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第1章

第14話 新人戦開幕

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 夏と言えばスポーツにとって大切な時期だ。色々なスポーツの大きな大会が行われる。野球の甲子園何かが良い例だ。
 うちの高校のバスケ部は、インターハイ予選で負けて居るので残念ながら縁はない。しかし、大会と言うのは色々ある訳で。
 2年生3年生が出場する大会とは別に、1年生の為の新人戦がある。つまり、俺達にも活躍のタイミングがあると言う事だ。

 県内の大きなスポーツ施設。その体育館を利用しての県大会が行われている。バスケ用のコートは複数あるので、同時に何校もの対戦が進んで行く。
 観客席もあるので、純粋に観戦しに来ている人達も居る。強豪校ともなると、応援に来ている人数も違う。有名な所は、結構な制服姿の観客が居た。
 大して有名でもないうちの高校の、1年の試合なんて観客席には誰も居ない。それでも構わない。俺達はバスケがやりたいのであって、目立ちたい訳じゃない。
 それに社会人チーム等のスカウトマンが見に来ていたりする。見て欲しいのは、そう言う人達であって生徒じゃない。

「うわー緊張するなー」

「落ち着けよ裕介ゆうすけ

 こんなデカい会場に来ても落ち着きの無い奴だな。このピリピリとした空気が良いんじゃないか。スポーツの大会なんて皆こうだ。
 少なくとも出た事のあるスポーツ大会は、全部この空気だった。男子は特に、ピリピリしている奴が多い。いきなりガンを飛ばして来る奴だっている。そんな簡単な挑発には乗らないが。

「先生はルール分からないけど、頑張れよ」

 ただの化学教師で、顧問として着いて来ただけの山村やまむら先生による実に有り難い激励だ。せめてルールぐらいは覚えて欲しい。俺達はすぐに高校のルールに馴染んだと言うのに。
 中学と高校のバスケで、大きな違いは試合時間だ。中学は8分の試合を4回繰り返す4クォーター制で、合計32分だった。
 しかし高校では10分の4クォーターだ。1クォーター辺りで見れば2分の増加だが、トータルでは8分長くなっている。
 そもそもバスケにおいて、2分かなり長い。結構な数のシュートが打てる時間だ。追う側は簡単に引っくり返せるだけの余裕があるし、追われる側はリードを守るのに必死だ。

 この違いは非常に大きい。3年間で染み付いた8分のペース配分から、10分に変えて動かないといけない。たった2分、されど2分の大きな壁がそこにある。
 練習で散々やったけれど、俺達はまだ高校生になってたった3ヶ月だ。どれだけの選手が2分の増加に適応出来ている事だか。
 それに俺達は、7人しか居ない。ペース配分をミスった奴が1人出るだけで、かなりのピンチに陥る。俺も気を付けないとな。

北山きたやま、お前しか部長の経験者は居ない。キャプテンは任せたぞ」

「弱小校のだぞ? 今更だけど、本当に良いのか?」

「いやー俺は文句ないよ」

「オレもないよ」

 誰からも文句は出ない。当たり前だ、全員強豪校の出身なんかじゃない。一番背が高くて、実力も問題ないのだから北山で何ら問題ない。エースが信也しんやで、キャプテンは北山。それが俺達のチームだ。
 キャプテンの北山が背の高さを活かすセンター、エースの信也がゲームメイカーのポイントガード。
 スリーポイントが一番上手いまなぶが花形のシューティングガードで、バランスの良い颯太そうたがマルチなフォワード。
 ガタイの良さを活かせる裕介は切り込み隊長なパワーフォワードで、健介けんすけはフォワードもガードもこなせる万能タイプ。

 そして俺は、あまりメジャーじゃないけどスモールセンターだ。水泳陸上野球バスケと、様々なスポーツをやって来た俺は、下半身の安定性が一番高い。
 それ故に、スクリーンアウトとリバウンドが得意だ。自分の体を盾にするスクリーンアウトで、自分より背が高いセンターを妨害する。そして時に信也とコンビで行動するのが俺の主な仕事だ。
 俺は自分が点を取るよりも、サポートに回る方が性に合っている。だから今日までの練習でも、自分が点を取る動きではなく、味方に点を取らせるコンビネーションを研究して来た。
 もちろんそれは、味方への丸投げじゃない。自分が点を取りに行ける時は狙わせて貰う。そうやって積み重ねて来たその成果を、ここで発揮してみせる。

「信也、アレやる時は合図くれよ」

「じゃあ、左耳のピアス触ったらアレな」

「オッケー、分かった」

 もうすぐ、俺達の晴れ舞台が始まる。高校生になって最初の、自分達が出る大会。先輩の応援に行くだけじゃない、俺達の大会だ。
 今日まで積み重ねて来た、俺達1年生の全てを見せる時だ。俺達は俺達なりに、日々研究と研鑽を重ねて来た。
 無名校かも知れないけど、3年生を驚かせる様な戦術だって生み出して来た。俺達の日々の積み重ねを見せてやろう。無名校出身の集まりでも、イコール弱いでは無いと思い知らせてやる。

「随分やる気じゃないか涼介りょうすけ

「颯太は、かなり余裕だな」

「オレは慣れているからな」

 颯太は小学生の頃からバスケをやっている筋金入りだ。大会の出場経験数はナンバー1だ。その経験があるからだろうけど、随分とまあ慣れたもので。

「行くぞ、涼介」

「ああ」

 俺達の新人戦が、間もなく始まる。俺達スタートメンバーは、バスケットコートへと向かった。
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