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第1章

第42話 神の加護

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 清志せいじが苦戦している頃、アイナの方も中々に手を焼かされていた。アイナの前に居るのは中東解放戦線のナンバー2、アフマド・チャンドラと言う炎使いだった。
 これが中々の手練れであり、通常の弾丸程度だと命中する前に炎で溶かされてしまう。弾丸を瞬時に融解させるレベルの温度を、こうして保ち続けられる炎使いはそう多くない。
 普通なら溶ける前に炎の壁を突破してしまう。それ故にアイナの様なタイプにとっては、少々やり難い相手だった。
 しかしそれはアフマドにとっても同じ事が言える。飛ばす炎を尽く掻き消すアイナの魔力弾に、対抗策を見出だせず攻め切れずにいた。

「何なの貴方? 頭を撃ち抜いても回復するなんて」

「これぞ選ばれし者の力、神の祝福だ!」

「ふーん、祝福ねぇ……」

 攻め手は両者とも決め手に欠けているが、アフマドには超人的な回復力がある。そこは清志とカミルの戦いと同じく、体力と言う問題が横たわっている。
 アイナは海軍の一員として鍛えられているので、長時間に渡る戦闘も対応可能だ。しかしそれでも、肺や心臓が機械で出来ている訳では無いのだ。
 血中酸素濃度が低下すれば、当然パフォーマンスは低下していく。避けられないリミットがある中で、この状況を打開する必要があった。

 ただ清志と違う点は、アイナの魔力弾にあった。超回復そのものを打ち消せなくても、強力な阻害効果は健在だ。
 当たれば相手の魔術を阻害出来る強みは残っている。おまけに阻害効果があるだけで、実際にはただの呪いでしかない。
 その正体を知らないアフマドは、見当違いな対策ばかりを行い失敗を続けている。本来は余裕を持てる筈のアフマドも、内心ではかなり焦りを感じていた。撃ち合いを続けている内に、確実にアフマドは魔力量を減らして行く。

「ええい! 小癪な阻害魔術を使いおって!」

「それ効くでしょー? 特別製だからね」

「厄介な小娘だな!」

 互いに決め手に欠ける戦いであったが、アイナは徐々にカラクリに気付き始めていた。先程の神の祝福と言う発言が、とある可能性を示唆していた。
 神から得られるモノには、複数の種類がある。例えば神に授けられた武具は神器と呼ぶ。神の神子は、最上級の待遇である事を指す。
 神からのお告げなら神託だ。その中の一つに、加護と呼ばれる特殊な効果がある。それは神が持つ特性の一部を、加護を与えられた存在に持たせると言う効果だ。
 例えば美の女神アフロディーテの加護ならば、肌が美しくなると言った効果だ。神がどの程度の加護を与えるかによって、効果の内容は変化するが基本は変わらない。
 効能の大小はあれど、主軸となる効果は決まっている。全く関係のない効果は発現しないし、神本人を超える効果は得られない。

「そこっ!」

「ぐぁっ!?」

「やっぱり、痛みまでは無効に出来ていないわね」

 アイナお得意の強烈な蹴りが、アフマドの腹を捉えた。彼女の見立て通り、痛みをちゃんと感じるらしい。
 その点を踏まえた上でアイナは予測を立てる。超回復能を与える加護は幾つかある。例えば生命の神である伊耶那美命。
 彼女の加護ならば、似たような効果を得られるだろう。だが現在は黄泉津大神として存在している為、先ず間違いなくかの女神ではない。

 そして生命に関係する神達の中で、テロリストに加担する存在は先ず居ない。そこから考えられるとすれば、無断で加護を得る様な違法行為を使っている可能性。
 又は似たような加護を与えられる精霊等を捕獲、酷使している可能性などが候補として考えられる。
 アイナの知る限りでは、苦痛を無効に出来ない半端な効果となると答えは限られる。低位の神か精霊の類に与えられた加護とアイナは判断した。

「そろそろ決めさせて貰うわ」

「馬鹿を言うな! 神の祝福の前では貴様の様な小娘など!」

「チンケな神の加護で喜んでいる様じゃ三流よ」

「貴様! 神を愚弄するか!」

 アイナの挑発に触発されて、アフマドの攻撃は苛烈さを増す。戦場となった広い駐車場は、今やあちこちが焼け焦げていた。
 フェンスは溶け落ち、運悪く停まっていた車両は黒焦げだ。住宅地への被害は全く無かったが、暫くこの駐車場は閉鎖されるだろう。
 複数台の黒焦げた車両、アイナの放った弾丸で割れてしまった車輪止め。戦争でもしたのかと言わんばかりの惨状と化している。
 明日の朝から車通勤の人が居た場合は、御愁傷様としか言えない。魔導協会からの補填は出るし、保険も降りるだろう。しかし明日遅刻するのは確定である。

「神の祝福とやらがあっても、魔術はショボいままね」

「おのれ、まだ侮辱するか異教徒め!!」

「だったら凄いって、証明してみなさいよ」

 怒りに身を震わせたアフマドは、自身が使える最大級の魔術を行使する。吹き荒れる炎の濁流が、アイナへと殺到する。
 しかしアイナの魔力について何も知らないアフマドの魔術では、彼女の髪の毛一本すら焦がす事は出来ない。
 魔力を纏わせた装甲板が壁となり、炎の濁流からアイナを守る。自身の放った魔術のせいで、前方を確認する事が出来ないアフマドをアイナが強襲する。

「なにぃ!?」

「これ、痛いわよ」

「ごはっ!?」

 アイナが新たに取り出していたショットガンから、大量の暴徒鎮圧用特殊弾が発射された。至近距離で直撃を貰ったアフマドは、衝撃で意識を失った。
 加護のデメリットは、与えられた側に意識が無いと発現しない事だ。寝ている時や気絶している場合は、その効果が能力を発揮する事はない。
 痛みまでは無効化出来ない今回の加護の、明確な弱点がそこだった。アイナがアフマドを確保して数分後、同じ様な方法で清志も襲撃犯を確保したと連絡が入った。
 少々厄介ではあったが、中東解放戦線のナンバー2とナンバー3を確保と言う最高の形で決着が着いたのだった。
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