52 / 96
第1章
第52話 異変の正体
しおりを挟む
西山製薬の地下研究施設に清志達が到着する。清志とアイナを先頭に、警戒しながら8人の魔術師が進んで行く。
そこには最悪の光景が広がっていた。明らかに職員と思われる服装をしたミイラがあちこちに転がっていた。
白衣を着たものや警備員の格好をしたものもあれば、私服らしき服装も一部見受けられる。その中には明らかに身なりの良い人間の死体も含まれていた。
「ゲンさん、この死体社長の西山だ」
「おいおい、幸先が随分と悪いな」
「隣の死体、例の秘書みたいね」
初手から最高責任者の遺体発見と言うスタートに、清志達の空気は重くなる。ゴロゴロと死体が転がっている状況に、生存者など望み薄なのではないかと言う予想が8人の間に広がる。
しかしこの場には、人間の生死に鋭い神が居る。せめて多少なりとも生き残っていて欲しい、そう願いながら清志が黄泉津大神に問い掛ける。
「なぁ、生きた人間はもう居ないのか?」
「いいえ、それなりに居るみたいよ」
「ホントか!? 方向は分かるか?」
絶望的かと思われた生存者の報告に、8人の魔術師の緊張が多少だが和らぐ。幾ら彼らが見慣れているとは言っても、死体を見たくて魔術師をやっているのではない。
可能な限り助けたいし、助かる命は多い方が良いに決まっている。しかしまだ安心は出来ない。生き残っているのが民間人なのかテロリストなのか。
そのどちらかによって話は変わって来る。そこまでは黄泉津大神にも判別不可能であり、実際に行ってみない事には分からない。
生き残ったのが後者であるならば、あまり気分の良い話ではない。ただ全滅よりは幾分かマシと言うだけで。
悪魔や悪神絡みの事件だと、全滅で終わるパターンもある。その時は振り上げた拳の下ろしどころが無いままだ。
そんな経験は全員がしているので、最悪のシナリオが回避出来ただけでも幸いと言った程度か。
「右の奥と、左の奥に固まっているわね」
「……二手に分かれよう」
「良し、ワシらが右に行くか」
清志とアイナ、ゲンとそのパートナーが右奥へ。残る4人が左奥へと向かう。状況的に見て戦力分断のリスクはあるが、生存者の命が掛かっている。
両方を回る事で手遅れになるリスクを思えば、多少危険でも二手に分かれた方が良い。全員がその判断に賛成し、2つのチームで捜索を続ける。
今回は精鋭揃いであるが故に、4人ずつに分かれたとしても戦力は十分にある。両方生存者が理想的だが、恐らくどちらかは戦闘になる。
それぞれのチームはより一層警戒を強めながら歩みを進めて行く。そんな中で、清志達が向かった右奥が少々騒がしい。
「人の子が死んでいっているわね」
「何だと!? 急ごう!」
「ええ!」
清志達の向かった先では、戦闘でもしているのか銃声まで響き始めた。通路にまで聞こえて来る怒号と戦闘音が激しさを増す。
民間人への虐殺か、それともテロリストの仲間割れか。どちらにせよ貧乏くじを引いたのは清志達の方らしい。
Sランク2人が居る方で良かったとも言えるが。いずれにせよ現場を確認するまで事の善し悪しは分からない。
確認を急ぐ為に長い通路を清志達が駆け抜ける。4人の魔術師と太古の神が広い研究室に辿り着く頃には、殆ど何の音も聞こえなくなっていた。
室内に立っていたのは、2人の男だけだった。片方は西山製薬の斉藤和真。そしてもう片方は中東系の男性。
「おのれ和真! 我々を騙したな!」
「騙したとは失礼な。契約書にも書いてあったでしょう? 実験に付き合ってもらうと」
「屁理屈を言うなこの狂人が!」
中東解放戦線のリーダーであるラシード・ハーンが怒りの形相で和真を睨んでいた。室内にはラシードの部下達と思われるミイラが大量に転がっていた。
これで西山製薬が中東解放戦線を匿っていたのは現行犯で確定した。しかしもはやテロ組織としては壊滅状態。
まだ関与が確定していない事件も大量にある中で、この有り様は清志達にとってあまり美味しい状況ではない。
それに気になる事が清志と黄泉津大神にはあった。これだけ人が死んでいるのに、どこにも魂が漂っていないのだ。
「お客様も来た様ですので、終わりにしましょうか」
「ふざけるなぁ!!」
襲い掛かるラシードに向かい、和真が右手を翳す。その手の平から白い光線が照射されラシードの胴体を貫く。
その瞬間にラシードの体から生気が失われ、体がミイラ化して行く。一瞬の攻防で、中東解放戦線のリーダーはこの世を去った。
そして清志には見えていた。ラシードの魂が和真の方に吸収されて行くのを。黄泉津大神はそんな和真を嫌そうな目で見ていた。まるで害虫でも見つけたかの様な形相だ。
「皆さん、お待たせしました」
「ゲンさん、生存者の救助に行ってくれ」
「……その方が良さそうだな」
明らかに普通ではない魔術を使用して見せた和真を見て、清志は即座に判断を下した。この相手はAランク魔術師を超えると。
つまり、自分達Sランクに近い存在であると言う事だ。それは他の3人も同意見なので、ゲンとパートナーの2人は生存者の救助へと向かう。
残された清志とアイナは、どう見ても普通ではない状態の和真と対峙する事となった。
そこには最悪の光景が広がっていた。明らかに職員と思われる服装をしたミイラがあちこちに転がっていた。
白衣を着たものや警備員の格好をしたものもあれば、私服らしき服装も一部見受けられる。その中には明らかに身なりの良い人間の死体も含まれていた。
