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第1章
第58話 祟り神
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「はっ!」
阻害魔術を乗せた清志の拳が翔子の腹部にクリーンヒットする。サーバールームをアイナに破壊され、一時的にネットワークとの繋がりを失った翔子の肉体は普通の人間に戻っていた。
意識を刈り取れた翔子は、そのままぐったりと清志の方にもたれ掛かる。阻害魔術の効果が浸透して行き、翔子の肉体へ魔力を集める魔術が崩壊する。
大量の魔力は霧散し空中へと散って行った。電子戦が出来ないのだから、物理的に破壊すれば良い。そんな力技で解決して見せたアイナの策は成功した。
翔子とのリンクが切れた事で、ネットワーク上の人造神もただのマスコットに戻っているだろう。
「こっちは終わった」
『こっちも終わりそうよ』
清志が翔子を、アイナが和真を確保すれば事件は終了。まだハッキリとした事は分かっていない部分も、この地下研究施設を調べれば大体は解決すると思われる。
最悪の場合は、和真の記憶を調べるだけの話。これまでの研究で、どの程度の人命が失われたのかは現時点では不明である。
しかしこれまでを考えれば、相当数の人間が命を落とした可能性が高い。そんな予想に心を痛めていた清志の元にアイナから緊急連絡が届く。
『ちょ、ちょっと何これ!? 何が起きているの!?』
「どうしたアイナ!? 何があった?」
『こんなの見た事ないわ! 早く戻って来て!』
何かが起こったらしいアイナの元へ清志は急ぐ。翔子を肩に抱えながらも、最速で施設内を駆け抜ける。
先程までアイナと和真がいた部屋まで清志が辿り着く頃には、室内には異様な物体が浮かんでいた。
和真らしき人影を中心に、アメーバ状の薄い灰色の物体が蠢いている。研究所の色んな場所から、更に灰色をした気体の様な物がどんどん集まって来ていた。
「これは……怨念? いや、悪霊の類か?」
「ねぇ清志、これ何なの?」
「不味いわ清志! 今すぐあの男を斬りなさい!」
「わ、分かった!」
焦った声で急かす黄泉津大神に、緊急性を感じ取った清志が和真の元へと急ぐ。しかし周りに集まった灰色のアメーバ状の物体に邪魔をされ、清志の刃は和真にまで届かない。
斬られた場所がすぐに元通りに回復してしまう。様々な魔術も使用して攻撃を繰り返すが、やはり和真まで届く事はない。
徐々に和真の体は飲み込まれて行き、アメーバの殆ど中央に近い位置まで移動している。
「トンチキ娘! お前でも良いからあいつを撃て!」
「それ私の事!? 酷くない!?」
突然の呼び方に抗議しながらも、アイナは和真を狙い撃つ。しかしギリギリ間に合わず、銃弾はアメーバに吸い込まれた。
ならばと魔力弾を撃ち込むと、アメーバが一部剥がれ落ちるが和真の体まで攻撃が届く程には至っていない。
剥がれ落ちたアメーバも、暫くするとまた塊へと吸い込まれた。薄っすらと見える和真の体が中央に到達すると、アメーバが急に自我を持ったかの様に移動を始める。
「黄泉津大神! コレは何だ!?」
「暴走状態の神気よ。怨念を吸収して祟り神になりかけている」
「何だと!?」
強引な方法で神を造った事が原因で、行き場を失った神気が神子である和真の元へ殺到してしまったのだ。
人造神の能力で魂を吸っていたので、殺された様々な人間の恨みや憎しみの影響を受けて非常に歪な状態へと変化していた。
ただ普通に神が死んだだけならば、こんな事態は発生しない。インターネットを経由させたり、他者の魂を吸い取ったりした事が悪影響を及ぼした。
もしインターネットを介する様な形を取らなければ、魂を吸収したりしなければこんな事にはならなかった。それが黄泉津大神の説明だった。
「今回は怨念や恨みがベースよ、厄介な悪神にしかなれないわ」
「そもそも祟り神って何?」
「アイナ、悪いがあまり余裕が無い。ざっくり説明する」
祟り神とは、荒魂の事を指す。荒ぶる魂が善良な神となるか、厄災を振りまく災厄の化身になるかは信仰や魂次第で変化する。
祟り神がイコール悪とは限らない。ただし今回は少々事情が違う。自然発生した荒魂が現れたのではなく、無理矢理創り出した神の残滓が、溜め込まれた魂と合わさっただけだ。
和真に殺された恨みや、その恐怖など様々な負の感情が含まれている。その上歪な生まれ方をしているので、誰にも知られず信仰などされていない。ただ純粋な負の感情の塊でしかない。
「じゃあコイツ、どうなるの?」
「そんな事も分からないのかしら? 勉強不足ね」
「うっさい! アンタに聞いてない!」
「怨嗟と呪いを撒き散らしながら爆散って所かな」
元々イレギュラーな形で誕生した中途半端な存在だ。いずれは神としての体裁を保てず、散り散りになるしかない。
その際には、溜め込まれた負の感情を大量に撒き散らす事になる。当然こんな街中でそんな事態になれば、甚大な被害が出るだろう。
こんな地下だからと安心は出来ない。土壌汚染により地域一体が人の住めない土地になる可能性がある。
憎しみが土地に影響し、小さな村が滅んだ話などは大昔から実際に発生している。
「あ、ちょっと! アイツ外に出るわ!」
「不味い! 追い掛けるぞ!」
不幸な事にアイナが空けた大穴から、祟り神モドキが地上へと向かい始めた。恐らくは地上に溢れる生者の魂に惹かれたのだろう。
