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第1章
第44話 死神様の圧迫面接 前編
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突然の襲撃も対処し、報告も済んだ清志とアイナは一時帰宅していた。襲撃から時間もかなり経過し、日付が変わりつつあった。
2人はまだまだ体力的に余裕があったものの、未成年をこれ以上働かせたくない波多野により強引に帰されてしまった。
少々不完全燃焼気味だった為に、アイナはまだ眠る気になれず自室でストレッチをしていた。執行者と軍人を掛け持ちしているアイナは、純粋な体力だけなら清志よりもある。
それもあってもう少し体を動かしたい気分で居た。そんなアイナの下へと、1人の女神が来訪する。
「お邪魔するわよ」
「あれ? 黄泉津大神様? 清志は?」
「良いから着いて来なさい」
「え、ちょっと」
有無を言わさず歩き出す黄泉津大神の後をアイナが追う。トレーニングウェア姿のまま外出する事になった為に、少々肌の露出が普段より多い。
清志がこの場に居なかったのは幸いだろう。アイナは大して気にしないが、清志の方は目のやり場に困るに違いない。
漆黒の和服に身を包んだ美女と、軽装の美少女が深夜の住宅街を歩く。時間も時間なので、他に歩いている人間は誰も居ない。
静かな街並みを歩く2人に、これと言った会話はない。沈黙に耐えかねたアイナが、黄泉津大神に問い掛ける。
「あの、今からどこへ?」
「静かにしなさい」
「は、はぁ」
何も答えるつもりは無いと言わんばかりの対応だ。アイナは黄泉津大神との接点が少なく、まだ人物像を良く掴めていない。
噂に聞く程度の知識しか持っておらず、そう詳しくはない。元々あまり表に出て来るタイプではないので、公式なデータもかなり少ない。
神話として伝わっている内容に加えて、清志との活躍程度しか殆どの人間は知らないのだ。本来なら醜い姿の筈なのに、何故か美しい姿でいる事など不明な点は多い。
しかし大して仲良くもなれていないのに、そんな失礼な事を女性に聞くなんてアイナには出来ない。
清志から聞いた限りでは、自由奔放で少々陰険な所があると言うだけ。それぐらいしかアイナは良く知らないのだ。
「この辺りで良いでしょう」
「えっと……こんな所で何を?」
住宅街から結構な距離を歩き、人気の無いパチンコ屋の跡地で黄泉津大神は歩みを止めた。こんなだだっ広い何もない所に、夜な夜なやって来て何をしようと言うのか。
その真意を全く理解出来ていないアイナは困惑した。わざわざこんな所まで来たのも意味不明で、こんな行動に出る黄泉津大神の意思も謎のまま。
そもそも碌な説明もないまま、ただ歩かされて来ただけだ。アイナから見れば全てが謎だらけだ。だからこそ、それほど注意をしていなかった。
相手はパートナーが仕える女神様だ、油断するなと言う方が難しい。アイナがつい視線を周囲に向けようとした、その瞬間に大鎌の切っ先がアイナの首元を掠める。
「っ!?」
「腑抜けては居ない様ね」
「どう言うつもりですか!?」
突然斬り掛かられたアイナとしては、文句の一つでも言いたくなる。幾ら自由奔放だと言っても、自身の神子が組んでいるパートナーを斬り殺して良い理由はない。
何より今の一撃は、アイナでなければ確実に首を狩られていた。間違いなくその一太刀には殺意が込められていた。
冗談だと笑って済ませられない明らかな敵対の意思。そんなものを向けられる理由が、アイナには全く思い当たる節がない。せめて理由ぐらいは知りたいと願っても許されるだろう。
「お前のせいで、あの子は変わってしまった」
「あの子って、清志の事ですか?」
「あの子は強くないといけない。弱さを持ってはいけないの」
「意味が分かりませんよ!」
清志の使う死神の大鎌は本来、黄泉津大神の武器である。神子として契約を交わしたから、清志も扱えるだけで元々の持ち主である黄泉津大神も当然扱う事が出来る。
何より、大鎌での戦闘を清志に教えたのは黄泉津大神である。つまりその腕は清志よりも高い水準にある。
現世に出る為にかなり神格を落としていても、その高い戦闘能力は健在だ。清志にも劣らない猛攻がアイナを襲う。
「女神よ、ちょっと待って下さらぬか!」
「精霊風情が口を挟むな!」
「ヘンリー、話は聞いて貰えなさそうよ」
女神の暴挙についヘンリーが口を挟むも、素気なく返されてしまった。普段は清志達の行動にはあまり口を出さない彼であっても、今回ばかりは流石に黙っては居られない。
このままではパートナーが斬り殺されてしまう。孫の様にアイナの面倒を見てきたヘンリーにとっては、たまったものではない。良く分からない理由で死神に魂を狩られては困る。
「お前に清志は守れない」
「何だか分からないけど、力試しって事かしら?」
「歪な魂の小娘よ、ここで死んで貰う」
「上等、やってやるわ!」
これまで一度も見せて来なかった、アイナの本気モード。彼女がSランクになれた、そのカラクリが動き始める。
