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第1章
第46話 死神様の圧迫面接 後編
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黄泉津大神にとって、神坂清志と言う少年は特別な人間だった。伊耶那美命として、次期神坂家の当主として幼い彼と接して来た。
伊耶那美命と黄泉津大神は、同一の神である。契約した神子の性質によって、どちらの人格が表に出るか決まる。人間で言う所の二重人格に近い。
その当時は当主であった清志の母と契約し、伊耶那美命として活動していた。生命を司る慈愛の神として、まるで我が子であるかの様に清志を見ていた。
それが神坂家襲撃事件により、怒りと憎しみに染まった清志と契約する事になった。死と憎悪の神となって、清志と生活する事になろうと息子同然である事には変わりはない。
「この小娘が!!」
「まだまだぁ!」
歪んだ愛情であっても、愛情には変わりない。黄泉津大神はその性質をもって、清志に接して来た。悪しき者を許したくないと望むなら、戦う術を教えた。
様々な魔術も教えて、その力を鍛えて来た。凶悪な犯罪者に負けない様に、即座に処罰出来る様に。清志が望むだけの力を、与え続けて来た。
黄泉津大神もまた、夫に裏切られた憎しみから死と言う概念を齎した太古の死神。魔導犯罪を憎む清志の心が、自分の事の様に理解出来た。
怒りと憎しみを糧に、清志が成長するのならばそれでも良かった。そんな歪んだ母性が、黄泉津大神と清志の関係性を支えていた。
鍛えた結果、清志は強くなった。悪人を処断する、容赦なき死神と成長した。黄泉津大神はそれで良かった。
これでもう清志が深い悲しみに苦しむ事は無くなる。誰も守れなくて、絶望に染まる事はもうない。そう思っていた。
「お前が! あの子を変えてしまった!」
「だから! 何の話ですか!?」
「殺さなくなった! あの子が!」
せっかく冷酷な死神として完成していたのに。急に出て来た他国の娘が、清志の在り方を変えてしまった。
黄泉津大神としてはいい迷惑だった。生かして捕らえるのは、殺してしまうよりも難しい。その方がリスクも高く、二次被害を生みかねない。
そんな危険な道を選んで、また清志が苦しむ事になったら。それでは何の意味もない。悲しい想いはもう十分にした清志が、また悲しむ様な事態だけは避けたかった。
それは亡き清志の母に代わって、自分が守らねばならない使命だと考えていた。そんな黄泉津大神から見れば、余計な思想を教えたアイナが敵に思えた。
「何も知らない小娘が!」
「なら教えて下さいよ!」
交わらない平行線。アイナを認めたくない黄泉津大神と、事情を話して欲しいアイナ。激しい戦闘を繰り広げながら、言葉を交わす。
片や自分が守らなければならないと、今日まであり続けた母親代わり。そして似た傷を持つからこそ、清志に影響を与えたパートナーの戦い。
黄泉津大神とて分かってはいる。いつか清志は成長し、いずれ変わって行く。いつまでもこのままでは無いし、必ず巣立って行く。
それでもそれが、こんな歪な少女が原因だと言うのは不安だった。これ以上関係が進展すれば、この少女に何かがあれば。その時は必ず清志は心を痛めるのは間違いない。
せめて相手が、同格の神に仕える神子であったなら。それなら余計な心配をする必要なんてない。
だがこの少女は違う、歪な方法で手に入れた歪な力を振るう者。それでは困るのだ、清志のパートナーとして。
「そんな歪な力では、いつかあの子を悲しませる!」
「何でですか!?」
「簡単に死ぬ様な者では、あの子の隣は相応しくない!」
またあの時の様に、周りの人間を失ったら。大切な存在を亡くす様な事になれば。きっと清志の心は大きな傷を負うと、黄泉津大神は知っている。
だから簡単には認められない。これ以上この少女が清志の心に踏み込む事を。先の戦いで不殺を成した清志の変化が、その懸念を裏付ける何よりもの証。
清志は今、アイナの影響で不殺に傾きつつある。その道を選び始めている。それが何よりもの不安材料だった。
本人は自覚していない様であっても、確実にこの少女が清志の心に存在している。その居場所が出来始めている。
「だったら、示せば良いんですね!?」
「出来るものか! 神も従えぬお前が!」
「見せてあげますよ、私の全力!」
もし本当に、神を圧倒する程の力があるのなら。もしそうなら黄泉津大神も多少は、少しぐらいは認めてやらなくもないと考えている。
本体よりも数段劣るとは言え、神である事に変わりはない。もしこの死神である自分を驚かせる程の力がこの少女にあるならば。
それならば多少は考慮してやっても良い。それでもあくまで多少は、考慮しなくもないと言うだけ。
やはりこんな歪な魂を持つ者に、息子同然の清志を任せるのは気に食わない。その意思は結局変わる事はない。神である自分が、寛容な態度を取ってやろうと言うだけだ。
「全炉心全力稼働!」
「お前……何だその力は……」
「覚悟、して下さいねっ!!」
全力のアイナと黄泉津大神のぶつかり合いは、全力を出したアイナの猛攻で決着した。夜中に途轍もない爆音を響かせたので、まあまあな騒ぎになっているかも知れない。
恐らくは後々原因がバレて、アイナは始末書を書かされる事になるだろう。だが今はそんな事よりも戦いの結果が重要だ。
ボロボロになった黄泉津大神と、同じく満身創痍のアイナが仲良く地面に倒れていた。大の字になった美女と美少女は、ボロボロでも案外絵になっていた。
「はぁはぁ……これで、認めて、貰えますよね?」
「………………猶予はやる」
