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第1章
第24話 支部長からの依頼
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結局の所、魔導協会京都支部にテロリストが襲撃を掛けて以来平和なものだった。あれから一切テロらしき事件は無い。
テロリストの目撃証言もなく、捜査は難航していた。表向きは平和だからこそ、どうやって侵入を許したのかと議論される日々。
どこかの企業が手引したと言う点については、まだ公表されていなかった。情報部が総出で調査を開始して暫く経つが、結果は芳しく無い。
既に何らかの目的を達成し、帰国したのではないかと言う説も出ていた。目立った動きも見られず、尻尾を掴む事も出来ていない。
これと言った進展も見られぬまま、ただ時間だけが過ぎて行く。警戒し続けると言うのも、実際には疲れるものだ。
明らかに疲弊が見られる者も少なくはなかった。清志とアイナの2人は、最近学校が終わると京都支部に顔を出している。そんな日々の中で、空気が悪くなって行くのを肌で感じていた。
「良くない空気だな」
「そうね、このままは厳しいわ」
「Aランク以上は良いけど、B以下がな」
Aランク以上の魔術師なら、1ヶ月以上も張り込みを続ける事が普通にある。しかしBランク以下の場合は、長期に渡る緊張状態を維持する機会が少ない。
凶悪犯と対峙する機会も少なく、今の様に情報不明のまま活動する事はあまりない。それがストレスとなって、低位の魔術師を苦しめていた。
Bランク以下でもベテランならケロっとしているが、最近成人したばかりの新人魔術師達はそうも行かない。
清志達の様に、学生時代から厳しい現場に出るのはAランク以上のみ。今回が初めての長期戦となった若い魔術師達が、浮足立った行動に出ないかが危惧され初めていた。
「おっと、ゲンさん! 何か情報はない?」
「おぉ、ボウズか。そっちは噂の子だな」
「どうも、アイナと呼んで頂ければ」
清志が呼び止めたのは、どこにでも居る様な中年の男性だ。中肉中背で見た目に目立った特徴もない。街中を歩けば背景に馴染む程に印象が薄い。
しかしそれこそが、彼の狙い。どこにでも居そうな風貌に扮し、誰かの印象に残る事もなく活動する。情報部が誇る諜報のエキスパート。
情報屋のゲンさんと呼ばれる忍術使いだ。本名も本当の素顔も誰も知らない。性別や年齢も、偽りではないかと噂される謎多き人物。
そんな人物との接触が2人の目的であった。会議室の前で、2人と1人が視線を交わし合う。通路を行き交う人々には聞こえない、特殊な方法でゲンの声が2人に届く。
「西山製薬」
「あそこが怪しいのか?」
「まだ分からんがな。ただ俺のカンじゃグレーだな」
西山製薬とは、ここ数年で一気に勢力を伸ばして来た大企業である。病院で使う医薬品から、市販の風邪薬まで様々な商品を取り扱っている。
少し前に流行った、有名な伝染病の特効薬で名を知られる事になった会社だ。海外との取引で規模を拡大し、今の地位を得た。
現在は日本でも5本の指に入る会社となり、ここ京都にも研究所と製造工場を持っていた。拠点を持っているのなら、怪しい人物を匿う事は可能だ。
海外との取引もある以上は、今回の件で調査対象になるのも当然だった。その一環で調査に当たった諜報のプロが、グレーだと判断したのは大きな成果と言える。
「気をつけなよ、お二人さん」
「ええ、そうするわ」
「助かったよ、ゲンさん!」
諜報のプロフェッショナルは、背中向けると同時に綺麗に人波に消えて行った。まるで煙の様に清志とアイナの視界から姿を消してみせた手腕は流石と言えた。
Sランク2人の目の前から、一瞬で姿を隠した実力に初見のアイナは流石に目を見張った。
「彼、凄いわね。一瞬で見失うなんて……」
「あれは驚くよな。未だに手品のタネが分からないよ」
ゲンの実力を讃え合いながらも、2人は次の目的地へと向かう。魔導協会京都支部の支部長室、そこに2人を呼び出した人物が居る。
2人は約束の時間の5分前に支部長室に到着すると、室内に通された。そこに居たのは支部長である波多野圭一と、情報部所属のオペレーターである安達奈緒子だった。
秘書の様にお茶の用意をする奈緒子に促され、2人は応接用のテーブルに座る。
「呼び出された理由は説明せんでも分かるやんな?」
「例のテロリストですよね?」
「それ絡みやな。西山製薬については、聞いてるかな?」
「さっきゲンって人に聞いたわよ」
「ほな話は早いな」
それから説明された今後の方針。数週間後に嵯峨学園へ、西山製薬から特別講義の講師が来る。どうにもその講師役の人間にきな臭い噂があるとの事。
その為に清志とアイナには、直接見て感じた事を教えて欲しいと言う依頼だった。支部から直接人を送る場合は警戒もされるが、元々生徒として在籍している2人なら別だ。
もちろんSランクの現役執行者だ、警戒はされるだろう。しかし支部が直々に調査対象にしているとまでは悟られないだろうとの考えから来た発想だった。
「ゲンさんがグレーや言うてて、僕も怪しいて思うとる」
「確証が欲しいって事ですね?」
「君ら2人と死を象徴する神様がどう判断するか、聞かせて欲しいんや。頼むで」