公式記録にも載せられていない、アイナの秘密と禁呪の果てに得た物。命懸けで手に入れたその力が、初めて日本の大地で全力使用される。
異色の錬金術師アイナ・クラーク・三島と、太古から存在する死の神、黄泉津大神の戦いが始まった。
2人はまだまだ体力的に余裕があったものの、未成年をこれ以上働かせたくない波多野により強引に帰されてしまった。
少々不完全燃焼気味だった為に、アイナはまだ眠る気になれず自室でストレッチをしていた。執行者と軍人を掛け持ちしているアイナは、純粋な体力だけなら清志よりもある。
それもあってもう少し体を動かしたい気分で居た。そんなアイナの下へと、1人の女神が来訪する。
「お邪魔するわよ」
「あれ? 黄泉津大神様? 清志は?」
「良いから着いて来なさい」
「え、ちょっと」
有無を言わさず歩き出す黄泉津大神の後をアイナが追う。トレーニングウェア姿のまま外出する事になった為に、少々肌の露出が普段より多い。
清志がこの場に居なかったのは幸いだろう。アイナは大して気にしないが、清志の方は目のやり場に困るに違いない。
漆黒の和服に身を包んだ美女と、軽装の美少女が深夜の住宅街を歩く。時間も時間なので、他に歩いている人間は誰も居ない。
静かな街並みを歩く2人に、これと言った会話はない。沈黙に耐えかねたアイナが、黄泉津大神に問い掛ける。
「あの、今からどこへ?」
「静かにしなさい」
「は、はぁ」
何も答えるつもりは無いと言わんばかりの対応だ。アイナは黄泉津大神との接点が少なく、まだ人物像を良く掴めていない。
噂に聞く程度の知識しか持っておらず、そう詳しくはない。元々あまり表に出て来るタイプではないので、公式なデータもかなり少ない。
神話として伝わっている内容に加えて、清志との活躍程度しか殆どの人間は知らないのだ。本来なら醜い姿の筈なのに、何故か美しい姿でいる事など不明な点は多い。
しかし大して仲良くもなれていないのに、そんな失礼な事を女性に聞くなんてアイナには出来ない。
清志から聞いた限りでは、自由奔放で少々陰険な所があると言うだけ。それぐらいしかアイナは良く知らないのだ。
「この辺りで良いでしょう」
「えっと……こんな所で何を?」
住宅街から結構な距離を歩き、人気の無いパチンコ屋の跡地で黄泉津大神は歩みを止めた。こんなだだっ広い何もない所に、夜な夜なやって来て何をしようと言うのか。
その真意を全く理解出来ていないアイナは困惑した。わざわざこんな所まで来たのも意味不明で、こんな行動に出る黄泉津大神の意思も謎のまま。
そもそも碌な説明もないまま、ただ歩かされて来ただけだ。アイナから見れば全てが謎だらけだ。だからこそ、それほど注意をしていなかった。
相手はパートナーが仕える女神様だ、油断するなと言う方が難しい。アイナがつい視線を周囲に向けようとした、その瞬間に大鎌の切っ先がアイナの首元を掠める。
「っ!?」
「腑抜けては居ない様ね」
「どう言うつもりですか!?」
突然斬り掛かられたアイナとしては、文句の一つでも言いたくなる。幾ら自由奔放だと言っても、自身の神子が組んでいるパートナーを斬り殺して良い理由はない。
何より今の一撃は、アイナでなければ確実に首を狩られていた。間違いなくその一太刀には殺意が込められていた。
冗談だと笑って済ませられない明らかな敵対の意思。そんなものを向けられる理由が、アイナには全く思い当たる節がない。せめて理由ぐらいは知りたいと願っても許されるだろう。
「お前のせいで、あの子は変わってしまった」
「あの子って、清志の事ですか?」
「あの子は強くないといけない。弱さを持ってはいけないの」
「意味が分かりませんよ!」
清志の使う死神の大鎌は本来、黄泉津大神の武器である。神子として契約を交わしたから、清志も扱えるだけで元々の持ち主である黄泉津大神も当然扱う事が出来る。
何より、大鎌での戦闘を清志に教えたのは黄泉津大神である。つまりその腕は清志よりも高い水準にある。
現世に出る為にかなり神格を落としていても、その高い戦闘能力は健在だ。清志にも劣らない猛攻がアイナを襲う。
「女神よ、ちょっと待って下さらぬか!」
「精霊風情が口を挟むな!」
「ヘンリー、話は聞いて貰えなさそうよ」
女神の暴挙についヘンリーが口を挟むも、素気なく返されてしまった。普段は清志達の行動にはあまり口を出さない彼であっても、今回ばかりは流石に黙っては居られない。
このままではパートナーが斬り殺されてしまう。孫の様にアイナの面倒を見てきたヘンリーにとっては、たまったものではない。良く分からない理由で死神に魂を狩られては困る。
「お前に清志は守れない」
「何だか分からないけど、力試しって事かしら?」
「歪な魂の小娘よ、ここで死んで貰う」
「上等、やってやるわ!」
これまで一度も見せて来なかった、アイナの本気モード。彼女がSランクになれた、そのカラクリが動き始める。
公式記録にも載せられていない、アイナの秘密と禁呪の果てに得た物。命懸けで手に入れたその力が、初めて日本の大地で全力使用される。
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