当然そんな存在を自由にさせる訳には行かない。慌てて清志と黄泉津大神、そしてアイナがその後を追い掛けた。
阻害魔術を乗せた清志の拳が翔子の腹部にクリーンヒットする。サーバールームをアイナに破壊され、一時的にネットワークとの繋がりを失った翔子の肉体は普通の人間に戻っていた。
意識を刈り取れた翔子は、そのままぐったりと清志の方にもたれ掛かる。阻害魔術の効果が浸透して行き、翔子の肉体へ魔力を集める魔術が崩壊する。
大量の魔力は霧散し空中へと散って行った。電子戦が出来ないのだから、物理的に破壊すれば良い。そんな力技で解決して見せたアイナの策は成功した。
翔子とのリンクが切れた事で、ネットワーク上の人造神もただのマスコットに戻っているだろう。
「こっちは終わった」
『こっちも終わりそうよ』
清志が翔子を、アイナが和真を確保すれば事件は終了。まだハッキリとした事は分かっていない部分も、この地下研究施設を調べれば大体は解決すると思われる。
最悪の場合は、和真の記憶を調べるだけの話。これまでの研究で、どの程度の人命が失われたのかは現時点では不明である。
しかしこれまでを考えれば、相当数の人間が命を落とした可能性が高い。そんな予想に心を痛めていた清志の元にアイナから緊急連絡が届く。
『ちょ、ちょっと何これ!? 何が起きているの!?』
「どうしたアイナ!? 何があった?」
『こんなの見た事ないわ! 早く戻って来て!』
何かが起こったらしいアイナの元へ清志は急ぐ。翔子を肩に抱えながらも、最速で施設内を駆け抜ける。
先程までアイナと和真がいた部屋まで清志が辿り着く頃には、室内には異様な物体が浮かんでいた。
和真らしき人影を中心に、アメーバ状の薄い灰色の物体が蠢いている。研究所の色んな場所から、更に灰色をした気体の様な物がどんどん集まって来ていた。
「これは……怨念? いや、悪霊の類か?」
「ねぇ清志、これ何なの?」
「不味いわ清志! 今すぐあの男を斬りなさい!」
「わ、分かった!」
焦った声で急かす黄泉津大神に、緊急性を感じ取った清志が和真の元へと急ぐ。しかし周りに集まった灰色のアメーバ状の物体に邪魔をされ、清志の刃は和真にまで届かない。
斬られた場所がすぐに元通りに回復してしまう。様々な魔術も使用して攻撃を繰り返すが、やはり和真まで届く事はない。
徐々に和真の体は飲み込まれて行き、アメーバの殆ど中央に近い位置まで移動している。
「トンチキ娘! お前でも良いからあいつを撃て!」
「それ私の事!? 酷くない!?」
突然の呼び方に抗議しながらも、アイナは和真を狙い撃つ。しかしギリギリ間に合わず、銃弾はアメーバに吸い込まれた。
ならばと魔力弾を撃ち込むと、アメーバが一部剥がれ落ちるが和真の体まで攻撃が届く程には至っていない。
剥がれ落ちたアメーバも、暫くするとまた塊へと吸い込まれた。薄っすらと見える和真の体が中央に到達すると、アメーバが急に自我を持ったかの様に移動を始める。
「黄泉津大神! コレは何だ!?」
「暴走状態の神気よ。怨念を吸収して祟り神になりかけている」
「何だと!?」
強引な方法で神を造った事が原因で、行き場を失った神気が神子である和真の元へ殺到してしまったのだ。
人造神の能力で魂を吸っていたので、殺された様々な人間の恨みや憎しみの影響を受けて非常に歪な状態へと変化していた。
ただ普通に神が死んだだけならば、こんな事態は発生しない。インターネットを経由させたり、他者の魂を吸い取ったりした事が悪影響を及ぼした。
もしインターネットを介する様な形を取らなければ、魂を吸収したりしなければこんな事にはならなかった。それが黄泉津大神の説明だった。
「今回は怨念や恨みがベースよ、厄介な悪神にしかなれないわ」
「そもそも祟り神って何?」
「アイナ、悪いがあまり余裕が無い。ざっくり説明する」
祟り神とは、荒魂の事を指す。荒ぶる魂が善良な神となるか、厄災を振りまく災厄の化身になるかは信仰や魂次第で変化する。
祟り神がイコール悪とは限らない。ただし今回は少々事情が違う。自然発生した荒魂が現れたのではなく、無理矢理創り出した神の残滓が、溜め込まれた魂と合わさっただけだ。
和真に殺された恨みや、その恐怖など様々な負の感情が含まれている。その上歪な生まれ方をしているので、誰にも知られず信仰などされていない。ただ純粋な負の感情の塊でしかない。
「じゃあコイツ、どうなるの?」
「そんな事も分からないのかしら? 勉強不足ね」
「うっさい! アンタに聞いてない!」
「怨嗟と呪いを撒き散らしながら爆散って所かな」
元々イレギュラーな形で誕生した中途半端な存在だ。いずれは神としての体裁を保てず、散り散りになるしかない。
その際には、溜め込まれた負の感情を大量に撒き散らす事になる。当然こんな街中でそんな事態になれば、甚大な被害が出るだろう。
こんな地下だからと安心は出来ない。土壌汚染により地域一体が人の住めない土地になる可能性がある。
憎しみが土地に影響し、小さな村が滅んだ話などは大昔から実際に発生している。
「あ、ちょっと! アイツ外に出るわ!」
「不味い! 追い掛けるぞ!」
不幸な事にアイナが空けた大穴から、祟り神モドキが地上へと向かい始めた。恐らくは地上に溢れる生者の魂に惹かれたのだろう。
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