死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

文字の大きさ
上 下
28 / 96
第1章

第28話 変わった不死者

しおりを挟む
 支部長への報告も済ませて、後は調査結果を待つのみとなった。あれから特にこれと言っておかしな事件も無く平和な日々が続いていた。
 しかしそれは、嵐の前の静けさと言うもの。確実に裏では何かが進行している。なるべく早く証拠を抑えて、解決させてしまいたい所だ。
 ただの迂闊なチンピラ程度なら、さっさと現場に突入してしまえば終了する。しかし今回の様に、入念に計画を練るタイプは慎重にならざるを得ない。
 焦って下手に刺激するのも危険であり、証拠の隠滅に回られるリスクもある。今は大人しく待つ他ないだろう。

清志せいじ、今日はどうするの?」

「どうするかなぁ。やる事が無いんだよな」

「じゃあトレーニングでもする?」

「それも悪くはないんだけど……」

 どうにもここ最近の静けさが気になっていた。何も起きなさ過ぎると言うべきか。本来ならもう少し、事件なり起きている。
 それが不気味なぐらい何も無いのだ。せいぜいちょっとした喧嘩ぐらいで、殺人事件すらまともに起きていない。
 平和で結構と言えたら良いのだけど、ここまで何もないのは明らかに変だ。まるで巨大な化け物が闊歩しているせいで、野生動物が隠れてしまったかの様な状況だ。
 悲しい事に何かしら事件が起きるのが日常で、静かな方が異常だと言うのが現状だ。平和な世の中とは、まだまだ遠い位置にあると言う他ない。

「ん? 何だ魔導協会から連絡?」

「私もだ。何だろう?」

 魔導協会京都支部からの連絡が俺とアイナの下に届いた。何かしらあったのだろうが、緊急コールでは無いと言う事は何らかの業務連絡か。
 調査結果の報告にしては早すぎる気がするし、そちらの可能性は低い。何より進展したのであれば、支部長から直接連絡が来る筈だ。この番号は普段通りの連絡先だから相手は安達あだちさんだ。何の用だろうか。

「安達さん? 何かあった?」

『何かって言うか、ちょっと変な状況で』

「どう言う事なの?」

『それがね、浄化出来ない不死者が出現してね』

 安達さんの説明によると、山の方にある霊園にて不思議な不死者が現れたと言う事。所謂ゾンビやグールと呼ばれる存在で、低級の相手であればCランクの魔術師でも簡単に処理出来る。
 聖水や清めの塩など、神聖な力を持つ物品があればそれで浄化するだけだ。振り掛けるだけで済むので、問題になる事なんて滅多にない。
 それに日本は土葬ではなく火葬が基本だ。出現するなら悪霊や怨霊の類が大半である。それ故に不死者が出るのも少々不思議だ。
 該当する霊園も火葬のみの筈だ。ゾンビは先ず有り得ないから、下級の吸血鬼に襲われたグール辺りか。

「グール、にしては変だな? まだ陽が出てる」

「そうよね? ねぇ奈緒子なおこさん、それゾンビなの?」

『それがね、そこもハッキリしなくて。不死者っぽい何かと言うか』

「なんだそれ?」

 不死者と言えば基本的にはゾンビかグールだ。怨霊が乗り移った死体の場合もあるが、それならそれで判断は出来る筈。
 魔導協会が判断に困る様な何かと言うのは随分と珍しい。それ故に俺達に連絡が来たと言う事だろう。死神の神子である俺と、軍に居た経験のあるアイナ。相談する相手としては丁度良かったと言う訳だ。

「データはありますか?」

『ちょっと待ってて、すぐ送るから』

「……何これ? 清志分かる?」

 送られて来たデータを見る限り、不死者らしき何かと判断されたのも納得だ。見た目は綺麗で腐敗しておらずゾンビではない。
 まともに意識は無い様で、ただ徘徊しているだけ。グールの様に生物の血を求めるでもなく、しかし近付く者へは襲い掛かる。
 死体なのは明らかで、生体反応は非常に微弱。聖水等の効果は全く受け付けず、読経の類もまた効果は無し。
 ゾンビでもグールでも霊的な存在でも無い。確かに謎の不死者としか言えない。初めてみるパターンだ。

「人形師が死体を使っている、とか?」

『それも違うみたい。そう言った魔術の反応は出ていないわ』

「ネクロマンシー、なら聖水が効くものねぇ」

「呪符が無いからキョンシーでも無いな」

 動きは緩慢で脅威度は低い、しかし処理方法が分からないと。現状は現場を封鎖する事で特別被害は出て居ないが、このままと言う理由にも行かないか。
 戦闘能力がかなり低いのは映像で分かったけれど、処理方法が不明では担当の魔術師も困るだろう。どうせ今はやる事がない、ここは加勢にでも行くとしよう。

「なあ、アイナ」

「分かってる、行くんでしょ?」

『二人共ありがとう~助かるわ』

「安達さん、車を回して貰えますか?」

 アイナと2人で校門前で待つ事15分ほど、魔導協会が所有する黒のワゴン車が到着した。何度も会った事のあるBランク魔術師が運転席に座っていた。
 成田なりたさんと言う若い大人の女性だ。彼女は物質強化や付与魔術を得意とする付与系統の魔術師だ。
 成田さんが運転する車はトラックに追突されても無傷だし、噂では戦車の砲撃にも耐える強度を車両に与えられるらしい。
 ある意味では、要人とも言えるアイナを迎えに来る人選として納得のチョイスだった。

「今日も宜しくお願いします」

「ええ、宜しく」

 あまり口数は多くないけど、仕事はきっちり真面目にこなす成田さんの運転で俺達は現場へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。 ⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。

やまいし
ファンタジー
気が付くと、男性の数が著しく少ない歪な世界へ転生してしまう。 彼は持ち前の容姿と才能を使って、やりたいことをやっていく。 彼は何を志し、どんなことを成していくのか。 これはそんな彼――鳴瀬隼人(なるせはやと)の青春サクセスストーリー……withハーレム。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...