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第1章
第1話 魔弾の機工士
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アメリカの眠らない都市、誰もが成功を夢見て挑戦する街ニューヨーク。その厳しさに馴染む者、馴染めない者が犇めく大都会を、1つの影が走り抜けて行く。
女性が持つ靱やかさと、鍛え上げられた力強さを兼ね備えたその影は、軽々と高層ビルの屋上へと昇っていく。
突起の少ないビルの側面を登る姿は、いっそ冗談だと言われた方がまだ理解出来た。それほどまでに異常な踏破力を見せた彼女は、目的地に着くと通信を始める。
「こちらアイナ、狙撃ポイントに到着」
「よぉ~アイナ、今晩暇か?」
「留学の準備で忙しいからパス」
「ハハハ! ほらやっぱりフラれやがった」
「うるせー!」
彼女が耳に装着したインカムから、野太い声が複数聞こえて来る。狙撃などと言う物騒な単語が飛び出したが、どう見ても普通に街中を出歩く年頃の少女にしか見えない。
流行りのデザインをした薄手のパーカーを羽織り、やや際どい短パンを履いている。手には何も持っておらず、何をどうやって狙撃すると言うのか。
月光に照らされた鮮やかな金色の髪は、後頭部で簡単なお団子ヘアーに纏められている。アメリカ人にしてはやや幼い顔立ちをしており、日系人かと思わせる可愛らしい顔立ちだ。
身長は高めで、恐らくは170cm付近だろう。スラリとした線の細い体つきをしているが、惜しげ無く晒された生脚は良く鍛えられているのが分かる。
「アイナ、すまないこんな時間に」
「いえ、こちらこそ遅れてすいません隊長」
「構わんさ、なんせ海軍のエース様だ。来てくれただけで十分さ」
「エースだなんて、お上手ですね」
どこからどう見ても可愛らしい高校生ぐらいにしか見えないが、どうやら軍属らしい。
それどころか、十分に優秀な兵士の様だ。しかし本人からはその様な空気感をまるで感じられない。
むさ苦しい男達とこんな夜中に会話するより、オシャレなカフェで友人達と女子会でもしていた方がお似合いだ。
「見えるか?」
「ええ、見えてますよ」
「人質はジョンソン上院議員の娘さんだ。傷一つでも付けたら俺達の給料が吹っ飛ぶぞ」
「アハハ、それは困るな~」
随分とお気楽な雰囲気で話しているが、内容があまりにも物騒だ。この状況から察するに、要人の子女が攫われ、人質として捕まっている。
つまりこれは人質救出作戦らしい。どこに持っていたのか不明だが、アイナと呼ばれる少女はいつの間にか軍用の双眼鏡で遠くを見つめていた。
彼女が見つめる遥か彼方、高級ホテルらしき建物の一室、その窓際に人影が2つ。犯人らしき男と、人質らしき少女が居た。
怯えて涙を流す10才ぐらいの女の子に、拳銃らしき武器を犯人の男が向けているのが分かる。
どう考えても最悪の状況、男が引き金を引けば、幼い命は簡単に消えてしまうだろう。
「あれは魔導式ですね。無力化可能です」
「それは良かった。しかし、その距離で……いやお前には関係ないか」
「この程度なら、目を瞑ってても当たりますよ」
「恐ろしいねぇ~最近の若ぇ魔術師は」
先程の双眼鏡と同様に、いつの間にか彼女の手には巨大なスナイパーライフルが存在していた。
高層ビルの屋上、ヘリポートの端にバイポッドを立てた彼女はうつ伏せになった。所謂ブローンと呼ばれる狙撃姿勢を取った彼女は、インカムの向こうで待つ彼らに向って告げた。
「いつでも行けます」
「お前ら! いつまでもじゃれ会ってんじゃない! 仕事の時間だ」
「了解!」
「俺は悪くないだろ……」
「アイナ、突入は3分後だ。頼むぞ」
「お任せ下さい」
ホテルの一室に突入する部隊の用意が整うまで、ヘリポートで少女はじっと待っていた。
人質救出と言う非常に重要な任を負っているにも関わらず、緊張するどころか欠伸までする肝の太さだ。この程度の状況ならば、何度も経験したかの様な余裕を見せていた。
(A級魔導犯罪者だっけ。ま、実弾を使うまでもないかな)
「持たせたな、準備は良いな?」
「はい、行きます」
「アイナが狙撃したら突入だ、良いな!」
「「「了解!」」」
「じゃ、行きますよー」
写真でも取るかの様な緊張感に欠ける掛け声だが、スコープを覗く彼女の空気は一変する。
そこらを歩くチンピラ程度なら、泣いて逃げ出す様な気迫が一瞬彼女から放たれる。
それと同時に2度の銃声が夜のニューヨークに響き渡る。夜空に走った毒々しい紫色の光が、ホテルの一室に飛び込んだ。
窓を綺麗に貫いた紫色の弾丸は、男が持つ武器と男本人に命中したが見た目には何の変化もない。
「ゴーゴーゴーゴー!」
隊長格の男の合図で、屈強な武装集団がホテルの一室に雪崩込む。何が起こったのか分からない犯人の男は、手に持った拳銃の引き金を何度も引くが何も起こらない。
他にも何かをしようとするが、思った結果にならないらしく混乱している。そんな状態の男に対して、一斉に銃口が向けられる。
「動くな! 武器を捨てて両手を上げろ!」
「な、なんだよ!? どうなってんだこれ!?」
「聞こえ無かったか? 武器を捨てろ!」
「クソッ!!」
こうして無事犯人は確保され、人質も無傷のまま救出された。彼らの給料もこれで無事に支払われるだろう。
こんな大事件解決の立役者である少女は、軽々と来た時の様に高層ビルから飛び降りて行く。
「日本へ留学かー楽しみだねヘンリー」
「遊びに行くんじゃないぞアイナ」
彼女1人しか居ない筈なのに、どこからか老人の声が聞こえた。謎の少女と姿なき老人、この2人の正体は一体……
女性が持つ靱やかさと、鍛え上げられた力強さを兼ね備えたその影は、軽々と高層ビルの屋上へと昇っていく。
突起の少ないビルの側面を登る姿は、いっそ冗談だと言われた方がまだ理解出来た。それほどまでに異常な踏破力を見せた彼女は、目的地に着くと通信を始める。
「こちらアイナ、狙撃ポイントに到着」
「よぉ~アイナ、今晩暇か?」
「留学の準備で忙しいからパス」
「ハハハ! ほらやっぱりフラれやがった」
「うるせー!」
彼女が耳に装着したインカムから、野太い声が複数聞こえて来る。狙撃などと言う物騒な単語が飛び出したが、どう見ても普通に街中を出歩く年頃の少女にしか見えない。
流行りのデザインをした薄手のパーカーを羽織り、やや際どい短パンを履いている。手には何も持っておらず、何をどうやって狙撃すると言うのか。
月光に照らされた鮮やかな金色の髪は、後頭部で簡単なお団子ヘアーに纏められている。アメリカ人にしてはやや幼い顔立ちをしており、日系人かと思わせる可愛らしい顔立ちだ。
身長は高めで、恐らくは170cm付近だろう。スラリとした線の細い体つきをしているが、惜しげ無く晒された生脚は良く鍛えられているのが分かる。
「アイナ、すまないこんな時間に」
「いえ、こちらこそ遅れてすいません隊長」
「構わんさ、なんせ海軍のエース様だ。来てくれただけで十分さ」
「エースだなんて、お上手ですね」
どこからどう見ても可愛らしい高校生ぐらいにしか見えないが、どうやら軍属らしい。
それどころか、十分に優秀な兵士の様だ。しかし本人からはその様な空気感をまるで感じられない。
