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第三章
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しおりを挟む クレハは、サスケを抱えた状態でカイルマン大尉達に連れられて、デア・ルーラーに横付けされていたランチへと乗り込んだ。
既にプロフェッサーは、担架にガチガチに固定されて乗せられていた。気を失っているようだったが、大きな怪我は無いようだった。
殆どサイボーグになっていたプロフェッサーは、クレハの感じた気持ち悪さと、サスケの体で起きたエラーの大量発生を同時に受けていた。つまり、二人の受けた苦しみを一身に受けたという事。想像を絶する衝撃を彼は受けていた。
「プロフェッサーは大丈夫なの?」
ランチに備え付けられていたベンチに固定された担架に近寄ると、プロフェッサーの様子を見ていた兵士に聞いた。
「詳しい事はちゃんと診察しないと分からないが、私が見る限り気を失っているだけだ。…この老人はどういう人物なのだ?四肢が義肢のようだが?」
様子を見ていた兵士…プロフェッサーの救出した部隊の隊長がクレハに尋ねた。
この時既にクレハは、ヘルメットを被り、顔を見られないようにしている。
「え~っと。私もこの人の本名は知らないんですけど。私達はプロフェッサーと呼んでいました。漂流していた私達を、デア・ルーラーの修理を手伝う事を条件に私達を保護してくれた人です。凄い科学者なんですけど。それと同じくらい変な人です。いやでも、いい人なんですよ?」
デア・ルーラーと言う一言に、カイルマン大尉がピクリと反応したが、それにクレハは気付かないかった。
「そうですか。気がついた時に暴れたりはしませんか?」
「…きっと狂喜乱舞すると思います。なので、落ち着くまで拘束していたほうが良いかもしれません」
タイムスリップが成功したと知った時のプロフェッサーの喜びようを想像したクレハは、言った。
「狂喜乱舞?まぁ漂流していた状態から助かったのだから喜ぶのは普通だと思うが?」
「あ~。普通はそうなんでしょうけど、私達の場合はちょっと事情がありまして…」
「ガルシア。すまないが聞くのはここまでにしてくれ。詳しい事は、後で報告する」
そこにカイルマン大尉が割って入った。
「なるほど。厄介そうな事だな」
カイルマン大尉の声に緊張が含まれていることに気がついたガルシアは、素直に引いた。
「お嬢さん。座ってくれランチがそろそろ出発する」
クレハは言われたとおりに、ベンチに座り、ベルトを締める。それを確認するとカイルマン大尉も席に着いた。
その時がくんとランチが揺れた。デア・ルーラーから離れたのだ。
ランチの窓から外を見ると、だんだんと遠ざかっていくデア・ルーラーの姿が見えた。
デア・ルーラーは、最初に見た時よりさらにひどい状態になっていた。
フューロベの主砲は避けたはずなのに、船体の一部が融解しており、船が歪んでいるのが見て取れた。どうしてタイムスリップできたのか不思議なくらいだ。これでは、修理する事はもう出来ないだろう。
(ありがとうデア・ルーラー。私を守ってくれて)
クレハは、遠のいていくデア・ルーラーを目で追いながら思った。
ランチが戦艦の格納庫へとするりと入っていく。
格納庫の中は、宇宙服を着た兵士達が行き来しており、忙しそうにしていた。
ランチが着陸するとカイルマン大尉が、ふわりとクレハの近くまで飛んでくる。
「到着しました。降りてください。部屋まで案内します」
「はい。お世話になります」
クレハは、ベルトを外して立ち上がると、カイルマン大尉にぺこりと頭を下げた。
カイルマン大尉は恐縮した様子で「いえ、自分は自分の仕事をしただけです!礼には及びません」と言って敬礼までした。
外に出ると、格納庫内の喧騒が良く聞こえた。ランチに整備兵が取り付き、固定具を手際よく取り付けていく。
クレハの横をプロフェッサーを載せた担架が通り過ぎていく。
「あの!プロフェッサーは何処へ連れて行くんですか?」
