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第2章
第63話 消えた豪華客船
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清志とアイナが出会うよりも何年か前の日本近海。とある企業が融資して作られた豪華客船が小笠原諸島の周辺を航行していた。
ゆっくりと太平洋を進む船内では、緊急事態が起きていた。けたたましく鳴り響くサイレンの音に、あちこちで叫ぶ船員達の声。まるで火災でも起きたかの様な大騒ぎになっていた。
「船長! 我々はどうすれば!」
「ええい、連中は何をやっておるか!」
小太りの壮年の男性が、苛立ち紛れに操舵室で叫ぶ。指示を仰ぐ若い船員達は、船長に助けを求めるが明確な回答はない。
操舵室に設置された複数のモニターには、船内で発生した異常事態に対応している船員達の姿が映っている。
しかしその一部は完全に消えてしまっており、どうなっているのか分からない場所もあった。その映っていないモニターを睨む船長は、内線で目的の場所に向けてコールした。
「何故誰も出ないのだ!」
「分かりません! もう30分経ちますが何の反応も……」
「見に行かせた連中はどうした!」
「……未だに戻りません」
この客船は普通の豪華客船では無かった。外観が客船をしているだけで、船底やその周辺は全て研究設備となっていた。
海洋生物と深海、そして深海生物の調査を目的とした特別な船だった。わざわざこんな偽装をしているのは、あまり褒められた研究内容では無いからだ。
違法な調査を既に何度も行っていた。だが船を動かす目的で集められた船員達には、その詳細を教えられて居なかった。
せいぜい物好きな研究者が集まる船としか思っていない。そもそも船内の研究施設には、IDカードがないと入れないので船員達は何も知らない。
入る事は出来なくても、入り口から施設内との連絡は可能だ。それ故に直接船長が部下を見に行かせたのだが、その船員達も帰って来ない。
「船長!? 急に霧が出て来ました!」
「何だこの霧は!? 海霧の季節でもあるまいに!」
「このまま進むのは危険です!」
大航海時代とは違い技術は大きく進歩している。しかし何も目視出来ない程の濃い霧ともなれば話は変わって来る。
周辺を航行する船舶と針路を確認しながらで無ければ、衝突事故を起こし兼ねない。そもそもこんな風に突然周囲が霧に包まれる事自体が異常だ。
下手な判断は船員達全員の命を危険に晒してしまう。幾ら科学と魔術で進歩した技術があろうと、過信はいつだって不幸を招くものだ。
「仕方ない、一旦停止して周囲の船舶に連絡を」
「は、はい!」
「君は私と来い、下を見に行くぞ」
船長は若い船員達に指示を出してから、部下を1人連れて研究者達の様子を見に船底へと向かって行く。
先程から鳴り響くサイレンは、間違いなく船底が原因だ。異常を検知したのも船底だけで、他に関係がありそうな場所は無かった。
一度船体が大きく揺れたので、そのせいで損傷が出た箇所が幾つかある。その対処に船員達が駆け回る中、船長と部下の2人は下へ下へと向かって行く。そして辿り着いた研究所の入り口。そこには誰の姿もない。
「どうなっている? 先に行かせた者達が居ないぞ?」
「中とも連絡はつきませんね」
壁面に設置された内部との通信設備を部下が操作するも、何の返答も無いままだ。そもそも20分程前にここへ来た筈の船員達が1人も居ない。
どうにも不気味で怪しい雰囲気を2人は感じていたが、ここは船の中で海上に居る。何かあったのであれば確認しなければ危険過ぎる。
もし沈没する様な事になれば、ただでは済まないのだから。こんな真冬の太平洋に投げ出されるのはあまりにも危険過ぎる。
「ん? 何だ? 開いておるのか?」
「そうみたいですね?」
「君、ちょっと手伝ってくれ」
研究施設へと続く自動ドアが微妙に開いていたのを確認した2人は、力を合わせて自動ドアを開けて行く。
