69 / 96
第2章
第69話 船内の調査②
しおりを挟む
元々船の上に居る事が多かったからか、それとも面白いネタを見つけたからかアイナは非常に上機嫌だった。
対してホラーが苦手なシャーロットの気分は最悪だった。シャーロットはアイナをライバル視しているが、アイナは同じ英語圏の留学生として彼女を見ている。
だからこうして、アイナはシャーロットを振り回しがちだ。一度模擬戦でやり合ったからと言うのも大きい。
アイナはシャーロットの腕を高く評価しているので、魔術師としても友人としても気に入っていた。
「ねぇ、怖がり過ぎじゃない?」
「貴女が鈍感過ぎるんですわよ!」
「えぇ~そうかなぁ? 怖がる要素が無いと思うけど」
ホラーもグロテスクな表現も平気なアイナは、こんな状況でもいつも通りだ。そもそもアイナはあまり怖がる事がない。
怖いもの知らずと言うよりも、育った環境による影響が大きい。幼い内から様々な経験をして来た事で、耐性が出来てしまっているのだ。
凶悪な犯罪者だけでなく、悪魔や霊と言った存在とも相対して来た。特にアイナの持つ魔力は、その手の存在に滅法強い。
弱い霊ならアイナに触れただけで、保有魔力が霧散して存在を維持出来なくなってしまう。低級の悪魔も似た様なものだ。
「大体おかしいでしょう! こんな状況は!」
「だから調べてるんじゃない」
「この船が幽霊船だったらどうするのですか!」
実在するのかどうか、まだまだ議論が尽きない幽霊船。霊が居るのだから、幽霊船も実在すると考える者も居る。
逆に船を動かすだけの魔力を、ただの霊が保持し続けるのは不可能だと考える者も居る。どちらが正しいとするかは未だに決まらず、決定打にも欠けていた。
シャーロットは前者を支持する側であり、アイナは後者の考え方をしていた。幽霊船で有名なのは、良くある木造の帆船だ。
それが何十年も何百年も、現れたり消えたりする。それを各国の海軍が察知も出来ずに居るとはアイナには思えない。
状況を楽しんでもいるがもし実在するならば、それなりの設備が必要だと冷静な目で事態を見ていた。
「こんな現代的な幽霊船なんてあるかしら?」
「わ、分からないでしょう、そんな事は!」
「そもそも幽霊に船は動かせないんじゃない?」
低級な人間の幽霊が持つ力はたかが知れている。それこそ出来てポルターガイストだ。食器などを動かす程度の力しかない。
こんな巨大な豪華客船を動かせる程となると、元Aランク魔術師達の幽霊が数人は必要となる。その辺りにいる一般人レベルならば、1000人分の幽霊が居ても不可能だ。
それにこの船には明らかに魔道具の類も積まれているし、製造年代的に見て運航には魔力が必要な客船だ。
つまりこの船が幽霊船だと言う可能性は低いと、魔術にも船舶にも詳しいアイナはすぐに見抜いていた。
ただ怖がるシャーロットが面白かったので、わざわざ説明していないだけで。
「大体、霊なら精霊とかも居るじゃない?」
「spiritとghostじゃ別物でしょう!」
「そんなに違いは無いと思うけど」
シャーロットの言い分も最もだが、日本語における霊と言う単語が一番そう言った存在を表現するのに相応しい。
結局はこの世ならざる者達であり、属性が正に向いているか負に向いているかの差しかない。正の属性を持つ魂と魔力の塊が精霊であり、負の属性を持つ魂と魔力の塊が幽霊だ。
前者は幸福な一生を送った生命の魂が昇華された場合。後者は無念に散った未練ある生命の魂が現世にしがみついた場合に発生する。根本的には生命体の魂でしかないのだ。
「そんなんじゃ、悪霊退治とか出来ないでしょ?」
「ゔっ……ま、魔術師にも仕事を選ぶ権利が約束されておりますわ!」
「そっかぁ~じゃあ今回はシャーロットの不戦敗だね」
「なっ!? ひ、卑怯ですわよ!」
何かとライバル視するシャーロットを、ニヤニヤとアイナが笑いながら見つめる。このまま怖がって船を降りるなら、シャーロットの負けだと言われては彼女も引き下がれ無い。
負けず嫌いのシャーロットを、早くもアイナは上手く扱っていた。アイナが上手いと言うよりも、シャーロットが単純と表現した方が正しいのかも知れないが。
いずれにせよ、そんな風に負けをチラつかされては、シャーロットも船を降りるとはもう言え無かった。シャーロットは震えながらも、気丈に振る舞ってみせる。
「い、良いでしょう! 悪霊でも怨霊でも、わ、私が全部凍らせてやりますわ!」
「おっ! 良いねぇ。そう来なくっちゃ」
「あ、あくまで人命優先ですからね! 人助けが優先ですけどね!」
「はいはい」
これだけ騒いでいても誰も現れない。その時点で人間など居ないだろう。海難救助の経験が何度もあるアイナには、経験則から大体は察する事が出来る。
今回の様なケースだと、可能性として高いのは大規模な海賊団が放置したパターンだ。船を盗み船内を物色した後、不要になった船を捨てた。
オチはそんな所だろうなとアイナは考えている。予想に反して本当に幽霊船なら、それはそれで面白いとも思っているが。
どちらにせよ、もう少しシャーロットで遊べそうだなとアイナは楽しそうに笑っていた。
対してホラーが苦手なシャーロットの気分は最悪だった。シャーロットはアイナをライバル視しているが、アイナは同じ英語圏の留学生として彼女を見ている。
だからこうして、アイナはシャーロットを振り回しがちだ。一度模擬戦でやり合ったからと言うのも大きい。
アイナはシャーロットの腕を高く評価しているので、魔術師としても友人としても気に入っていた。
「ねぇ、怖がり過ぎじゃない?」
「貴女が鈍感過ぎるんですわよ!」
「えぇ~そうかなぁ? 怖がる要素が無いと思うけど」
ホラーもグロテスクな表現も平気なアイナは、こんな状況でもいつも通りだ。そもそもアイナはあまり怖がる事がない。
怖いもの知らずと言うよりも、育った環境による影響が大きい。幼い内から様々な経験をして来た事で、耐性が出来てしまっているのだ。
凶悪な犯罪者だけでなく、悪魔や霊と言った存在とも相対して来た。特にアイナの持つ魔力は、その手の存在に滅法強い。
弱い霊ならアイナに触れただけで、保有魔力が霧散して存在を維持出来なくなってしまう。低級の悪魔も似た様なものだ。
「大体おかしいでしょう! こんな状況は!」
「だから調べてるんじゃない」
「この船が幽霊船だったらどうするのですか!」
実在するのかどうか、まだまだ議論が尽きない幽霊船。霊が居るのだから、幽霊船も実在すると考える者も居る。
逆に船を動かすだけの魔力を、ただの霊が保持し続けるのは不可能だと考える者も居る。どちらが正しいとするかは未だに決まらず、決定打にも欠けていた。
シャーロットは前者を支持する側であり、アイナは後者の考え方をしていた。幽霊船で有名なのは、良くある木造の帆船だ。
それが何十年も何百年も、現れたり消えたりする。それを各国の海軍が察知も出来ずに居るとはアイナには思えない。
状況を楽しんでもいるがもし実在するならば、それなりの設備が必要だと冷静な目で事態を見ていた。
「こんな現代的な幽霊船なんてあるかしら?」
「わ、分からないでしょう、そんな事は!」
「そもそも幽霊に船は動かせないんじゃない?」
低級な人間の幽霊が持つ力はたかが知れている。それこそ出来てポルターガイストだ。食器などを動かす程度の力しかない。
こんな巨大な豪華客船を動かせる程となると、元Aランク魔術師達の幽霊が数人は必要となる。その辺りにいる一般人レベルならば、1000人分の幽霊が居ても不可能だ。
それにこの船には明らかに魔道具の類も積まれているし、製造年代的に見て運航には魔力が必要な客船だ。
つまりこの船が幽霊船だと言う可能性は低いと、魔術にも船舶にも詳しいアイナはすぐに見抜いていた。
ただ怖がるシャーロットが面白かったので、わざわざ説明していないだけで。
「大体、霊なら精霊とかも居るじゃない?」
「spiritとghostじゃ別物でしょう!」
「そんなに違いは無いと思うけど」
シャーロットの言い分も最もだが、日本語における霊と言う単語が一番そう言った存在を表現するのに相応しい。
結局はこの世ならざる者達であり、属性が正に向いているか負に向いているかの差しかない。正の属性を持つ魂と魔力の塊が精霊であり、負の属性を持つ魂と魔力の塊が幽霊だ。
前者は幸福な一生を送った生命の魂が昇華された場合。後者は無念に散った未練ある生命の魂が現世にしがみついた場合に発生する。根本的には生命体の魂でしかないのだ。
「そんなんじゃ、悪霊退治とか出来ないでしょ?」
「ゔっ……ま、魔術師にも仕事を選ぶ権利が約束されておりますわ!」
「そっかぁ~じゃあ今回はシャーロットの不戦敗だね」
「なっ!? ひ、卑怯ですわよ!」
何かとライバル視するシャーロットを、ニヤニヤとアイナが笑いながら見つめる。このまま怖がって船を降りるなら、シャーロットの負けだと言われては彼女も引き下がれ無い。
負けず嫌いのシャーロットを、早くもアイナは上手く扱っていた。アイナが上手いと言うよりも、シャーロットが単純と表現した方が正しいのかも知れないが。
いずれにせよ、そんな風に負けをチラつかされては、シャーロットも船を降りるとはもう言え無かった。シャーロットは震えながらも、気丈に振る舞ってみせる。
「い、良いでしょう! 悪霊でも怨霊でも、わ、私が全部凍らせてやりますわ!」
「おっ! 良いねぇ。そう来なくっちゃ」
「あ、あくまで人命優先ですからね! 人助けが優先ですけどね!」
「はいはい」
これだけ騒いでいても誰も現れない。その時点で人間など居ないだろう。海難救助の経験が何度もあるアイナには、経験則から大体は察する事が出来る。
今回の様なケースだと、可能性として高いのは大規模な海賊団が放置したパターンだ。船を盗み船内を物色した後、不要になった船を捨てた。
オチはそんな所だろうなとアイナは考えている。予想に反して本当に幽霊船なら、それはそれで面白いとも思っているが。
どちらにせよ、もう少しシャーロットで遊べそうだなとアイナは楽しそうに笑っていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。


のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。
やまいし
ファンタジー
気が付くと、男性の数が著しく少ない歪な世界へ転生してしまう。
彼は持ち前の容姿と才能を使って、やりたいことをやっていく。
彼は何を志し、どんなことを成していくのか。
これはそんな彼――鳴瀬隼人(なるせはやと)の青春サクセスストーリー……withハーレム。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる