死神の神子と魔弾の機工士

ナカジマ

文字の大きさ
上 下
7 / 97
第1章

第7話 彼女の正体

しおりを挟む
 アイナ・クラーク・三島みしま義姉あねが連れて来た俺のパートナー。彼女が一体どんな戦闘をするタイプなのか。
 それを見極める為に俺は茉莉まり達と3人で、観客席で彼女の模擬戦を見る事にした。

「何か見た事ある気がするんだよねぇ」

「なぁ、茉莉。何か思い出せないのか?」

「ちょっと待って頑張って思い出すから」

 派手な金髪頭を抱えて唸る幼馴染は一旦放置。彼女の戦いに集中しよう。相対するは氷結の魔女、シャーロット・ウィルソン。
 英国が誇る魔女の名門一族、その娘であるシャーロットはこの学園でも随一の強さを誇る。
 遠距離戦で魔術を撃ち合うのが得意だが、近接戦もこなせる器用な魔術師。あいつに勝てる生徒は少ない。
 Sランクである俺を除けば、僅か数名の生徒のみ。彼女に勝てるのなら、本物と認めざるを得ない。

「なあ、玲央奈さん学園長から何か聞いてないのか?」

「海軍所属と、錬金術師ってぐらいだ」

「錬金術師か。っておいマジかよ銃使い?」

 錬金術師なら普通は近接戦で挑む筈だ。なのにわざわざコストパフォーマンスが悪い銃を選ぶのか?
 壊れても即座に修復出来る近接武器を捨てて、魔力消費が多い銃なんて普通やらない。
 そう、普通なら。つまり彼女が普通で無いと言うなら、そこに何か意味があると言う事になる。

「おいおいおい、身体能力が半端ないぞあの子」

「ああ。まさかシャーロットが一瞬見逃すとはな」

 シャーロットも学生でありながら、仕事をしているタイプの生徒だ。得意の氷を操る黒魔術で、様々な危機を乗り越えて来た。
 対人はもちろん、妖怪などの人外まで。様々な敵を相手にして来た彼女が、見逃す程のスピードで距離を詰めて見せた。
 長く撓る足を使った強烈な蹴りが、開幕からシャーロットを襲っている。

「ヤマネコみたいな子だな」

「確かにな。だから近接武器は使わないのか?」

 確かにあれだけの身体能力と格闘能力があれば、近接武器をわざわざ作り出す必要性は減る。
 ブーツに金属でも仕込んでいるなら、それだけで十分な破壊力がある。特に魔術師の脚力なら、十分な殺傷力がある。身体強化も合わせれば、コンクリートぐらい簡単に砕く。
 だから距離を取られた時に備えて銃だと言うなら、まだ理解は出来る。ハンドガンタイプなら近接戦でも取り回しが効く。一応理には適っているのか?

「あーーー!? 思い出した!!」

「お前……うるせぇよ人の耳元で」

「茉莉、分かったのか?」

「日米合同訓練で見たんだよ! あの子、SEALsの狂犬だ!」

 随分とまた、物騒な話になったな。軍属なのは知っていたが、特殊部隊の一員なのか。
 それ故のあの高い近接戦闘能力か。狭い船内でも戦える柔軟性と瞬発力が、彼女の持ち味な訳か。しかしじゃあ、狂犬と言うのは?

「狂犬って、どう言う意味だ茉莉?」

「待って……確か喰らい付いたら、離さないだっけかな? 何だっけ」

「それぐらいで狂犬って付けるか? お前また適当言ってないか?」

「ホントだって! 中等部の時だから記憶が曖昧なだけで」

 喰らい付いたら離さない、と言われてもな。そのままの意味なのだろうか。それとも、まだ別の意味があるんだろうか。
 これはもう少し、模擬戦を見てみないと分からないか。シャーロットにはもう少し頑張って貰おう。

「あれ? シャロちゃん変じゃない?」

「ん? あ~言われてみれば変だな」

「魔力制御に、キレがない?」

 おかしい、彼女の持ち味はその高い制御能力にある。例えばアイスニードルと呼ばれる魔術は、大きな氷の針を生み出し飛ばす魔術だ。
 普通の魔術師なら一度に一本しか制御出来ない。しかしシャーロットは、一度に何十本ものアイスニードルを操る事が出来る。
 まるでスコールの用に氷の針を降らせる事が出来る。そんな彼女は先程から、上手く魔術を扱えていない様に見える。

「……さっきの魔力弾か?」

「どう言う意味だ清志せいじ?」

「あまり見ない色だったからな。何か特別なものなんじゃないか? 阻害系の」

「あーー! それだよ! それ!」

 またしても茉莉は何かを思い出したらしい。それは良いのだが、もう少し分かり易く話して欲しい。それってどれだよ。

「彼女の魔力弾、当たると魔力の動きが阻害されるの」

「やはりそうだったのか」

「お前さぁ、大事な情報は先に言えよ」

「しょーがないじゃん! 今思い出したんだから!」

 許嫁同士のいつものジャレ合いは放っておくとして、改めて戦いを分析しよう。魔術自体は使えているし、シャーロット自身にまだ直撃はない。
 となると、魔法触媒が正常に機能していない、と言うのが正解か? 彼女は触媒によってより精度を高めているから、いつもの様には戦えていないと。
 留学生の魔力弾は、魔術師を蝕む猛毒な訳だ。なるほど、確かに狂犬だな。狂犬病の犬に噛まれたら最後、人間はほぼ確実に死に至る。
 意味が分かると恐ろしい話だな。こんなの魔術師特攻、魔術師キラーじゃないか。

 普通魔術師は阻害系魔術の対策を必ず行う。当然シャーロットもしていたに違いない。特に魔法触媒の周りは強固に作られているだろう。
 名門一族の使う頑強なガードを突破してくるとなると、かなり強力な呪術か未発表の阻害系魔術と言う事になる。
 これは厄介過ぎるな。幾らシャーロットが優秀であっても、このままではかなり厳しい。
 持ち前の魔力量の差は、ほぼ埋まったに近い……ん? 待て、おかしいぞ。

「なあ、彼女魔力が減ってない気がするんだが?」

「はぁ? そんな訳ないだろ」

「アハハ! 何言ってんのよ。そんな人間居るわけないじゃん」

「いや、だってほら」

 ある程度消耗したシャーロットからは、現在Bランク程度の魔力を感じる。対して留学生の彼女もまた、Bランク程度の魔力を感じる。
 これはおかしい、有り得ない話だ。錬金術に阻害魔術、それにもしかしたら身体強化系の魔術も幾つか。
 それらを使っていながら、初めて見た時と感じる量が変わっていない。魔術師が感じ取れる魔力量はあくまで感覚だから、絶対にそうかと言われたら分からない。

 数値化出来る計測器を使ったわけじゃないから、正直何とも言えない。単に消費を抑えるのが上手いだけ、そうなのかも知れない。
 魔力弾は、あの銃に隠された機能か何かがあるのかも知れない。身体能力も、あれが素なのかも知れない。だがもし、本当に減っていないとしたら?

「いや、有り得ねぇ。そんな馬鹿な話があるかよ」

「無尽蔵の魔力? そんなの人間じゃないよ」

「忘れたのか? 彼女はSランクなんだ。もし、本当に減らないのだとしたら?」

 生物の魔力量とは、言ってしまえば器のサイズだ。魔術師適正のない一般人がコップだとしたら、Cランク魔術師はバケツぐらいの量。
 Bランクはビニールプールで、Aランクは銭湯の大風呂だろう。ではSランクはと言えば、神と契約して与えられた特別な池だ。
 巨大な池を毎日満たせるだけの回復力得る事と、一度満タンにする修行を経て真のSランクとなる。

 だがそれでも、池は有限だ。一切減らないのなら、もはやそれは人間の域を超えている。
 ただもしそうなら疑問なのは、何故ごく小規模程度の魔術しか使わない? 大魔術も併用すれば、もっと色んな戦い方が出来る筈だ。
 もしかしてそこに、何かがあるんだろうか? コレはまだまだ分析が必要だろう。

「もう少し見守ろう」

「あ、ああ」

「あんまり怖い事言うの辞めてよね」

 怖い事なのか事実なのか、それを見極めねばならない。もしかしたら、だから俺のパートナーなのか? 義姉さんは俺に何をさせる気なんだ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若
大衆娯楽
人気の地域紹介ブログ「コニーのおすすめ」にて紹介された浜薔薇の耳掃除、それをきっかけに新しい常連客は確かに増えた。 しかしこの先どうしようかと思う蘆根(ろこん)と、なるようにしかならねえよという職人気質のタモツ、その二人を中心にした耳かき、ひげ剃り、マッサージの話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

旅人ケンギ

ファンタジー
ゴブリンやオーク、人間などが暮らす世界。ケンギは【旅人】になるため修行をしていた。ある日、ヒトの国ネツを襲撃した魔物を追い払ったことで、旅人としての生活を始めることとなる。旅人となったケンギの未来は、この先どうなっていくのであろうか。 ※作中の用語について 人=生物の総称 ヒト=種族【ヒト】

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

処理中です...