43 / 95
第1章
第43話 事後処理と波多野の願い
しおりを挟む
「いやホンマ助かったわ2人共!」
「いえ、俺は別に。たまたまですから」
「ちょっと苦戦した程度よね」
中東解放戦線のナンバー2とナンバー3を生きたまま確保した事で、魔導協会には大きなメリットが生まれていた。
先ずは記憶を読み取る魔術で、これまで犯人不明だったテロ事件の解明などに役立つ事。そして何より国際指名手配犯を確保出来た事実は大きい。
これまでに判明している、中東解放戦線が関与したと思われる数々のテロ事件の精算が可能となった。
被害者遺族はもちろん喜ぶだろうし、京都支部の株は更に上がる。誰も損しない最高の結果と言えるだろう。ただし問題は残っている。
「報告にあった回復やけど、気になるなぁ」
「あれはアイナが加護じゃないかと判断しています。俺も同意見です」
「一番可能性が高いと思うわ」
もしあの回復能力を、末端のテロリスト全員が使えるとしたら。自爆しても本人が死なない自爆テロと言う、最悪のテロ事件が起こせてしまう。
本来自爆テロには、犯人もそれで死ぬと言うデメリットがある。人材は有限なのが欠点と言えた。それが実質無限になるのであれば、由々しき事態であると言える。
もしも何度も自爆テロを起こせるテロリストがあちこちに蔓延れば、世界中が滅茶苦茶にされてしまう。
民間人に多数の死傷者が出るのは間違いないし、各国の指導者にも危険が迫る。テロリストが所持してはならない能力だ。
「本部にも報告は回したけど、大元を叩かんと洒落にならんで」
「あんな回復効果、見た事ありませんよ?」
「精霊辺りに候補は居ないのかしら?」
「探させているんやけどなぁ、今の所は該当する存在は全て確認済みなんや」
痛みは無効化出来ず気絶はさせられる、しかし回復力だけは強力。そんな極端な回復効果を与える加護となると、与えられる候補は絞られる。
だからすぐに力の出所が判明すると思われたが、該当する低位の神や精霊は全て無事が確認されていた。
つまりそれらを誘拐して不当に加護を得たのではない。そうなると必然的に、未発見の何かしらの存在と言う事になる。
「新たに……作った、のか?」
「この間のアレね?」
「君等もそう思うか」
先日の監査で清志とアイナが西山製薬で発見した、神を降ろす研究と実験。そして恐らくは、新たに神を造ろうとしている疑惑。
ここに来て分かり易い答えが、提示されたと言って良いだろう。最早犯人が自ら名乗り出て来た様なものだ。
これで無関係を主張出来る程に、西山製薬には正当性がない。これだけ疑惑に塗れていたのだから、当然疑いが掛かる。
まだ状況証拠に過ぎないが、これはもう多少強行でも捜査をすべき事態であった。このまま厄介なテロリスト達を世に放たれる前に手を打たねばならない。
「近日中には監査から強制捜査に変えるわ」
「急いで下さいよ」
「余計な犠牲は出したくないものね」
「分かってるて。ただちょっとだけ待ってな。手続きとか色々あるんや」
現行犯でも明らかな証拠が出た訳でもない。確保した2人の記憶を確認するにしても、それなりの時間が掛かる。
人間の記憶とは膨大な情報量になる。ちょっとそこだけ見せてね、なんて事は残念ながら出来ない。複数の魔術師で、情報を精査しながらその膨大な量を確認するのだ。
各所への申請諸々を行うのと、記憶情報の確認が終了するのとどちらが先かと言った所だ。最短でも2~3日は手続きだけでも掛かるだろう。
速度を優先するならば、記憶の確認を待たずに状況証拠だけで強制捜査に入るのが最速となる。
魔導協会と言う巨大な組織だけに、色々と面倒な制約もあるのだ。ポンと簡単にここは怪しいと、アレコレ捜査出来たりはしないのが実情だ。
「せやけど、何で今になってこんな事したんやろな?」
「……確かに変ですね。不利にしかならない」
「よほどの自信がある、と言う事かしら?」
現在の状況下で、西山製薬と中東解放戦線が尻尾を出す理由がない。むしろ出来るだけ隠さねばならない筈だ。
こんな風に、魔導協会や警察に証拠を提出する様なものだ。しかも襲わせる相手がSランク魔術師と来た。どう考えても不自然だ。
