死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第16話 最初の仕事 前編

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 アイナと清志せいじ亮二りょうし茉莉まりの4人組は河原町へとやって来た。7月が近付き結構な暑さの中で、デパートへと向かう。
 事の発端はアイナが買い物に行きたいと言い出したからだ。同じく明るい性格の茉莉とは、すぐに馴染んだ2人が主導で日程が決まった。清志も来たら良いと、アイナが言い出し結局亮二までも巻き込まれた。

「え、アイナそのピアス新作のやつ!?」

「そうだよー誕生日に貰った」

「流石は海軍のお嬢様、羨ましい限りで」

 女性陣は先程から、コスメやアクセサリーの話で盛り上がっていた。両者ともに第一線で活躍する魔術師ではあるが、同時に年頃の女の子でもある。
 当然そう言った事も2人は大切にしていた。殺伐とした世界に身を置くからこそ、こう言った日常的な些細な事が貴重なのだ。そんな日常を守る為に、魔術師をやっているのだから。

「亮二、分かるか?」

「あ? まあ多少は分かるぞ」

「……マジか。着いていけねぇよ」

 清志は執行者としての日々に、どっぷり染まり切っていたので女性向けブランドの話なんて何も知らなかった。
 義姉の所持品などから、名前ぐらいは聞いた事がある。しかしそれがどこの何のブランドなのかは知らない。
 瓶を見たことはあっても、それに何が入っているのか知らない。対して亮二は、諜報の為に女装をする事もある。
 その関係で基本的な知識を持っていた。この話題に混ざれないのは、清志ただ一人だった。

「何してるの清志? こっち来なよ」

「ちょ、待てアイナ引っ張るなよ」

 端の方で居心地悪そうにしている清志を、アイナが引き寄せた瞬間だった。爆発音と共に衝撃波が河原町通りを走る。爆発の余波で信号機がゆらゆらと揺れている。

「何だ!?」

「あそこだよ清志!」

 アイナの指さした先には、4人が今から行こうとしていたデパートがあった。3階部分が何らかの爆発でボロボロになっているのが見えた。
 燻る炎も見えており、火災が発生しているらしい。突然の爆発事故に警戒する4人のスマートフォンに、魔導協会からの緊急コールが入る。
 魔導協会支給のスマートフォンには、特別な機能が搭載されている。近くに居る者同士の通話をリンクさせる事が出来る機能だ。
 この機能を使用すれば、1人のオペレーターで同時に複数人と会話が可能になる。二人一組や四人二組が基本的な魔術師にとっては、非常に便利な機能だった。
 そして緊急コールが来たと言う事は、そう言う事で事故じゃないらしい。4人は目配せをした後、支給されたワイヤリングイヤホンを装着した。

『良かった、清志君達が近くに居てくれて』

安達あだちさん? どうしたんですか」

『実は結構厄介な事になっていて』

 清志の担当オペレーターをやっている、安達奈緒子あだちなおこからの連絡だった。今の爆発は以前から動向を追っていた、中東系テロ組織が原因らしい。
 事の発端は有名なテロリスト集団、「中東解放戦線」の入国が判明して確保に向かった事。しかし一部の構成員が逃亡。
 先程のデパートで人質を取り立て籠もり、そしてあの爆発の騒ぎに乗じて再び逃走。どうやら手練れが紛れていたらしい。

「逃げたのは何人ですか?」

『2人よ。両方国際指名手配されているA級犯罪者』

「それを俺とアイナが抑えれば良いんですね?」

『ごめんね~! いつもこんな仕事ばっかりで』

 清志の様な執行者は、貧乏くじを引かされたり尻拭いをする事になるパターンが多い。想定外の事態への備えとして配属されているので、どうしてもこの様な仕事が舞い込みがちだ。
 清志もアイナも、それを承知の上でやっている。だからそこについての不満など無かった。

「それで、相手は?」

『スーフィズム系統の雷撃使い、Aランクのサリーマ・イドリス。女性のA級犯罪者よ』

「もう一人は?」

『同じくスーフィズム系統の火炎使い、Aランクのハキム・タラール。男性のA級犯罪者ね』

 倒すべき2人のテロリストは、それぞれ相当な犯罪行為を行っていた。各国の重要施設破壊、要人への襲撃。テロによる無差別殺人など挙げたらキリが無いほどだ。
 酌量の余地など、微塵も存在しない大悪党だ。2人が居なければ、幸せに生きられた人々がどれだけ居たか。

『情報部の人間が追跡しています。二手に別れて移動中との事』

「なるほど。アイナ、どっちが良い?」

「そうね……じゃあ男の方を貰うね」

「じゃあ安達さん、そう言う事で」

 ハキム・タラールをアイナが、サリマーマ・イドリスを清志が担当する事に決まった。魔導犯罪者でも特に厄介なタイプは、Sランクを宛てがった方が何かと早い。
 圧倒的な力量差で、早期解決が望ましい。特に今回の様な国際テロリストともなると余計に。下手に被害を増やす前に、早急に処理してしまった方が良い。

『茉莉ちゃん達は救助活動を手伝って貰える?』

「オケー」

「お前ら、気を付けて行けよ」

 亮二と茉莉の2人と別れた清志とアイナは、それぞれ近くで拾ったタクシーに乗り込む。清志は北西方向へ、アイナは北東方向へと向かう。
 初めてパートナーを得た2人の、最初の仕事が始まった。初手から中々の大物を引き当てたが、この2人が負ける様な相手では無かった。
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