死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

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第1章

第7話 彼女の正体

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 アイナ・クラーク・三島みしま義姉あねが連れて来た俺のパートナー。彼女が一体どんな戦闘をするタイプなのか。
 それを見極める為に俺は茉莉まり達と3人で、観客席で彼女の模擬戦を見る事にした。

「何か見た事ある気がするんだよねぇ」

「なぁ、茉莉。何か思い出せないのか?」

「ちょっと待って頑張って思い出すから」

 派手な金髪頭を抱えて唸る幼馴染は一旦放置。彼女の戦いに集中しよう。相対するは氷結の魔女、シャーロット・ウィルソン。
 英国が誇る魔女の名門一族、その娘であるシャーロットはこの学園でも随一の強さを誇る。
 遠距離戦で魔術を撃ち合うのが得意だが、近接戦もこなせる器用な魔術師。あいつに勝てる生徒は少ない。
 Sランクである俺を除けば、僅か数名の生徒のみ。彼女に勝てるのなら、本物と認めざるを得ない。

「なあ、玲央奈さん学園長から何か聞いてないのか?」

「海軍所属と、錬金術師ってぐらいだ」

「錬金術師か。っておいマジかよ銃使い?」

 錬金術師なら普通は近接戦で挑む筈だ。なのにわざわざコストパフォーマンスが悪い銃を選ぶのか?
 壊れても即座に修復出来る近接武器を捨てて、魔力消費が多い銃なんて普通やらない。
 そう、普通なら。つまり彼女が普通で無いと言うなら、そこに何か意味があると言う事になる。

「おいおいおい、身体能力が半端ないぞあの子」

「ああ。まさかシャーロットが一瞬見逃すとはな」

 シャーロットも学生でありながら、仕事をしているタイプの生徒だ。得意の氷を操る黒魔術で、様々な危機を乗り越えて来た。
 対人はもちろん、妖怪などの人外まで。様々な敵を相手にして来た彼女が、見逃す程のスピードで距離を詰めて見せた。
 長く撓る足を使った強烈な蹴りが、開幕からシャーロットを襲っている。

「ヤマネコみたいな子だな」

「確かにな。だから近接武器は使わないのか?」

 確かにあれだけの身体能力と格闘能力があれば、近接武器をわざわざ作り出す必要性は減る。
 ブーツに金属でも仕込んでいるなら、それだけで十分な破壊力がある。特に魔術師の脚力なら、十分な殺傷力がある。身体強化も合わせれば、コンクリートぐらい簡単に砕く。
 だから距離を取られた時に備えて銃だと言うなら、まだ理解は出来る。ハンドガンタイプなら近接戦でも取り回しが効く。一応理には適っているのか?

「あーーー!? 思い出した!!」

「お前……うるせぇよ人の耳元で」

「茉莉、分かったのか?」

「日米合同訓練で見たんだよ! あの子、SEALsの狂犬だ!」

 随分とまた、物騒な話になったな。軍属なのは知っていたが、特殊部隊の一員なのか。
 それ故のあの高い近接戦闘能力か。狭い船内でも戦える柔軟性と瞬発力が、彼女の持ち味な訳か。しかしじゃあ、狂犬と言うのは?

「狂犬って、どう言う意味だ茉莉?」

「待って……確か喰らい付いたら、離さないだっけかな? 何だっけ」

「それぐらいで狂犬って付けるか? お前また適当言ってないか?」

「ホントだって! 中等部の時だから記憶が曖昧なだけで」

 喰らい付いたら離さない、と言われてもな。そのままの意味なのだろうか。それとも、まだ別の意味があるんだろうか。
 これはもう少し、模擬戦を見てみないと分からないか。シャーロットにはもう少し頑張って貰おう。

「あれ? シャロちゃん変じゃない?」

「ん? あ~言われてみれば変だな」

「魔力制御に、キレがない?」

 おかしい、彼女の持ち味はその高い制御能力にある。例えばアイスニードルと呼ばれる魔術は、大きな氷の針を生み出し飛ばす魔術だ。
 普通の魔術師なら一度に一本しか制御出来ない。しかしシャーロットは、一度に何十本ものアイスニードルを操る事が出来る。
 まるでスコールの用に氷の針を降らせる事が出来る。そんな彼女は先程から、上手く魔術を扱えていない様に見える。

