死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第35話 敵地にて

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「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 警察と魔導協会合同での西山製薬への監査が始まる。敷地内に入るなり案内役が何人も着いて来ていた。
 警察側とは事前に話が着いており、途中で俺とアイナが離脱する事は予め告知されている。
 何なら協力するとの申し出まで来ており、独断で動く俺達とは別方向から攻めてくれる手筈となっている。
 正攻法で掻き回してくれるらしいから、そちらは警察に任せる事になっている。俺達はその間に、機密エリアに侵入させて貰う。

「ふぅん。結構綺麗じゃない」

「かなり儲かっているらしいからな」

「今となっては、それも疑わしいわね」

 今回の件を考えれば、これまでの実績も色々と裏があるかも知れない。それこそ談合程度で済めば良い方で、黒い裏話がゴロゴロと転がっている可能性はある。
 当然ながら警察の方も同じ考えの様で、隙があれば見逃すつもりは無い様子だ。その辺りも役割分担がある程度決まっている。
 警察サイドは主に不正関係をメインに捜査をする。そして魔導協会サイドは隠し事方面を徹底して洗う。
 どちらかが取っ掛かりさえ得てしまえば、後は芋蔓式で全部引っこ抜く算段だ。西山製薬ももちろん警戒はしているだろうが、これほど早くに不死者事件を解決されたのは痛い筈だ。
 最悪の状況を回避したとは言っても、かなりギリギリだろう。本来ならこの監査自体が予定には無かったに違いない。

「そっちも見せて貰えますかね?」

「あぁ、いえ、そちらは今回の件と関係は」

「警察に見せられないものでも?」

「そ、そう言う訳ではありませんが」

 監査の途中で、警察の方々が動き始めたらしい。スケジュールに無い行き先へと矛先を向け始めた。
 今回の監査は不死者事件を受けての話であるから、関係のない部署は多々ある。しかしだからと言って、出されたモノだけを確認して終わりにはしない。
 そもそも国内にテロリストの侵入を許すと言う、最悪の事態を引き起こされた事で警察の面子は滅茶苦茶だ。
 内心では相当腹が立っているのだろう。絶対に尻尾を掴んでやると言う、強い意思が感じられる。
 何せ朝から殺気が凄い。強面のオジサン達の厳しい視線に、案内役の男性達はプレッシャーで真っ青になっている。

「アイナ」

「ええ、そろそろ良いわね」

 警察の皆さんがガンガン攻めている間に、俺達もそろそろ動かせても貰おう。先程からあまり目立たずに居た俺達2人が、急に姿を眩ませてもすぐには気付かないだろう。
 西山製薬の人々は、先程から圧の凄い刑事さん達に付きっきりだ。そこへ魔導協会のプロ達が追い打ちを掛けて空気は最悪。
 西山製薬の方々は最早お通夜の様になっている。恐らくは裏側とはそれほど深い関係の無い人達だろう。ちょっと可哀想だけど、このまま餌食になって貰おう。

「あの~お手洗いはどこでしょう?」

「あ、俺もついでに良いですか?」

「は、はい! それでしたら部屋の外に出て右に行って頂ければ」

 俺達が執行者である事は知られているし、何より嵯峨学園の制服を着ている。只者ではないと最初から知っているだけに、学生に過ぎない俺達にも徹底して低姿勢だ。
 未成年を相手にペコペコしている西山製薬の大人達が不憫に思えて来たが、こればかりは仕方ない。
 何の悪事を働いていないただの社員であったとしても、この場では俺達が監査をする立場だ。後で胃薬でも飲んで耐えて貰うしかない。
 そんな可哀想な大人達を尻目に、俺達はお手洗いへと向かう。と言うのはもちろん建前で、ここから俺達は機密エリアへと向かう。
 俺は姿を隠す魔術で、アイナは似たような効果を発揮する自作の魔道具を使用して施設内を移動する。

「やはり魔術関係が怪しいよな」

「あの変わった不死者に使用していた魔術がキモかしら?」

「核心かは分からないが、狙う価値はあるな」

 喉元に装着するタイプの、声を発さずに会話出来る通信機を使いアイナと連絡を取り合う。隠密行動に最適なアイテムを、魔導協会が用意してくれたので非常に動き易い。
 事前の調査で入手済みの内部構造を確認しながら、魔術関係の施設を捜索して行く。二手に分かれてはいるが、今の所は特に成果は無い。
 最初から分かっては居たが、流石に危険な証拠は既に処理済みか。移動させられない、隠蔽出来ないタイプの証拠を見つけるしかない。

「生贄の魔法陣でもあれば話は早いんだけどな」

「だけどそれ、気分は最悪よ」

「それはそうなんだけどさ」

 過去に何度か発見した経験がある。何らかの目的で、人間を生贄に捧げる儀式を行う犯罪者は少なくない。どちらかと言えばポピュラーな魔導犯罪だ。
 永遠の命だとか、若さを保つだとか。そんな下らない理由で犯罪に走る者は、そう珍しくない。特に多いのが悪魔との契約だ。
 その為になら幼い子供の命すら差し出す最悪の人間は存在している。悪魔崇拝は、現代で最も危険な思想だ。
 何せ悪魔は実在するのだから。本当に居るから、縋りたくなる者が出る。そしてそんな人間に、言葉巧みに近付くのが悪魔達だ。
 そんな事件の現場に行けば、大体は胸糞の悪い結果が待っている。悪魔への供物、その生贄達の死体。そんな悲惨な現場は、即刻処罰出来るが気分は最悪だ。

「まだ調べてない所は沢山あるわ、行きましょう」

「そうだな」

 監査が開始してから2時間程度、現在はお昼を少し過ぎた所。そこだけ見ればまだ時間はあるが、俺達に許された時間はあと数時間しかない。
 何より俺達が居ないとバレたらそれまで。迫るタイムリミットに追われながら、俺達は次のエリアへと向かった。
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