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第1章

第32話 潜入捜査 前編

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 清志せいじとアイナの2人は、魔導協会の調査により判明した不死者事件の中心と思われる地域に来ていた。京都の南側、南区の倉庫や工場が集中する工業地帯。
 その一角にあるとある冷凍倉庫。そこに違法な手段で入手した、人間の死体が搬入されているらしい。今回の不死者事件は大量の死体が関係している。
 その点から考えれば、ほぼ黒と言って言い疑わしさだ。犯人の特定は出来ていなくとも、死体の入手経路を抑えてしまえばこれ以上は増やせない。
 そしてそこには、何かしら犯人への手掛かりがあると思われていた。そんな場所への強襲及び潜入捜査には、最も適した2人が選ばれるのは当然と言えた。
 大量の不死者に囲まれても問題なく、現場経験も豊富なSランクコンビ。早急に解決したい魔導協会と、2人の意見が合致するのは言うまでも無かった。

「先行する。着いて来てくれ」

「任せたわ」

 深夜2時、死体が運び込まれると予想されている時間に清志とアイナは問題の倉庫へと忍び込む。冷凍倉庫の構造は既に調査済みで、清志が先行して侵入して行く。
 戦闘スタイルとしては近接攻撃が主体の清志と、射撃が主体のアイナ。今までお互いに求めていた、理想的なパートナーが出来た2人の行動は実にスムーズだ。
 清志は背中を気にする必要がなくなり、アイナは前を完全に任せられる。闇夜に紛れて進む2人に迷いはない。水を得た魚の様にスイスイと前へ進んで行く。

「ったく、毎回手続きが面倒だぜココはよ」

「まあそう言うな。その分払ってるだろ?」

「今更俺が裏切るかよ。そろそろ顔パスにしてくれよ」

 清志とアイナが潜入した先には、2人の男達が居た。どうやら片方は運び屋で、もう片方はこの倉庫を管理している者らしい。
 荷物の陰に隠れながら進む清志とアイナには、全く気付いて居ないらしい。運び屋の男が溢す愚痴を、作業着姿の男が宥めていた。
 運搬している荷物が荷物だけに、他の人間はどこにも居ない。人員は無駄に増やさない方が秘密の活動はバレ難い。
 それ故の最小限での人員運用の様だが、今回はそれが仇となった。清志とアイナはアイコンタクトを交わしてそれぞれ担当する男の真後ろへと向かう。

「魔導協会の執行者だ。大人しくしろ」

「ゆっくり地面に膝をついて。両手は上げたままね」

「ちょっ!? 誰だお前ら!?」

「魔導協会だと言っただろ? 大人しく従え」

 清志の小太刀が管理者の男の首筋に添えられ、運び屋の男は背後から銃口を頭に向けられていた。2人共大した戦闘力は無いらしく、簡単に確保された。
 念の為にとアイナの魔力がしっかり込められた手錠で、2人は拘束された。これでもし手の中に魔道具の類を隠していたとしても、正常な魔力が流せず機能しない。
 2人の魔力量は一般人と大差は無く、例え何かを持っていたとしてもこの状況を覆す事なんて不可能ではあるが。

「さて、知っている事を話して貰おうか」

「ま、待ってくれよ!? 俺はただ荷物を運んでいただけだ!」

「でも違法な荷物に変わりはないわよね?」

「クソッ! 最悪の日だ、ツイてねぇ」

 運び屋の男の方は、本当に違法な荷物を高額で運ぶ事を生業としていただけだったらしい。実際に武器を所持し執行者を名乗る2人には従順に対応していた。
 危険な仕事をしている自覚ぐらいはあるだけに、清志とアイナが見た目通りのただの学生でないとすぐに見抜いたらしい。
 そもそも嵯峨学園の制服は有名だ。それだけで相手が魔術師だとすぐに分かる。子供だからと暴れても意味が無いと悟り、ペラペラと請け負った違法な仕事の内容を話していく。しかし管理者の方はそうでは無かった。

「俺には家族が居るんだ! ただの仕事だろこんなの!? 荷物を管理していただけだ!」

「それを良しとするかどうかを決めるのはアンタじゃない」

「家族の為にも、正直に話した方が良いわよ?」

「本当だ! 本当に詳しくは知らないんだ! ただ言われた時間に荷物を出していただけだ!」

 管理者の男は運び屋の男と違い、自己保身に邁進した。自分は何も知らない、良くない荷物なのは知っていたけど会社の命令だった。
 取りに来る人間の事も良く知らない。顔を隠して居るから誰か分からない。そんな風に自分は何も悪くないんだとただ主張するばかりだった。
 家族が居るのは本当なのだろう、捕まった後の事を考えてひたすらに減刑を願い続ける。見苦しく言い訳を続ける男が、遂には涙を流し始めた時にその変化は訪れた。

「……おいおい、切り捨てる判断が随分と早いな」

「関係者を全員消すつもりかしら?」

「ま、一般人相手ならこれで十分だからな」

 今まで遺体が収められていた大量の棺桶の中から、不死者となった動く死体達がぞろぞろと姿を現す。
 倉庫に保管されていた在庫が、全て敵となって清志達の方へ向かって移動を始める。さながらゾンビ映画の様に、冷たい死体があちこちで蠢いていた。

「おいおいおい! なんだコイツら!?」

「ヒッヒィィィ!?」

「アンタら、ニュースとか気にしない人? 最近話題だっただろうに」

「それよりお荷物抱えてこの数、ちょっと面倒よ?」

 明らかに非戦闘員である重要参考人を2人も守りながら、大量の不死者達との戦闘が強制的に始まった。
 他にも居るであろう不死者達の処理と、まだ居るであろう関係者の安全も確保せねばならない。清志とアイナの潜入捜査は、かなり厄介な展開へと発展して行った。
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