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第1章
第16話 新人戦後編
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「俺達がリードしている。このままの調子で勝とう」
第3クォーターが終了し、残るは最後の第4クォーターのみ。最後の戦いに備えて、北山が皆に激励を送る。
現在の得点は65対49で、それなりに余裕がある。油断さえしなければ、このまま1回戦は勝利をもぎ取れるだろう。
これまでの試合運びは、様々なパターンを使用して優位を維持して来た。俺と裕介が抜けて、パワープレイからテクニカルなスタイルに変える。
北山と信也を休ませる間に、俺と裕介と颯太がリバウンドを担当する変則スタイルに変更。途中の交代やクォーター毎の交代を活用して、全員の体力を調整して来た。
それと共に、戦い方をコロコロ変えて翻弄して来た。相手のチームは堅実な戦い方を選ぶ顧問らしく、それが上手く良い方に作用した。
顧問が未経験なお陰で、セオリーもクソもない自由な戦術を取る俺達と、お堅いバスケを強制する顧問。その差が綺麗に出たのだろう。今回は、相手が良かったと言う事だろう。
「信也、そろそろやって良いか?」
「そうだな。涼介の好きにしろ」
「オッケー分かった」
実はこれまで、封印して来たプレイスタイルがある。今、相手は俺をパワー系のプレイヤーだと思い込んで居るだろう。
ゴリ押しで中に入り込み、ゴール下での勝負をする奴だと見られているだろう。これは元々、信也から言われて居た作戦だ。
俺は最初から、自由にプレイするなと言われて居た。しかしこの第4クォーターからは、本来の戦い方に戻させてもらう。
第4クォーターは、最初と同じメンバー構成だ。一番相手に効いて居たのが、このスタイルだからだ。やはり主力のセンターを徹底的に妨害されるのは、相当やり難いらしい。
うちは人数が少なく、190cm台が1人しか居ない。だからこそ、リバウンド対策を皆で考えて来た。
その結果が俺のスモールセンターや裕介のパワープレイだ。リバウンドを得意とする人間を3人用意する事で、身長差の問題をある程度解決している。
裕介は、ボールを抱え込むのが非常に上手い。まるで宝物を必死に守る、幼い子供の様に一気に全身で抱え込む。優れたガタイと腕力により、一度ボールに触れると非常に強い。
そして正統派センターのスタイルで攻守を担当する北山。ゴールポストでの動き方、リバウンドのポジション取り。それらがどこまでも正統派で、堅実なプレイスタイルだ。
そこに俺をプラスして、3名でリバウンドに挑む。今回の様なパターンだと、俺は1人に粘着するスタイルなのでリバウンドにはあまり参加していないが。
「涼介、行こうぜー」
「おう、次も頼むぞ裕介」
第4クォーターが開始された。流石に同じ過ちを犯す気はないのか、ジャンプボールからの速攻は出来なかった。初手からジャンプボールを捨てて、全力で守備を固めて来た。これでは速攻を狙えない。
だからと言って、攻められないなんて事は無いが。信也が上手くボールを運び、パス回しで相手の隙を狙う。
やはり相手は学のスリーと、俺や裕介、北山の3人が中に入りに行くのを警戒している。ちょうど良い頃合いか。
ゲームメイクをしている、信也と視線を交わす。意図を汲み取ったらしく、合図を返して来た。24秒まであまり時間がない、早速動こう。
俺はそれまでと同じ様に、中に入りに行って一旦離脱したフリをする。そして俺が立つ位置は、スリーポイントラインの外側。
信也からノールックで飛んで来たパスを受け取り、スリーポイントシュートを放つ。
「ふっ!」
俺がスリーポイントを狙うタイプと思わなかったのだろう。ほぼノーマーク状態で楽々打ったスリーポイントは、綺麗な音を立ててネットを揺らした。
「イェー!」
「サンキュー信也」
