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第1章
第61話 事件の結末
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「お疲れさんや、2人共!」
「いえ、自分の仕事をしただけですから」
「今回はまあまあだったわね」
魔導協会京都支部で、清志とアイナは波多野支部長に労われていた。もし最悪の事態になっていたら、それを思えばこの程度の歓待では足りないぐらいの結果を出した。
もちろん波多野とて、これで終わらせるつもりはない。主に報酬面で、しっかりと色を付けるつもりだ。
しかしそれはそれ、これはこれ。未成年ながら大きな事件を解決した2人を、しっかり持て成すのが支部長の仕事だ。
「ほら立ってんと座って座って」
「失礼します」
「じゃあ私も」
来客用の高級なソファーに2人が腰を下ろす。そこに2人の専属オペレーターをしている安達奈緒子が紅茶を運んで来る。
今回は労う意味が強いので、普段出される茶葉よりも高級な物が使用されている。一般人ならただの茶葉にそんな額をと言われ兼ねない代物だ。
一緒に運ばれて来た茶菓子とて同じである。王室や皇室で出される様な最高級品となっている。
清志とアイナは未成年だが、立場上こう言った高級品を出される事が少なくない。2人共味の違いは分かるので、決して無駄な消費ではない。
「それであの、森下はどうなりますか?」
「…………難しい問題やなぁ。本人はやってないとしても、人が死に過ぎとる」
「あの子も被害者でしょ?」
「それはまあ、そうなんやけどなぁ」
清志とアイナの2人は彼女の処罰がどうなるのか気になっていた。交友関係はなく、どちらかと言えば良好とは言えない関係だった。
それでも同じ学園に通う同級生である事に変わりはない。ただ利用されただけの少女が、重い罰を受けるのは2人も良い気分ではない。
捜査中の執行者に攻撃をしたと言う罪は確かに自分の意思だ。しかしそれ以外は、斎藤和真によって片寄った思想を持たされてしまっただけに過ぎない。まだまだ彼女は更生の余地が残されている。
「そりゃ僕らもね、あんまり重い罰は与えたくはない」
「それなら!」
「せやけどな清志君、一時的とは言え神となった事実は消えへんねん」
翔子の罪として、一番重いのはそこになる。斎藤和真は問答無用で死刑となるだろう。しかし翔子の刑罰を決めるのは些か複雑な状況にあった。
未成年だと言う事、ただ利用されたと言う事実。それを考慮しても人造神の計画に関わるどころか、神そのものに本人がなってしまったのだから。
もっと幼い子供で、神を勝手に造ってはならないと教わる前の年齢であったなら。そうであれば保護観察処分で済まされた。しかし翔子は16歳で、十分な教育を受けた生徒だ。
「救いがあるとしたら彼女の体質やな。あれが良い方に評価されたら、そう悪い事にはならん」
「でも女の子よ? 変な実験とかはちょっと」
「大丈夫や。そんな事にはさせへんから安心しとり」
「森下を宜しくお願いします!」
清志達が今後について話している頃、黄泉津大神は天国へとやって来た。太古の死神と言う立場を持つ彼女は、天国や地獄を自由に行き来する権限を持っている。
黄泉の国の管理者の1人であり、支配者であるスサノオに次ぐ権力を持つ大神の名は伊達ではない。
そんな彼女は当然ながら、天国でもVIP待遇である。複数の天使を従えた、天使長を務める大天使がその対応に当たる。
「ようこそいらっしゃいました。今回はどの様なご要件で?」
「この2人に会いたいのだけれど」
「失礼……かしこまりました。暫くお待ち下さい」
黄泉津大神が渡した資料を見た天使長は、部下に指示を出してから2つの魂を呼びに飛んで行く。
美しい真っ白な花が咲き乱れた草原に立つ黄泉津大神は、そのまま無言で呼び出した2人を待ち続ける。
天国の入り口であるこの草原では、死者の魂と会う事が出来る。もちろんそんな事が出来るのは、一部の神々と選ばれし人間のみ。
この権限は黄泉津大神の神子である、清志ですら持っていない特殊なものになる。死者との面会は、それだけ特別な権限が必要なのだ。
「お待たせしました、この2人です」
「あの、日本の神様が私と妻に一体何の用が?」
「少しね、話をしに来たのよ」
黄泉津大神が面会に来たのは、2人の男女だった。片や白人の男性で、もう片方はアジア人の女性だ。男性の方はエリック・ミラーで、女性の方は三島玲子。
2人は亡くなったアイナの実の両親だった。黄泉津大神はかなり高い権限を持つ太古の神だ、アイナの両親がどうしているかなど調べるのは容易い。それ故にこうして、簡単に会う事が出来た。
「話ですか?」
「貴方達の娘についてよ」
「わ、私達の娘が何か?」
いきなり日本の大神に呼び出されて、何かと思えば娘の話と来た。ただ神が会いに来ただけでも大事なのに、死神が娘の話だと言い出せば不安になるのも当然だ。
2人の頭を過るのは不幸な想像ばかり。霊なのに器用に真っ青な顔色になる2人を見て、黄泉津大神はニヤリと笑う。
「それはもう、蹴られたり撃たれたりしたわ」
「むむむむ娘がその様な失礼を!?」
「あぁ…………アナタどうしましょう」
「だけど、とても良い娘ね。貴方達の娘がうちの子を少しだけ前に進ませてくれた」
黄泉津大神は、1人の母親代わりとして2人に会いに来たのだ。ずっと過去に縛られ、前に進めなくなった息子同然の神子。
その子が少しだけ変われる切っ掛けをくれた娘の両親と、ただ親として話をしたかったから。それから交わされたのは、1人の娘を持っていた夫婦と、1人の息子を持つ母親の温かい交流だった。
