死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第2章

第72話 ホラー映画みたいな状況

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 清志せいじ愛花あいか、そして黄泉津大神よもつおおかみはアドベンチャー号の甲板にて周囲を探っていた。突然現れた霧に、見えなくなった太陽。
 薄暗くなってしまった事で、海面が良く見えない。かろうじて見えている船内に乗り込む為に使った縄梯子の先には、ワタツミから乗って来た調査船の姿は無かった。
 ならばものは試しと清志が風を起こす魔術で霧を払おうとしたが、全く効果はなく未だに濃い霧が健在だ。

「やはり異界に連れ込まれたか」

「突然過ぎない? しかもこんな大きな船だよ?」

「術者がそれなりなら、出来なくなないわね」

 異界とは、主に別世界の事を指す。神隠しと呼ばれる現象の大半は、この様な異界に迷い込む事を言う。代表的な異界で言えば、きさらぎ駅の様な場所だ。
 この世でもあの世でも無い、別次元の空間。並行世界ではないかとの説もあるが、異界の大半は人間が存在していない。
 そもそも異界とは様々だ。悪魔や妖怪の類が創り出した空間であったり、自然発生したものであったり。
 厳密に条件が定められている訳では無く、異空間全般を異界と呼称している。そう言った意味では、アイナが生み出した工房もこの異界に分類される。

「参ったな……一旦皆と合流するか」

「そうだよね。揃っていた方が安心だし」

「こんな時ほど上手く合流出来ないのよね」

「おいやめろ、本当にそうなったらどうする」

 どんどんホラー映画の様な展開になって行くだけに、黄泉津大神の指摘が現実になりそうな気配がしている。
 海上に放置されていた無人の豪華客船に、周囲が見えない深く濃い霧。バラバラに行動している学生達。如何にもな状況であり、既に映画にありそうなワンシーンでもある。
 何より少女の幽霊も目にしているので、今更ではあるのだが。ともかくそんな現状を考えれば、全員と合流するのが一番確実で安全だ。
 特にワタツミから来ている調査船の船員達は、ただの一般人で船乗りに過ぎない。悪霊にでも襲われたら為すすべもない。彼らの保護を最優先にせねばならないだろう。

「しまったな、船員さん達は今どこに居るんだ?」

「機関室じゃないかな? 予定通り回っていたら」

「その予定通りというのがもう怪しいわね」

 今の時点で全てが予定外の状況だ。本当なら今頃は海洋調査をしていた筈なのだから。おまけにどうやら幽霊船らしき船に乗り込んでしまっている。
 何の力も持たない彼らが、順調に調査が出来ている保証はない。今や清志達は異界に囚われた身だ。安全とは程遠い立ち位置に居る。
 救助に来た側が救助される対象になってしまっている。いつ頃からこんな異界が存在していたのかは不明だが、この辺りでの遭難事件があるとするなら原因は恐らくこの霧だろう。

「駄目だな、無線が通じない」

「スマートフォンも駄目ね、圏外みたい」

「魔術での連絡も厳しそうよ。多分この霧が原因でしょうけど」

 清志と愛花は試しに自分のパートナーとの連絡を試みるが上手くいかなかった。まるで何かに妨害されているかの様に、魔術が遠くまで届かない。
 すぐ近くまでなら辛うじて届く様だが、それでは何の意味もない。結局はこの広い船内を、探して回るしかないらしい。
 とりあえずクラスメイト達は大丈夫だろうと判断し、船員達との合流を目指し清志達は機関室を目指す。通路に貼られた船内の図を見てみると、機関室はほぼ真逆の位置にあるのが分かった。

「結構遠いな。急ごうか」

「すぐ見つかると良いけど」

「生きてはいるんじゃない? 今のところ死は感じないから」

 黄泉津大神の発言を信じ、機関室へと急ぐ2人。その道中では誰とも遭遇する事は無かった。元々の船内が無人であった上に、今や異界の中にいるのだ。
 調査に来た清志達以外に誰も居る筈がない。軽やかに通路を走り抜けて来た清志達は、無事に機関室へ到着した。
 しかし黄泉津大神の発言通り、そこには船員達の姿は無かった。ただ無人の機関室で、機械音が響いているだけだ。道中でも遭遇しなかった事を思えば、まだ他の場所を見ている途中なのかも知れない。

「さて、どうしたものか」

「……ここで待つ?」

「それはそれで問題ありそうだしなぁ」

 探し回った結果、入れ違いになる可能性はある。かと言って悠長にしては居られない。だからと言って二手に分かれるのは一番の愚策だ。
 何のために合流するのか分かったものではない。だが現状手詰まりであるのも確かだ。どうするかを決めないといけないが、ベストなアンサーが清志には分からない。
 待機すべきか、他の候補を当たるべきか。一隻の船とは言っても、船内の広さは中々なものだ。下手をすれば、30分探しても誰も見つからない可能性すらある。
 これで乗務員でもいれば聞けば済む話だが、生憎とこの船には清志達しか居ないのだ。

「待って! 今何か聞こえなかった?」

「本当か姫島ひめじま? どこからだ?」

「多分あっちだよ!」

 何かを聞き取ったらしい愛花の耳を頼りに、清志達は船内を進む。孤立していると思われる調査船の船員達か、それとも全く違う何かか。
 その正体は不明だが、清志達は急いで音のした方向へと走って行った。あまり宜しくは無いこの状況に、進展はみられるのだろうか。
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