死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

文字の大きさ
上 下
24 / 95
第1章

第24話 支部長からの依頼

しおりを挟む
 結局の所、魔導協会京都支部にテロリストが襲撃を掛けて以来平和なものだった。あれから一切テロらしき事件は無い。
 テロリストの目撃証言もなく、捜査は難航していた。表向きは平和だからこそ、どうやって侵入を許したのかと議論される日々。
 どこかの企業が手引したと言う点については、まだ公表されていなかった。情報部が総出で調査を開始して暫く経つが、結果は芳しく無い。
 既に何らかの目的を達成し、帰国したのではないかと言う説も出ていた。目立った動きも見られず、尻尾を掴む事も出来ていない。
 これと言った進展も見られぬまま、ただ時間だけが過ぎて行く。警戒し続けると言うのも、実際には疲れるものだ。
 明らかに疲弊が見られる者も少なくはなかった。清志せいじとアイナの2人は、最近学校が終わると京都支部に顔を出している。そんな日々の中で、空気が悪くなって行くのを肌で感じていた。

「良くない空気だな」

「そうね、このままは厳しいわ」

「Aランク以上は良いけど、B以下がな」

 Aランク以上の魔術師なら、1ヶ月以上も張り込みを続ける事が普通にある。しかしBランク以下の場合は、長期に渡る緊張状態を維持する機会が少ない。
 凶悪犯と対峙する機会も少なく、今の様に情報不明のまま活動する事はあまりない。それがストレスとなって、低位の魔術師を苦しめていた。
 Bランク以下でもベテランならケロっとしているが、最近成人したばかりの新人魔術師達はそうも行かない。
 清志達の様に、学生時代から厳しい現場に出るのはAランク以上のみ。今回が初めての長期戦となった若い魔術師達が、浮足立った行動に出ないかが危惧され初めていた。

「おっと、ゲンさん! 何か情報はない?」

「おぉ、ボウズか。そっちは噂の子だな」

「どうも、アイナと呼んで頂ければ」

 清志が呼び止めたのは、どこにでも居る様な中年の男性だ。中肉中背で見た目に目立った特徴もない。街中を歩けば背景に馴染む程に印象が薄い。
 しかしそれこそが、彼の狙い。どこにでも居そうな風貌に扮し、誰かの印象に残る事もなく活動する。情報部が誇る諜報のエキスパート。
 情報屋のゲンさんと呼ばれる忍術使いだ。本名も本当の素顔も誰も知らない。性別や年齢も、偽りではないかと噂される謎多き人物。
 そんな人物との接触が2人の目的であった。会議室の前で、2人と1人が視線を交わし合う。通路を行き交う人々には聞こえない、特殊な方法でゲンの声が2人に届く。

「西山製薬」

「あそこが怪しいのか?」

「まだ分からんがな。ただ俺のカンじゃグレーだな」

 西山製薬とは、ここ数年で一気に勢力を伸ばして来た大企業である。病院で使う医薬品から、市販の風邪薬まで様々な商品を取り扱っている。
 少し前に流行った、有名な伝染病の特効薬で名を知られる事になった会社だ。海外との取引で規模を拡大し、今の地位を得た。
 現在は日本でも5本の指に入る会社となり、ここ京都にも研究所と製造工場を持っていた。拠点を持っているのなら、怪しい人物を匿う事は可能だ。
 海外との取引もある以上は、今回の件で調査対象になるのも当然だった。その一環で調査に当たった諜報のプロが、グレーだと判断したのは大きな成果と言える。

「気をつけなよ、お二人さん」

「ええ、そうするわ」

「助かったよ、ゲンさん!」

 諜報のプロフェッショナルは、背中向けると同時に綺麗に人波に消えて行った。まるで煙の様に清志とアイナの視界から姿を消してみせた手腕は流石と言えた。
 Sランク2人の目の前から、一瞬で姿を隠した実力に初見のアイナは流石に目を見張った。

「彼、凄いわね。一瞬で見失うなんて……」

「あれは驚くよな。未だに手品のタネが分からないよ」

 ゲンの実力を讃え合いながらも、2人は次の目的地へと向かう。魔導協会京都支部の支部長室、そこに2人を呼び出した人物が居る。
 2人は約束の時間の5分前に支部長室に到着すると、室内に通された。そこに居たのは支部長である波多野圭一はたのけいいちと、情報部所属のオペレーターである安達奈緒子あだちなおこだった。
 秘書の様にお茶の用意をする奈緒子に促され、2人は応接用のテーブルに座る。

「呼び出された理由は説明せんでも分かるやんな?」

「例のテロリストですよね?」

「それ絡みやな。西山製薬については、聞いてるかな?」

「さっきゲンって人に聞いたわよ」

「ほな話は早いな」

 それから説明された今後の方針。数週間後に嵯峨学園へ、西山製薬から特別講義の講師が来る。どうにもその講師役の人間にきな臭い噂があるとの事。
 その為に清志とアイナには、直接見て感じた事を教えて欲しいと言う依頼だった。支部から直接人を送る場合は警戒もされるが、元々生徒として在籍している2人なら別だ。
 もちろんSランクの現役執行者だ、警戒はされるだろう。しかし支部が直々に調査対象にしているとまでは悟られないだろうとの考えから来た発想だった。

「ゲンさんがグレーや言うてて、僕も怪しいて思うとる」

「確証が欲しいって事ですね?」

「君ら2人と死を象徴する神様がどう判断するか、聞かせて欲しいんや。頼むで」

 清志とアイナが出会って、解決する事になる数々の事件簿。その最初の1ページが、始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。 ⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ピボット高校アーカイ部

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
デジタル職人の祖父と暮らしている僕(田中鋲)は二つ受けた入試に落ちて、祖父が、なんとか探してくれたピボット高校に入ることになる。  ちょっとレベルの高い私学で、ついて行けるか心配。  入学にあたっては一つだけ条件があった。 『アーカイ部』に入部すること。  アーカイ部には、旧制服を着た部長の真中螺子(まなからこ)がいるだけだった。  ロングヘア―のよく似合う美人なんだけど、ちょっと怪しい……。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。

やまいし
ファンタジー
気が付くと、男性の数が著しく少ない歪な世界へ転生してしまう。 彼は持ち前の容姿と才能を使って、やりたいことをやっていく。 彼は何を志し、どんなことを成していくのか。 これはそんな彼――鳴瀬隼人(なるせはやと)の青春サクセスストーリー……withハーレム。

処理中です...