死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第36話 とある少女の軌跡

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 その少女は平凡だった。何をやっても普通、勉強もスポーツも全てが普通でこれと言った特技が無かった。
 しかしそんな少女にも転機がやって来た。小学4年生の時、魔術の才能がある事が判明したのだ。
 それまでは普通の学校に通っていた少女は、せっかく発現した魔術の才を活かす為に嵯峨学園へと転入する事になった。
 有名で優秀な人材を排出する学校への転入に、両親も少女も喜びを隠せなかった。しかし期待を胸にいざ転入した先で、少女は現実を知る事となる。

「ここでも結局、私は普通……」

 魔術師になれない一般人からすれば、確かに魔術師になれる事は十分凄い才能ではある。しかし魔術師の中でも、平凡と優秀の間に差は存在していた。
 魔術師にはなれたが、ランクはCとどこにでも居る普通の魔術師。どう足掻いても一流には遠く、優秀な魔術師候補が多い嵯峨学園では埋没する。
 もちろん平凡な魔術師達も当然在籍して居るが、彼ら彼女らはCランクである事に劣等感も違和感もない。
 親も同じなのだから、自分の立ち位置を理解している。何者かになれると期待を胸に転入して来た彼女とは違う。
 両親と似たような魔術師になる事を目的に通っている。代々魔術師の家庭だと特にその傾向が強い為、少女は中々周囲とは馴染めない。

「アナタのご両親はどんな魔術師なの?」

「あっ、えっと。普通の人、だよ」

「え? 魔術師じゃないんだ?」

 親も自分も魔術師である事が当たり前の価値観でいる生徒達。そんな中に放り込まれた彼女は、少しずつ少しずつ周囲とすれ違って行く。
 目指す未来や夢、将来のビジョン。日々の生活や休日の過ごし方。何もかもがその少女とは違っていた。
 本物の富豪達のパーティーに、場違いにも小金持ちが混じってしまったかの様な日々が続いて行く。
 成績に大きな差がある訳ではないが、かと言って優秀とは言えない。結局はまた変わらぬ日々が、少女の精神を蝕んで行った。
 自分にはちゃんと才能があって、特別な存在なのだと実感したい。しかしその欲求は満たされる事はない。

「おっと、ごめん! 大丈夫?」

「あ、いえ、こちらこそゴメンなさい」

 ぶつかった相手は、この学校で唯一のSランク。誰もが名前を知っているし、容姿も優れており人気も高い。
 そんな雲の上の存在が、羨ましくて仕方ない。自分もそんな風になれたら、こんなクラスメイトAの様な立場を脱出する事が出来るのに。
 そんな思いが少女の胸を埋め尽くす。何者かになりたい、だけどなれない。誰かにとって、特別な存在でありたい。
 歳を重ねる事に増していく欲求。どれだけ学んでも、いまいちパッとしない自身の魔術。伸び悩む魔術師としての才能に苦しむ日々。
 一般的な魔術師とは価値観も常識も違い過ぎて、相談する相手がどこにも居ない。そんな鬱屈とした日々に変化が訪れたのは中学3年の時だった。

「魔術師の、モニター募集?」

 とある企業の、魔術師向け医薬品の開発協力。学校から発行されている、魔術師に向けた依頼。未成年でも能力さえあれば、魔術師として仕事をする事が可能だ。
 直接指名で依頼される場合もあれば、学校を通して自由に受けられる依頼もある。言ってしまえばアルバイトの様なものだ。
 もちろん学校を通す以上は、ちゃんと適正や人間性は問われる。学校の評判を落とす様な結果を出されては困るからだ。
 今回たまたま少女が見掛けたその依頼は、ランクも問わずで誰でも受けられる。特定環境における魔力の変化をモニターされるだけ。
 危険もなく、ただ一定時間椅子に座っているだけ。ちょっとしたお小遣い欲しさに、彼女は受ける事にした。

「ようこそ西山製薬へ。どの様なご要件でしょうか?」

「あの、モニター募集を見て来たんですけど」

「ああ、連絡は頂いておりますので少々お待ち下さい」

 受付を通じて専用の実験室に通された少女は、担当者に色々と説明をされた。危険は無い事、健康への影響もない事。
 体質や健康状態によっては、何かしらの変化があるかも知れない事など。そして異常があった場合はすぐにブザーを鳴らす事も説明されたあと、実験用のブースに入る。
 脳波を見る為の装置や、魔力の変化を見る装置などの電極類を体に付けられて行く。色んなコードだらけになった自分の格好に苦笑しながら少女は席に着いた。
 実験が始まるとブース内のモニターに出る映像を観せられたり、室温が変化したりしていく。本当に危険は無いんだなと、少女が寛いでいた時だった。

「君は素晴らしい体質を持っている様だね」

「え? そうなんですか?」

「そこまで他人の魔力を綺麗に取り込める人は初めて見たよ」

 本来魔術師は、他人の魔力を全て取り込む事が出来ない。どうしてもある程度は減衰してしまう。大体の場合は、魔力が半分程まで減ってしまう。
 これには輸血と似た様な法則があった。同じ血族の魔力なら100%に近い量で受け取れるが、赤の他人の魔力だと大きく減衰する。
 つまりSランク魔術師が適当に選んだCランク魔術師に魔力を与え続けて、魔力量を増やすと言う様な事は出来ないのだ。
 しかし少女は体質的に、その減衰が殆ど発生しないと言う事だった。誰の魔力であっても、ほぼ100%に近い量を受け取れていた。

「君の才能は素晴らしい、どうだろうか? 僕の事業に協力して貰えないかな?」

 そんな風に誘われて、少女が申し出を受けない筈がない。やっぱり自分は特別だったんだ、それを分かってくれる人が居るんだ。
 その事実に歓喜した少女は、その申し出をした男に協力する事に決めた。その男の名は、斎藤和真さいとうかずまと言う名前だった。
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