上 下
61 / 73
第1章

第61話 事件の結末

しおりを挟む
「お疲れさんや、2人共!」

「いえ、自分の仕事をしただけですから」

「今回はまあまあだったわね」

 魔導協会京都支部で、清志せいじとアイナは波多野はたの支部長に労われていた。もし最悪の事態になっていたら、それを思えばこの程度の歓待では足りないぐらいの結果を出した。
 もちろん波多野とて、これで終わらせるつもりはない。主に報酬面で、しっかりと色を付けるつもりだ。
 しかしそれはそれ、これはこれ。未成年ながら大きな事件を解決した2人を、しっかり持て成すのが支部長の仕事だ。

「ほら立ってんと座って座って」

「失礼します」

「じゃあ私も」

 来客用の高級なソファーに2人が腰を下ろす。そこに2人の専属オペレーターをしている安達奈緒子あだちなおこが紅茶を運んで来る。
 今回は労う意味が強いので、普段出される茶葉よりも高級な物が使用されている。一般人ならただの茶葉にそんな額をと言われ兼ねない代物だ。
 一緒に運ばれて来た茶菓子とて同じである。王室や皇室で出される様な最高級品となっている。
 清志とアイナは未成年だが、立場上こう言った高級品を出される事が少なくない。2人共味の違いは分かるので、決して無駄な消費ではない。

「それであの、森下もりしたはどうなりますか?」

「…………難しい問題やなぁ。本人はやってないとしても、人が死に過ぎとる」

「あの子も被害者でしょ?」

「それはまあ、そうなんやけどなぁ」

 清志とアイナの2人は彼女の処罰がどうなるのか気になっていた。交友関係はなく、どちらかと言えば良好とは言えない関係だった。
 それでも同じ学園に通う同級生である事に変わりはない。ただ利用されただけの少女が、重い罰を受けるのは2人も良い気分ではない。
 捜査中の執行者に攻撃をしたと言う罪は確かに自分の意思だ。しかしそれ以外は、斎藤和真さいとうかずまによって片寄った思想を持たされてしまっただけに過ぎない。まだまだ彼女は更生の余地が残されている。

「そりゃ僕らもね、あんまり重い罰は与えたくはない」

「それなら!」

「せやけどな清志君、一時的とは言え神となった事実は消えへんねん」

 翔子しょうこの罪として、一番重いのはそこになる。斎藤和真は問答無用で死刑となるだろう。しかし翔子の刑罰を決めるのは些か複雑な状況にあった。
 未成年だと言う事、ただ利用されたと言う事実。それを考慮しても人造神の計画に関わるどころか、神そのものに本人がなってしまったのだから。
 もっと幼い子供で、神を勝手に造ってはならないと教わる前の年齢であったなら。そうであれば保護観察処分で済まされた。しかし翔子は16歳で、十分な教育を受けた生徒だ。

「救いがあるとしたら彼女の体質やな。あれが良い方に評価されたら、そう悪い事にはならん」

「でも女の子よ? 変な実験とかはちょっと」

「大丈夫や。そんな事にはさせへんから安心しとり」

「森下を宜しくお願いします!」




 清志達が今後について話している頃、黄泉津大神は天国へとやって来た。太古の死神と言う立場を持つ彼女は、天国や地獄を自由に行き来する権限を持っている。
 黄泉の国の管理者の1人であり、支配者であるスサノオに次ぐ権力を持つ大神の名は伊達ではない。
 そんな彼女は当然ながら、天国でもVIP待遇である。複数の天使を従えた、天使長を務める大天使がその対応に当たる。

「ようこそいらっしゃいました。今回はどの様なご要件で?」

「この2人に会いたいのだけれど」

「失礼……かしこまりました。暫くお待ち下さい」

 黄泉津大神が渡した資料を見た天使長は、部下に指示を出してから2つの魂を呼びに飛んで行く。
 美しい真っ白な花が咲き乱れた草原に立つ黄泉津大神は、そのまま無言で呼び出した2人を待ち続ける。
 天国の入り口であるこの草原では、死者の魂と会う事が出来る。もちろんそんな事が出来るのは、一部の神々と選ばれし人間のみ。
 この権限は黄泉津大神の神子である、清志ですら持っていない特殊なものになる。死者との面会は、それだけ特別な権限が必要なのだ。