確かに2人は苦戦こそしたものの、こうして勝利している。通常の魔術師ならば、初見殺しぐらいは出来ただろう。
そこを敢えてSランク2人に相手をさせた。それに何か理由があると考えるのは、そこまでおかしな事ではないだろう。
「何があるか分からん、用心した方がエエかもね」
「巡回なら、俺達も手伝います」
「ええ、何かあってからじゃ遅いわ」
「せやけどなぁ、君らは学生やし」
幾ら実績があろうとも、未成年である事に違いはない。波多野としては、あまり酷使はしたくないのが本音だ。
こんな血なまぐさい話よりも、楽しい学校生活を過ごして欲しい。1人の大人としては、どうしてもそれを考えてしまう。
2人の事情を波多野は把握している。なぜ魔導犯罪を嫌うのか、なぜ執行者になったのか。その暗い過去を知るからこそ、出来るだけ幸せに生きて欲しい。
しかし重要な戦力なのも間違いはなく、2人を使う方が被害は少なくなる。大人としての判断と、支部長としての判断の間で揺れる波多野の心。
「……はぁ、分かった。昼間だけやで」
「ありがとうございます!」
「シフト決めたら送るから、それまではちゃんと休んでや」
結局は2人の熱意と、支部長としての判断から妥協する事となった。こんな風に未成年を働かせなくても良い日が来て欲しい。そんな未来を切実に願う波多野であった。
「いえ、俺は別に。たまたまですから」
「ちょっと苦戦した程度よね」
中東解放戦線のナンバー2とナンバー3を生きたまま確保した事で、魔導協会には大きなメリットが生まれていた。
先ずは記憶を読み取る魔術で、これまで犯人不明だったテロ事件の解明などに役立つ事。そして何より国際指名手配犯を確保出来た事実は大きい。
これまでに判明している、中東解放戦線が関与したと思われる数々のテロ事件の精算が可能となった。
被害者遺族はもちろん喜ぶだろうし、京都支部の株は更に上がる。誰も損しない最高の結果と言えるだろう。ただし問題は残っている。
「報告にあった回復やけど、気になるなぁ」
「あれはアイナが加護じゃないかと判断しています。俺も同意見です」
「一番可能性が高いと思うわ」
もしあの回復能力を、末端のテロリスト全員が使えるとしたら。自爆しても本人が死なない自爆テロと言う、最悪のテロ事件が起こせてしまう。
本来自爆テロには、犯人もそれで死ぬと言うデメリットがある。人材は有限なのが欠点と言えた。それが実質無限になるのであれば、由々しき事態であると言える。
もしも何度も自爆テロを起こせるテロリストがあちこちに蔓延れば、世界中が滅茶苦茶にされてしまう。
民間人に多数の死傷者が出るのは間違いないし、各国の指導者にも危険が迫る。テロリストが所持してはならない能力だ。
「本部にも報告は回したけど、大元を叩かんと洒落にならんで」
「あんな回復効果、見た事ありませんよ?」
「精霊辺りに候補は居ないのかしら?」
「探させているんやけどなぁ、今の所は該当する存在は全て確認済みなんや」
痛みは無効化出来ず気絶はさせられる、しかし回復力だけは強力。そんな極端な回復効果を与える加護となると、与えられる候補は絞られる。
だからすぐに力の出所が判明すると思われたが、該当する低位の神や精霊は全て無事が確認されていた。
つまりそれらを誘拐して不当に加護を得たのではない。そうなると必然的に、未発見の何かしらの存在と言う事になる。
「新たに……作った、のか?」
「この間のアレね?」
「君等もそう思うか」
先日の監査で清志とアイナが西山製薬で発見した、神を降ろす研究と実験。そして恐らくは、新たに神を造ろうとしている疑惑。
ここに来て分かり易い答えが、提示されたと言って良いだろう。最早犯人が自ら名乗り出て来た様なものだ。
これで無関係を主張出来る程に、西山製薬には正当性がない。これだけ疑惑に塗れていたのだから、当然疑いが掛かる。
まだ状況証拠に過ぎないが、これはもう多少強行でも捜査をすべき事態であった。このまま厄介なテロリスト達を世に放たれる前に手を打たねばならない。
「近日中には監査から強制捜査に変えるわ」