むさ苦しい男達とこんな夜中に会話するより、オシャレなカフェで友人達と女子会でもしていた方がお似合いだ。
「見えるか?」
「ええ、見えてますよ」
「人質はジョンソン上院議員の娘さんだ。傷一つでも付けたら俺達の給料が吹っ飛ぶぞ」
「アハハ、それは困るな~」
随分とお気楽な雰囲気で話しているが、内容があまりにも物騒だ。この状況から察するに、要人の子女が攫われ、人質として捕まっている。
つまりこれは人質救出作戦らしい。どこに持っていたのか不明だが、アイナと呼ばれる少女はいつの間にか軍用の双眼鏡で遠くを見つめていた。
彼女が見つめる遥か彼方、高級ホテルらしき建物の一室、その窓際に人影が2つ。犯人らしき男と、人質らしき少女が居た。
怯えて涙を流す10才ぐらいの女の子に、拳銃らしき武器を犯人の男が向けているのが分かる。
どう考えても最悪の状況、男が引き金を引けば、幼い命は簡単に消えてしまうだろう。
「あれは魔導式ですね。無力化可能です」
「それは良かった。しかし、その距離で……いやお前には関係ないか」
「この程度なら、目を瞑ってても当たりますよ」
「恐ろしいねぇ~最近の若ぇ魔術師は」
先程の双眼鏡と同様に、いつの間にか彼女の手には巨大なスナイパーライフルが存在していた。
高層ビルの屋上、ヘリポートの端にバイポッドを立てた彼女はうつ伏せになった。所謂ブローンと呼ばれる狙撃姿勢を取った彼女は、インカムの向こうで待つ彼らに向って告げた。
「いつでも行けます」
「お前ら! いつまでもじゃれ会ってんじゃない! 仕事の時間だ」
「了解!」
「俺は悪くないだろ……」
「アイナ、突入は3分後だ。頼むぞ」
「お任せ下さい」
ホテルの一室に突入する部隊の用意が整うまで、ヘリポートで少女はじっと待っていた。
人質救出と言う非常に重要な任を負っているにも関わらず、緊張するどころか欠伸までする肝の太さだ。この程度の状況ならば、何度も経験したかの様な余裕を見せていた。
(A級魔導犯罪者だっけ。ま、実弾を使うまでもないかな)
「持たせたな、準備は良いな?」
「はい、行きます」
「アイナが狙撃したら突入だ、良いな!」
「「「了解!」」」
「じゃ、行きますよー」
写真でも取るかの様な緊張感に欠ける掛け声だが、スコープを覗く彼女の空気は一変する。
そこらを歩くチンピラ程度なら、泣いて逃げ出す様な気迫が一瞬彼女から放たれる。
それと同時に2度の銃声が夜のニューヨークに響き渡る。夜空に走った毒々しい紫色の光が、ホテルの一室に飛び込んだ。
窓を綺麗に貫いた紫色の弾丸は、男が持つ武器と男本人に命中したが見た目には何の変化もない。
「ゴーゴーゴーゴー!」
隊長格の男の合図で、屈強な武装集団がホテルの一室に雪崩込む。何が起こったのか分からない犯人の男は、手に持った拳銃の引き金を何度も引くが何も起こらない。
他にも何かをしようとするが、思った結果にならないらしく混乱している。そんな状態の男に対して、一斉に銃口が向けられる。
「動くな! 武器を捨てて両手を上げろ!」
「な、なんだよ!? どうなってんだこれ!?」
「聞こえ無かったか? 武器を捨てろ!」
「クソッ!!」
こうして無事犯人は確保され、人質も無傷のまま救出された。彼らの給料もこれで無事に支払われるだろう。
こんな大事件解決の立役者である少女は、軽々と来た時の様に高層ビルから飛び降りて行く。
「日本へ留学かー楽しみだねヘンリー」
「遊びに行くんじゃないぞアイナ」
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