「……さっきの魔力弾か?」

「どう言う意味だ清志せいじ?」

「あまり見ない色だったからな。何か特別なものなんじゃないか? 阻害系の」

「あーー! それだよ! それ!」

 またしても茉莉は何かを思い出したらしい。それは良いのだが、もう少し分かり易く話して欲しい。それってどれだよ。

「彼女の魔力弾、当たると魔力の動きが阻害されるの」

「やはりそうだったのか」

「お前さぁ、大事な情報は先に言えよ」

「しょーがないじゃん! 今思い出したんだから!」

 許嫁同士のいつものジャレ合いは放っておくとして、改めて戦いを分析しよう。魔術自体は使えているし、シャーロット自身にまだ直撃はない。
 となると、魔法触媒が正常に機能していない、と言うのが正解か? 彼女は触媒によってより精度を高めているから、いつもの様には戦えていないと。
 留学生の魔力弾は、魔術師を蝕む猛毒な訳だ。なるほど、確かに狂犬だな。狂犬病の犬に噛まれたら最後、人間はほぼ確実に死に至る。
 意味が分かると恐ろしい話だな。こんなの魔術師特攻、魔術師キラーじゃないか。

 普通魔術師は阻害系魔術の対策を必ず行う。当然シャーロットもしていたに違いない。特に魔法触媒の周りは強固に作られているだろう。
 名門一族の使う頑強なガードを突破してくるとなると、かなり強力な呪術か未発表の阻害系魔術と言う事になる。
 これは厄介過ぎるな。幾らシャーロットが優秀であっても、このままではかなり厳しい。
 持ち前の魔力量の差は、ほぼ埋まったに近い……ん? 待て、おかしいぞ。

「なあ、彼女魔力が減ってない気がするんだが?」

「はぁ? そんな訳ないだろ」

「アハハ! 何言ってんのよ。そんな人間居るわけないじゃん」

「いや、だってほら」

 ある程度消耗したシャーロットからは、現在Bランク程度の魔力を感じる。対して留学生の彼女もまた、Bランク程度の魔力を感じる。
 これはおかしい、有り得ない話だ。錬金術に阻害魔術、それにもしかしたら身体強化系の魔術も幾つか。
 それらを使っていながら、初めて見た時と感じる量が変わっていない。魔術師が感じ取れる魔力量はあくまで感覚だから、絶対にそうかと言われたら分からない。

 数値化出来る計測器を使ったわけじゃないから、正直何とも言えない。単に消費を抑えるのが上手いだけ、そうなのかも知れない。
 魔力弾は、あの銃に隠された機能か何かがあるのかも知れない。身体能力も、あれが素なのかも知れない。だがもし、本当に減っていないとしたら?

「いや、有り得ねぇ。そんな馬鹿な話があるかよ」

「無尽蔵の魔力? そんなの人間じゃないよ」

「忘れたのか? 彼女はSランクなんだ。もし、本当に減らないのだとしたら?」

 生物の魔力量とは、言ってしまえば器のサイズだ。魔術師適正のない一般人がコップだとしたら、Cランク魔術師はバケツぐらいの量。
 Bランクはビニールプールで、Aランクは銭湯の大風呂だろう。ではSランクはと言えば、神と契約して与えられた特別な池だ。
 巨大な池を毎日満たせるだけの回復力得る事と、一度満タンにする修行を経て真のSランクとなる。

 だがそれでも、池は有限だ。一切減らないのなら、もはやそれは人間の域を超えている。
 ただもしそうなら疑問なのは、何故ごく小規模程度の魔術しか使わない? 大魔術も併用すれば、もっと色んな戦い方が出来る筈だ。
 もしかしてそこに、何かがあるんだろうか? コレはまだまだ分析が必要だろう。

「もう少し見守ろう」

「あ、ああ」

「あんまり怖い事言うの辞めてよね」

 怖い事なのか事実なのか、それを見極めねばならない。もしかしたら、だから俺のパートナーなのか? 義姉さんは俺に何をさせる気なんだ?
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