死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第2章

第77話 研究と犠牲と

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 豪華客船アドベンチャー号、ただの旅客船かと思われたその船は裏の顔があった。船内の下層区画は、全てシーネストという企業の研究施設だった。
 そこでは違法な生物実験と、伝説上の海洋生物レヴィアタンの捜索が行われていた。そんな怪しい研究施設を、アイナとシャーロットは奥へと進む。

「随分と悪趣味な事をしていたのね」

「正気を疑いますわよ。何ですのコレ」

「実験体の成れの果て、かしらね」

 大小様々なガラス容器に、この世のモノとは思えない生物達が浮かんでいた。カニの手足が生えたラットや、猫の様な体を持つ魚。
 そして猿と思われる生物の頭部がイソギンチャクになっている。これは既に2人が調べ終わっている実験体の成功例だ。
 特にイソギンチャクの方は正式名称が判明している。ベースとなったハタゴイソギンチャク、学名Stichodactylaスティコダクティラ Giganteaギガンテアの頭文字からSG03と名付けられていた。
 このハタゴイソギンチャクと言う種は、最大で1メートル近い大きさまで育つ。だからこそ人間の頭部に成り替わる事が可能である。
 また持っている刺胞毒は強力であり、実験により強化された事で人間程度なら簡単に殺せてしまう。

「こいつがデータにあった奴ね」

「悪趣味で片付ける話ではありませんわよ」

「確かに、かなり気持ち悪いわね」

 実験体SG03を眺める2人は、生理的な嫌悪感に襲われていた。猿とは言え、人間に近い生物の頭部が海洋生物に変化しているのだ。
 質の悪いB級ホラー映画でも観せられているかの様だ。2人はまだ実物とは接触していないが、こんな物が頭部になった人間など見たくはないと心底思っていた。
 残念ながら2人の嫌な想像は当たっており、既に船内に解き放たれた後である。それを知らないのはアイナとシャーロットだけである。
 たまたま遭遇せずに済んでいるだけに過ぎない。知っている人間にしか通れない隠し通路を使ったが故の結果だった。この辺りはまだ、SG03の影響を受けてはいない。

「随分と広い部屋ね」

「あそこにまた端末がありますわよ」

「調べてみましょう」

 不気味なガラス容器に囲まれた部屋を出た2人は、体育館ぐらいの広さを持つ白い部屋に出た。奥の方には複数の端末とモニターが並んでいるのが見えた。
 恐らくは強化ガラスと思われる透明な壁に囲まれた小部屋の中だ。鍵は空いていたらしくドアはすんなりと開いた。
 再びシャーロットが端末の調査を開始し、アイナは棚にある資料に目を通す。そこには更に踏み込んだ内容が書かれていた。
 違法な手段で手に入れた被験者を使い、動物実験から人体実験へと移行していく過程が記されていた。

「やっぱりね。こんな連中が人体実験に手を染めない筈がない」

「こっちはもっと不味い物を見つけましたわ」

「どれどれ……L細胞? 嘘でしょ!? 見つけたの!?」

 馬鹿げた計画と思われたレヴィアタンの捕獲。それが発見する所までは成功していたらしい。この様な重要区画でしか扱われていない情報だったらしい。
 一般職員には公開されておらず、秘密裏に研究が進められていた。捕獲には失敗したものの、肉体組織の一部を入手したらしくその研究が行われていた。
 レヴィアタンの細胞を調べた結果、自己増殖する性質を持つ事が判明。その細胞はLeviathanから取ってL細胞と呼ばれる事になった。
 このL細胞を用いて作られたのがSG03である。ただしこの実験体は成功例とするには微妙だった。生物兵器として使えなくもないが、知性がほぼ無かったのだ。
 こちらの指示を殆ど理解出来ず、ただ周りの生物を殺し増殖する事しか出来なかった様だ。

「最悪だわ、やっぱり人間にも寄生出来るのね」

「寄生と言うより、乗っ取りではありません?」

「どっちでも良いわよそんなの」

 更に調査を進めて行くと、様々な事が分かって来た。SG03は素体に使う生物によって性質がかなり変わるという事だ。
 実験用のラットでは、イソギンチャクの頭部が大き過ぎて成長に耐えられない。大型犬で漸くギリギリだが猿以上に知能が低くなる。
 そんな猿でも知能が足りず、結局最後は人間へと移行した。成人男性を宿主にするのが一番兵器としては役に立った。
 意外と上手く行ったパターンが人間の子供を素体にした時だ。最も指示を聞くのは子供であるが、戦闘力はその分低くなるのがネックだと記されていた。

「反吐が出るわね」

「孤児の子供を実験に使うなんて……」

「良くある事よ、残念だけどね」

 テロや戦争に巻き込まれた孤児達は、人身売買組織に利用され易い。身元と安否がしっかり確認される前に誘拐され、この様な施設へと高値で売られる。
 そしてその先に待つのは不幸な末路だけ。稀に成功して自由を得られる場合もあるが、大体は悲劇で終わる。それが魔導犯罪の闇であり、拭い切れない人の業であった。
 いつの時代も弱い者に対して情け容赦がない者はいる。幼い子供を実験に使う、そんな判断を平気で出来てしまえるのだ。そんな犠牲を悼んでいた2人の前に、1人の男が現れた。

「な、な、な、何だお前たちは!?」

 アイナとシャーロットが部屋の入り口見ると、血走った目の白衣を着た男が立っていた。
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