コンビニの様な薄い自動ドアではなく、研究施設用のしっかりしたドアだ。大人の男性2人でも、人がギリギリ通れる程度の隙間を開けるだけでも一苦労だった。
何とか中に入れた2人は、初めて見る施設内を興味深そうに確認して周る。まだ入り口付近だからか、そう大したものは無い。
まだ研究施設の居住エリアでしかない為、施設の外とそれほど大きな差はない。どこにでもある様な机や椅子などの調度品が並んでいる。
「思っていたより普通ですね」
「そりゃそうだろう。ただの船だぞ?」
「もうちょっと特別な何かがあるのかと」
2人は更に奥へと進んで行く。最初は特に目立つ物は無かったが、徐々に船内の雰囲気が変わって行く。
次第にここは本当に船の中なのかと思う程に、様々な研究設備があちこちに配置されていた。ただの船乗りでしかない2人には、それらが何をする機械なのか見当もつかない。
下手に触ってより事態を深刻な物にしない様に注意しながら進んで行く。そうして進んだ先には、人が入れる様な巨大なガラス製の水槽らしき物が置かれている場所へと到着した。
「連中、何をしておったのだ?」
「……船長、昔こんなホラー映画がありませんでした?」
「馬鹿を言うな。作り話と一緒にするな……ん?」
船長が歩いていた足下に何か液体の様な物が落ちていた。船長がその液体らしきものに触れてみると、やけに粘り気のある粘液の様なものだった。
何故こんなものが此処にあるのかと疑問に思った2人だったが、更に進むとあちこちに同じ物が落ちているのを発見した。
妙に生臭い匂いが、周囲には充満している。2人の背中には、冷たい汗が流れ始めた。明らかに良い雰囲気ではない。
「船長これ、やっぱり……船長! 後ろ!」
「何を……うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「船長ーーー!? な、何だ!? やめろ! うわぁぁぁぁぁぁ!?」
何者かに襲われた2人が、操舵室に戻る事は無かった。そして謎の濃霧が晴れた後には、豪華客船の姿はどこにも無かった。
ゆっくりと太平洋を進む船内では、緊急事態が起きていた。けたたましく鳴り響くサイレンの音に、あちこちで叫ぶ船員達の声。まるで火災でも起きたかの様な大騒ぎになっていた。
「船長! 我々はどうすれば!」
「ええい、連中は何をやっておるか!」
小太りの壮年の男性が、苛立ち紛れに操舵室で叫ぶ。指示を仰ぐ若い船員達は、船長に助けを求めるが明確な回答はない。
操舵室に設置された複数のモニターには、船内で発生した異常事態に対応している船員達の姿が映っている。
しかしその一部は完全に消えてしまっており、どうなっているのか分からない場所もあった。その映っていないモニターを睨む船長は、内線で目的の場所に向けてコールした。
「何故誰も出ないのだ!」
「分かりません! もう30分経ちますが何の反応も……」
「見に行かせた連中はどうした!」
「……未だに戻りません」
この客船は普通の豪華客船では無かった。外観が客船をしているだけで、船底やその周辺は全て研究設備となっていた。
海洋生物と深海、そして深海生物の調査を目的とした特別な船だった。わざわざこんな偽装をしているのは、あまり褒められた研究内容では無いからだ。
違法な調査を既に何度も行っていた。だが船を動かす目的で集められた船員達には、その詳細を教えられて居なかった。
せいぜい物好きな研究者が集まる船としか思っていない。そもそも船内の研究施設には、IDカードがないと入れないので船員達は何も知らない。
入る事は出来なくても、入り口から施設内との連絡は可能だ。それ故に直接船長が部下を見に行かせたのだが、その船員達も帰って来ない。
「船長!? 急に霧が出て来ました!」
「何だこの霧は!? 海霧の季節でもあるまいに!」
「このまま進むのは危険です!」
