死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第31話 力有る者故の重荷

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 例の不死者騒動が始まってから、初の犠牲者が魔術師から出た。俺とアイナがやられた様に、予め待伏せをする形で配置された不死者の集団。
 運悪くまだあまり慣れて居ない、Cランクの新人コンビが大怪我を負う羽目になってしまった。事前に警告は通達されていたのだが、なまじ数体程度では雑魚でしかない。
 その結果油断をして意表を突かれてしまったらしい。新人に有りがちなミスではあるものの、相手方に明らかな害意がある事が判明した。
 徐々に投入する戦力のグレードを上げて来ている。最初は統率も取れない低級の雑魚、そこから複数体に増やし今や統率の取れた集団に変化している。
 負傷した新人の証言によれば、リーダー格の様な個体が居たらしい。変わった不死者の実験と思われた事件が、一気に犯罪性の高い案件へと変わっていた。

「統率する個体か。確認しておきたいな」

「私達の時には居なかったものね」

「会話するのか念話の類か、何処まで何が出来るかはなるべく早く知りたい」

 ただでさえ中東解放戦線と西山製薬の件があると言うのに、ここで危険性の高いマッドサイエンティストが参戦するのは御免被る。
 なるべく早く詳細を把握し、解決させてしまいたい。出来るだけ多くの情報を入手し、主犯格を早期に制圧したい所だ。
 例の不死者は対処法が限定的だ。阻害魔術が使えない魔術師が戦力にならない。一応魔導具や、アイナの様に魔導銃を使えば可能ではある。
 ただ既製品では性能がやや心もとない。自力で対処出来ない魔術師を大量投入しても、余計な損耗や犠牲が増えるだけだ。

 高性能な物を使う手もあるが、絶対数が足りない。阻害系魔術は、まだまだ魔導具による再現が進んでいない。
 阻害魔術は呪術ベースが最も効果的だが、呪術自体には人間の意思が重要となる。ただ怨念を振り撒くだけであればともかく、指向性と目的が明確に必要な阻害魔術を道具だけでは中々効果的に扱えない。

「こうなって来ると、私達が中心に動くしかないわね」

「そうだな。現状それが一番安全で効率が良い」

「一旦魔導協会に向かいましょう」

 学校の授業も終わり、時間的に余裕が出来た今のうちに情報を集めたい。一番自体を把握しているのは魔導協会だ。
 これまでの発生件数や場所、様々な情報を総合的に考察する必要がある。単なる愉快犯ではないと分かった以上は、場当たり的に動いていたのでは解決しない。
 最も主犯と関係がありそうな場所を探り、そこを中心に回るべきだろう。一番の激戦区は間違い無くそこになるのだから。
 学園の近くのバス停からバスに乗り、魔導協会へと向かう。途中で安達あだちさんに連絡を入れておき、情報を先にまとめておいてもらう。
 彼女は戦闘能力がほぼ皆無だが、情報部が得意とする情報収集や情報の整理は得意だ。ここは適材適所、得意な者が得意な事をやるのがベストだ。

「何かごめん、せっかく日本に来たのにいきなりから事件ばかりで」

「気にしないで。アメリカも大差なかったから」

「それは喜んで良いのか微妙な答えだ」

 いつまで経っても無くならない魔導犯罪。どこの国でも毎年変わらず事件が起きる。残虐性の高い事件も多く、平和とは程遠い日々が続いている。
 事件を無くす為の魔導協会、そして抑止力としての俺達執行者。こうして何人も捕まえて裁いて、地獄に送っていても減らないのだ。
 人間と言う生き物は、悲しい事に平穏を維持出来ない。決められたルールを守ろうともしない人間が、いつの時代も必ず問題を起こして来た。
 このまま何も変わらないのか、そんな風に考える事もある。だけど俺が諦めたら駄目だ。死神に仕える俺が、その仕事を放棄するわけには行かないのだから。

「私も分かるよ、言いたい事は」

「考える事は同じか」

「こんな仕事してるとね、考えちゃうよね」

 俺達はまだまだ若造だ。まだ20年も生きていないのに、こんな事を考えるのは早いのかも知れない。人の悪意に、絶望する訳には行かない。
 浮かんでは消える、暗澹たる思考。幼い頃から、悪意の結果を散々見て来た。いい歳をした大人が、醜く欲望に塗れる姿を見て来た。
 だけど信じたいのだ、いつか平穏が訪れる日を。誰も悲しまなくていい平和な世界を。諦めて投げ出したら、この手で救えた筈の命が溢れ落ちてしまう。
 10人の内、1人しか救えない事もある。それでも1人は救う事が出来る。その1人も救えない人間が、10人100人と救える筈がない。そう思って、俺は諦めずにここまで来たんだ。

「負けてやれないよね、こんな事で」

「……そうだな」

 パートナーが出来て、明確に良かったなと思う事がある。それはこんな風に、悩みを共有出来る事だ。傲慢かも知れないが、最高位の魔術師にしか見えない世界がある。
 ここまで来ないと感じる事のない悔しさがある。これほどの力を得ても、尚取りこぼす命。自分は弱いからと、仕方ないからと妥協を許されない地位。
 その重みは、確かにあるのだから。この重く伸し掛かる肩の荷を、一緒に支えてくれる存在が居る。それだけで変わる事があるのだと、最近は強く感じていた。
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