死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

文字の大きさ
上 下
61 / 95
第1章

第61話 事件の結末

しおりを挟む
「お疲れさんや、2人共!」

「いえ、自分の仕事をしただけですから」

「今回はまあまあだったわね」

 魔導協会京都支部で、清志せいじとアイナは波多野はたの支部長に労われていた。もし最悪の事態になっていたら、それを思えばこの程度の歓待では足りないぐらいの結果を出した。
 もちろん波多野とて、これで終わらせるつもりはない。主に報酬面で、しっかりと色を付けるつもりだ。
 しかしそれはそれ、これはこれ。未成年ながら大きな事件を解決した2人を、しっかり持て成すのが支部長の仕事だ。

「ほら立ってんと座って座って」

「失礼します」

「じゃあ私も」

 来客用の高級なソファーに2人が腰を下ろす。そこに2人の専属オペレーターをしている安達奈緒子あだちなおこが紅茶を運んで来る。
 今回は労う意味が強いので、普段出される茶葉よりも高級な物が使用されている。一般人ならただの茶葉にそんな額をと言われ兼ねない代物だ。
 一緒に運ばれて来た茶菓子とて同じである。王室や皇室で出される様な最高級品となっている。
 清志とアイナは未成年だが、立場上こう言った高級品を出される事が少なくない。2人共味の違いは分かるので、決して無駄な消費ではない。

「それであの、森下もりしたはどうなりますか?」

「…………難しい問題やなぁ。本人はやってないとしても、人が死に過ぎとる」

「あの子も被害者でしょ?」

「それはまあ、そうなんやけどなぁ」

 清志とアイナの2人は彼女の処罰がどうなるのか気になっていた。交友関係はなく、どちらかと言えば良好とは言えない関係だった。
 それでも同じ学園に通う同級生である事に変わりはない。ただ利用されただけの少女が、重い罰を受けるのは2人も良い気分ではない。
 捜査中の執行者に攻撃をしたと言う罪は確かに自分の意思だ。しかしそれ以外は、斎藤和真さいとうかずまによって片寄った思想を持たされてしまっただけに過ぎない。まだまだ彼女は更生の余地が残されている。

「そりゃ僕らもね、あんまり重い罰は与えたくはない」

「それなら!」

「せやけどな清志君、一時的とは言え神となった事実は消えへんねん」

 翔子しょうこの罪として、一番重いのはそこになる。斎藤和真は問答無用で死刑となるだろう。しかし翔子の刑罰を決めるのは些か複雑な状況にあった。
 未成年だと言う事、ただ利用されたと言う事実。それを考慮しても人造神の計画に関わるどころか、神そのものに本人がなってしまったのだから。
 もっと幼い子供で、神を勝手に造ってはならないと教わる前の年齢であったなら。そうであれば保護観察処分で済まされた。しかし翔子は16歳で、十分な教育を受けた生徒だ。

「救いがあるとしたら彼女の体質やな。あれが良い方に評価されたら、そう悪い事にはならん」

「でも女の子よ? 変な実験とかはちょっと」

「大丈夫や。そんな事にはさせへんから安心しとり」

「森下を宜しくお願いします!」




 清志達が今後について話している頃、黄泉津大神は天国へとやって来た。太古の死神と言う立場を持つ彼女は、天国や地獄を自由に行き来する権限を持っている。
 黄泉の国の管理者の1人であり、支配者であるスサノオに次ぐ権力を持つ大神の名は伊達ではない。
 そんな彼女は当然ながら、天国でもVIP待遇である。複数の天使を従えた、天使長を務める大天使がその対応に当たる。

「ようこそいらっしゃいました。今回はどの様なご要件で?」

「この2人に会いたいのだけれど」

「失礼……かしこまりました。暫くお待ち下さい」

 黄泉津大神が渡した資料を見た天使長は、部下に指示を出してから2つの魂を呼びに飛んで行く。
 美しい真っ白な花が咲き乱れた草原に立つ黄泉津大神は、そのまま無言で呼び出した2人を待ち続ける。
 天国の入り口であるこの草原では、死者の魂と会う事が出来る。もちろんそんな事が出来るのは、一部の神々と選ばれし人間のみ。
 この権限は黄泉津大神の神子である、清志ですら持っていない特殊なものになる。死者との面会は、それだけ特別な権限が必要なのだ。

「お待たせしました、この2人です」

「あの、日本の神様が私と妻に一体何の用が?」

「少しね、話をしに来たのよ」

 黄泉津大神が面会に来たのは、2人の男女だった。片や白人の男性で、もう片方はアジア人の女性だ。男性の方はエリック・ミラーで、女性の方は三島玲子。
 2人は亡くなったアイナの実の両親だった。黄泉津大神はかなり高い権限を持つ太古の神だ、アイナの両親がどうしているかなど調べるのは容易い。それ故にこうして、簡単に会う事が出来た。

「話ですか?」

「貴方達の娘についてよ」

「わ、私達の娘が何か?」

 いきなり日本の大神に呼び出されて、何かと思えば娘の話と来た。ただ神が会いに来ただけでも大事なのに、死神が娘の話だと言い出せば不安になるのも当然だ。
 2人の頭を過るのは不幸な想像ばかり。霊なのに器用に真っ青な顔色になる2人を見て、黄泉津大神はニヤリと笑う。

「それはもう、蹴られたり撃たれたりしたわ」

「むむむむ娘がその様な失礼を!?」

「あぁ…………アナタどうしましょう」

「だけど、とても良い娘ね。貴方達の娘がうちの子を少しだけ前に進ませてくれた」

 黄泉津大神は、1人の母親代わりとして2人に会いに来たのだ。ずっと過去に縛られ、前に進めなくなった息子同然の神子。
 その子が少しだけ変われる切っ掛けをくれた娘の両親と、ただ親として話をしたかったから。それから交わされたのは、1人の娘を持っていた夫婦と、1人の息子を持つ母親の温かい交流だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。 ⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ピボット高校アーカイ部

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
デジタル職人の祖父と暮らしている僕(田中鋲)は二つ受けた入試に落ちて、祖父が、なんとか探してくれたピボット高校に入ることになる。  ちょっとレベルの高い私学で、ついて行けるか心配。  入学にあたっては一つだけ条件があった。 『アーカイ部』に入部すること。  アーカイ部には、旧制服を着た部長の真中螺子(まなからこ)がいるだけだった。  ロングヘア―のよく似合う美人なんだけど、ちょっと怪しい……。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。

やまいし
ファンタジー
気が付くと、男性の数が著しく少ない歪な世界へ転生してしまう。 彼は持ち前の容姿と才能を使って、やりたいことをやっていく。 彼は何を志し、どんなことを成していくのか。 これはそんな彼――鳴瀬隼人(なるせはやと)の青春サクセスストーリー……withハーレム。

処理中です...