死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第14話 Sランクコンビ

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 魔術により再現されたフィールドは、高層ビルの中だった。複数の会社がオフィスを構えた、オフィスビルの11階に清志せいじとアイナは立っていた。
 窓の外にも似たようなビル群が建ち並んでいるのが室内から伺える。このシミュレーターには、特殊な魔術が施されている。
 空間拡張の最新技術が使われており、窓の外もちゃんと作られている。作り出された空間は、最大で半径500mまで拡げる事が出来る。

 元々コンサートホールぐらいの広さがある闘技場ではあるが、それでもその広さには限りがある。複数の生徒が戦闘訓練に利用するには、少々手狭であった。
 しかしこのシミュレーターがあれば、何の問題もない。出入りする為の専用ゲートを利用するだけで、拡張空間内を出たり入ったり出来る。
 ゲートは通常のドアを倍にした程度のサイズでしかないので、それより大きな物は入れられない。今は闘技場の中央に、専用ゲートがポツンと鎮座している。
 今回はSランクコンビの訓練用に使っているが、本来ならこの空間に全員が入る。そこでシチュエーションに合わせた戦闘訓練を受けるのが魔法戦技本来の授業である。

「俺が先行すれば良いか?」

「ええ、こっちで合わせるから」

 学園で初めて誕生したSランクコンビの戦闘とあって、客席で観戦している生徒は多い。今回は天井から吊るされたモニターに、シミュレーター内部の映像が映し出されている。
 拡張空間の中に居る2人には確認出来ないが、清志達の後ろを着いて行く様な映像や出現した敵の映像が確認出来る。
 これらの機能を利用すれば、実戦さながらの闘技大会も開催が可能だ。実際授業の一環として、トーナメント戦等をやる日もあったりする。

 とても便利なシステムではあるが、非常に高価で維持コストも馬鹿にならない。かなりの金食い虫だ。
 開発当初はこれがあれば、競技場などの施設をいちいち作る必要がないのではないか。そんな意見も出た事もある。しかしコスパが合わずに立ち消えとなった。
 今の技術ではまだ、テーマパークやショッピングモールなどの建造物を普通に作る方が安い。空間拡張技術の本格的利用は、まだまだ先の未来になりそうだった。

「発見した。先に行く」

「オーケー」

 オフィスビルの様な室内戦では、清志の大鎌は取り回しが悪い。それもあって今は小太刀を使用していた。清志は大鎌の他に、複数の武器を使い分ける。
 今使ってる居る小太刀や、薙刀に和弓などマルチな戦い方が可能だ。それぞれ全て、サブウェポンとして十分に使いこなす事が出来る。
 武器を使わない格闘戦も可能で、狭い室内だからと言ってパフォーマンスは低下しない。素早く駆け抜けた清志が、銃火器を所持した武装集団に突撃する。
 5人組の異国人風の男達の内、2人が瞬く間に制圧された。まだ対応しきれて居ない残された3人に向かって、アイナが放った弾丸が突き刺さる。
 今倒された敵の設定はBランク魔術師に相当していた。人数差があっても、この2人にとっては障害にはなり得ない。

「やるな」

「これぐらい余裕よ」

「じゃあ次だ」

 それからも、複数のグループを制圧して回る2人。前衛の清志が切り込み、後衛のアイナが精確な射撃で援護する。
 突然の遭遇戦になっても、遠近両方こなせる2人は揺らぐ事はない。格闘戦も可能なアイナが瞬時に対応し、清志が魔術でサポートする。
 どちらが前衛後衛をやっても、結果に大きな差は生まれない。順調に敵集団を無力化していく。これはシミュレーターなので、無力化した敵を縛り上げたりする必要はない。
 まるでゲームの様にポリゴンの欠片となって消えて行くだけだ。そのせいもあって、異様な早さで先に進んで行く。観戦している他の生徒達は、驚きを持って2人の戦闘を観ていた。

「そろそろ来るな」

「次のお相手は誰かしら?」

「アイツは……昔処理されたA級犯罪者の毒島透ぶすじまとおるだったか」

 2人の前に姿を表したのは、50人以上の一般人を無惨に葬った凶悪殺人犯。風を操り人間を斬り刻む事を楽しみに生きていた、快楽殺人鬼だった男のコピーデータだ。
 ビル内の様な狭い場所で、不可視の斬撃はかなり厄介だ。相性次第では、一方的に攻められて敗北する可能性がある。
 特に今回の相手は、元Aランク魔術師だ。犯罪者としても魔術師としてもAの認定は、イコール強敵の証となる。

 魔導犯罪の等級は、必ずしも強さを示すとは限らない。決定付けるのは罪の重さだけだ。だから戦闘力が皆無のA級犯罪者も居る。
 その場合は捕縛も簡単だ、ほぼ一方的な蹂躙になる。だが今回の様な相手の場合は、確保に回る側のリスクがかなり高い。
 同じAランク魔術師同士のペアであっても、捕獲する側が命を落とす事も少なくはない。決して油断は出来ない相手だ。普通であれば。

「先手もーらい!」

「あっ! おい待てよ」

 駆け出したアイナを清志が追う。海上の船内でも戦う訓練を日々受けて来たアイナには、こんなオフィスビル程度は障害にならない。
 艦艇の通路に比べれば、遥かに広い室内をスイスイと移動して行く。デスクを飛び越えときに利用し、飛来する風の刃を綺麗に躱して行く。
 牽制射撃も行いながら、瞬く間に距離を詰めたアイナの蹴りが正確に毒島の顎を捉えた。倒れ込む男の体を、追い付いた清志の小太刀が斬り裂いた。

「お、流石。着いて来られるんだ」

「これぐらい、俺だって出来るよ」

 普通ならしっかり時間を掛けて、冷静に攻略する様な相手。それをこの2人は、遊びであるかの様に簡単に倒してしまった。Sランクコンビと言うものがどれ程強力か、この日2人は生徒達の前で示して見せた。
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