俺と信也は、互いの掌を叩き合う。信じてくれて良かったよ。そしてこれで、相手は俺を無視出来なくなった。
中に入られるのも警戒せねばならないが、放置するとスリーポイントが飛ぶ。最初から知っていたら、戦い方を合わせられただろう。
しかし、第4クォーターから初めて見せた戦術だ。さぞ戦い難くなっただろう。信也の作戦勝ちだなコレは。
それからも幾らかの攻防を繰り返し、試合は残り時間を減らして行く。うちのリードは更に広がり、76対51となっている。
相手からは、疲労と焦りを感じる。そろそろ良いタイミングだろう。もう一つのプレイスタイルを使う時だ。
うちのオフェンスが終わり、エンドラインからボールがコート内に投げ入れられる。
一旦ディフェンスへと戻った様に見せ掛けた俺は、相手のポイントガードに向かって投げられたパスを、全力疾走でスティールを狙う。
全速で駆けて行く俺に気付いた周囲が、声を上げるが既に遅い。隙を突いて奪ったボールを、得意とするスリーポイントラインからのレイアップでシュートを決めた。
本来俺は、こう言うプレイをするタイプだ。主戦場はゴール下では無く、相手の隙や油断を狙う遊撃タイプ。
だからこそ、信也とコンビを組んで居る。俺を上手く使う信也と、好きに動く俺。それで今日までやって来た。
「ナイス涼介」
「おう、サンキュー学」
更に時間は進み、残り時間も残り僅か。残り20秒で無理に攻める必要はない。保持出来る最大の時間が24秒だから、終わるのを待つだけで良い。
適当にパス回しをしつつ、行けそうならギリギリでシュートを打つ。残り3秒と言うタイミングで信也からパスが回って来た。
最後に打って良いって事だな? いい具合にまた俺はフリーだった。せっかくだから華を持たせて貰いますか。
俺が放ったスリーポイントが、ネットを揺らすと共に試合終了のブザーが鳴り響いた。よし、俺達の勝利だ。
そう確信した瞬間、つい癖で観客席を見上げてしまった。中学3年間、必ず観に来てくれていた彼女を探してしまった。見上げた観客席には、もう凛ちゃんの姿なんて無かった。
第3クォーターが終了し、残るは最後の第4クォーターのみ。最後の戦いに備えて、北山が皆に激励を送る。
現在の得点は65対49で、それなりに余裕がある。油断さえしなければ、このまま1回戦は勝利をもぎ取れるだろう。
これまでの試合運びは、様々なパターンを使用して優位を維持して来た。俺と裕介が抜けて、パワープレイからテクニカルなスタイルに変える。
北山と信也を休ませる間に、俺と裕介と颯太がリバウンドを担当する変則スタイルに変更。途中の交代やクォーター毎の交代を活用して、全員の体力を調整して来た。
それと共に、戦い方をコロコロ変えて翻弄して来た。相手のチームは堅実な戦い方を選ぶ顧問らしく、それが上手く良い方に作用した。
顧問が未経験なお陰で、セオリーもクソもない自由な戦術を取る俺達と、お堅いバスケを強制する顧問。その差が綺麗に出たのだろう。今回は、相手が良かったと言う事だろう。
「信也、そろそろやって良いか?」
「そうだな。涼介の好きにしろ」
「オッケー分かった」
実はこれまで、封印して来たプレイスタイルがある。今、相手は俺をパワー系のプレイヤーだと思い込んで居るだろう。
ゴリ押しで中に入り込み、ゴール下での勝負をする奴だと見られているだろう。これは元々、信也から言われて居た作戦だ。
俺は最初から、自由にプレイするなと言われて居た。しかしこの第4クォーターからは、本来の戦い方に戻させてもらう。
第4クォーターは、最初と同じメンバー構成だ。一番相手に効いて居たのが、このスタイルだからだ。やはり主力のセンターを徹底的に妨害されるのは、相当やり難いらしい。
うちは人数が少なく、190cm台が1人しか居ない。だからこそ、リバウンド対策を皆で考えて来た。
その結果が俺のスモールセンターや裕介のパワープレイだ。リバウンドを得意とする人間を3人用意する事で、身長差の問題をある程度解決している。
