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第1章

第12話 そろそろ現実を見よう

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涼介りょうすけ、最近りんちゃん連れて来ないけどどうしたの?」

「ゔっ……いや……その……」

「フラレたの!? せっかく良い子だったのに~」

 自宅のリビングでゲームをしていたら、母親の藤木遥ふじきはるかによる手酷い一撃を貰ってしまった。辞めろ、皆してフラレたと言うのは。
 まだフラレてないから。言うなれば、自然消滅って感じだから。直接何かを言われた訳じゃないから。嫌いとか、言われてないから。

「はぁ、涼介ったら結婚出来るのかしら?」

「やめてよ不吉な事言うの!?」

「現実はアニメみたいに行かないのよ?」

「分かってるけど!?」

 辞めろよ、俺が現実とフィクションの区別が付いてない奴みたいに言うのは。ちゃんと付いているから。
 ああ俺の周りにもこんな女の子が居たらなって考えて、まあまあなダメージを勝手に負っているだけだから。
 バスケと二次元に行きるとか主張しておいて、全然そんな事ないのはちゃんと自覚しているよ。

 そんな簡単に割り切れる筈が無かったんだよ。だって俺は、現実を生きているんだから。いきなり切り離して考えられる訳が無い。
 それが現実なんだよ、現実逃避で救われたりはしない。向き合わないといけないんだよ、自分の置かれた現状に。

「他に良い子、居ないの?」

「……友達なら居る」

「高校生の時のデートって、大人になってからは出来ないわよ?」

 そんな事言われても、相手が居ないんだから仕方ないだろ。それにまだ可能性は残っているから。僅かな可能性に賭ける価値はあるから。
 俺が握って居るのは万馬券かも知れないから。可能性としてはかなり低いとしても。

 ただまあぶっちゃけ、凛ちゃんが駄目だったらもう希望はない。俺みたいな冴えない男を好きになる子が、そう簡単に現れる筈がない。
 ほんのりちょっぴりモテたから、俺は大丈夫だと天狗になって居ただけ。折れた後の鼻は、随分低くなりましたよ。

「良いんだよ、俺はバスケに行きる」

「後で後悔するわよ~?」

「良いんだよ、もう」

 苦し紛れの言い訳で、自分を誤魔化す。それが最近の日課になりつつある。女子と接点が無い訳では無いし、女友達だってちゃんと居る。
 彼女を作るだけが青春ではないのだから、無理して作る必要はない。そりゃあ誰かが好きになってくれるなら、その手を取ろうと思うけど。

 自分で言うのもアレだけど、俺の守備範囲は広い。健康に支障がない範囲でなら、太っていても気にしない。顔の好みも、かなり広いっぽい。
 信也しんや達の反応を見る限り、それは間違いない。胸の大きさにも拘らないし、身長も同様だ。基本的に、先ず女の子は可愛いものだと思っている。

「ああ、涼介。そろそろお風呂入っちゃって」

「分かった。セーブしたら入る」

 世界的に有名なゲーム機で、有名なアクションゲームをプレイしている。死んで何度もやり直すゲームだ。俺の人生も、こんな風にやり直せたらな。
 中学3年のバレンタインから、もう一度やり直せたら。そうしたら今頃、凛ちゃんと一緒に居られたかも知れない。
 こんな風に自分の置かれた現状から目を逸らして、必死に誤魔化す日々なんて来なかったのかも知れない。
 期待してしまう自分と、否定する自分の自己矛盾に苦しむ事も無かったのだろう。

 そんな意味のない想像をしながら、セーブを済ませて電源を切る。少しごちゃごちゃし始めた頭も、風呂に入ればスッキリするだろう。最近は余計な事を考え過ぎだ。もっとリラックスして毎日を生きよう。

「じゃあ、入って来る」

「ゆっくりで良いわよ、お父さん今日は遅いから」

 急ぐ必要がないのなら、尚更都合が良い。ゆっくり湯船に浸かって、ぼーっとするのも悪くはない。たまにはそんな日があったって良い。
 をする、簡単そうで難しい行為だ。俺は考え過ぎる所があるらしいから、脳を真っ白にするぐらいで丁度良い。
 ついでに風呂に入った時の日課もこなす。風呂場でスクワット300回。それが今の俺が毎日やっているトレーニングだ。
 中学時代はやって居なかったが、最近日々の生活に追加した。もっと上手くなる為にも、足腰を鍛えるのは重要だから。
 体を洗ったりする前に、一旦一汗掻いてからシャワー。これが中々に、気分が良い。
 筋肉を苛め抜いた後の、入浴はかなり良い。もし俺がプロになれたら、涼介式トレーニングとして広めたいぐらいだ。

 良い感じに思考が筋肉に寄って来た。元々頭はそんなに良くないんだから、グダグダ考えても仕方ない。俺に出来る事は、体を動かす事と鍛える事だけ。
 頭を働かせてどうこうは、ハッキリ言って向いてない。思考停止は不味いだろうけど、馬鹿の奇策が役に立つ事も無い。結局俺は、この生き方しか出来ない。
 信也や山下先輩の様に、女子と上手く付き合う事は出来ない。仲良くはなれても、恋愛は出来ない。それをこれまでに思い知らされて来た。
 自分の至らなさが悪いのだから、女子達が問題なんじゃない。俺が成長しないといけないんだ。

「ふぅ……うん、明日凛ちゃんに謝ろう」

 例え許して貰えなかったとしても、悪意は無かったという事だけは伝えよう。俺の気持ちに嘘は無かったと伝えよう。明日の放課後、部活の前にスパッと謝罪だ。
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