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第1章
第30話 見えない目的
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謎の不死者が発見されてから半月ほど、問題の不死者事件は増加の一途を辿っていた。最初は1体か2体が同じ場所に出現する程度であった。
しかし今となっては、複数箇所に何体も現れる様になっていた。そんな日々の中で、アイナの魔力が最も効果的であると判明した。その為にアイナと清志の2人は、今や連日の様に対処に追われていた。
『2人共、次は広隆寺よ!』
「また? ちょっと多くないか?」
「処理は楽だけど、面倒よね」
既に陽は落ちているので、一般人や観光客が遭遇する危険はない。対処法もアイナが魔力弾を撃ち込むか、清志が阻害魔術を当てるだけ。
しかしあちこち移動せねばならない2人にとっては面倒事でしかない。わざわざSランクの2人を使う程では無い相手だが、最も効率が良く迅速なので頼らざるを得ない。
魔導協会としても痛し痒しと言った状況となっていた。相変わらず出所は不明で、使われる死体に共通点はない。
人種も様々で性別にも偏りは無かった。どこかで墓荒らしがあったとの情報も無く、完全に後手に回っていた。
脅威度も低く、どうしても殆どの主力は西山製薬の調査に割かれていた。その状況が更に足を引っ張る原因となっていた。
「どこからこんなに死体を調達しているんだ?」
「病院辺りじゃない?」
「この数、個人では無理だよなぁ」
こちらの調査も行われてはいるものの、容疑者すら特定出来ないままだった。何せやっている事があまりにも限定的過ぎる。
死体に生命力を与える技術こそ目を引くものの、出来上がるのは風変わりな動く死体。組織的にやっているとしても、目的があまりにも不透明だ。
ネクロマンシーの新たな発展が目的だとしても、進歩とは到底言えない微妙な結果。これなら既存の魔術を発展させた方がマシだろう。
聖水等が効かないと言うメリットが一応はあるが、その割には弱すぎる。精密な作業が出来る程の意思も無く、戦闘能力は微妙の一言に尽きる。
生前の記憶なども持ち合わせておらず、会話も不可能と特筆すべき所もない。詐欺か何かに利用する事も出来そうにない。
「そもそも目的が不明よね」
「そうなんだよな。あんなの何に使う気なんだ」
「肉壁?」
「それも微妙だろう」
見えて来ない犯人の目的に、困惑を隠せない2人。魔導協会自体も愉快犯的な行いに戸惑うばかりだ。白昼堂々と街中に放つならともかく、人が少ない場所に適当に放置するだけ。
せめて人的被害を目的としたテロ行為ならまだ理解出来るが、今の所は目立った被害は出ていない。せいぜい運悪く遭遇して、襲われた数人が居る程度。
それらも軽症で済んでいる為、問える罪も大した事はない。せいぜい死体遺棄と軽度の違法な魔術実験程度だ。
数年刑務所に放り込まれるだけで終わる。たちの悪いイタズラの域を出ておらず、警察も本腰を入れてはいない。
せめて使われた遺体が行方不明者であったなら、事件性も高くなって来るのだが。残念ながらどの遺体も、病院等で死亡が確認された後のものばかりだった。
「あそこよ、清志」
「今回は俺がやるよ」
「オッケー、任せたわ」
境内を彷徨いていた不死者に向かって、清志が一気に踏み込む。阻害魔術を乗せた掌底が、綺麗に顎を捉え不死者が数メートル転がる。
数秒ほど倒れた体が痙攣していたが、生命力を付与する魔術が効力を失うと物言わぬ死体へと戻る。何度も繰り返された単純な作業。特に問題もなく、無事に不死者の制圧は完了した。
「やっぱり、アイナの魔力弾ほど即効性はないな」
