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第2章
第62話 臨海学校
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春に起きた西山製薬との一件は無事解決し、清志達は普段の生活に戻っていた。普段のとは言っても、相変わらず魔導犯罪を取り締まる日々ではあるが。
季節は夏に変わり、7月の猛暑の中で清志達はA組の教室でホームルームを受けていた。A組の担任である木花多恵子は、教師用のタブレット端末を使い生徒達に資料を送信する。
嵯峨学園では生徒用にタブレット端末を貸し出しており、授業やこの手の連絡用に使用される。今回多恵子が送信したのはもうすぐ行われる臨海学校についての資料だった。
「先生~! 臨海学校って何ですか?」
「あ~クラークさんは知らないか」
「サマーキャンプみたいな物ですわよ」
「ああ。なるほどね」
イギリス人であるシャーロットがざっくりとした説明をする。微妙に違いはあれども、大体は合っている。
最近では臨海学校を行わない学校も少なくはないが、ここ嵯峨学園では毎年行われている。ただし普通の臨海学校とはかなり内容が違う。
確かに臨海学校と言う言葉の意味であれば、欧米のサマーキャンプは近い。だが嵯峨学園の臨海学校は、海域調査と言う方が近い。そして調査する海域に、少々問題がある。
「おいシャーロット、雑に教えるなよ」
「仕方ないでしょう? 日本語が複雑なのが悪いのですわ」
「清志、どう言う事?」
「オッケーオッケー、クラークさんにも分かる様に、先生が詳しく説明しましょう。皆も確認がてら聞いてね」
多恵子が嵯峨学園の臨海学校について説明を始めた。ドラゴントライアングルと呼ばれる日本の南側、太平洋側の近海からグアム周辺にかけてそう呼ばれている海域がある。
そこでは昔から原因のハッキリしない海難事故や失踪が起きている。その調査は今も続けられているが、明確な答えは出ていない。
そんな海域の調査に、嵯峨学園の生徒達が参加するのだ。学生とは言え、この学園には優秀な魔術師が多い。大人に混じって調査に協力する価値は高いのだ。
非魔術系の普通の高校とは違い、調査の為に現地で1週間程滞在する。拠点となるのは小笠原諸島にある調査チームの施設だ。
「へぇ~日本の学校はこんな専門的な事もやるのね」
「ここまでやるのはウチぐらいよクラークさん」
「まあ、そんなに気負う様なイベントじゃないから気にしないでくれ」
7月2週目の月曜日から、土曜日までの間清志達は太平洋へと向かう事が決まった。例年通りであれば、精霊の分布は魔素の濃度などを観測し、新しい発見が無いか等を調べる程度だ。これまでに大きなトラブルは無かったし、今回もそうなるだろうと清志達は考えていた。
その数時間前、自衛隊の横須賀基地にアメリカ本土から数隻の空母が向かっていた。日本の近海で合同演習を行う為だ。
その中でも主力となる、魔導空母エンタープライズの艦長を務めているのは1人の海軍大佐だ。若くして数々の勲章を受け取って来た大柄なその男の名前はオリバー・クラーク。
友人の娘であるアイナを引き取り、養女としたアイナの今の父親だ。熊の様に大きな体を持つ筋骨隆々のオリバーは、艦長室の椅子に座り葉巻に火を付けた。
「艦長、そろそろ日本ですね」
「そうだな」
「娘さんとは連絡を取っているのですか?」
「……まあな」
副官であるエミール・ギャレット少佐の問いに対して、オリバーの表情はあまり良く無かった。苦虫を噛み潰したような顔で葉巻を大きく吸った。
そして吐き出されたのは大量の煙と、大きな溜息だった。オリバーはアイナの日本留学にあまり納得出来ていなかった。
しかし同時に、アイナのパートナーとして釣り合う相手が日本にしか居なかったのもまた事実。おまけに相手の家柄も良いと来て、魔道協会アメリカ支部は喜んでアイナを差し出した。
と言う訳ではないのだが、オリバーはそう思っていた。最終的には娘の意思を尊重したものの、気分の良い話では無かった。
「全く魔道協会の強欲ジジイ共め」
「今のは聞かなかった事にします」
「日本支部に媚を売る為に娘を使いやがって」
実際にはそんな事実はないのだが、オリバーから見ればそう映っていた。確かにそう見えてしまうのも仕方はない。
イギリスからは魔女の名門から留学生を嵯峨学園に入れているし、中国からの留学生も優秀な生徒だ。そんな中でアメリカからは目立つ様な成績を持つ留学生を送り出せて居なかった。
そこについての焦りが、アメリカ支部には確かにあった。ただ今回の留学については、それとは全く無関係だ。しかし情報は秘匿されており、極一部の人間しか留学の本当の意味を知らない。
「どこの馬の骨とも知れん男にアイナはやらん!」
「……彼は結構有名ですけどね?」
「知るかそんなもの! せめて海軍で5年……いや10年は過ごさないと話にならん!」
実の娘ではなくとも、オリバーはアイナを非常に大切にして来た。自分を真似て海軍へ最年少の入隊を決めた時は大いに喜んだ。父親として認められた気分だった。
