死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第40話 国による違い

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 西山製薬への追い込みが進む中で、清志せいじとアイナは一旦普通の生活に戻っていた。一仕事した後だと言うのもあるけれど、今の所やれる事が無いのもある。
 戦闘行為が発生しないのであれば、2人を使う意味は薄い。それに先日の監査で紛れ込ませる作戦を使ったばかりだ。
 また同じ事をして通用する程、相手も馬鹿ではない。それほど無能であったのなら、とっくに決着がついている。
 そうではないから長引いているのであり、ここから先は情報部の仕事となる。今度は西山製薬全体に対する監査が始まる。
 包み隠さず全てを明らかにさせる方向で話が進むだろう。そこまで行けば、Sランク戦闘員の出番は無い。あるとするならば、匿っているテロリストの捕縛ぐらいか。

「なんか、一気に暇になったわね」

「良いことじゃないか。俺達が暇ならさ」

「それはそうだけどさ」

 特に動きが無い事にアイナは若干の手持ち無沙汰に感じていた。元々は軍人でもあるから、何もしないのが落ち着かないらしい。
 抑えるべき相手はもう分かっているのだから、狙撃任務でも受けて待機していた方が性に合うのだろう。
 対して清志は落ち着いていた。確かに清志の言う様に、執行者が暇と言うのはイコール凶悪犯罪が起きていないと言う事。
 彼の言い分も最もだろう。その辺りはこれまでやって来たスタイルの違いが出ている。

「日本って、手順だとかややこしいわね」

「アメリカは違うのか?」

「アメリカだったら、今頃突入作戦になっているわ」

 魔導協会は一つの組織ではあるが、国による違いが結構な影響を受ける。例えばアメリカの場合は、FBIや軍との連携が強い。
 その為に方針もそれらと近い行動規範となっている。日本の場合は、警察や自衛隊になるので対応はそちら寄りになる。
 もちろんどの国であっても、一番重視すべきは魔導協会のルールだ。とは言えそれも建前と言ってしまえばそれまで。
 魔導協会の掟やルールに反しないのであれば、その範疇でなら自由に活動出来る。逆に所属する国の政府と癒着などは明確に禁止されている。
 しかしこの様に、行動規範に多少の影響が出る程度なら問題にはならない。

「流石と言うか、過激だな」

「そう? 日本がルールに拘り過ぎな気がするけどね」

「……まあ、それはそうかもな」

 魔導協会の中でも、日本の支部はかなりルールに厳しい。魔導協会の介入を嫌う反対派などが居る事も手伝い、先進国の中でも一番慎重で丁寧な対応をしている。
 それもあってか、各支部長の精神的負担はかなり大きいのも有名な話だ。とにかく神経をつかう為、支部長になれる地位まで来てもやりたがらない魔術師も多い。
 各省庁とのやり取りに、警察や自衛隊とのやり取り。決められた厳密なルールにしたがって、書類等の精査と提出。
 魔術師なのか企業戦士なのか分からないとは、良く言われている。そんな状況を物ともせずにバリバリ働いている京都支部の波多野はたのが少々変わり者なだけで、大体の支部長はくたびれた中間管理職の様な状態となっている。

「もっと自由で良いのに」

「そりゃね、アメリカから見たらね」

「日本だって自由の国じゃない。気楽にやれば良いのに」

「多分、皆そうしたいとは思うよ」

 まだ学生とは言え、執行者と言う形で大人の仕事の仲間入りを果たしている。そんか清志は、色々と面倒な手続き諸々を多少なりとも知っている。
 実際にその面倒な手続きをした事もあるし、邪魔臭いから良いやと無視した結果の後始末も経験している。
 異常なまでにルールに拘る日本特有のやり方には、清志もそれなりに嫌気が差していた。しかし守らねば困るのも自分。
 そして同じ事を考える人達が同じ事をして。そうやって脱出も出来ない雁字搦めに陥っているのだ。誰かが辞めようと言ってくれと、声にならない声を内心で叫びながら。

「大体、日本に来た以上はアイナも守れよ」

「えぇ~~~私面倒なの嫌いなのに」

「始末書、書きたくなければ手続きは怠るなよ」

 かつての自分の経験から出た、清志なりのアドバイスだった。とにかく先ず申請、手続きをして許可を得る。
 それからの行動でないと後々待っているのは、関係各所に宛てた始末書である。特にSランク魔術師は、その力の強大さ故に無許可でやらかした時の始末書は量が多いと来ている。
 どれだけ面倒であったとしても、やる事はやらないといけないのだ。学生の会話としては、少々ジジ臭い内容ではあるものの、これが現実なのだから仕方ない。
 若い男女の下校風景としてはあまりにも色気に欠けている会話が続いて行く。

「始末書って、企業じゃないんだからさぁ」

「日本は書くの。諦めてくれ」

「はぁ、面倒……清志!」

「誰だ! そこに居るのは分かっているぞ!」

 先程までの会話とは打って変わって緊張感が一気に膨れ上がる。何者かの気配を感じ取った2人が警戒心を向ける先。
 アパートの屋上には、2人の中東系の男性が立っていた。中東系の民族衣装に身を包んだ2人からは、明らかに剣呑な空気感が発せられていた。それを感じ取った清志とアイナは、より警戒心を高めて行く。

「狙いは私達らしいわね」

「こんな住宅街のど真ん中じゃ戦えない、散るぞ!」

「分かったわ!」

 一気に駆け出した清志とアイナそれぞれに、1人の男が着いて行く。夕暮れ時の市街戦が、始まろうとしていた。
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