大航海時代とは違い技術は大きく進歩している。しかし何も目視出来ない程の濃い霧ともなれば話は変わって来る。
周辺を航行する船舶と針路を確認しながらで無ければ、衝突事故を起こし兼ねない。そもそもこんな風に突然周囲が霧に包まれる事自体が異常だ。
下手な判断は船員達全員の命を危険に晒してしまう。幾ら科学と魔術で進歩した技術があろうと、過信はいつだって不幸を招くものだ。
「仕方ない、一旦停止して周囲の船舶に連絡を」
「は、はい!」
「君は私と来い、下を見に行くぞ」
船長は若い船員達に指示を出してから、部下を1人連れて研究者達の様子を見に船底へと向かって行く。
先程から鳴り響くサイレンは、間違いなく船底が原因だ。異常を検知したのも船底だけで、他に関係がありそうな場所は無かった。
一度船体が大きく揺れたので、そのせいで損傷が出た箇所が幾つかある。その対処に船員達が駆け回る中、船長と部下の2人は下へ下へと向かって行く。そして辿り着いた研究所の入り口。そこには誰の姿もない。
「どうなっている? 先に行かせた者達が居ないぞ?」
「中とも連絡はつきませんね」
壁面に設置された内部との通信設備を部下が操作するも、何の返答も無いままだ。そもそも20分程前にここへ来た筈の船員達が1人も居ない。
どうにも不気味で怪しい雰囲気を2人は感じていたが、ここは船の中で海上に居る。何かあったのであれば確認しなければ危険過ぎる。
もし沈没する様な事になれば、ただでは済まないのだから。こんな真冬の太平洋に投げ出されるのはあまりにも危険過ぎる。
「ん? 何だ? 開いておるのか?」
「そうみたいですね?」
「君、ちょっと手伝ってくれ」
研究施設へと続く自動ドアが微妙に開いていたのを確認した2人は、力を合わせて自動ドアを開けて行く。
コンビニの様な薄い自動ドアではなく、研究施設用のしっかりしたドアだ。大人の男性2人でも、人がギリギリ通れる程度の隙間を開けるだけでも一苦労だった。
何とか中に入れた2人は、初めて見る施設内を興味深そうに確認して周る。まだ入り口付近だからか、そう大したものは無い。
まだ研究施設の居住エリアでしかない為、施設の外とそれほど大きな差はない。どこにでもある様な机や椅子などの調度品が並んでいる。
「思っていたより普通ですね」
「そりゃそうだろう。ただの船だぞ?」
「もうちょっと特別な何かがあるのかと」
2人は更に奥へと進んで行く。最初は特に目立つ物は無かったが、徐々に船内の雰囲気が変わって行く。
次第にここは本当に船の中なのかと思う程に、様々な研究設備があちこちに配置されていた。ただの船乗りでしかない2人には、それらが何をする機械なのか見当もつかない。
下手に触ってより事態を深刻な物にしない様に注意しながら進んで行く。そうして進んだ先には、人が入れる様な巨大なガラス製の水槽らしき物が置かれている場所へと到着した。
「連中、何をしておったのだ?」
「……船長、昔こんなホラー映画がありませんでした?」
「馬鹿を言うな。作り話と一緒にするな……ん?」
船長が歩いていた足下に何か液体の様な物が落ちていた。船長がその液体らしきものに触れてみると、やけに粘り気のある粘液の様なものだった。
何故こんなものが此処にあるのかと疑問に思った2人だったが、更に進むとあちこちに同じ物が落ちているのを発見した。
妙に生臭い匂いが、周囲には充満している。2人の背中には、冷たい汗が流れ始めた。明らかに良い雰囲気ではない。
「船長これ、やっぱり……船長! 後ろ!」
「何を……うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「船長ーーー!? な、何だ!? やめろ! うわぁぁぁぁぁぁ!?」
何者かに襲われた2人が、操舵室に戻る事は無かった。そして謎の濃霧が晴れた後には、豪華客船の姿はどこにも無かった。
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