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第1章
第27話 日本の死神
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西山製薬による特別講義は問題なく終了し、警戒態勢は緩める事となった。どうやら校内で何かをするつもりは無いらしい。
本当にただ講義に来ただけの様だ。怪しいのは間違いないが、証拠も無く拘束は出来ない。深く人間の死と関わっているのは判明しても、罪状が無いのではどうしようもない。
それだけで罪に問う事は出来ない。そんな理由だけで捕まえていたら、医者や葬儀屋の人間が全員怪しい事になってしまう。
今回の斎藤と言う男も、製薬会社の人間だ。間接的にも直接的にも、人の死と関わる事があるとはぐらかされたらそれまで。
無駄に問い詰めても、こちらが疑っていると直接伝える様なものだ。そんな素人の様な下手くそ過ぎる真似はしない。
「どうするの、清志?」
「今は見逃そう。それにうちの神様に確認はさせたしな」
「あ、今日は居るんだ?」
そう言えば、まだ会わせていなかったな。何かとタイミングが合わず、アイナに紹介する機会が来ないままになっていた。
立場的にはかなり上位に位置する神であると言うのに、その本人と来たら好き放題ぶらぶらと出掛けては留守にしている。
日本神話の最上位格だと言うのに気楽なものである。日本の象徴として君臨している、天照大御神様とは偉い違いだ。
その親だと言うのに、娘と違ってぐうたらな日々。あまりにも残念な女神様だ。
「ちゃんと紹介出来てなかったな。ほら、出て来いって」
「おお~この方が」
「日本の死神、黄泉津大神だよ」
俺の真横に現れたのは、真っ黒な和服に身を包んだ和装の美女。その漆黒の衣装にはしっかりと不吉の象徴である真紅の彼岸花が描かれている。
身長は俺と変わらない、女性としては長身の180cmほど。見た目は黄泉に落ちる前の、伊邪那美命と同じ顔をしている。
カラクリは不明だが、神話に描かれた醜い顔は隠されている。神ではあっても、女性である事には変わらないと言う事なのか。
ちなみにその事に触れると、物凄く不機嫌になるのでノータッチを貫いている。女性の容姿について不用意に触れてはならないと、まだ幼い頃に学ぶ切っ掛けにもなった。
「アイナ・クラーク・三島と申します」
「知っているわ。あまり調子に乗らない様にね」
「? ええ。もちろんです」
「おい、あんまり威圧するな」
うちの女神様と来たら、初手から人のパートナーに高圧的な態度を取った。そう言う所は昔からあるが、今回は特に厳しい。
半分日本人ではないからかは不明だが、いきなりから視線が厳しい。前からどうにも気に食わないらしい様子を見せていたが、何がそんなに気に入らないのだろうか。
特別禁呪を嫌っている様な素振りも無かったから、そこが理由では無いとは思うのだが。とにかくこれから一緒にやって行くのだから、変な軋轢は生まないで欲しい。
「現世の人間を憎んでいるからって、パートナーにまで厳しく当たるのは止めてくれ」
「人間なんてどれも一緒よ」
「あ、あはは。噂通り癖の強い方なのね」
黄泉津大神が人間を憎んでいるのは非常に有名な話であり、少しでも日本神話に触れた事がある人間なら誰でも知っている。
元旦那とのいざこざの果て。伊邪那美命として人間に命を与えた反面、黄泉津大神として人間に死と言う概念を齎したとされる現世への憎悪。
日本の死神として頂点に君臨するこの女神は、神話にある通り人の死を望む存在だ。俺と言う神子が居なければ、危険過ぎて現世に呼び出せない存在。
神子との契約があっても尚、この世に死を運ぶ危険な女神。こうして制御下にある状態で、精神の一部を呼び出す程度なら危険はないが。
しかし本体を現界させるのはあまりにも危険だ。1日に1000人を殺すと宣っただけあり、死の呪詛を周囲に振り撒く。
お陰で使い所が非常に難しい女神様だ。周囲に巻き添えにしそうな人間が居る所では本体を呼べない。住宅街で呼び出そうものなら、甚大な被害が出てしまう。何とも面倒で厄介な女神様だ。
「まあその、こうしてる間は無害だから」
「酷い言い草だわ。私の神子の癖に。もっと敬いなさい?」
「……じゃあ人を呪わないか?」
「それは無理な相談ね」
これである。どう敬えと言うのか。大体元を正せば夫婦喧嘩が拗れた結果が人を呪う事なんだから質が悪いとしか言えない。
文句は元旦那に言って欲しい所だ。巻き添えで呪われる赤の他人が迷惑過ぎる。本当にこう、扱い難いと言うか何と言うか。
人間に協力的な神様の下に就けた神子が羨ましい限りだ。その能力は非常に強力ではあるが、使い辛さもその分激しい困った女神である。
「それより、あの男の事じゃないの?」
「あ、ああ。すまん。間違いないんだよな?」
「ええ。よほど殺したのでしょう。死に塗れているわ」
「黒確定ね。どうするの清志?」
「今はまだ手を出せない。先に支部長に報告しよう」
死を象徴する神による確認が取れた以上は、後は情報部の調査に任せるだけだ。本音を言えば拷問にでも掛けて吐かせたいが、非人道的な調査は許されていない。
ここは堪えるしかない。すぐに支部長に報告して動いて貰う以外に道はない。現行犯であれば話は早いが、今回はそうではない。
