死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

文字の大きさ
上 下
27 / 96
第1章

第27話 日本の死神

しおりを挟む
 西山製薬による特別講義は問題なく終了し、警戒態勢は緩める事となった。どうやら校内で何かをするつもりは無いらしい。
 本当にただ講義に来ただけの様だ。怪しいのは間違いないが、証拠も無く拘束は出来ない。深く人間の死と関わっているのは判明しても、罪状が無いのではどうしようもない。
 それだけで罪に問う事は出来ない。そんな理由だけで捕まえていたら、医者や葬儀屋の人間が全員怪しい事になってしまう。
 今回の斎藤さいとうと言う男も、製薬会社の人間だ。間接的にも直接的にも、人の死と関わる事があるとはぐらかされたらそれまで。
 無駄に問い詰めても、こちらが疑っていると直接伝える様なものだ。そんな素人の様な下手くそ過ぎる真似はしない。

「どうするの、清志せいじ?」

「今は見逃そう。それにうちの神様に確認はさせたしな」

「あ、今日は居るんだ?」

 そう言えば、まだ会わせていなかったな。何かとタイミングが合わず、アイナに紹介する機会が来ないままになっていた。
 立場的にはかなり上位に位置する神であると言うのに、その本人と来たら好き放題ぶらぶらと出掛けては留守にしている。
 日本神話の最上位格だと言うのに気楽なものである。日本の象徴として君臨している、天照大御神様とは偉い違いだ。
 その親だと言うのに、娘と違ってぐうたらな日々。あまりにも残念な女神様だ。

「ちゃんと紹介出来てなかったな。ほら、出て来いって」

「おお~この方が」

「日本の死神、黄泉津大神だよ」

 俺の真横に現れたのは、真っ黒な和服に身を包んだ和装の美女。その漆黒の衣装にはしっかりと不吉の象徴である真紅の彼岸花が描かれている。
 身長は俺と変わらない、女性としては長身の180cmほど。見た目は黄泉に落ちる前の、伊邪那美命と同じ顔をしている。
 カラクリは不明だが、神話に描かれた醜い顔は隠されている。神ではあっても、女性である事には変わらないと言う事なのか。
 ちなみにその事に触れると、物凄く不機嫌になるのでノータッチを貫いている。女性の容姿について不用意に触れてはならないと、まだ幼い頃に学ぶ切っ掛けにもなった。

「アイナ・クラーク・三島みしまと申します」

「知っているわ。あまり調子に乗らない様にね」

「? ええ。もちろんです」

「おい、あんまり威圧するな」

 うちの女神様と来たら、初手から人のパートナーに高圧的な態度を取った。そう言う所は昔からあるが、今回は特に厳しい。
 半分日本人ではないからかは不明だが、いきなりから視線が厳しい。前からどうにも気に食わないらしい様子を見せていたが、何がそんなに気に入らないのだろうか。
 特別禁呪を嫌っている様な素振りも無かったから、そこが理由では無いとは思うのだが。とにかくこれから一緒にやって行くのだから、変な軋轢は生まないで欲しい。

「現世の人間を憎んでいるからって、パートナーにまで厳しく当たるのは止めてくれ」

「人間なんてどれも一緒よ」

「あ、あはは。噂通り癖の強い方なのね」

 黄泉津大神が人間を憎んでいるのは非常に有名な話であり、少しでも日本神話に触れた事がある人間なら誰でも知っている。
 元旦那とのいざこざの果て。伊邪那美命として人間に命を与えた反面、黄泉津大神として人間に死と言う概念を齎したとされる現世への憎悪。
 日本の死神として頂点に君臨するこの女神は、神話にある通り人の死を望む存在だ。俺と言う神子が居なければ、危険過ぎて現世に呼び出せない存在。
 神子との契約があっても尚、この世に死を運ぶ危険な女神。こうして制御下にある状態で、精神の一部を呼び出す程度なら危険はないが。
 しかし本体を現界させるのはあまりにも危険だ。1日に1000人を殺すと宣っただけあり、死の呪詛を周囲に振り撒く。
 お陰で使い所が非常に難しい女神様だ。周囲に巻き添えにしそうな人間が居る所では本体を呼べない。住宅街で呼び出そうものなら、甚大な被害が出てしまう。何とも面倒で厄介な女神様だ。

「まあその、こうしてる間は無害だから」

「酷い言い草だわ。私の神子の癖に。もっと敬いなさい?」

「……じゃあ人を呪わないか?」

「それは無理な相談ね」

 これである。どう敬えと言うのか。大体元を正せば夫婦喧嘩が拗れた結果が人を呪う事なんだから質が悪いとしか言えない。
 文句は元旦那に言って欲しい所だ。巻き添えで呪われる赤の他人が迷惑過ぎる。本当にこう、扱い難いと言うか何と言うか。
 人間に協力的な神様の下に就けた神子が羨ましい限りだ。その能力は非常に強力ではあるが、使い辛さもその分激しい困った女神である。

「それより、あの男の事じゃないの?」

「あ、ああ。すまん。間違いないんだよな?」

「ええ。よほど殺したのでしょう。死に塗れているわ」

「黒確定ね。どうするの清志?」

「今はまだ手を出せない。先に支部長に報告しよう」

 死を象徴する神による確認が取れた以上は、後は情報部の調査に任せるだけだ。本音を言えば拷問にでも掛けて吐かせたいが、非人道的な調査は許されていない。
 ここは堪えるしかない。すぐに支部長に報告して動いて貰う以外に道はない。現行犯であれば話は早いが、今回はそうではない。
 執行者として、一番もどかしいタイミングがこう言う瞬間だといつも思い知らされるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。 ⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。

やまいし
ファンタジー
気が付くと、男性の数が著しく少ない歪な世界へ転生してしまう。 彼は持ち前の容姿と才能を使って、やりたいことをやっていく。 彼は何を志し、どんなことを成していくのか。 これはそんな彼――鳴瀬隼人(なるせはやと)の青春サクセスストーリー……withハーレム。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...