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第1章
第39話 死なない兵士
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西山製薬の研究室で、二人の男が会話していた。一人は今回暗躍していた男、斎藤和真。40代半ばの少し背の高い眼鏡の中年男性だ。
そしてもう一人は、中東解放戦線の現指導者であるラシード・ハーン。斎藤と変わらない年齢の大男だった。
清志やアイナが見た男が、正にこのラシードだった。清志達が感じた直感的な印象は何も間違っていない。
一時期はイランで軍人をしていた経験を持つ、実戦経験が豊富なAランク魔術師だった。
「カズマ、どうするつもりだ? そろそろ誤魔化し切れないぞ」
「大丈夫ですよ。実験は既に成功していますから」
「だが、魔導協会に目を付けられている」
「そんなもの、計画が成功してしまえば何とでもなりますよ」
清志とアイナの潜入により、西山製薬は現在厳しい立場にあった。明らかに目を付けられており、抗議文が早速到着している。
魔導協会の動きは早く、色々な所から根回しもされている。警察も連携して外堀を埋めつつあった。
公安部により、既にあちこちの空港がマークされている。下手に中東解放戦線のメンバーを国外に逃がそうとすれば厄介な事になるのは明白だった。
最早逃げ道は残されていない、だと言うのに斎藤は余裕の表情を崩さない。何も問題はないと、ビジネススマイルを浮かべている。
「先駆者とは、いつの時代も敬遠されます。新しい時代を作る人間には障害が付き物」
「お前は違うと?」
「ええ、私はそこらの無能とは違う。結果を持って、全てを黙らせましょう」
「随分な自信だが、次はどうする?」
現実問題として、このままではそう遠くない未来に踏み込まれてしまうだろう。何らかの理由で令状を作り公安がガサ入れに入るか、魔導協会が神の証言を元に強制介入を始めるか。
何かしらの形で干渉して来るのは確実だ。特に黄泉津大神に見抜かれたのは大きな痛手になるだろう。
その辺りの通行人の目撃証言ではなく、死を司る神による証言だ。時間は掛かるが正式な手段を取り、魔導協会が動くのはもう避けられない。
そうなれば後はもう、後手に回る事しか出来なくなる。今の間に状況を好転させなければならない。
「少し協力して頂けますか? そうですねぇ、実力者を2人お借りしたい」
「……何をさせるつもりだ?」
「死なない兵士の実戦投入、貴方も見たいでしょう?」
「もう可能なのか?」
斎藤和真と言う男が、人生を賭けて続けて来た研究。その研究の過程で生まれた副産物。それが死なない兵士だった。
それは生命力を操る方法を手に入れる、ただそれだけを追い求めた結果生まれた。斎藤は生命力を操る力の研究をスフィーズム経由で成功させ、実験を繰り返している内にその価値に気付いた。
これは売り物になると。もしこの力を戦闘に使えば、強力な武器になる。そう考えた斎藤が、売り込む先に選んだのが中東解放戦線だった。
中東最大規模のテロ組織であり、スフィーズムにも深い造詣がある。そして斎藤の目的を考えれば、取引相手としては最適だった。
「ええ、もちろんですとも」
「あんな小娘で大丈夫なのか?」
「彼女は素晴らしい素体ですよ。貴方も実際に見れば理解出来るでしょう」
彼らの言う彼女とは、森下翔子。嵯峨学園に通う、平凡な女子生徒。しかし彼女は斎藤の計画にとって、必要不可欠な存在だった。
長年に渡り探し求めていた、特定の体質を持つ者。その理想形とも言える存在を見付けた時、斎藤は神に感謝を捧げた。
こんな事があるのだと、自分はやはり選ばれた存在なのだと斎藤は実感した。そこからはトントン拍子に研究が進み、斎藤の計画は大詰めを迎えていた。
最終段階となった今となっては、実戦投入など斎藤には容易いものだった。作りだした技術に絶対の自信があり、あとは実証するだけだと考えていた。
「ちょうど良いので、この間の2人にでも付き合って貰いましょうか」
「この間? あのガキ共か」
「ええそうです。Sランク相手に通用するとなれば、貴方の目的も叶うでしょう?」
「……実際に見てからにさせて貰おう」
「貴方ならそう言うと思いましたよ。ちょうど試験場で慣らし運転をしていますから」
斎藤の案内に従い、ラシードは後を着いて行く。研究室を出て、エレベーターに乗り施設の地下へと向かう。
特定の認証キーが無いと向かう事の出来ない、秘密の地下施設へと降りて行く。一部の人間にしか渡されていない特別なキーである為に、先日の監査でもバレ無かった特別なエリアだ。
地下深くに用意された試験場は、2階部分から見下ろす形で中の様子が確認出来る様になっている。
そんな上層部の人間や取引相手に向けて用意された、確認用の窓から2人は試験場を見下ろす。
「どうです? この性能に不満がありますか?」
「……フフフ……ハハハハハ! 素晴らしい、気に入ったよカズマ」
「そうでしょう? これこそ、貴方の望む力では?」
「ああ、これなら何の文句もないさ。協力しよう」
秘密の地下施設で、2人の男が怪しい笑みを浮かべ合う。2人の視線の先では、悍ましい光景が繰り広げられていた。