「いえ、自分の仕事をしただけですから」
「今回はまあまあだったわね」
魔導協会京都支部で、清志とアイナは波多野支部長に労われていた。もし最悪の事態になっていたら、それを思えばこの程度の歓待では足りないぐらいの結果を出した。
もちろん波多野とて、これで終わらせるつもりはない。主に報酬面で、しっかりと色を付けるつもりだ。
しかしそれはそれ、これはこれ。未成年ながら大きな事件を解決した2人を、しっかり持て成すのが支部長の仕事だ。
「ほら立ってんと座って座って」
「失礼します」
「じゃあ私も」
来客用の高級なソファーに2人が腰を下ろす。そこに2人の専属オペレーターをしている安達奈緒子が紅茶を運んで来る。
今回は労う意味が強いので、普段出される茶葉よりも高級な物が使用されている。一般人ならただの茶葉にそんな額をと言われ兼ねない代物だ。
一緒に運ばれて来た茶菓子とて同じである。王室や皇室で出される様な最高級品となっている。
清志とアイナは未成年だが、立場上こう言った高級品を出される事が少なくない。2人共味の違いは分かるので、決して無駄な消費ではない。
「それであの、森下はどうなりますか?」
「…………難しい問題やなぁ。本人はやってないとしても、人が死に過ぎとる」
「あの子も被害者でしょ?」
「それはまあ、そうなんやけどなぁ」
清志とアイナの2人は彼女の処罰がどうなるのか気になっていた。交友関係はなく、どちらかと言えば良好とは言えない関係だった。
それでも同じ学園に通う同級生である事に変わりはない。ただ利用されただけの少女が、重い罰を受けるのは2人も良い気分ではない。
捜査中の執行者に攻撃をしたと言う罪は確かに自分の意思だ。しかしそれ以外は、斎藤和真によって片寄った思想を持たされてしまっただけに過ぎない。まだまだ彼女は更生の余地が残されている。
「そりゃ僕らもね、あんまり重い罰は与えたくはない」
「それなら!」
「せやけどな清志君、一時的とは言え神となった事実は消えへんねん」
翔子の罪として、一番重いのはそこになる。斎藤和真は問答無用で死刑となるだろう。しかし翔子の刑罰を決めるのは些か複雑な状況にあった。
未成年だと言う事、ただ利用されたと言う事実。それを考慮しても人造神の計画に関わるどころか、神そのものに本人がなってしまったのだから。
もっと幼い子供で、神を勝手に造ってはならないと教わる前の年齢であったなら。そうであれば保護観察処分で済まされた。しかし翔子は16歳で、十分な教育を受けた生徒だ。
「救いがあるとしたら彼女の体質やな。あれが良い方に評価されたら、そう悪い事にはならん」
「でも女の子よ? 変な実験とかはちょっと」
「大丈夫や。そんな事にはさせへんから安心しとり」
「森下を宜しくお願いします!」
清志達が今後について話している頃、黄泉津大神は天国へとやって来た。太古の死神と言う立場を持つ彼女は、天国や地獄を自由に行き来する権限を持っている。
黄泉の国の管理者の1人であり、支配者であるスサノオに次ぐ権力を持つ大神の名は伊達ではない。
そんな彼女は当然ながら、天国でもVIP待遇である。複数の天使を従えた、天使長を務める大天使がその対応に当たる。
「ようこそいらっしゃいました。今回はどの様なご要件で?」
「この2人に会いたいのだけれど」
「失礼……かしこまりました。暫くお待ち下さい」
黄泉津大神が渡した資料を見た天使長は、部下に指示を出してから2つの魂を呼びに飛んで行く。
美しい真っ白な花が咲き乱れた草原に立つ黄泉津大神は、そのまま無言で呼び出した2人を待ち続ける。
天国の入り口であるこの草原では、死者の魂と会う事が出来る。もちろんそんな事が出来るのは、一部の神々と選ばれし人間のみ。
この権限は黄泉津大神の神子である、清志ですら持っていない特殊なものになる。死者との面会は、それだけ特別な権限が必要なのだ。
「お待たせしました、この2人です」
「あの、日本の神様が私と妻に一体何の用が?」
「少しね、話をしに来たのよ」
黄泉津大神が面会に来たのは、2人の男女だった。片や白人の男性で、もう片方はアジア人の女性だ。男性の方はエリック・ミラーで、女性の方は三島玲子。
2人は亡くなったアイナの実の両親だった。黄泉津大神はかなり高い権限を持つ太古の神だ、アイナの両親がどうしているかなど調べるのは容易い。それ故にこうして、簡単に会う事が出来た。
「話ですか?」
「貴方達の娘についてよ」
「わ、私達の娘が何か?」
いきなり日本の大神に呼び出されて、何かと思えば娘の話と来た。ただ神が会いに来ただけでも大事なのに、死神が娘の話だと言い出せば不安になるのも当然だ。
2人の頭を過るのは不幸な想像ばかり。霊なのに器用に真っ青な顔色になる2人を見て、黄泉津大神はニヤリと笑う。
「それはもう、蹴られたり撃たれたりしたわ」
「むむむむ娘がその様な失礼を!?」
「あぁ…………アナタどうしましょう」
「だけど、とても良い娘ね。貴方達の娘がうちの子を少しだけ前に進ませてくれた」
黄泉津大神は、1人の母親代わりとして2人に会いに来たのだ。ずっと過去に縛られ、前に進めなくなった息子同然の神子。
その子が少しだけ変われる切っ掛けをくれた娘の両親と、ただ親として話をしたかったから。それから交わされたのは、1人の娘を持っていた夫婦と、1人の息子を持つ母親の温かい交流だった。
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