死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第50話 動き出す闇

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 西山製薬の代表取締役社長、西山輝明にしやまてるあきは怒りに染まっていた。先日の不祥事に続き、今度は魔導協会の強制捜査が行われると来た。
 それはもう、実質犯罪者扱いをされた様なものだ。その噂がどこから漏れたのか、即座に株価は急落。ここ最近の会社経営はもう滅茶苦茶。
 あちらこちらに謝罪と弁明をして回る羽目になった。それほど傲慢な男ではなくても、ここまで築き上げて来た会社をこうも滅茶苦茶にされては怒りも沸くと言うものだ。

「おのれ斉藤さいとうめ!」

「視察なされますか?」

「当然だ!」

 60歳を過ぎて薄くなった頭を抱えながら、秘書の質問に語気荒く返す。良いプランがあると持ち掛けて来た部下に任せてみれば、この大惨事である。
 輝明とて後ろ暗い事はそれなりにある。過去に行った談合や賄賂など、それなりに汚い手段にも手を染めて来た。
 だがそれらは全て、会社が傾くほどの大事にはならない。せいぜいちょっとした不祥事程度。会見でそれらしい謝罪をしておけば済む話ばかりだ。

 最もそれは輝明本人の認識に過ぎず、そこそこ大きな問題になり兼ねないものも一部ある。しかしそれでも、今回程の大問題とは違う。
 深刻な魔導犯罪の疑いで強制捜査だ。世間から向けられる目の厳しさが全く違う。万引きとて窃盗と言う犯罪だが、強盗殺人と同罪ではない。
 今回の件はそう言う類の問題だ。このままでは管理責任の問題で、輝明もそれなりの罰を受ける事になるだろう。
 先日の件では、一部の人間を切り捨てて乗り切った。しかし今回は、到底それでは済まされない。

「問題ないと言うから任せればこれだ!」

「こちらが例の件の詳細です」

「……何だこれは!? ワシは聞いてないぞ!?」

 秘書の調べで判明した、隠蔽されていた社内での数々の問題。そして魔導協会から来ている嫌疑についての詳細。
 それら全てが、輝明の想定を遥かに上回っていた。テロリストへの支援に誘致、禁止事項に関する違法な研究。
 全てが事実ならば、もう西山製薬は破滅するしかない。幹部の暴走で許される領域を大きく超えていた。もはや反社会的勢力と判断されても文句は言えない。
 実態を把握しておりませんでした、と幾ら証言した所で世間は信じないだろう。忍び寄る破滅の足音が、輝明に迫りつつあった。

「これのどこが大丈夫だと言うんだ! あの男は!?」

「魔導協会に協力的な姿勢を見せるしかありません」

「クソッ! とにかく視察だ! 行くぞ!」

 西山製薬京都支社にある地下研究施設。そこには当然ながら社長である輝明も入る事が許されている。
 産業スパイ等を警戒する目的で作った機密区画が、まさかの不正な利用目的で使われてしまった。
 そんな事の為に作ったわけではないぞと、輝明は今すぐにでも和真かずまを罵倒したい気持ちで一杯だった。
 ここ数年は和真に任せ切りにしていた事が完全に裏目に出ていた。まさか私物化してこれほど好き放題に使うなど、輝明には予想すら出来なかった。
 利益の為なら少々の悪事であれば輝明も認めるが、こんなものは限度を超えている。決して輝明とて褒められた人間ではないが、それでも人の道を外れる程の悪人ではない。

「斉藤! どこだ! 居るんだろう!」

「おや社長、どうかされましたか?」

「貴様馬鹿にしているのか!? 良くもやってくれたな!」

 地下研究施設に入るなり、輝明は大声で和真を呼び付けた。その横っ面でも殴り倒してやろうと、現れた和真の胸倉を掴み掛かる。
 老いてはいてもまだまだ男性としての腕力はある。勢い良く引き寄せたせいで、ボタンが幾つか千切れて飛んで行く。
 飛んで行ったボタンが床に落ちる音が、数回輝明の耳に届く。その瞬間に、輝明の冷静な部分が異常に気付かせる。
 何人もの研究者が詰めている筈の場所で、ボタンが落ちる音が聞こえる程の静けさが広がっている事に。まるでここには3人しか居ないかの様に人の気配がない。

「他の者はどうした?」

「彼らには実験に協力して貰いました」

「お前は何を言っている? それで何故誰も居なくなる?」

 まさか全員逃げ出したのか、そんな考えが輝明の頭を過る。まだ昼間だが、夜逃げの様に我先に逃げ出したから誰も居ないのかと。
 しかし和真の口振りではそうでは無い様だ。それなら逃げ出したと言えば良いのだから。つまり何らかの実験に参加して、
 それに気が付いた時、輝明の脳裏には最悪の結末が思い浮かぶ。散々問題を起こしている男が、今更理性的な行動に出るだろうかと。
 今すぐにでも逮捕されてもおかしくない様な男が、いつも通りにこやかに笑っている現状の異常さ思い至る。

「お前……まさか……」

「ひぃっ!?」

「どうした!?」

 何かに気付いたらしい秘書の女性が、尻もちをついて座り込む。真っ青な顔でガタガタと震える秘書の視線の先を輝明も追い掛ける。
 研究室に入ってすぐには見えなかった位置。机の陰になっていた床の上には、ミイラの様に痩せこけた研究者が倒れていた。
 どこからどう見ても、生きた人間には見えない。明らかに生気が感じられず、ピクリとも動かない。
 先程の実験と言う何かの結果がこれだと言うなら、それをやったのは目の前の男だと言う事になる。

「お、おい! お前まさか!」

「貴方もそろそろ用済みですね」

「ま、ままま待て! 貴様を拾ってやった恩を忘れ」

 最後まで言い切る事も出来ずに、輝明もまた倒れた研究者の様にミイラの様な姿となって床に倒れ込んだ。
 それを見ていた秘書の女性は悲鳴も上げられずにただ恐怖に染まった目で和真を見ていた。それからもう一体のミイラが出来上がるまで、それ程の時間は掛からなかった。
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