「ゲンさん、この死体社長の西山だ」
「おいおい、幸先が随分と悪いな」
「隣の死体、例の秘書みたいね」
初手から最高責任者の遺体発見と言うスタートに、清志達の空気は重くなる。ゴロゴロと死体が転がっている状況に、生存者など望み薄なのではないかと言う予想が8人の間に広がる。
しかしこの場には、人間の生死に鋭い神が居る。せめて多少なりとも生き残っていて欲しい、そう願いながら清志が黄泉津大神に問い掛ける。
「なぁ、生きた人間はもう居ないのか?」
「いいえ、それなりに居るみたいよ」
「ホントか!? 方向は分かるか?」
絶望的かと思われた生存者の報告に、8人の魔術師の緊張が多少だが和らぐ。幾ら彼らが見慣れているとは言っても、死体を見たくて魔術師をやっているのではない。
可能な限り助けたいし、助かる命は多い方が良いに決まっている。しかしまだ安心は出来ない。生き残っているのが民間人なのかテロリストなのか。
そのどちらかによって話は変わって来る。そこまでは黄泉津大神にも判別不可能であり、実際に行ってみない事には分からない。
生き残ったのが後者であるならば、あまり気分の良い話ではない。ただ全滅よりは幾分かマシと言うだけで。
悪魔や悪神絡みの事件だと、全滅で終わるパターンもある。その時は振り上げた拳の下ろしどころが無いままだ。
そんな経験は全員がしているので、最悪のシナリオが回避出来ただけでも幸いと言った程度か。
「右の奥と、左の奥に固まっているわね」
「……二手に分かれよう」
「良し、ワシらが右に行くか」
清志とアイナ、ゲンとそのパートナーが右奥へ。残る4人が左奥へと向かう。状況的に見て戦力分断のリスクはあるが、生存者の命が掛かっている。
両方を回る事で手遅れになるリスクを思えば、多少危険でも二手に分かれた方が良い。全員がその判断に賛成し、2つのチームで捜索を続ける。
今回は精鋭揃いであるが故に、4人ずつに分かれたとしても戦力は十分にある。両方生存者が理想的だが、恐らくどちらかは戦闘になる。
それぞれのチームはより一層警戒を強めながら歩みを進めて行く。そんな中で、清志達が向かった右奥が少々騒がしい。
「人の子が死んでいっているわね」
「何だと!? 急ごう!」
「ええ!」
清志達の向かった先では、戦闘でもしているのか銃声まで響き始めた。通路にまで聞こえて来る怒号と戦闘音が激しさを増す。
民間人への虐殺か、それともテロリストの仲間割れか。どちらにせよ貧乏くじを引いたのは清志達の方らしい。
Sランク2人が居る方で良かったとも言えるが。いずれにせよ現場を確認するまで事の善し悪しは分からない。
確認を急ぐ為に長い通路を清志達が駆け抜ける。4人の魔術師と太古の神が広い研究室に辿り着く頃には、殆ど何の音も聞こえなくなっていた。
室内に立っていたのは、2人の男だけだった。片方は西山製薬の斉藤和真。そしてもう片方は中東系の男性。
「おのれ和真! 我々を騙したな!」
「騙したとは失礼な。契約書にも書いてあったでしょう? 実験に付き合ってもらうと」
「屁理屈を言うなこの狂人が!」
中東解放戦線のリーダーであるラシード・ハーンが怒りの形相で和真を睨んでいた。室内にはラシードの部下達と思われるミイラが大量に転がっていた。
これで西山製薬が中東解放戦線を匿っていたのは現行犯で確定した。しかしもはやテロ組織としては壊滅状態。
まだ関与が確定していない事件も大量にある中で、この有り様は清志達にとってあまり美味しい状況ではない。
それに気になる事が清志と黄泉津大神にはあった。これだけ人が死んでいるのに、どこにも魂が漂っていないのだ。
「お客様も来た様ですので、終わりにしましょうか」
「ふざけるなぁ!!」
襲い掛かるラシードに向かい、和真が右手を翳す。その手の平から白い光線が照射されラシードの胴体を貫く。
その瞬間にラシードの体から生気が失われ、体がミイラ化して行く。一瞬の攻防で、中東解放戦線のリーダーはこの世を去った。
そして清志には見えていた。ラシードの魂が和真の方に吸収されて行くのを。黄泉津大神はそんな和真を嫌そうな目で見ていた。まるで害虫でも見つけたかの様な形相だ。
「皆さん、お待たせしました」
「ゲンさん、生存者の救助に行ってくれ」
「……その方が良さそうだな」
明らかに普通ではない魔術を使用して見せた和真を見て、清志は即座に判断を下した。この相手はAランク魔術師を超えると。
つまり、自分達Sランクに近い存在であると言う事だ。それは他の3人も同意見なので、ゲンとパートナーの2人は生存者の救助へと向かう。
残された清志とアイナは、どう見ても普通ではない状態の和真と対峙する事となった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。


のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。
やまいし
ファンタジー
気が付くと、男性の数が著しく少ない歪な世界へ転生してしまう。
彼は持ち前の容姿と才能を使って、やりたいことをやっていく。
彼は何を志し、どんなことを成していくのか。
これはそんな彼――鳴瀬隼人(なるせはやと)の青春サクセスストーリー……withハーレム。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる