死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

文字の大きさ
上 下
39 / 96
第1章

第39話 死なない兵士

しおりを挟む
 西山製薬の研究室で、二人の男が会話していた。一人は今回暗躍していた男、斎藤和真さいとうかずま。40代半ばの少し背の高い眼鏡の中年男性だ。
 そしてもう一人は、中東解放戦線の現指導者であるラシード・ハーン。斎藤と変わらない年齢の大男だった。
 清志やアイナが見た男が、正にこのラシードだった。清志せいじ達が感じた直感的な印象は何も間違っていない。
 一時期はイランで軍人をしていた経験を持つ、実戦経験が豊富なAランク魔術師だった。

「カズマ、どうするつもりだ? そろそろ誤魔化し切れないぞ」

「大丈夫ですよ。実験は既に成功していますから」

「だが、魔導協会に目を付けられている」

「そんなもの、計画が成功してしまえば何とでもなりますよ」

 清志とアイナの潜入により、西山製薬は現在厳しい立場にあった。明らかに目を付けられており、抗議文が早速到着している。
 魔導協会の動きは早く、色々な所から根回しもされている。警察も連携して外堀を埋めつつあった。
 公安部により、既にあちこちの空港がマークされている。下手に中東解放戦線のメンバーを国外に逃がそうとすれば厄介な事になるのは明白だった。
 最早逃げ道は残されていない、だと言うのに斎藤は余裕の表情を崩さない。何も問題はないと、ビジネススマイルを浮かべている。

「先駆者とは、いつの時代も敬遠されます。新しい時代を作る人間には障害が付き物」

「お前は違うと?」

「ええ、私はそこらの無能とは違う。結果を持って、全てを黙らせましょう」

「随分な自信だが、次はどうする?」

 現実問題として、このままではそう遠くない未来に踏み込まれてしまうだろう。何らかの理由で令状を作り公安がガサ入れに入るか、魔導協会が神の証言を元に強制介入を始めるか。
 何かしらの形で干渉して来るのは確実だ。特に黄泉津大神に見抜かれたのは大きな痛手になるだろう。
 その辺りの通行人の目撃証言ではなく、死を司る神による証言だ。時間は掛かるが正式な手段を取り、魔導協会が動くのはもう避けられない。
 そうなれば後はもう、後手に回る事しか出来なくなる。今の間に状況を好転させなければならない。

「少し協力して頂けますか? そうですねぇ、実力者を2人お借りしたい」

「……何をさせるつもりだ?」

「死なない兵士の実戦投入、貴方も見たいでしょう?」

「もう可能なのか?」

 斎藤和真と言う男が、人生を賭けて続けて来た研究。その研究の過程で生まれた副産物。それが死なない兵士だった。
 それは生命力を操る方法を手に入れる、ただそれだけを追い求めた結果生まれた。斎藤は生命力を操る力の研究をスフィーズム経由で成功させ、実験を繰り返している内にその価値に気付いた。
 これは売り物になると。もしこの力を戦闘に使えば、強力な武器になる。そう考えた斎藤が、売り込む先に選んだのが中東解放戦線だった。
 中東最大規模のテロ組織であり、スフィーズムにも深い造詣がある。そして斎藤の目的を考えれば、取引相手としては最適だった。

「ええ、もちろんですとも」

「あんな小娘で大丈夫なのか?」

「彼女は素晴らしい素体ですよ。貴方も実際に見れば理解出来るでしょう」

 彼らの言う彼女とは、森下翔子もりしたしょうこ。嵯峨学園に通う、平凡な女子生徒。しかし彼女は斎藤の計画にとって、必要不可欠な存在だった。
 長年に渡り探し求めていた、特定の体質を持つ者。その理想形とも言える存在を見付けた時、斎藤は神に感謝を捧げた。
 こんな事があるのだと、自分はやはり選ばれた存在なのだと斎藤は実感した。そこからはトントン拍子に研究が進み、斎藤の計画は大詰めを迎えていた。
 最終段階となった今となっては、実戦投入など斎藤には容易いものだった。作りだした技術に絶対の自信があり、あとは実証するだけだと考えていた。

「ちょうど良いので、この間の2人にでも付き合って貰いましょうか」

「この間? あのガキ共か」

「ええそうです。Sランク相手に通用するとなれば、貴方の目的も叶うでしょう?」

「……実際に見てからにさせて貰おう」

「貴方ならそう言うと思いましたよ。ちょうど試験場で慣らし運転をしていますから」

 斎藤の案内に従い、ラシードは後を着いて行く。研究室を出て、エレベーターに乗り施設の地下へと向かう。
 特定の認証キーが無いと向かう事の出来ない、秘密の地下施設へと降りて行く。一部の人間にしか渡されていない特別なキーである為に、先日の監査でもバレ無かった特別なエリアだ。
 地下深くに用意された試験場は、2階部分から見下ろす形で中の様子が確認出来る様になっている。
 そんな上層部の人間や取引相手に向けて用意された、確認用の窓から2人は試験場を見下ろす。

「どうです? この性能に不満がありますか?」

「……フフフ……ハハハハハ! 素晴らしい、気に入ったよカズマ」

「そうでしょう? これこそ、貴方の望む力では?」

「ああ、これなら何の文句もないさ。協力しよう」

 秘密の地下施設で、2人の男が怪しい笑みを浮かべ合う。2人の視線の先では、悍ましい光景が繰り広げられていた。
 決して死ぬことの出来ない拷問の中で、ただ生かされ続ける被験者を見ながら2人は握手を交わすのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。 ⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。

やまいし
ファンタジー
気が付くと、男性の数が著しく少ない歪な世界へ転生してしまう。 彼は持ち前の容姿と才能を使って、やりたいことをやっていく。 彼は何を志し、どんなことを成していくのか。 これはそんな彼――鳴瀬隼人(なるせはやと)の青春サクセスストーリー……withハーレム。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...