死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第43話 事後処理と波多野の願い

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「いやホンマ助かったわ2人共!」

「いえ、俺は別に。たまたまですから」

「ちょっと苦戦した程度よね」

 中東解放戦線のナンバー2とナンバー3を生きたまま確保した事で、魔導協会には大きなメリットが生まれていた。
 先ずは記憶を読み取る魔術で、これまで犯人不明だったテロ事件の解明などに役立つ事。そして何より国際指名手配犯を確保出来た事実は大きい。
 これまでに判明している、中東解放戦線が関与したと思われる数々のテロ事件の精算が可能となった。
 被害者遺族はもちろん喜ぶだろうし、京都支部の株は更に上がる。誰も損しない最高の結果と言えるだろう。ただし問題は残っている。

「報告にあった回復やけど、気になるなぁ」

「あれはアイナが加護じゃないかと判断しています。俺も同意見です」

「一番可能性が高いと思うわ」

 もしあの回復能力を、末端のテロリスト全員が使えるとしたら。自爆しても本人が死なない自爆テロと言う、最悪のテロ事件が起こせてしまう。
 本来自爆テロには、犯人もそれで死ぬと言うデメリットがある。人材は有限なのが欠点と言えた。それが実質無限になるのであれば、由々しき事態であると言える。
 もしも何度も自爆テロを起こせるテロリストがあちこちに蔓延れば、世界中が滅茶苦茶にされてしまう。
 民間人に多数の死傷者が出るのは間違いないし、各国の指導者にも危険が迫る。テロリストが所持してはならない能力だ。

「本部にも報告は回したけど、大元を叩かんと洒落にならんで」

「あんな回復効果、見た事ありませんよ?」

「精霊辺りに候補は居ないのかしら?」

「探させているんやけどなぁ、今の所は該当する存在は全て確認済みなんや」

 痛みは無効化出来ず気絶はさせられる、しかし回復力だけは強力。そんな極端な回復効果を与える加護となると、与えられる候補は絞られる。
 だからすぐに力の出所が判明すると思われたが、該当する低位の神や精霊は全て無事が確認されていた。
 つまりそれらを誘拐して不当に加護を得たのではない。そうなると必然的に、未発見の何かしらの存在と言う事になる。

「新たに……作った、のか?」

「この間のアレね?」

「君等もそう思うか」

 先日の監査で清志せいじとアイナが西山製薬で発見した、神を降ろす研究と実験。そして恐らくは、新たに神を造ろうとしている疑惑。
 ここに来て分かり易い答えが、提示されたと言って良いだろう。最早犯人が自ら名乗り出て来た様なものだ。
 これで無関係を主張出来る程に、西山製薬には正当性がない。これだけ疑惑に塗れていたのだから、当然疑いが掛かる。
 まだ状況証拠に過ぎないが、これはもう多少強行でも捜査をすべき事態であった。このまま厄介なテロリスト達を世に放たれる前に手を打たねばならない。

「近日中には監査から強制捜査に変えるわ」

「急いで下さいよ」

「余計な犠牲は出したくないものね」

「分かってるて。ただちょっとだけ待ってな。手続きとか色々あるんや」

 現行犯でも明らかな証拠が出た訳でもない。確保した2人の記憶を確認するにしても、それなりの時間が掛かる。
 人間の記憶とは膨大な情報量になる。ちょっとそこだけ見せてね、なんて事は残念ながら出来ない。複数の魔術師で、情報を精査しながらその膨大な量を確認するのだ。
 各所への申請諸々を行うのと、記憶情報の確認が終了するのとどちらが先かと言った所だ。最短でも2~3日は手続きだけでも掛かるだろう。
 速度を優先するならば、記憶の確認を待たずに状況証拠だけで強制捜査に入るのが最速となる。
 魔導協会と言う巨大な組織だけに、色々と面倒な制約もあるのだ。ポンと簡単にここは怪しいと、アレコレ捜査出来たりはしないのが実情だ。

「せやけど、何で今になってこんな事したんやろな?」

「……確かに変ですね。不利にしかならない」

「よほどの自信がある、と言う事かしら?」

 現在の状況下で、西山製薬と中東解放戦線が尻尾を出す理由がない。むしろ出来るだけ隠さねばならない筈だ。
 こんな風に、魔導協会や警察に証拠を提出する様なものだ。しかも襲わせる相手がSランク魔術師と来た。どう考えても不自然だ。
 確かに2人は苦戦こそしたものの、こうして勝利している。通常の魔術師ならば、初見殺しぐらいは出来ただろう。
 そこを敢えてSランク2人に相手をさせた。それに何か理由があると考えるのは、そこまでおかしな事ではないだろう。

「何があるか分からん、用心した方がエエかもね」

「巡回なら、俺達も手伝います」

「ええ、何かあってからじゃ遅いわ」

「せやけどなぁ、君らは学生やし」

 幾ら実績があろうとも、未成年である事に違いはない。波多野はたのとしては、あまり酷使はしたくないのが本音だ。
 こんな血なまぐさい話よりも、楽しい学校生活を過ごして欲しい。1人の大人としては、どうしてもそれを考えてしまう。
 2人の事情を波多野は把握している。なぜ魔導犯罪を嫌うのか、なぜ執行者になったのか。その暗い過去を知るからこそ、出来るだけ幸せに生きて欲しい。
 しかし重要な戦力なのも間違いはなく、2人を使う方が被害は少なくなる。大人としての判断と、支部長としての判断の間で揺れる波多野の心。

「……はぁ、分かった。昼間だけやで」

「ありがとうございます!」

「シフト決めたら送るから、それまではちゃんと休んでや」

 結局は2人の熱意と、支部長としての判断から妥協する事となった。こんな風に未成年を働かせなくても良い日が来て欲しい。そんな未来を切実に願う波多野であった。
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