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第2章
第65話 人工島ワタツミ
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清志とアイナ達を乗せた定期船は小笠原諸島に到着し、港から研究チームが宿泊している拠点へと移動する。
海上に作られた研究施設である為に、父島二見港から更に別の船に乗り換え再び海上へ。その施設は当初、巨大な海上レジャー施設として建設が始まった。
しかし計画を主導していた企業が倒産。宙ぶらりんとなった所を国が買い取り、海洋研究所を中心とする人工島となった。
日本を代表する海の神から名を借りたその研究所は、『ワタツミ』と呼ばれ実際にワタツミの加護も与えられている。
海を守護する神が認めた施設なだけあり、安全性も非常に高く大きな事故とは無縁でいる。そしてそんなワタツミと言えば伊弉冉尊と伊邪那美命の子供である為、清志ともそれなりに縁がある施設でもある。清志と言うよりは黄泉津大神の方が関係は深い。
「駄目だ。絶対出る気はないらしい」
「どうして? 自分の子供なんでしょ?」
「だから嫌なんだとさ」
これまでにも何度か、神坂家の代表として清志は招かれていた。その度に黄泉津大神は頑なに現世に姿を現す事を拒んだ。
伊邪那美命としての姿では無く、醜くなってしまった黄泉津大神としての姿を我が子に見せたくはない。それが黄泉津大神の意思であった。
研究施設としての『ワタツミ』には、大綿津見神は常駐していないのだがそれは関係ないらしい。
普段は偽装しているのだから、気にする必要はないと何度も清志が諭してもその意思が変わる事は無かった。
「まあ臨海学校には関係ないから良いけどさ」
「神様って、必要以上には教えてくれないものね」
「そう言う決まりだからな」
確かに神々は人間の前に姿を現しはしたが、何でも教えてくれはしない。例えば魔導犯罪の捜査だって、度を超えない限りは神々が手を貸す事はない。
人間に協力する事はあっても、解決は人間がやらなければならない。困った時の神頼みと言う言葉があるが、人間達がそうなってしまわない為の神々が決めたルールだった。
自分達で調べ学び試す事を阻害しない様に、神々は情報を意図的に秘匿する。それは海についても同様であり、例えばギリシャのポセイドンや日本の大綿津見神は人間に深海の秘密を何も開示していない。
知りたければ自分で調べろと言うスタンスである。ただ一点だけ人間に教えたのは、人間が考えている以上の神秘に満ちていると言う話だけ。その言葉に魅力され、海洋研究に熱中している研究者は大勢いた。
「清志君! 1年振りかしら?」
「美咲さんが海から離れないからですよ」
「清志、この女性は?」
「柏木美咲さん、ここの主任研究者だよ」
アイナほどの背丈は無く、平均的な日本人女性の体格をした女性。絶世の美女と形容する程ではないが、眼鏡の似合う十分に美しい彼女は清志の説明の通り『ワタツミ』の主任研究員をしている。
アメリカの大学を卒業し、海洋研究に没頭していたアクティブな女性だ。年齢は今年で27歳、独身で子供も居ない。海が恋人だと言わんばかりの生活を送っている。
ダイビングの資格を所持しているので、頻繁に潜りに行く為ダイビングスーツの日焼け跡が残っている。そんなアグレッシブな女性研究者と、清志は式典以外にも何度か一緒に活動した事がある。
嵯峨学園が研究に協力しているので、毎年行われる臨海学校で顔を合わせる事が多いからだ。
「今年は美咲さんの研究を?」
「ええ、今年は貴方達学生に協力して貰うわよ」
「知っている人で助かりました」
「そっちの子は、初めましてよね? 宜しくね」
美咲とアイナが握手を交わし簡単に自己紹介を行う。アイナの立場を知り美咲も最初は驚いたが、清志のパートナーなのだからそれなりの人物になるのは当然かと納得した。
何より海洋調査が目的なのだから、海での活動経験を持つプロの参加を喜んだ。言うまでもないがアイナもダイビングの経験は何度もある。
海洋調査とはまた目的は違うが、海のプロである事に変わりはない。互いの経験などについて、また詳しく話をしようと言う事で初めての邂逅は終わりを見せた。
「柏木主任! ちょっと来て下さい!」
「今行くわ! それじゃあ2人とも、また後でね」
「はい、俺達もそろそろ行きます」
「色々教えて下さいね!」
部下の研究者に呼ばれて美咲は2人から離れる。アイナと清志の2人もまた学園のメンバーの下へと合流する。太平洋に浮かぶ『ワタツミ』かなり大きな人工島だ。
科学と魔術の融合により誕生した、ちょっとした海上都市と化している。研究施設だけでなく、ヘリポートや商業施設にホテルまで完備している。
長期に渡り滞在出来る様に、生活に必要なものは大体揃っている。海外からの来訪者も多い為、研究施設がメインではあっても観光スポットに近い状態だ。
一般人が入れない区画も多いが、ただ見て周るだけでも十分に楽しめる人工の島だ。
「噂には聞いていたけど、凄いわねココ」
「アイナは初めてだもんな。俺も最初は驚いたよ」
「アメリカにも欲しいわ。こんな人工島」
全員が到着したのを各クラスの担任が確認をしている間、清志達は雑談をして過ごした。まだこの時まではごく普通の臨海学校だった。