清志とアイナが出会って、解決する事になる数々の事件簿。その最初の1ページが、始まろうとしていた。
テロリストの目撃証言もなく、捜査は難航していた。表向きは平和だからこそ、どうやって侵入を許したのかと議論される日々。
どこかの企業が手引したと言う点については、まだ公表されていなかった。情報部が総出で調査を開始して暫く経つが、結果は芳しく無い。
既に何らかの目的を達成し、帰国したのではないかと言う説も出ていた。目立った動きも見られず、尻尾を掴む事も出来ていない。
これと言った進展も見られぬまま、ただ時間だけが過ぎて行く。警戒し続けると言うのも、実際には疲れるものだ。
明らかに疲弊が見られる者も少なくはなかった。清志とアイナの2人は、最近学校が終わると京都支部に顔を出している。そんな日々の中で、空気が悪くなって行くのを肌で感じていた。
「良くない空気だな」
「そうね、このままは厳しいわ」
「Aランク以上は良いけど、B以下がな」
Aランク以上の魔術師なら、1ヶ月以上も張り込みを続ける事が普通にある。しかしBランク以下の場合は、長期に渡る緊張状態を維持する機会が少ない。
凶悪犯と対峙する機会も少なく、今の様に情報不明のまま活動する事はあまりない。それがストレスとなって、低位の魔術師を苦しめていた。
Bランク以下でもベテランならケロっとしているが、最近成人したばかりの新人魔術師達はそうも行かない。
清志達の様に、学生時代から厳しい現場に出るのはAランク以上のみ。今回が初めての長期戦となった若い魔術師達が、浮足立った行動に出ないかが危惧され初めていた。
「おっと、ゲンさん! 何か情報はない?」
「おぉ、ボウズか。そっちは噂の子だな」
「どうも、アイナと呼んで頂ければ」
清志が呼び止めたのは、どこにでも居る様な中年の男性だ。中肉中背で見た目に目立った特徴もない。街中を歩けば背景に馴染む程に印象が薄い。
しかしそれこそが、彼の狙い。どこにでも居そうな風貌に扮し、誰かの印象に残る事もなく活動する。情報部が誇る諜報のエキスパート。
情報屋のゲンさんと呼ばれる忍術使いだ。本名も本当の素顔も誰も知らない。性別や年齢も、偽りではないかと噂される謎多き人物。
そんな人物との接触が2人の目的であった。会議室の前で、2人と1人が視線を交わし合う。通路を行き交う人々には聞こえない、特殊な方法でゲンの声が2人に届く。
「西山製薬」
「あそこが怪しいのか?」
「まだ分からんがな。ただ俺のカンじゃグレーだな」
西山製薬とは、ここ数年で一気に勢力を伸ばして来た大企業である。病院で使う医薬品から、市販の風邪薬まで様々な商品を取り扱っている。
少し前に流行った、有名な伝染病の特効薬で名を知られる事になった会社だ。海外との取引で規模を拡大し、今の地位を得た。
現在は日本でも5本の指に入る会社となり、ここ京都にも研究所と製造工場を持っていた。拠点を持っているのなら、怪しい人物を匿う事は可能だ。
海外との取引もある以上は、今回の件で調査対象になるのも当然だった。その一環で調査に当たった諜報のプロが、グレーだと判断したのは大きな成果と言える。
「気をつけなよ、お二人さん」
「ええ、そうするわ」
「助かったよ、ゲンさん!」
諜報のプロフェッショナルは、背中向けると同時に綺麗に人波に消えて行った。まるで煙の様に清志とアイナの視界から姿を消してみせた手腕は流石と言えた。
Sランク2人の目の前から、一瞬で姿を隠した実力に初見のアイナは流石に目を見張った。
「彼、凄いわね。一瞬で見失うなんて……」
「あれは驚くよな。未だに手品のタネが分からないよ」
ゲンの実力を讃え合いながらも、2人は次の目的地へと向かう。魔導協会京都支部の支部長室、そこに2人を呼び出した人物が居る。
2人は約束の時間の5分前に支部長室に到着すると、室内に通された。そこに居たのは支部長である波多野圭一と、情報部所属のオペレーターである安達奈緒子だった。
秘書の様にお茶の用意をする奈緒子に促され、2人は応接用のテーブルに座る。
「呼び出された理由は説明せんでも分かるやんな?」
「例のテロリストですよね?」
「それ絡みやな。西山製薬については、聞いてるかな?」
「さっきゲンって人に聞いたわよ」
「ほな話は早いな」
それから説明された今後の方針。数週間後に嵯峨学園へ、西山製薬から特別講義の講師が来る。どうにもその講師役の人間にきな臭い噂があるとの事。
その為に清志とアイナには、直接見て感じた事を教えて欲しいと言う依頼だった。支部から直接人を送る場合は警戒もされるが、元々生徒として在籍している2人なら別だ。
もちろんSランクの現役執行者だ、警戒はされるだろう。しかし支部が直々に調査対象にしているとまでは悟られないだろうとの考えから来た発想だった。
「ゲンさんがグレーや言うてて、僕も怪しいて思うとる」
「確証が欲しいって事ですね?」
「君ら2人と死を象徴する神様がどう判断するか、聞かせて欲しいんや。頼むで」
清志とアイナが出会って、解決する事になる数々の事件簿。その最初の1ページが、始まろうとしていた。
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