死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第54話 伝わらない想い

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 アイナと分かれて人造神を探しに出た清志せいじは、研究施設内を走る。その後を追う様にして宙に浮いた黄泉津大神が続く。
 どの様な神が造られたのか詳細が不明ではあるが、その気配だけなら黄泉津大神が感じ取る事が出来る。出来るだけ早く発見し、制圧しなければならない。
 幾ら神とは言っても、生まれたばかりの低位。神としての格で言えば太古の死神、黄泉津大神には到底及ばない。
 その点に関しては心配する必要はないが、問題はその能力にあった。その高い不死性が懸念材料だ。そう簡単にはいかないだろう。

 神殺しの実例は幾つか存在するし、絶対に倒せない存在でもない。しかしそれはかなり難易度が高く、何の用意も無く出来る事ではない。
 それこそ太古の死神である黄泉津大神と、その神子である清志の様な特殊な存在であってもかなり難しい。
 特に今回で言えば神殺しの武具を用いるのが一番確実だが、今そんなものを取りに行く時間はない。そもそも使用許可申請を出すだけで数時間は掛かる。

「次はどっちだ!?」

「そこの左のドアから出て」

「左だな!」

 西山製薬の地下研究施設、その最深部に向かって清志が駆け抜ける。邪魔なセキュリティは大鎌で切り裂き、壁やドアを破壊しながら先へと進む。
 それなりのセキュリティと材質を使った高価な研究施設だが、死神が使う神具による攻撃までは防げない。
 簡単に突破されて行くその様子を見れば、セキュリティ担当者が悲鳴を上げる光景だ。何の障害にもならず、邪魔な段ボール箱を蹴飛ばすかの様に軽々と抜けて行く。
 迅速に目的地に到着した清志の前には、広いホールの様な部屋があった。その中に入れば、中央に石造りの祭壇が置かれていた。その中心に立つのは、天使の羽の様なものを背負った森下翔子もりしたしょうこだった。

「……まさか君が、重要参考人だったとはね」

「人を悪者みたいに言わないでくれない?」

「いや、残念だけど十分悪者側だよ」

 ただ斉藤和真さいとうかずまに心酔しているだけかと思われた少女が、人造の神として清志の目の前に現れた。
 どんなカラクリがあるのかは不明だが、人の身でありながら神へと至ったらしい。その影響なのか、その容姿にも変化が現れていた。
 天使の羽の他にもキラキラと輝く粒子が周囲を漂い、平凡だった体型がモデルの様な美しいスタイルに変わっていた。何が要因かは不明だが、明らかな変化であった。

「もう何十人も亡くなっている」

「それってテロリストなんでしょ? なら別に良いじゃない」

「…………職員の話だよ」

「和真さんがそんな事をする訳ないでしょ? そうやって冤罪を擦り付けて研究を潰すつもりなんでしょ」

 和真を信じ切っている翔子には、清志の言葉は届かない。新しい技術を生み出す時には、必ず邪魔をする既得権益者が居ると事前に言われていたからだ。
 翔子から見れば、生命を司る新たな神を生み出しただけ。人の命を救う正義の力を得ただけなのだと思っている。
 しかし実際には、実験と言う名目で幾つもの罪無き魂が犠牲になっている。ホールの外を全く見ていない翔子は、その事実を知らない。
 本当はもっと前から、様々な犯罪行為が行われている。それらを隠し、綺麗な部分だけを見せられて来た翔子にとって、和真と言う男は救世主の様な存在だった。

「あの男はそう言う男だ。現実を見ろ!」

「ちょっと会っただけの貴方に何が分かるの? 私はずっとあの人と過ごして来たのよ」

「過ごした時間の問題じゃない、君は騙されているんだ!」

 こんな邪悪な計画に協力してはいけない、そう訴える清志だが効果はなし。勝手に神を生み出す禁忌についても、何らかの嘘を吹き込まれているのだろう。
 本物の神がすぐそこに居ると言うのに、全く態度を改めようとしない。本来なら許しを請わねばならない立場だが、その罪の意識すら彼女には無かった。
 自分達は世の中の為になる事をしているのだと、信じて疑おうともしない。特別扱いされた事と、特別な存在になれた事で盲目になっていた。

「面倒ね、殺しましょう」

「待て待ってくれ! 彼女はまだ引き返せる!」

「殺す? 私を? 無理よ、だって死なないもの」

 両手を広げ、高らかに笑う翔子を汚物でも見るかの様な蔑んだ目で黄泉津大神が睨む。黄泉津大神から見れば、伊邪那美命の模造品だ。
 そして同時に黄泉津大神の模造品でもある。歪な方法で造られた自分の劣化コピー品など、見ていて気分の良いものではない。
 黄泉津大神としては今すぐにでもあの世へ送ってしまいたい。しかし不死性のせいで、それも簡単には行かない。
 苛々と忌々しげに翔子を睨み続ける。そんな黄泉津大神の空気を感じ取り、清志は黄泉津大神を抑えに入る。
 まだ彼女は、自分が悪事に加担した認識すらない。今すぐ処断せねばならない、悪しき存在ではないのだ。罪を認め、正しい罰さえ受ければ許されるのだから。

「私達の邪魔はさせない! 邪魔をするのなら、痛い目を見て貰うわ!」

「よせ! 手を出せば本当に引き返せなくなるぞ!」

「貴方の嘘には騙されないわ!」

 何とか同級生がこれ以上罪を重ねない様に、そう願う清志の気持ちは翔子には伝わらない。どこまでもすれ違い続けたまま、2人の戦闘は始まってしまった。
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