執行者として、一番もどかしいタイミングがこう言う瞬間だといつも思い知らされるのだ。
本当にただ講義に来ただけの様だ。怪しいのは間違いないが、証拠も無く拘束は出来ない。深く人間の死と関わっているのは判明しても、罪状が無いのではどうしようもない。
それだけで罪に問う事は出来ない。そんな理由だけで捕まえていたら、医者や葬儀屋の人間が全員怪しい事になってしまう。
今回の斎藤と言う男も、製薬会社の人間だ。間接的にも直接的にも、人の死と関わる事があるとはぐらかされたらそれまで。
無駄に問い詰めても、こちらが疑っていると直接伝える様なものだ。そんな素人の様な下手くそ過ぎる真似はしない。
「どうするの、清志?」
「今は見逃そう。それにうちの神様に確認はさせたしな」
「あ、今日は居るんだ?」
そう言えば、まだ会わせていなかったな。何かとタイミングが合わず、アイナに紹介する機会が来ないままになっていた。
立場的にはかなり上位に位置する神であると言うのに、その本人と来たら好き放題ぶらぶらと出掛けては留守にしている。
日本神話の最上位格だと言うのに気楽なものである。日本の象徴として君臨している、天照大御神様とは偉い違いだ。
その親だと言うのに、娘と違ってぐうたらな日々。あまりにも残念な女神様だ。
「ちゃんと紹介出来てなかったな。ほら、出て来いって」
「おお~この方が」
「日本の死神、黄泉津大神だよ」
俺の真横に現れたのは、真っ黒な和服に身を包んだ和装の美女。その漆黒の衣装にはしっかりと不吉の象徴である真紅の彼岸花が描かれている。
身長は俺と変わらない、女性としては長身の180cmほど。見た目は黄泉に落ちる前の、伊邪那美命と同じ顔をしている。
カラクリは不明だが、神話に描かれた醜い顔は隠されている。神ではあっても、女性である事には変わらないと言う事なのか。
ちなみにその事に触れると、物凄く不機嫌になるのでノータッチを貫いている。女性の容姿について不用意に触れてはならないと、まだ幼い頃に学ぶ切っ掛けにもなった。
「アイナ・クラーク・三島と申します」
「知っているわ。あまり調子に乗らない様にね」
「? ええ。もちろんです」
「おい、あんまり威圧するな」
うちの女神様と来たら、初手から人のパートナーに高圧的な態度を取った。そう言う所は昔からあるが、今回は特に厳しい。
半分日本人ではないからかは不明だが、いきなりから視線が厳しい。前からどうにも気に食わないらしい様子を見せていたが、何がそんなに気に入らないのだろうか。
特別禁呪を嫌っている様な素振りも無かったから、そこが理由では無いとは思うのだが。とにかくこれから一緒にやって行くのだから、変な軋轢は生まないで欲しい。
「現世の人間を憎んでいるからって、パートナーにまで厳しく当たるのは止めてくれ」
「人間なんてどれも一緒よ」
「あ、あはは。噂通り癖の強い方なのね」
黄泉津大神が人間を憎んでいるのは非常に有名な話であり、少しでも日本神話に触れた事がある人間なら誰でも知っている。
元旦那とのいざこざの果て。伊邪那美命として人間に命を与えた反面、黄泉津大神として人間に死と言う概念を齎したとされる現世への憎悪。
日本の死神として頂点に君臨するこの女神は、神話にある通り人の死を望む存在だ。俺と言う神子が居なければ、危険過ぎて現世に呼び出せない存在。
神子との契約があっても尚、この世に死を運ぶ危険な女神。こうして制御下にある状態で、精神の一部を呼び出す程度なら危険はないが。
しかし本体を現界させるのはあまりにも危険だ。1日に1000人を殺すと宣っただけあり、死の呪詛を周囲に振り撒く。
お陰で使い所が非常に難しい女神様だ。周囲に巻き添えにしそうな人間が居る所では本体を呼べない。住宅街で呼び出そうものなら、甚大な被害が出てしまう。何とも面倒で厄介な女神様だ。
「まあその、こうしてる間は無害だから」
「酷い言い草だわ。私の神子の癖に。もっと敬いなさい?」
「……じゃあ人を呪わないか?」
「それは無理な相談ね」
これである。どう敬えと言うのか。大体元を正せば夫婦喧嘩が拗れた結果が人を呪う事なんだから質が悪いとしか言えない。
文句は元旦那に言って欲しい所だ。巻き添えで呪われる赤の他人が迷惑過ぎる。本当にこう、扱い難いと言うか何と言うか。
人間に協力的な神様の下に就けた神子が羨ましい限りだ。その能力は非常に強力ではあるが、使い辛さもその分激しい困った女神である。
「それより、あの男の事じゃないの?」
「あ、ああ。すまん。間違いないんだよな?」
「ええ。よほど殺したのでしょう。死に塗れているわ」
「黒確定ね。どうするの清志?」
「今はまだ手を出せない。先に支部長に報告しよう」
死を象徴する神による確認が取れた以上は、後は情報部の調査に任せるだけだ。本音を言えば拷問にでも掛けて吐かせたいが、非人道的な調査は許されていない。
ここは堪えるしかない。すぐに支部長に報告して動いて貰う以外に道はない。現行犯であれば話は早いが、今回はそうではない。
執行者として、一番もどかしいタイミングがこう言う瞬間だといつも思い知らされるのだ。
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