「彼は、まだ意識を失っていますので、一旦艦の医務室へと運んで精密検査を受けてもらいます。安心して下さい。別にとって食おういう訳ではありませんよ」
「じゃあプロフェッサーが起きたら知らせてくれますか?」
「もちろんです。では行きましょう」
カイルマン大尉達はクレハの周りを固めると、案内を始めた。
クレハは今まで戦艦になど乗ったことなど無かった。それも独立戦争時の船などクレハが生まれた時には、博物館にすらない。軍艦は退役すると、バラバラに解体され、素材の段階まで戻される。そこから資材へと加工され、新たな戦艦を作る為の資材へと生まれ変わる。
格納庫から、通路に入ると、そこは重力区画だった。無重力から重力下へ入る時特有のだるさを感じつつも、案内の兵士達に囲まれながら通路を歩く。
代わり映えのしない通路をしばらく歩くとだんだんとサスケを抱えている腕がつらくなってきた。
「何か、遠回りしてませんか?」
「申し訳ありません。貴方を他の兵士達になるべく見られない様に案内しろと命令されているのです」
「大丈夫だ。このルートからすると、私達が向かっているのは、この艦の営倉ではなく、士官室のようだぞ」
突然流暢に喋り始めたサスケに、驚いた兵士は思わず丁寧な対応を取ってしまう。
「そうだ。良く知ってるな」
「私は、一時期戦艦に配属されてた事がありまして、戦艦の一般的構造はインプットされています」
「ほぉ。おっと、到着しました。こちらです」
兵士はある扉の前に来ると横にある端末を操作して扉を開ける。
中は、ベットと、折りたたみの端末付きデスクが置いてあるだけのシンプルな部屋だった。
クレハは、部屋の中に入ると折りたたみのデスクを展開して、その上にサスケを置いた。
するとそこへ、女性士官が現れた。彼女は、宇宙服を着ているが、ヘルメットは被っていなかった。髪型はショートカットで身長は150cmくらいだろうか。軍人としては小柄な人だった。右手には手提げカバンを持ち左手には、救急箱を持っていた
「失礼します。始めまして遭難者さん。私が貴方を担当をさせてもらう。ジュリア・スミス中尉よ」
「よろしくお願いします。お世話になります。クレハ・クロードロンです」
「私は、クレハからサスケと名づけられたメンテナンスボットKMB-06だ。よろしく願う」
サスケはジュリア中尉にメインカメラを向けて手を上げる。
目を丸くしたジュリア中尉は、感心したようにため息をついた。
「本当に人みたいに喋るのね、そのメンテナンスボット。報告は聞いてるけど信じられないわ」
「ええ。不思議ですよね。でも私は、この子に何度も助けてもらってるんです」
クレハ、そういいながらサスケを撫でた。
ジュリア中尉はその仕草にサスケに対する親愛を感じた。振り返ると待機していたカイルマン大尉に向かって言った
「そう。大尉殿、後は自分が引き継ぎます。後はお任せ下さい」
「わかった。一応我々は扉の前で待機しておく。何かあったら呼べ」
そう言うと、ここまで案内してきたカイルマン大尉達は、部屋の外に出て扉を閉めた。
クレハに宛がわれた部屋の扉は閉まった。部屋には、ジュリア中尉とクレハ、そしてサスケが残った。
改めてクレハの方を向くジュリア中尉は、クレハが緊張しないように笑顔を向けながら言った。
「話を聞きたいけど、まずは貴方の診察をしてからね。大丈夫。私は、ちゃんと資格持ってるから。とりあえず脱いでもらえる?」
「分かりました」
クレハは、机の上に置いたサスケの向きを壁の方向にした。
クロードロン家に保護されて、アップデートしてから人間味を増したサスケに自身の裸を見られることに羞恥心を感じていたのだ
「別に私は、なんとも思わないんだが?」
「そういう問題じゃないの!」
そう言うをまずクレハはヘルメットを脱いだ。ヘルメットを脱いだクレハの顔を見た時ジュリア中尉はハッと息を飲み小声で呟く。
「!聞いてはいたけど本当に似ているわね」
「はい?私の顔何か変ですか?カイルマン大尉達も同じような反応をされたんですが?」
「なんでもないわ。って貴方唇切ってるじゃない!座って座って!」
(この子気付いてないの?自分が誰と似ているかって!?)
ジュリア中尉は、慌てたようにクレハの顔を両手で掴んだ。タイムスリップした時に、歯に当たって出来であろう傷がクレハの唇の端にあった。そこから血が一筋流れていた。
「ちょっと待ってね」
ジュリア中尉は、クレハをベットに座らせて、救急箱をテーブルにおいて、蓋を開けて一本一本袋詰めされた綿棒を取り出すと出血している唇に当てる。
「いつっ!」
「ちょっと我慢してね」
次に傷を消毒すると、止血能力のあるチューブ入りの軟膏を塗った。
「これでいいわ。じゃっ次は、その宇宙服ね」
言われたとおりに、宇宙服を脱ぎ、タンクトップとスパッツと言う身軽な格好になる。
着ていた宇宙服は、ジェシカ中尉が受け取り、危ないものが無いかチェックする。
「随分薄い宇宙服ね。安物なのかしら…?ダメよ。宇宙服は、見た目が格好悪くてもしっかりしたものを選ばなきゃ」
この時代、まだまだ宇宙服を着ると着膨れする。だが、クレハの着ていた宇宙服は、伊達に、この時代より未来に作られた宇宙服ではない。量産品の宇宙服だとしても、この時代の宇宙服より、破れにくく頑丈に作られている。
その時、宇宙服の内側に貼られていたタグが目に入った。
(…聞いたことの無いメーカーの宇宙服ね?え?)
宇宙服にタグが付いているのは、何の不思議でもない。全ての宇宙服には、メーカー、製品名、ロットナンバーなどが表記されたタグを宇宙服の内側に縫い付けておくのは全世界共通の義務になっている。
だが問題は、そのタグに記載されていた製造年月日だ。
明らかにその製造年月日は、未来の日付が表示されていた。
クレハの着ていた宇宙服を調べていたジッパー付きのポケットに何か入っていることに気がついた。
取り出してみると見たことの無い機種の携帯端末が出てきた。
(私が見たこと無い物って事は、オーダーメイドの端末?イヤでも宇宙服の製造年月日は未来だった。どういう事?)
クレハの容姿と、次々と出てくる不可解な物品。ジェシカ中尉の脳裏に、自分はもしかして想像よりも、とんでもない事態の前に居るんじゃないか?と言う不安が襲った。
既にプロフェッサーは、担架にガチガチに固定されて乗せられていた。気を失っているようだったが、大きな怪我は無いようだった。
殆どサイボーグになっていたプロフェッサーは、クレハの感じた気持ち悪さと、サスケの体で起きたエラーの大量発生を同時に受けていた。つまり、二人の受けた苦しみを一身に受けたという事。想像を絶する衝撃を彼は受けていた。
「プロフェッサーは大丈夫なの?」
ランチに備え付けられていたベンチに固定された担架に近寄ると、プロフェッサーの様子を見ていた兵士に聞いた。
「詳しい事はちゃんと診察しないと分からないが、私が見る限り気を失っているだけだ。…この老人はどういう人物なのだ?四肢が義肢のようだが?」
様子を見ていた兵士…プロフェッサーの救出した部隊の隊長がクレハに尋ねた。
この時既にクレハは、ヘルメットを被り、顔を見られないようにしている。
「え~っと。私もこの人の本名は知らないんですけど。私達はプロフェッサーと呼んでいました。漂流していた私達を、デア・ルーラーの修理を手伝う事を条件に私達を保護してくれた人です。凄い科学者なんですけど。それと同じくらい変な人です。いやでも、いい人なんですよ?」
デア・ルーラーと言う一言に、カイルマン大尉がピクリと反応したが、それにクレハは気付かないかった。
「そうですか。気がついた時に暴れたりはしませんか?」
「…きっと狂喜乱舞すると思います。なので、落ち着くまで拘束していたほうが良いかもしれません」
タイムスリップが成功したと知った時のプロフェッサーの喜びようを想像したクレハは、言った。
「狂喜乱舞?まぁ漂流していた状態から助かったのだから喜ぶのは普通だと思うが?」
「あ~。普通はそうなんでしょうけど、私達の場合はちょっと事情がありまして…」
「ガルシア。すまないが聞くのはここまでにしてくれ。詳しい事は、後で報告する」
そこにカイルマン大尉が割って入った。
「なるほど。厄介そうな事だな」
カイルマン大尉の声に緊張が含まれていることに気がついたガルシアは、素直に引いた。
「お嬢さん。座ってくれランチがそろそろ出発する」
クレハは言われたとおりに、ベンチに座り、ベルトを締める。それを確認するとカイルマン大尉も席に着いた。
その時がくんとランチが揺れた。デア・ルーラーから離れたのだ。
ランチの窓から外を見ると、だんだんと遠ざかっていくデア・ルーラーの姿が見えた。
デア・ルーラーは、最初に見た時よりさらにひどい状態になっていた。
フューロベの主砲は避けたはずなのに、船体の一部が融解しており、船が歪んでいるのが見て取れた。どうしてタイムスリップできたのか不思議なくらいだ。これでは、修理する事はもう出来ないだろう。
(ありがとうデア・ルーラー。私を守ってくれて)
クレハは、遠のいていくデア・ルーラーを目で追いながら思った。
ランチが戦艦の格納庫へとするりと入っていく。
格納庫の中は、宇宙服を着た兵士達が行き来しており、忙しそうにしていた。
ランチが着陸するとカイルマン大尉が、ふわりとクレハの近くまで飛んでくる。
「到着しました。降りてください。部屋まで案内します」
「はい。お世話になります」
クレハは、ベルトを外して立ち上がると、カイルマン大尉にぺこりと頭を下げた。
カイルマン大尉は恐縮した様子で「いえ、自分は自分の仕事をしただけです!礼には及びません」と言って敬礼までした。
外に出ると、格納庫内の喧騒が良く聞こえた。ランチに整備兵が取り付き、固定具を手際よく取り付けていく。
クレハの横をプロフェッサーを載せた担架が通り過ぎていく。
「あの!プロフェッサーは何処へ連れて行くんですか?」
「彼は、まだ意識を失っていますので、一旦艦の医務室へと運んで精密検査を受けてもらいます。安心して下さい。別にとって食おういう訳ではありませんよ」
「じゃあプロフェッサーが起きたら知らせてくれますか?」
「もちろんです。では行きましょう」
カイルマン大尉達はクレハの周りを固めると、案内を始めた。
クレハは今まで戦艦になど乗ったことなど無かった。それも独立戦争時の船などクレハが生まれた時には、博物館にすらない。軍艦は退役すると、バラバラに解体され、素材の段階まで戻される。そこから資材へと加工され、新たな戦艦を作る為の資材へと生まれ変わる。
格納庫から、通路に入ると、そこは重力区画だった。無重力から重力下へ入る時特有のだるさを感じつつも、案内の兵士達に囲まれながら通路を歩く。
代わり映えのしない通路をしばらく歩くとだんだんとサスケを抱えている腕がつらくなってきた。
「何か、遠回りしてませんか?」
「申し訳ありません。貴方を他の兵士達になるべく見られない様に案内しろと命令されているのです」
「大丈夫だ。このルートからすると、私達が向かっているのは、この艦の営倉ではなく、士官室のようだぞ」
突然流暢に喋り始めたサスケに、驚いた兵士は思わず丁寧な対応を取ってしまう。
「そうだ。良く知ってるな」
「私は、一時期戦艦に配属されてた事がありまして、戦艦の一般的構造はインプットされています」
「ほぉ。おっと、到着しました。こちらです」
兵士はある扉の前に来ると横にある端末を操作して扉を開ける。
中は、ベットと、折りたたみの端末付きデスクが置いてあるだけのシンプルな部屋だった。
クレハは、部屋の中に入ると折りたたみのデスクを展開して、その上にサスケを置いた。
するとそこへ、女性士官が現れた。彼女は、宇宙服を着ているが、ヘルメットは被っていなかった。髪型はショートカットで身長は150cmくらいだろうか。軍人としては小柄な人だった。右手には手提げカバンを持ち左手には、救急箱を持っていた
「失礼します。始めまして遭難者さん。私が貴方を担当をさせてもらう。ジュリア・スミス中尉よ」
「よろしくお願いします。お世話になります。クレハ・クロードロンです」
「私は、クレハからサスケと名づけられたメンテナンスボットKMB-06だ。よろしく願う」
サスケはジュリア中尉にメインカメラを向けて手を上げる。
目を丸くしたジュリア中尉は、感心したようにため息をついた。
「本当に人みたいに喋るのね、そのメンテナンスボット。報告は聞いてるけど信じられないわ」
「ええ。不思議ですよね。でも私は、この子に何度も助けてもらってるんです」
クレハ、そういいながらサスケを撫でた。
ジュリア中尉はその仕草にサスケに対する親愛を感じた。振り返ると待機していたカイルマン大尉に向かって言った
「そう。大尉殿、後は自分が引き継ぎます。後はお任せ下さい」
「わかった。一応我々は扉の前で待機しておく。何かあったら呼べ」
そう言うと、ここまで案内してきたカイルマン大尉達は、部屋の外に出て扉を閉めた。
クレハに宛がわれた部屋の扉は閉まった。部屋には、ジュリア中尉とクレハ、そしてサスケが残った。
改めてクレハの方を向くジュリア中尉は、クレハが緊張しないように笑顔を向けながら言った。
「話を聞きたいけど、まずは貴方の診察をしてからね。大丈夫。私は、ちゃんと資格持ってるから。とりあえず脱いでもらえる?」
「分かりました」
クレハは、机の上に置いたサスケの向きを壁の方向にした。
クロードロン家に保護されて、アップデートしてから人間味を増したサスケに自身の裸を見られることに羞恥心を感じていたのだ
「別に私は、なんとも思わないんだが?」
「そういう問題じゃないの!」
そう言うをまずクレハはヘルメットを脱いだ。ヘルメットを脱いだクレハの顔を見た時ジュリア中尉はハッと息を飲み小声で呟く。
「!聞いてはいたけど本当に似ているわね」
「はい?私の顔何か変ですか?カイルマン大尉達も同じような反応をされたんですが?」
「なんでもないわ。って貴方唇切ってるじゃない!座って座って!」
(この子気付いてないの?自分が誰と似ているかって!?)
ジュリア中尉は、慌てたようにクレハの顔を両手で掴んだ。タイムスリップした時に、歯に当たって出来であろう傷がクレハの唇の端にあった。そこから血が一筋流れていた。
「ちょっと待ってね」
ジュリア中尉は、クレハをベットに座らせて、救急箱をテーブルにおいて、蓋を開けて一本一本袋詰めされた綿棒を取り出すと出血している唇に当てる。
「いつっ!」
「ちょっと我慢してね」
次に傷を消毒すると、止血能力のあるチューブ入りの軟膏を塗った。
「これでいいわ。じゃっ次は、その宇宙服ね」
言われたとおりに、宇宙服を脱ぎ、タンクトップとスパッツと言う身軽な格好になる。
着ていた宇宙服は、ジェシカ中尉が受け取り、危ないものが無いかチェックする。
「随分薄い宇宙服ね。安物なのかしら…?ダメよ。宇宙服は、見た目が格好悪くてもしっかりしたものを選ばなきゃ」
この時代、まだまだ宇宙服を着ると着膨れする。だが、クレハの着ていた宇宙服は、伊達に、この時代より未来に作られた宇宙服ではない。量産品の宇宙服だとしても、この時代の宇宙服より、破れにくく頑丈に作られている。
その時、宇宙服の内側に貼られていたタグが目に入った。
(…聞いたことの無いメーカーの宇宙服ね?え?)
宇宙服にタグが付いているのは、何の不思議でもない。全ての宇宙服には、メーカー、製品名、ロットナンバーなどが表記されたタグを宇宙服の内側に縫い付けておくのは全世界共通の義務になっている。
だが問題は、そのタグに記載されていた製造年月日だ。
明らかにその製造年月日は、未来の日付が表示されていた。
クレハの着ていた宇宙服を調べていたジッパー付きのポケットに何か入っていることに気がついた。
取り出してみると見たことの無い機種の携帯端末が出てきた。
(私が見たこと無い物って事は、オーダーメイドの端末?イヤでも宇宙服の製造年月日は未来だった。どういう事?)
クレハの容姿と、次々と出てくる不可解な物品。ジェシカ中尉の脳裏に、自分はもしかして想像よりも、とんでもない事態の前に居るんじゃないか?と言う不安が襲った。
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