「何ですか、それ? ハッキリ、して下さいよ」
「認めなくもない」
結局ハッキリとした答えではないものの、一応は死神様の面接には合格(?)と言う事らしい。随分と渋い表情から吐き出された、合格認定であった。
伊耶那美命と黄泉津大神は、同一の神である。契約した神子の性質によって、どちらの人格が表に出るか決まる。人間で言う所の二重人格に近い。
その当時は当主であった清志の母と契約し、伊耶那美命として活動していた。生命を司る慈愛の神として、まるで我が子であるかの様に清志を見ていた。
それが神坂家襲撃事件により、怒りと憎しみに染まった清志と契約する事になった。死と憎悪の神となって、清志と生活する事になろうと息子同然である事には変わりはない。
「この小娘が!!」
「まだまだぁ!」
歪んだ愛情であっても、愛情には変わりない。黄泉津大神はその性質をもって、清志に接して来た。悪しき者を許したくないと望むなら、戦う術を教えた。
様々な魔術も教えて、その力を鍛えて来た。凶悪な犯罪者に負けない様に、即座に処罰出来る様に。清志が望むだけの力を、与え続けて来た。
黄泉津大神もまた、夫に裏切られた憎しみから死と言う概念を齎した太古の死神。魔導犯罪を憎む清志の心が、自分の事の様に理解出来た。
怒りと憎しみを糧に、清志が成長するのならばそれでも良かった。そんな歪んだ母性が、黄泉津大神と清志の関係性を支えていた。
鍛えた結果、清志は強くなった。悪人を処断する、容赦なき死神と成長した。黄泉津大神はそれで良かった。
これでもう清志が深い悲しみに苦しむ事は無くなる。誰も守れなくて、絶望に染まる事はもうない。そう思っていた。
「お前が! あの子を変えてしまった!」
「だから! 何の話ですか!?」
「殺さなくなった! あの子が!」
せっかく冷酷な死神として完成していたのに。急に出て来た他国の娘が、清志の在り方を変えてしまった。
黄泉津大神としてはいい迷惑だった。生かして捕らえるのは、殺してしまうよりも難しい。その方がリスクも高く、二次被害を生みかねない。
そんな危険な道を選んで、また清志が苦しむ事になったら。それでは何の意味もない。悲しい想いはもう十分にした清志が、また悲しむ様な事態だけは避けたかった。
それは亡き清志の母に代わって、自分が守らねばならない使命だと考えていた。そんな黄泉津大神から見れば、余計な思想を教えたアイナが敵に思えた。
「何も知らない小娘が!」
「なら教えて下さいよ!」
交わらない平行線。アイナを認めたくない黄泉津大神と、事情を話して欲しいアイナ。激しい戦闘を繰り広げながら、言葉を交わす。
片や自分が守らなければならないと、今日まであり続けた母親代わり。そして似た傷を持つからこそ、清志に影響を与えたパートナーの戦い。
黄泉津大神とて分かってはいる。いつか清志は成長し、いずれ変わって行く。いつまでもこのままでは無いし、必ず巣立って行く。
それでもそれが、こんな歪な少女が原因だと言うのは不安だった。これ以上関係が進展すれば、この少女に何かがあれば。その時は必ず清志は心を痛めるのは間違いない。
せめて相手が、同格の神に仕える神子であったなら。それなら余計な心配をする必要なんてない。
だがこの少女は違う、歪な方法で手に入れた歪な力を振るう者。それでは困るのだ、清志のパートナーとして。
「そんな歪な力では、いつかあの子を悲しませる!」
「何でですか!?」
「簡単に死ぬ様な者では、あの子の隣は相応しくない!」
またあの時の様に、周りの人間を失ったら。大切な存在を亡くす様な事になれば。きっと清志の心は大きな傷を負うと、黄泉津大神は知っている。
だから簡単には認められない。これ以上この少女が清志の心に踏み込む事を。先の戦いで不殺を成した清志の変化が、その懸念を裏付ける何よりもの証。
清志は今、アイナの影響で不殺に傾きつつある。その道を選び始めている。それが何よりもの不安材料だった。
本人は自覚していない様であっても、確実にこの少女が清志の心に存在している。その居場所が出来始めている。
「だったら、示せば良いんですね!?」
「出来るものか! 神も従えぬお前が!」
「見せてあげますよ、私の全力!」
もし本当に、神を圧倒する程の力があるのなら。もしそうなら黄泉津大神も多少は、少しぐらいは認めてやらなくもないと考えている。
本体よりも数段劣るとは言え、神である事に変わりはない。もしこの死神である自分を驚かせる程の力がこの少女にあるならば。
それならば多少は考慮してやっても良い。それでもあくまで多少は、考慮しなくもないと言うだけ。
やはりこんな歪な魂を持つ者に、息子同然の清志を任せるのは気に食わない。その意思は結局変わる事はない。神である自分が、寛容な態度を取ってやろうと言うだけだ。
「全炉心全力稼働!」
「お前……何だその力は……」
「覚悟、して下さいねっ!!」
全力のアイナと黄泉津大神のぶつかり合いは、全力を出したアイナの猛攻で決着した。夜中に途轍もない爆音を響かせたので、まあまあな騒ぎになっているかも知れない。
恐らくは後々原因がバレて、アイナは始末書を書かされる事になるだろう。だが今はそんな事よりも戦いの結果が重要だ。
ボロボロになった黄泉津大神と、同じく満身創痍のアイナが仲良く地面に倒れていた。大の字になった美女と美少女は、ボロボロでも案外絵になっていた。
「はぁはぁ……これで、認めて、貰えますよね?」
「………………猶予はやる」
「何ですか、それ? ハッキリ、して下さいよ」
「認めなくもない」
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