死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第52話 異変の正体

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 西山製薬の地下研究施設に清志せいじ達が到着する。清志とアイナを先頭に、警戒しながら8人の魔術師が進んで行く。
 そこには最悪の光景が広がっていた。明らかに職員と思われる服装をしたミイラがあちこちに転がっていた。
 白衣を着たものや警備員の格好をしたものもあれば、私服らしき服装も一部見受けられる。その中には明らかに身なりの良い人間の死体も含まれていた。

「ゲンさん、この死体社長の西山だ」

「おいおい、幸先が随分と悪いな」

「隣の死体、例の秘書みたいね」

 初手から最高責任者の遺体発見と言うスタートに、清志達の空気は重くなる。ゴロゴロと死体が転がっている状況に、生存者など望み薄なのではないかと言う予想が8人の間に広がる。
 しかしこの場には、人間の生死に鋭い神が居る。せめて多少なりとも生き残っていて欲しい、そう願いながら清志が黄泉津大神に問い掛ける。

「なぁ、生きた人間はもう居ないのか?」

「いいえ、それなりに居るみたいよ」

「ホントか!? 方向は分かるか?」

 絶望的かと思われた生存者の報告に、8人の魔術師の緊張が多少だが和らぐ。幾ら彼らが見慣れているとは言っても、死体を見たくて魔術師をやっているのではない。
 可能な限り助けたいし、助かる命は多い方が良いに決まっている。しかしまだ安心は出来ない。生き残っているのが民間人なのかテロリストなのか。
 そのどちらかによって話は変わって来る。そこまでは黄泉津大神にも判別不可能であり、実際に行ってみない事には分からない。

 生き残ったのが後者であるならば、あまり気分の良い話ではない。ただ全滅よりは幾分かマシと言うだけで。
 悪魔や悪神絡みの事件だと、全滅で終わるパターンもある。その時は振り上げた拳の下ろしどころが無いままだ。
 そんな経験は全員がしているので、最悪のシナリオが回避出来ただけでも幸いと言った程度か。

「右の奥と、左の奥に固まっているわね」

「……二手に分かれよう」

「良し、ワシらが右に行くか」

 清志とアイナ、ゲンとそのパートナーが右奥へ。残る4人が左奥へと向かう。状況的に見て戦力分断のリスクはあるが、生存者の命が掛かっている。
 両方を回る事で手遅れになるリスクを思えば、多少危険でも二手に分かれた方が良い。全員がその判断に賛成し、2つのチームで捜索を続ける。
 今回は精鋭揃いであるが故に、4人ずつに分かれたとしても戦力は十分にある。両方生存者が理想的だが、恐らくどちらかは戦闘になる。
 それぞれのチームはより一層警戒を強めながら歩みを進めて行く。そんな中で、清志達が向かった右奥が少々騒がしい。

「人の子が死んでいっているわね」

「何だと!? 急ごう!」

「ええ!」

 清志達の向かった先では、戦闘でもしているのか銃声まで響き始めた。通路にまで聞こえて来る怒号と戦闘音が激しさを増す。
 民間人への虐殺か、それともテロリストの仲間割れか。どちらにせよ貧乏くじを引いたのは清志達の方らしい。
 Sランク2人が居る方で良かったとも言えるが。いずれにせよ現場を確認するまで事の善し悪しは分からない。
 確認を急ぐ為に長い通路を清志達が駆け抜ける。4人の魔術師と太古の神が広い研究室に辿り着く頃には、殆ど何の音も聞こえなくなっていた。
 室内に立っていたのは、2人の男だけだった。片方は西山製薬の斉藤和真さいとうかずま。そしてもう片方は中東系の男性。

「おのれ和真! 我々を騙したな!」

「騙したとは失礼な。契約書にも書いてあったでしょう? 実験に付き合ってもらうと」

「屁理屈を言うなこの狂人が!」

 中東解放戦線のリーダーであるラシード・ハーンが怒りの形相で和真を睨んでいた。室内にはラシードの部下達と思われるミイラが大量に転がっていた。
 これで西山製薬が中東解放戦線を匿っていたのは現行犯で確定した。しかしもはやテロ組織としては壊滅状態。
 まだ関与が確定していない事件も大量にある中で、この有り様は清志達にとってあまり美味しい状況ではない。
 それに気になる事が清志と黄泉津大神にはあった。これだけ人が死んでいるのに、どこにも魂が漂っていないのだ。

「お客様も来た様ですので、終わりにしましょうか」

「ふざけるなぁ!!」

 襲い掛かるラシードに向かい、和真が右手を翳す。その手の平から白い光線が照射されラシードの胴体を貫く。
 その瞬間にラシードの体から生気が失われ、体がミイラ化して行く。一瞬の攻防で、中東解放戦線のリーダーはこの世を去った。
 そして清志には見えていた。ラシードの魂が和真の方に吸収されて行くのを。黄泉津大神はそんな和真を嫌そうな目で見ていた。まるで害虫でも見つけたかの様な形相だ。

「皆さん、お待たせしました」

「ゲンさん、生存者の救助に行ってくれ」

「……その方が良さそうだな」

 明らかに普通ではない魔術を使用して見せた和真を見て、清志は即座に判断を下した。この相手はAランク魔術師を超えると。
 つまり、自分達Sランクに近い存在であると言う事だ。それは他の3人も同意見なので、ゲンとパートナーの2人は生存者の救助へと向かう。
 残された清志とアイナは、どう見ても普通ではない状態の和真と対峙する事となった。
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