死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

文字の大きさ
上 下
20 / 95
第1章

第20話 疑惑

しおりを挟む
「失礼します」

 魔都京都が誇る最高クラスの魔術師育成機関。各分野の専門家が集まる嵯峨学園の職員棟。その最上階にある学園長室には、義姉である高嶋玲央奈たかしまれおながどっしりと構えている。
 机やソファー、棚やカップに至るまで全ての調度品が高級品。他国の大統領すら招くと言われているその室内は、相変わらず圧迫感が凄い。
 義姉からのプレッシャーではなく、汚したらどうしようと言う小市民的な発想で。触れる物全てが高級品なのだから。

「昼はちゃんと持って来たな?」

「まあ。そう言われるかなと思って」

「じゃあ食べながらで良い。詳細を教えてくれ」

 何やらパソコンに打ち込んでいたらしい手を止めて、義姉さんはこちらを見ている。昼休みに呼び出された時は、大体ここで食べながら話せと言われる。
 だから今日もそうだろうなと思って持って来てはいた。ただ、汚したらどうしようと気が気でない。非常に神経を使う昼食となるので、あまり好きではないし慣れない。
 どうせこうなると思ったから、油モノは弁当に入れなかった。焼き魚に天ぷら、フライ系は全て排除し野菜やアッサリした物を中心にしてある。ナイス判断と言えるだろう。

「それで、何が聞きたいの?」

「お前が処理した方だが、何か言っていたか?」

「いや? 特に役に立つ様な事は何も」

 魔導犯罪者に情けはかけないが、何の情報も得ずに処理はしない。それなりに吐かせようとは試みたが、ただの魔導犯罪者でしか無かった。
 いずれ貴様に神罰が下るだの何だの、散々喚き散らすだけで会話にならなかった。多少煽ったりもしてみたが、そちらも効果はなし。中東解放戦線としては、ただの使いっ走りなんじゃないだろうか。

「普通のただのテロリストだったけどな」

「ふむ、なら彼女が捕らえた方は当たりか?」

「えっ……もしかして何か喋ったの?」

 俺が担当した方は、特にこれと言って情報は持って居ない様だったが。特に目新しい情報も無く、斬った時に魂を調べて貰ったがそちらも空振り。
 魔導協会に属している者なら誰でも知っている様な内容ばかり記録されていた。俺の様な死神を擁する魔術師は、魂の情報を知る事が出来る。
 生前どんな事をして来たのか、どんな人生だったのか。その全てを知る事が出来る。だから悪人など、さっさと斬り捨ててしまえば良い。
 本人にいちいち問い詰めるより、斬った方が早い。ついうっかりと、ボロを出す事もあるから一応最低限は聞く様にはしているが。

「いや、大した情報はない。記憶や魂魄を探らせても新情報は無かった」

「じゃあ何が」

「迎えが来ると口走ったらしくてな」

「迎えって、それ……」

 増援もしくは救出部隊か? 今回の件はあれで終わりでは無いと言う事だろうか。それなら少々厄介な事になる。
 国際指名手配をされているテロ組織が、日本国内に平気で入り込めただけで問題だ。それがまだ続くと言うなら、どこから入って来ているのか早急に調べないと不味い事になる。
 今は2人しか居ないとは言っても、俺達は神坂の一族。国の癒やし手であり、護り手だ。国内でテロリストに好き放題させるなど、許す訳にはいかない。

「義姉さん、そいつ他に何か知らないのか?」

「残念ながらな。入国前に記憶と魂を弄られたのだろう」

「随分と徹底してやがる」

 だからあの女、あんなに会話が成り立たなかったのか。神が何だのと喚き散らすばかりで、ただの戦闘人形みたいな歪さだった。
 アイナが捕らえた方は、運良く改竄に不備があったのだろう。本来なら消えていた筈の記憶の断片から、たまたま口にしてしまったものと思われる。
 こうなって来るともう、アイナに全力で土下座するしかない。むしろ良くやったよ、グッジョブでしかないよ。足向けて寝られないって。

「待て義姉さん、じゃあ昨日の奴らは」

「ああ、陽動かも知れない」

「まんまと乗せられちまった」

「いや、あれは仕方ない。被害が最小限で済んだのだから十分だ」

 確かにそれはそうかも知れないけど、だからと言ってこの状況は宜しくない。大の為に小を見捨てるのは大嫌いだが、小の為に大を見逃す事を善しとはしていない。
 簡単にテロ組織に侵入されました、なんて事になれば普通にセキュリティ面での大スキャンダルだ。全く笑えない大問題となる。昨日の時点で、結構な騒ぎだったと言うのに。

清志せいじ、これを見ろ」

「これは、入国リスト?」

 義姉さんが壁面のスクリーンに表示したのは、海外からの日本への入国記録だった。昨年や一昨年と比べて、中東地域からの入国が今年は2割ほど多い。
 単なる観光客増加の可能性だってあるが、今回の件を考えると少々気になる数字だ。無関係と断じるのは早計だろう。

「この2割の増加だがな、うち8割が企業絡みだ」

「……まさか、テロ組織を招き入れた企業があるってのか!?」

「可能性の話だ。まだ誰にも言うなよ」

「分かった」

 随分と厄介な話になって来たな。中東系テロ組織の中でも、かなりの規模を誇る連中が国内に入ったとなれば一切の油断は出来ない。
 しかもそれを意図的に計画した国内企業が存在すると来た。ならばこの先、最悪の想定をしておかねばならない。
 まだ未成年ではあっても、俺はSランクの魔術師として、大人と変わらないだけの仕事をして来た。ここで役に立たない様では、何をして来たのかと笑われてしまう。

「私はこれから、神坂の者として御所で両陛下の護衛に参加する。暫く帰らんが任せたぞ」

「義姉さん、それなら俺も!」

「何の為にアイナと組ませたと思っている? いざと言う時は頼むぞ」

 適材適所と言う事ですか。確かに俺は護衛こそ出来ても、回復系魔術は平凡だ。対して義姉さんは回復魔術のエキスパートで、対人戦もAランクの中ではトップクラスだ。
 そんな人材を前線に出すよりも、俺やアイナを使う方が効率的だ。そう言う事なら俺は俺で、自由にやらせて貰おう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。 ⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ピボット高校アーカイ部

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
デジタル職人の祖父と暮らしている僕(田中鋲)は二つ受けた入試に落ちて、祖父が、なんとか探してくれたピボット高校に入ることになる。  ちょっとレベルの高い私学で、ついて行けるか心配。  入学にあたっては一つだけ条件があった。 『アーカイ部』に入部すること。  アーカイ部には、旧制服を着た部長の真中螺子(まなからこ)がいるだけだった。  ロングヘア―のよく似合う美人なんだけど、ちょっと怪しい……。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貞操逆転の世界で、俺は理想の青春を歩む。

やまいし
ファンタジー
気が付くと、男性の数が著しく少ない歪な世界へ転生してしまう。 彼は持ち前の容姿と才能を使って、やりたいことをやっていく。 彼は何を志し、どんなことを成していくのか。 これはそんな彼――鳴瀬隼人(なるせはやと)の青春サクセスストーリー……withハーレム。

処理中です...