だからこそ、非常に困った親バカ具合を発揮していた。アイナの知らない所で、同期の男性陣に圧を掛けたりもしている。蹴った縁談話は数知れず。アイナにはそんな父親が居るとは知らない清志の未来は果たして……
季節は夏に変わり、7月の猛暑の中で清志達はA組の教室でホームルームを受けていた。A組の担任である木花多恵子は、教師用のタブレット端末を使い生徒達に資料を送信する。
嵯峨学園では生徒用にタブレット端末を貸し出しており、授業やこの手の連絡用に使用される。今回多恵子が送信したのはもうすぐ行われる臨海学校についての資料だった。
「先生~! 臨海学校って何ですか?」
「あ~クラークさんは知らないか」
「サマーキャンプみたいな物ですわよ」
「ああ。なるほどね」
イギリス人であるシャーロットがざっくりとした説明をする。微妙に違いはあれども、大体は合っている。
最近では臨海学校を行わない学校も少なくはないが、ここ嵯峨学園では毎年行われている。ただし普通の臨海学校とはかなり内容が違う。
確かに臨海学校と言う言葉の意味であれば、欧米のサマーキャンプは近い。だが嵯峨学園の臨海学校は、海域調査と言う方が近い。そして調査する海域に、少々問題がある。
「おいシャーロット、雑に教えるなよ」
「仕方ないでしょう? 日本語が複雑なのが悪いのですわ」
「清志、どう言う事?」
「オッケーオッケー、クラークさんにも分かる様に、先生が詳しく説明しましょう。皆も確認がてら聞いてね」
多恵子が嵯峨学園の臨海学校について説明を始めた。ドラゴントライアングルと呼ばれる日本の南側、太平洋側の近海からグアム周辺にかけてそう呼ばれている海域がある。
そこでは昔から原因のハッキリしない海難事故や失踪が起きている。その調査は今も続けられているが、明確な答えは出ていない。
そんな海域の調査に、嵯峨学園の生徒達が参加するのだ。学生とは言え、この学園には優秀な魔術師が多い。大人に混じって調査に協力する価値は高いのだ。
非魔術系の普通の高校とは違い、調査の為に現地で1週間程滞在する。拠点となるのは小笠原諸島にある調査チームの施設だ。
「へぇ~日本の学校はこんな専門的な事もやるのね」
「ここまでやるのはウチぐらいよクラークさん」
「まあ、そんなに気負う様なイベントじゃないから気にしないでくれ」
7月2週目の月曜日から、土曜日までの間清志達は太平洋へと向かう事が決まった。例年通りであれば、精霊の分布は魔素の濃度などを観測し、新しい発見が無いか等を調べる程度だ。これまでに大きなトラブルは無かったし、今回もそうなるだろうと清志達は考えていた。
その数時間前、自衛隊の横須賀基地にアメリカ本土から数隻の空母が向かっていた。日本の近海で合同演習を行う為だ。
その中でも主力となる、魔導空母エンタープライズの艦長を務めているのは1人の海軍大佐だ。若くして数々の勲章を受け取って来た大柄なその男の名前はオリバー・クラーク。
友人の娘であるアイナを引き取り、養女としたアイナの今の父親だ。熊の様に大きな体を持つ筋骨隆々のオリバーは、艦長室の椅子に座り葉巻に火を付けた。
「艦長、そろそろ日本ですね」
「そうだな」
「娘さんとは連絡を取っているのですか?」
「……まあな」
副官であるエミール・ギャレット少佐の問いに対して、オリバーの表情はあまり良く無かった。苦虫を噛み潰したような顔で葉巻を大きく吸った。
そして吐き出されたのは大量の煙と、大きな溜息だった。オリバーはアイナの日本留学にあまり納得出来ていなかった。
しかし同時に、アイナのパートナーとして釣り合う相手が日本にしか居なかったのもまた事実。おまけに相手の家柄も良いと来て、魔道協会アメリカ支部は喜んでアイナを差し出した。
と言う訳ではないのだが、オリバーはそう思っていた。最終的には娘の意思を尊重したものの、気分の良い話では無かった。
「全く魔道協会の強欲ジジイ共め」
「今のは聞かなかった事にします」
「日本支部に媚を売る為に娘を使いやがって」
実際にはそんな事実はないのだが、オリバーから見ればそう映っていた。確かにそう見えてしまうのも仕方はない。
イギリスからは魔女の名門から留学生を嵯峨学園に入れているし、中国からの留学生も優秀な生徒だ。そんな中でアメリカからは目立つ様な成績を持つ留学生を送り出せて居なかった。
そこについての焦りが、アメリカ支部には確かにあった。ただ今回の留学については、それとは全く無関係だ。しかし情報は秘匿されており、極一部の人間しか留学の本当の意味を知らない。
「どこの馬の骨とも知れん男にアイナはやらん!」
「……彼は結構有名ですけどね?」
「知るかそんなもの! せめて海軍で5年……いや10年は過ごさないと話にならん!」
実の娘ではなくとも、オリバーはアイナを非常に大切にして来た。自分を真似て海軍へ最年少の入隊を決めた時は大いに喜んだ。父親として認められた気分だった。
だからこそ、非常に困った親バカ具合を発揮していた。アイナの知らない所で、同期の男性陣に圧を掛けたりもしている。蹴った縁談話は数知れず。アイナにはそんな父親が居るとは知らない清志の未来は果たして……
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