裕介は、ボールを抱え込むのが非常に上手い。まるで宝物を必死に守る、幼い子供の様に一気に全身で抱え込む。優れたガタイと腕力により、一度ボールに触れると非常に強い。
そして正統派センターのスタイルで攻守を担当する北山。ゴールポストでの動き方、リバウンドのポジション取り。それらがどこまでも正統派で、堅実なプレイスタイルだ。
そこに俺をプラスして、3名でリバウンドに挑む。今回の様なパターンだと、俺は1人に粘着するスタイルなのでリバウンドにはあまり参加していないが。
「涼介、行こうぜー」
「おう、次も頼むぞ裕介」
第4クォーターが開始された。流石に同じ過ちを犯す気はないのか、ジャンプボールからの速攻は出来なかった。初手からジャンプボールを捨てて、全力で守備を固めて来た。これでは速攻を狙えない。
だからと言って、攻められないなんて事は無いが。信也が上手くボールを運び、パス回しで相手の隙を狙う。
やはり相手は学のスリーと、俺や裕介、北山の3人が中に入りに行くのを警戒している。ちょうど良い頃合いか。
ゲームメイクをしている、信也と視線を交わす。意図を汲み取ったらしく、合図を返して来た。24秒まであまり時間がない、早速動こう。
俺はそれまでと同じ様に、中に入りに行って一旦離脱したフリをする。そして俺が立つ位置は、スリーポイントラインの外側。
信也からノールックで飛んで来たパスを受け取り、スリーポイントシュートを放つ。
「ふっ!」
俺がスリーポイントを狙うタイプと思わなかったのだろう。ほぼノーマーク状態で楽々打ったスリーポイントは、綺麗な音を立ててネットを揺らした。
「イェー!」
「サンキュー信也」
俺と信也は、互いの掌を叩き合う。信じてくれて良かったよ。そしてこれで、相手は俺を無視出来なくなった。
中に入られるのも警戒せねばならないが、放置するとスリーポイントが飛ぶ。最初から知っていたら、戦い方を合わせられただろう。
しかし、第4クォーターから初めて見せた戦術だ。さぞ戦い難くなっただろう。信也の作戦勝ちだなコレは。
それからも幾らかの攻防を繰り返し、試合は残り時間を減らして行く。うちのリードは更に広がり、76対51となっている。
相手からは、疲労と焦りを感じる。そろそろ良いタイミングだろう。もう一つのプレイスタイルを使う時だ。
うちのオフェンスが終わり、エンドラインからボールがコート内に投げ入れられる。
一旦ディフェンスへと戻った様に見せ掛けた俺は、相手のポイントガードに向かって投げられたパスを、全力疾走でスティールを狙う。
全速で駆けて行く俺に気付いた周囲が、声を上げるが既に遅い。隙を突いて奪ったボールを、得意とするスリーポイントラインからのレイアップでシュートを決めた。
本来俺は、こう言うプレイをするタイプだ。主戦場はゴール下では無く、相手の隙や油断を狙う遊撃タイプ。
だからこそ、信也とコンビを組んで居る。俺を上手く使う信也と、好きに動く俺。それで今日までやって来た。
「ナイス涼介」
「おう、サンキュー学」
更に時間は進み、残り時間も残り僅か。残り20秒で無理に攻める必要はない。保持出来る最大の時間が24秒だから、終わるのを待つだけで良い。
適当にパス回しをしつつ、行けそうならギリギリでシュートを打つ。残り3秒と言うタイミングで信也からパスが回って来た。
最後に打って良いって事だな? いい具合にまた俺はフリーだった。せっかくだから華を持たせて貰いますか。
俺が放ったスリーポイントが、ネットを揺らすと共に試合終了のブザーが鳴り響いた。よし、俺達の勝利だ。
そう確信した瞬間、つい癖で観客席を見上げてしまった。中学3年間、必ず観に来てくれていた彼女を探してしまった。見上げた観客席には、もう凛ちゃんの姿なんて無かった。
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