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第2章
第76話 遺体の検分
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まるでゾンビ映画の様に感染するイソギンチャク頭。そんな化け物を撃退した清志達は、この生命体について調べる事にした。
だがこんな生物がいる船内で、一般人を同行させるのは危険過ぎる。助けたワタツミの船員達は食糧庫に避難させ、護符を利用した結界を張って保護した。
SランクとAランクが2人掛かりで作った結界だ。並の存在では突破は出来ないだろう。それから再びイソギンチャク頭と遭遇した現場へと清志達は戻って来た。
「うへぇ……やっぱりキモいよ」
「人間の頭部より大きいイソギンチャクなんて存在するのか?」
「一部の種類なら大きくなるわよ」
「居るんだ……やだなぁ」
主に水族館で見る様なイソギンチャクは、どれも小型なものが中心である。どうしても魚類や水棲哺乳類が展示のメインになりがちだ。
逆にイソギンチャクや貝類などは専用コーナーに集中する事が多い。特にイソギンチャクは見た目からして人を選ぶので、大々的にフィーチャーしている所はそう多くはない。
そもそもデリケートな生き物なので、飼育が難しいという問題もある。それらの理由から、イソギンチャクの種類に詳しく精通している者はそう多くはないのだ。
「これどうなっているんだ?」
「どうって?」
「だって、人間の頭部が無くなっているんだぞ」
愛花の問いに対して、清志は遺体の頭部を見せる。本来なら人間の頭部があった筈の位置にあるのはテラテラと光る軟体だけ。
頭蓋骨などの人間が本来持っているパーツがそこには無かった。つまり被り物の様に寄生するのではなく、完全に作り替わるという事になる。
一体化したのか吸収したのか、それとも消化したのか。その辺りは不明だが完全に別物となっているのは間違いない。
清志が首と頭部を切り離してみても、やはり骨があるのは首までだった。そうなるとどうやって肉体を動かしたのか、という問題も浮上して来る。
「謎過ぎるだろ、コイツ」
「うぇ、良く触れるね」
「まあ素手じゃないしね」
清志は食糧庫から現場に戻るついでに、キッチンから厚手のゴム手袋を拝借している。生態の分からない生物相手に、流石に素手で触れる気にはなれなかったからだ。
人間の死体を乗っ取った相手だ、用心するに越したことはない。もちろん魔導協会に証拠として提出する為の処置でもあるが。
そんな訳で清志が遺体をある程度検分してみたが、大きな成果は得られなかった。他に分かっているのは、ワタツミの船員達から聞いた話だけ。どうもこの生物は、下の階からやって来たという。
「下の階を調べよう」
「あんまり気が進まないなぁ」
「まあそう言うなって姫島」
愛花は女子としてごく普通の価値観を持っている。だから人間の頭より一回り大きなイソギンチャクなど、見ていて気分の良いものではない。
巨大な紫色の軟体生物が、触手を展開しているのだ。嫌悪感が強いのも仕方がないだろう。ホラー的な忌避感というよりは、生理的な嫌悪感が愛花のやる気を萎えさせている。
見た目のグロテスクさだけで言えば、男性でも厳しいものがある。清志は経験から来る慣れが強いだけに過ぎない。
なにせ黄泉の国に住まう者達は、大体見た目がモンスターパニックな住人達だ。それらと比較すれば、この程度は気にならない。
「前衛はお願いします!」
「いや、姫島も前衛タイプじゃ……」
「後ろからトンファーショットしとくね」
「何だよその技」
気持ち悪いから絶対に近づきたくない愛花は、魔術戦に専念すると決めた。愛花も清志と同様に、前に出て戦う方が得意だ。
各種格闘技をベースにした近接戦闘で、成人男性すらも圧倒出来る。しかし遠距離戦が苦手な訳では無い。主に水の魔術を使用した撃ち合いにも対応出来る。
特にムチの様に水を操る戦法で、離れた所から攻撃する搦め手は良く使用している。水蛇と呼ばれる陰陽術の一種であり、意思を持つ蛇の様に自在に水を操作する。
ただこの船内の様に狭い場所では、その自由自在な動きが制限される。愛花の言う様に、今はシンプルに水球を飛ばす様な魔術の方が良いだろう。
「まあ良いよ、大した敵じゃないし」
「これで囲まれない限り私の出番は無いね」
「おいやめろ。変なフラグを立てるな」
「大丈夫でしょー全然人が居ないんだから」
確かにこの生命体は、人間の死体がなければ繁殖のしようがない。町中に解き放たれたのなら大変な事になってしまうが、ここは人の気配がないほぼ無人の船の中だ。
愛花の想像通りならば、同じ生物が出てきても数体が良い所だろう。しかしそれは、あくまで彼女の予想に過ぎない。
人が居ないからと言っても、死体が無いとは限らない。そしてその辺りについて、敏感な神様がここには居る。
「あら? 死体ならそれなりにあるみたいよ?」
「………………マジですか?」
「だから言っただろ」
錆びついたロボットの様な動きで後ろを振り返る愛花。そして黄泉津大神の言葉が真実ならば、これから先はそれなりの戦闘が待っている可能性がある。ガックリと項垂れながら、愛花はトボトボと清志の背中を追い掛けた。