「まあ呪いだからね。阻害魔術とも違うし」
「こうやって比べると、エグい効果だよな」
清志の使う阻害魔術は、高度な呪術を利用した物ではあるがアイナの呪い程強力ではない。複数の禁呪を重ねた呪縛は、通常の阻害魔術よりも遥かに高い効果を持っていた。
Cランク魔術師の阻害魔術の場合は、この変わった不死者を完全に停止させるのに数分掛かる。Sランクの清志は、呪術の専門家ではないがそれでもしっかりと習得した身だ。
それでも完全に停止させるまでに数秒を要する。しかしアイナの魔力は、命中した瞬間に生命力を付与する魔術を吹き飛ばす。そこに効力の差がはっきりと出ていた。
『待って2人とも! まだ反応があるわ!』
「……みたいだな」
「コイツら、一体どこから来たの?」
いつの間にか、清志とアイナを包囲する形で不死者達が集まって来ていた。今までの相手とは違い、明らかに明確な目的を持っていた。
真っ直ぐに2人に向かって移動している。これまでに複数体が一緒に出現した場合、全く統率など取れていなかった。
しかし今回に限っては、明らかに統率の取れた行動に出ている。隙間無く2人を囲む様に、じりじりと距離を詰めて行く。
いつの間にか数十体の動く死体が、この場所に集まって来ている。まるで最初から、ここで待伏せでもしていたかの様に。
「ぞろぞろと面倒な」
「こんなのが数だけ居てもねぇ」
アイナの使う2丁の銃から発射される魔力弾と、清志の阻害魔術が付与された大鎌が不死者達を次々と仕留めて行く。
集団行動を取れる様になったとは言っても、所詮は低位の不死者に相当する雑魚。瞬く間に数十体の不死者は、元の死体へと戻って行った。
「なんだったんだ?」
「流石にSランク2人は、想定して無かったんじゃない?」
「……それもそうか」
あくまでこの2人だから、これ程簡単に圧倒出来ただけに過ぎない。もしこれがCランクコンビであったならば、それなりに苦戦を強いられたであろう。
そしてそれは現実のものとなる。この件で魔術師に怪我人が出るのは、この事件から数日後の事だった。
しかし今となっては、複数箇所に何体も現れる様になっていた。そんな日々の中で、アイナの魔力が最も効果的であると判明した。その為にアイナと清志の2人は、今や連日の様に対処に追われていた。
『2人共、次は広隆寺よ!』
「また? ちょっと多くないか?」
「処理は楽だけど、面倒よね」
既に陽は落ちているので、一般人や観光客が遭遇する危険はない。対処法もアイナが魔力弾を撃ち込むか、清志が阻害魔術を当てるだけ。
しかしあちこち移動せねばならない2人にとっては面倒事でしかない。わざわざSランクの2人を使う程では無い相手だが、最も効率が良く迅速なので頼らざるを得ない。
魔導協会としても痛し痒しと言った状況となっていた。相変わらず出所は不明で、使われる死体に共通点はない。
人種も様々で性別にも偏りは無かった。どこかで墓荒らしがあったとの情報も無く、完全に後手に回っていた。
脅威度も低く、どうしても殆どの主力は西山製薬の調査に割かれていた。その状況が更に足を引っ張る原因となっていた。
「どこからこんなに死体を調達しているんだ?」
「病院辺りじゃない?」
「この数、個人では無理だよなぁ」
こちらの調査も行われてはいるものの、容疑者すら特定出来ないままだった。何せやっている事があまりにも限定的過ぎる。
死体に生命力を与える技術こそ目を引くものの、出来上がるのは風変わりな動く死体。組織的にやっているとしても、目的があまりにも不透明だ。
ネクロマンシーの新たな発展が目的だとしても、進歩とは到底言えない微妙な結果。これなら既存の魔術を発展させた方がマシだろう。
聖水等が効かないと言うメリットが一応はあるが、その割には弱すぎる。精密な作業が出来る程の意思も無く、戦闘能力は微妙の一言に尽きる。