「お待たせしました、この2人です」

「あの、日本の神様が私と妻に一体何の用が?」

「少しね、話をしに来たのよ」

 黄泉津大神が面会に来たのは、2人の男女だった。片や白人の男性で、もう片方はアジア人の女性だ。男性の方はエリック・ミラーで、女性の方は三島玲子。
 2人は亡くなったアイナの実の両親だった。黄泉津大神はかなり高い権限を持つ太古の神だ、アイナの両親がどうしているかなど調べるのは容易い。それ故にこうして、簡単に会う事が出来た。

「話ですか?」

「貴方達の娘についてよ」

「わ、私達の娘が何か?」

 いきなり日本の大神に呼び出されて、何かと思えば娘の話と来た。ただ神が会いに来ただけでも大事なのに、死神が娘の話だと言い出せば不安になるのも当然だ。
 2人の頭を過るのは不幸な想像ばかり。霊なのに器用に真っ青な顔色になる2人を見て、黄泉津大神はニヤリと笑う。

「それはもう、蹴られたり撃たれたりしたわ」

「むむむむ娘がその様な失礼を!?」

「あぁ…………アナタどうしましょう」

「だけど、とても良い娘ね。貴方達の娘がうちの子を少しだけ前に進ませてくれた」

 黄泉津大神は、1人の母親代わりとして2人に会いに来たのだ。ずっと過去に縛られ、前に進めなくなった息子同然の神子。
 その子が少しだけ変われる切っ掛けをくれた娘の両親と、ただ親として話をしたかったから。それから交わされたのは、1人の娘を持っていた夫婦と、1人の息子を持つ母親の温かい交流だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹
ファンタジー
宰相夫人とその息子がファンタジーな世界からファンタジーな世界へ異世界転移。 元の世界に帰るまで愛しの息子とゆったりと冒険でもしましょう。 優秀な獣人の使用人も仲間にし、いざ冒険へ! …宰相夫人とその息子、最強にて冒険ではなくお散歩気分です。 どこに行っても高貴オーラで周りを圧倒。 お貴族様冒険者に振り回される人々のお話しでもあります。 小説投稿は初めてですが、感想頂けると、嬉しいです。 ご都合主義、私TUEEE、俺TUEEE! 作中、BLっぽい表現と感じられる箇所がたまに出てきますが、少年同士のじゃれ合い的なものなので、BLが苦手な人も安心して下さい。 なお、不定期更新です。よろしくお願いします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私と俺は同一人物です

大地
ファンタジー
谷地仁花と🎼🌸は同一人物です

婚約破棄された私。大嫌いなアイツと婚約することに。大嫌い!だったはずなのに……。

さくしゃ
恋愛
「婚約破棄だ!」 素直であるが故に嘘と見栄で塗り固められた貴族社会で嫌われ孤立していた"主人公「セシル」"は、そんな自分を初めて受け入れてくれた婚約者から捨てられた。 唯一自分を照らしてくれた光を失い絶望感に苛まれるセシルだったが、家の繁栄のためには次の婚約相手を見つけなければならず……しかし断られ続ける日々。 そんなある日、ようやく縁談が決まり乗り気ではなかったが指定されたレストランへ行くとそこには、、、 「れ、レント!」 「せ、セシル!」 大嫌いなアイツがいた。抵抗するが半ば強制的に婚約することになってしまい不服だった。不服だったのに……この気持ちはなんなの? 大嫌いから始まるかなり笑いが入っている不器用なヒロインと王子による恋物語。 15歳という子供から大人へ変わり始める時期は素直になりたいけど大人に見られたいが故に背伸びをして強がったりして素直になれないものーーそんな感じの物語です^_^

処理中です...