だがこんな生物がいる船内で、一般人を同行させるのは危険過ぎる。助けたワタツミの船員達は食糧庫に避難させ、護符を利用した結界を張って保護した。
SランクとAランクが2人掛かりで作った結界だ。並の存在では突破は出来ないだろう。それから再びイソギンチャク頭と遭遇した現場へと清志達は戻って来た。
「うへぇ……やっぱりキモいよ」
「人間の頭部より大きいイソギンチャクなんて存在するのか?」
「一部の種類なら大きくなるわよ」
「居るんだ……やだなぁ」
主に水族館で見る様なイソギンチャクは、どれも小型なものが中心である。どうしても魚類や水棲哺乳類が展示のメインになりがちだ。
逆にイソギンチャクや貝類などは専用コーナーに集中する事が多い。特にイソギンチャクは見た目からして人を選ぶので、大々的にフィーチャーしている所はそう多くはない。
そもそもデリケートな生き物なので、飼育が難しいという問題もある。それらの理由から、イソギンチャクの種類に詳しく精通している者はそう多くはないのだ。
「これどうなっているんだ?」
「どうって?」
「だって、人間の頭部が無くなっているんだぞ」
愛花の問いに対して、清志は遺体の頭部を見せる。本来なら人間の頭部があった筈の位置にあるのはテラテラと光る軟体だけ。
頭蓋骨などの人間が本来持っているパーツがそこには無かった。つまり被り物の様に寄生するのではなく、完全に作り替わるという事になる。
一体化したのか吸収したのか、それとも消化したのか。その辺りは不明だが完全に別物となっているのは間違いない。
清志が首と頭部を切り離してみても、やはり骨があるのは首までだった。そうなるとどうやって肉体を動かしたのか、という問題も浮上して来る。
「謎過ぎるだろ、コイツ」
「うぇ、良く触れるね」
「まあ素手じゃないしね」
清志は食糧庫から現場に戻るついでに、キッチンから厚手のゴム手袋を拝借している。生態の分からない生物相手に、流石に素手で触れる気にはなれなかったからだ。
人間の死体を乗っ取った相手だ、用心するに越したことはない。もちろん魔導協会に証拠として提出する為の処置でもあるが。
そんな訳で清志が遺体をある程度検分してみたが、大きな成果は得られなかった。他に分かっているのは、ワタツミの船員達から聞いた話だけ。どうもこの生物は、下の階からやって来たという。
「下の階を調べよう」
「あんまり気が進まないなぁ」
「まあそう言うなって姫島」
愛花は女子としてごく普通の価値観を持っている。だから人間の頭より一回り大きなイソギンチャクなど、見ていて気分の良いものではない。
巨大な紫色の軟体生物が、触手を展開しているのだ。嫌悪感が強いのも仕方がないだろう。ホラー的な忌避感というよりは、生理的な嫌悪感が愛花のやる気を萎えさせている。
見た目のグロテスクさだけで言えば、男性でも厳しいものがある。清志は経験から来る慣れが強いだけに過ぎない。
なにせ黄泉の国に住まう者達は、大体見た目がモンスターパニックな住人達だ。それらと比較すれば、この程度は気にならない。
「前衛はお願いします!」
「いや、姫島も前衛タイプじゃ……」
「後ろからトンファーショットしとくね」
「何だよその技」
気持ち悪いから絶対に近づきたくない愛花は、魔術戦に専念すると決めた。愛花も清志と同様に、前に出て戦う方が得意だ。
各種格闘技をベースにした近接戦闘で、成人男性すらも圧倒出来る。しかし遠距離戦が苦手な訳では無い。主に水の魔術を使用した撃ち合いにも対応出来る。
特にムチの様に水を操る戦法で、離れた所から攻撃する搦め手は良く使用している。水蛇と呼ばれる陰陽術の一種であり、意思を持つ蛇の様に自在に水を操作する。
ただこの船内の様に狭い場所では、その自由自在な動きが制限される。愛花の言う様に、今はシンプルに水球を飛ばす様な魔術の方が良いだろう。
「まあ良いよ、大した敵じゃないし」
「これで囲まれない限り私の出番は無いね」
「おいやめろ。変なフラグを立てるな」
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確かにこの生命体は、人間の死体がなければ繁殖のしようがない。町中に解き放たれたのなら大変な事になってしまうが、ここは人の気配がないほぼ無人の船の中だ。
愛花の想像通りならば、同じ生物が出てきても数体が良い所だろう。しかしそれは、あくまで彼女の予想に過ぎない。
人が居ないからと言っても、死体が無いとは限らない。そしてその辺りについて、敏感な神様がここには居る。
「あら? 死体ならそれなりにあるみたいよ?」
「………………マジですか?」
「だから言っただろ」
錆びついたロボットの様な動きで後ろを振り返る愛花。そして黄泉津大神の言葉が真実ならば、これから先はそれなりの戦闘が待っている可能性がある。ガックリと項垂れながら、愛花はトボトボと清志の背中を追い掛けた。
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