決して死ぬことの出来ない拷問の中で、ただ生かされ続ける被験者を見ながら2人は握手を交わすのだった。
そしてもう一人は、中東解放戦線の現指導者であるラシード・ハーン。斎藤と変わらない年齢の大男だった。
清志やアイナが見た男が、正にこのラシードだった。清志達が感じた直感的な印象は何も間違っていない。
一時期はイランで軍人をしていた経験を持つ、実戦経験が豊富なAランク魔術師だった。
「カズマ、どうするつもりだ? そろそろ誤魔化し切れないぞ」
「大丈夫ですよ。実験は既に成功していますから」
「だが、魔導協会に目を付けられている」
「そんなもの、計画が成功してしまえば何とでもなりますよ」
清志とアイナの潜入により、西山製薬は現在厳しい立場にあった。明らかに目を付けられており、抗議文が早速到着している。
魔導協会の動きは早く、色々な所から根回しもされている。警察も連携して外堀を埋めつつあった。
公安部により、既にあちこちの空港がマークされている。下手に中東解放戦線のメンバーを国外に逃がそうとすれば厄介な事になるのは明白だった。
最早逃げ道は残されていない、だと言うのに斎藤は余裕の表情を崩さない。何も問題はないと、ビジネススマイルを浮かべている。
「先駆者とは、いつの時代も敬遠されます。新しい時代を作る人間には障害が付き物」
「お前は違うと?」
「ええ、私はそこらの無能とは違う。結果を持って、全てを黙らせましょう」
「随分な自信だが、次はどうする?」
現実問題として、このままではそう遠くない未来に踏み込まれてしまうだろう。何らかの理由で令状を作り公安がガサ入れに入るか、魔導協会が神の証言を元に強制介入を始めるか。
何かしらの形で干渉して来るのは確実だ。特に黄泉津大神に見抜かれたのは大きな痛手になるだろう。
その辺りの通行人の目撃証言ではなく、死を司る神による証言だ。時間は掛かるが正式な手段を取り、魔導協会が動くのはもう避けられない。
そうなれば後はもう、後手に回る事しか出来なくなる。今の間に状況を好転させなければならない。
「少し協力して頂けますか? そうですねぇ、実力者を2人お借りしたい」
「……何をさせるつもりだ?」
「死なない兵士の実戦投入、貴方も見たいでしょう?」
「もう可能なのか?」
斎藤和真と言う男が、人生を賭けて続けて来た研究。その研究の過程で生まれた副産物。それが死なない兵士だった。
それは生命力を操る方法を手に入れる、ただそれだけを追い求めた結果生まれた。斎藤は生命力を操る力の研究をスフィーズム経由で成功させ、実験を繰り返している内にその価値に気付いた。
これは売り物になると。もしこの力を戦闘に使えば、強力な武器になる。そう考えた斎藤が、売り込む先に選んだのが中東解放戦線だった。
中東最大規模のテロ組織であり、スフィーズムにも深い造詣がある。そして斎藤の目的を考えれば、取引相手としては最適だった。
「ええ、もちろんですとも」
「あんな小娘で大丈夫なのか?」
「彼女は素晴らしい素体ですよ。貴方も実際に見れば理解出来るでしょう」
彼らの言う彼女とは、森下翔子。嵯峨学園に通う、平凡な女子生徒。しかし彼女は斎藤の計画にとって、必要不可欠な存在だった。
長年に渡り探し求めていた、特定の体質を持つ者。その理想形とも言える存在を見付けた時、斎藤は神に感謝を捧げた。
こんな事があるのだと、自分はやはり選ばれた存在なのだと斎藤は実感した。そこからはトントン拍子に研究が進み、斎藤の計画は大詰めを迎えていた。
最終段階となった今となっては、実戦投入など斎藤には容易いものだった。作りだした技術に絶対の自信があり、あとは実証するだけだと考えていた。
「ちょうど良いので、この間の2人にでも付き合って貰いましょうか」
「この間? あのガキ共か」
「ええそうです。Sランク相手に通用するとなれば、貴方の目的も叶うでしょう?」
「……実際に見てからにさせて貰おう」
「貴方ならそう言うと思いましたよ。ちょうど試験場で慣らし運転をしていますから」
斎藤の案内に従い、ラシードは後を着いて行く。研究室を出て、エレベーターに乗り施設の地下へと向かう。
特定の認証キーが無いと向かう事の出来ない、秘密の地下施設へと降りて行く。一部の人間にしか渡されていない特別なキーである為に、先日の監査でもバレ無かった特別なエリアだ。
地下深くに用意された試験場は、2階部分から見下ろす形で中の様子が確認出来る様になっている。
そんな上層部の人間や取引相手に向けて用意された、確認用の窓から2人は試験場を見下ろす。
「どうです? この性能に不満がありますか?」
「……フフフ……ハハハハハ! 素晴らしい、気に入ったよカズマ」
「そうでしょう? これこそ、貴方の望む力では?」
「ああ、これなら何の文句もないさ。協力しよう」
秘密の地下施設で、2人の男が怪しい笑みを浮かべ合う。2人の視線の先では、悍ましい光景が繰り広げられていた。
決して死ぬことの出来ない拷問の中で、ただ生かされ続ける被験者を見ながら2人は握手を交わすのだった。
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