事。例のL細胞の主任研究員だったのだ。
「じゃあ何? 貴方が元凶ってわけ?」
「ち、ち、違う! 私は命令されていただけだ!?」
「でも、主任なのでしょう? その主張は無理がありませんこと?」
「違う! 信じてくれ!!」
話を聞く限りでは、都合良く利用されて主犯格となってしまった哀れな男。ただそれだけでしかない。
自分の研究を盾にされたと言っても、そこへの資金を提供していたのはシーネストだ。当然の権利としか言いようが無く、それで真嶋を無罪放免とはいかない。
情状酌量の余地はあるが、それでも主犯格という扱いは変わらない。今すぐここで殺処分とする程の悪行とは言い難い。
確かに主任研究員とは言え、その指示を出していたのはシーネストだ。それはここまでの調査でハッキリと判明している。
このまま真嶋が調査に協力的であるならば、多少の減刑ぐらいは望めるだろう。
「とりあえず、重要参考人として同行して貰いましょうか」
「お、お前達も私の研究員を取り上げるのか!?」
「その辺りは一旦甲板に上がって、魔導協会の指示待ちですわね」
「い、嫌だ!! 私の研究は誰にも渡さないぞ!!」
「ちょっ!? 何よ、その体は!?」
真嶋の背中から突然タコの様な触腕が複数出現し、彼の肉体を猛スピードで移動させて行く。
追跡しようとする2人に向かって、墨の様な黒煙が放出されて視界を奪われる。何らかの毒である可能性も捨てきれず、不用意に飛び込む事は出来ない。
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