ちょっとしたリゾート気分を味わいながら、学生達は海に出る時を楽しみにしながら、どんな水着を買って来たかなどの話に花を咲かせていた。
海上に作られた研究施設である為に、父島二見港から更に別の船に乗り換え再び海上へ。その施設は当初、巨大な海上レジャー施設として建設が始まった。
しかし計画を主導していた企業が倒産。宙ぶらりんとなった所を国が買い取り、海洋研究所を中心とする人工島となった。
日本を代表する海の神から名を借りたその研究所は、『ワタツミ』と呼ばれ実際にワタツミの加護も与えられている。
海を守護する神が認めた施設なだけあり、安全性も非常に高く大きな事故とは無縁でいる。そしてそんなワタツミと言えば伊弉冉尊と伊邪那美命の子供である為、清志ともそれなりに縁がある施設でもある。清志と言うよりは黄泉津大神の方が関係は深い。
「駄目だ。絶対出る気はないらしい」
「どうして? 自分の子供なんでしょ?」
「だから嫌なんだとさ」
これまでにも何度か、神坂家の代表として清志は招かれていた。その度に黄泉津大神は頑なに現世に姿を現す事を拒んだ。
伊邪那美命としての姿では無く、醜くなってしまった黄泉津大神としての姿を我が子に見せたくはない。それが黄泉津大神の意思であった。
研究施設としての『ワタツミ』には、大綿津見神は常駐していないのだがそれは関係ないらしい。
普段は偽装しているのだから、気にする必要はないと何度も清志が諭してもその意思が変わる事は無かった。
「まあ臨海学校には関係ないから良いけどさ」
「神様って、必要以上には教えてくれないものね」
「そう言う決まりだからな」
確かに神々は人間の前に姿を現しはしたが、何でも教えてくれはしない。例えば魔導犯罪の捜査だって、度を超えない限りは神々が手を貸す事はない。
人間に協力する事はあっても、解決は人間がやらなければならない。困った時の神頼みと言う言葉があるが、人間達がそうなってしまわない為の神々が決めたルールだった。
自分達で調べ学び試す事を阻害しない様に、神々は情報を意図的に秘匿する。それは海についても同様であり、例えばギリシャのポセイドンや日本の大綿津見神は人間に深海の秘密を何も開示していない。
知りたければ自分で調べろと言うスタンスである。ただ一点だけ人間に教えたのは、人間が考えている以上の神秘に満ちていると言う話だけ。その言葉に魅力され、海洋研究に熱中している研究者は大勢いた。
「清志君! 1年振りかしら?」
「美咲さんが海から離れないからですよ」
「清志、この女性は?」
「柏木美咲さん、ここの主任研究者だよ」
アイナほどの背丈は無く、平均的な日本人女性の体格をした女性。絶世の美女と形容する程ではないが、眼鏡の似合う十分に美しい彼女は清志の説明の通り『ワタツミ』の主任研究員をしている。
アメリカの大学を卒業し、海洋研究に没頭していたアクティブな女性だ。年齢は今年で27歳、独身で子供も居ない。海が恋人だと言わんばかりの生活を送っている。
ダイビングの資格を所持しているので、頻繁に潜りに行く為ダイビングスーツの日焼け跡が残っている。そんなアグレッシブな女性研究者と、清志は式典以外にも何度か一緒に活動した事がある。
嵯峨学園が研究に協力しているので、毎年行われる臨海学校で顔を合わせる事が多いからだ。
「今年は美咲さんの研究を?」
「ええ、今年は貴方達学生に協力して貰うわよ」
「知っている人で助かりました」
「そっちの子は、初めましてよね? 宜しくね」
美咲とアイナが握手を交わし簡単に自己紹介を行う。アイナの立場を知り美咲も最初は驚いたが、清志のパートナーなのだからそれなりの人物になるのは当然かと納得した。
何より海洋調査が目的なのだから、海での活動経験を持つプロの参加を喜んだ。言うまでもないがアイナもダイビングの経験は何度もある。
海洋調査とはまた目的は違うが、海のプロである事に変わりはない。互いの経験などについて、また詳しく話をしようと言う事で初めての邂逅は終わりを見せた。
「柏木主任! ちょっと来て下さい!」
「今行くわ! それじゃあ2人とも、また後でね」
「はい、俺達もそろそろ行きます」
「色々教えて下さいね!」
部下の研究者に呼ばれて美咲は2人から離れる。アイナと清志の2人もまた学園のメンバーの下へと合流する。太平洋に浮かぶ『ワタツミ』かなり大きな人工島だ。
科学と魔術の融合により誕生した、ちょっとした海上都市と化している。研究施設だけでなく、ヘリポートや商業施設にホテルまで完備している。
長期に渡り滞在出来る様に、生活に必要なものは大体揃っている。海外からの来訪者も多い為、研究施設がメインではあっても観光スポットに近い状態だ。
一般人が入れない区画も多いが、ただ見て周るだけでも十分に楽しめる人工の島だ。
「噂には聞いていたけど、凄いわねココ」
「アイナは初めてだもんな。俺も最初は驚いたよ」
「アメリカにも欲しいわ。こんな人工島」
全員が到着したのを各クラスの担任が確認をしている間、清志達は雑談をして過ごした。まだこの時まではごく普通の臨海学校だった。
ちょっとしたリゾート気分を味わいながら、学生達は海に出る時を楽しみにしながら、どんな水着を買って来たかなどの話に花を咲かせていた。
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