生前の記憶なども持ち合わせておらず、会話も不可能と特筆すべき所もない。詐欺か何かに利用する事も出来そうにない。
「そもそも目的が不明よね」
「そうなんだよな。あんなの何に使う気なんだ」
「肉壁?」
「それも微妙だろう」
見えて来ない犯人の目的に、困惑を隠せない2人。魔導協会自体も愉快犯的な行いに戸惑うばかりだ。白昼堂々と街中に放つならともかく、人が少ない場所に適当に放置するだけ。
せめて人的被害を目的としたテロ行為ならまだ理解出来るが、今の所は目立った被害は出ていない。せいぜい運悪く遭遇して、襲われた数人が居る程度。
それらも軽症で済んでいる為、問える罪も大した事はない。せいぜい死体遺棄と軽度の違法な魔術実験程度だ。
数年刑務所に放り込まれるだけで終わる。たちの悪いイタズラの域を出ておらず、警察も本腰を入れてはいない。
せめて使われた遺体が行方不明者であったなら、事件性も高くなって来るのだが。残念ながらどの遺体も、病院等で死亡が確認された後のものばかりだった。
「あそこよ、清志」
「今回は俺がやるよ」
「オッケー、任せたわ」
境内を彷徨いていた不死者に向かって、清志が一気に踏み込む。阻害魔術を乗せた掌底が、綺麗に顎を捉え不死者が数メートル転がる。
数秒ほど倒れた体が痙攣していたが、生命力を付与する魔術が効力を失うと物言わぬ死体へと戻る。何度も繰り返された単純な作業。特に問題もなく、無事に不死者の制圧は完了した。
「やっぱり、アイナの魔力弾ほど即効性はないな」
「まあ呪いだからね。阻害魔術とも違うし」
「こうやって比べると、エグい効果だよな」
清志の使う阻害魔術は、高度な呪術を利用した物ではあるがアイナの呪い程強力ではない。複数の禁呪を重ねた呪縛は、通常の阻害魔術よりも遥かに高い効果を持っていた。
Cランク魔術師の阻害魔術の場合は、この変わった不死者を完全に停止させるのに数分掛かる。Sランクの清志は、呪術の専門家ではないがそれでもしっかりと習得した身だ。
それでも完全に停止させるまでに数秒を要する。しかしアイナの魔力は、命中した瞬間に生命力を付与する魔術を吹き飛ばす。そこに効力の差がはっきりと出ていた。
『待って2人とも! まだ反応があるわ!』
「……みたいだな」
「コイツら、一体どこから来たの?」
いつの間にか、清志とアイナを包囲する形で不死者達が集まって来ていた。今までの相手とは違い、明らかに明確な目的を持っていた。
真っ直ぐに2人に向かって移動している。これまでに複数体が一緒に出現した場合、全く統率など取れていなかった。
しかし今回に限っては、明らかに統率の取れた行動に出ている。隙間無く2人を囲む様に、じりじりと距離を詰めて行く。
いつの間にか数十体の動く死体が、この場所に集まって来ている。まるで最初から、ここで待伏せでもしていたかの様に。
「ぞろぞろと面倒な」
「こんなのが数だけ居てもねぇ」
アイナの使う2丁の銃から発射される魔力弾と、清志の阻害魔術が付与された大鎌が不死者達を次々と仕留めて行く。
集団行動を取れる様になったとは言っても、所詮は低位の不死者に相当する雑魚。瞬く間に数十体の不死者は、元の死体へと戻って行った。
「なんだったんだ?」
「流石にSランク2人は、想定して無かったんじゃない?」
「……それもそうか」
あくまでこの2人だから、これ程簡単に圧倒出来ただけに過ぎない。もしこれがCランクコンビであったならば、それなりに苦戦を強いられたであろう。
そしてそれは現実のものとなる。この件で魔術師に怪我人が出るのは、この事件から数日後の事だった。
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