「急いで下さいよ」
「余計な犠牲は出したくないものね」
「分かってるて。ただちょっとだけ待ってな。手続きとか色々あるんや」
現行犯でも明らかな証拠が出た訳でもない。確保した2人の記憶を確認するにしても、それなりの時間が掛かる。
人間の記憶とは膨大な情報量になる。ちょっとそこだけ見せてね、なんて事は残念ながら出来ない。複数の魔術師で、情報を精査しながらその膨大な量を確認するのだ。
各所への申請諸々を行うのと、記憶情報の確認が終了するのとどちらが先かと言った所だ。最短でも2~3日は手続きだけでも掛かるだろう。
速度を優先するならば、記憶の確認を待たずに状況証拠だけで強制捜査に入るのが最速となる。
魔導協会と言う巨大な組織だけに、色々と面倒な制約もあるのだ。ポンと簡単にここは怪しいと、アレコレ捜査出来たりはしないのが実情だ。
「せやけど、何で今になってこんな事したんやろな?」
「……確かに変ですね。不利にしかならない」
「よほどの自信がある、と言う事かしら?」
現在の状況下で、西山製薬と中東解放戦線が尻尾を出す理由がない。むしろ出来るだけ隠さねばならない筈だ。
こんな風に、魔導協会や警察に証拠を提出する様なものだ。しかも襲わせる相手がSランク魔術師と来た。どう考えても不自然だ。
確かに2人は苦戦こそしたものの、こうして勝利している。通常の魔術師ならば、初見殺しぐらいは出来ただろう。
そこを敢えてSランク2人に相手をさせた。それに何か理由があると考えるのは、そこまでおかしな事ではないだろう。
「何があるか分からん、用心した方がエエかもね」
「巡回なら、俺達も手伝います」
「ええ、何かあってからじゃ遅いわ」
「せやけどなぁ、君らは学生やし」
幾ら実績があろうとも、未成年である事に違いはない。波多野としては、あまり酷使はしたくないのが本音だ。
こんな血なまぐさい話よりも、楽しい学校生活を過ごして欲しい。1人の大人としては、どうしてもそれを考えてしまう。
2人の事情を波多野は把握している。なぜ魔導犯罪を嫌うのか、なぜ執行者になったのか。その暗い過去を知るからこそ、出来るだけ幸せに生きて欲しい。
しかし重要な戦力なのも間違いはなく、2人を使う方が被害は少なくなる。大人としての判断と、支部長としての判断の間で揺れる波多野の心。
「……はぁ、分かった。昼間だけやで」
「ありがとうございます!」
「シフト決めたら送るから、それまではちゃんと休んでや」
結局は2人の熱意と、支部長としての判断から妥協する事となった。こんな風に未成年を働かせなくても良い日が来て欲しい。そんな未来を切実に願う波多野であった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。


のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ピボット高校アーカイ部
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
デジタル職人の祖父と暮らしている僕(田中鋲)は二つ受けた入試に落ちて、祖父が、なんとか探してくれたピボット高校に入ることになる。
ちょっとレベルの高い私学で、ついて行けるか心配。
入学にあたっては一つだけ条件があった。
『アーカイ部』に入部すること。
アーカイ部には、旧制服を着た部長の真中螺子(まなからこ)がいるだけだった。
ロングヘア―のよく似合う美人なんだけど、ちょっと怪しい……。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。
やまいし
ファンタジー
気が付くと、男性の数が著しく少ない歪な世界へ転生してしまう。
彼は持ち前の容姿と才能を使って、やりたいことをやっていく。
彼は何を志し、どんなことを成していくのか。
これはそんな彼――鳴瀬隼人(なるせはやと)の青春サクセスストーリー……withハーレム。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる