スクラップ・サバイブ

止まり木

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第二章

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 デブリを重力発生装置で誘導し、盾と出来るなら、同じ様に攻撃にも使用できる。今海賊たちを襲っているデブリ群は、シールドリングと同じ重力発生装置によって落とされたデブリ群だった。
 宇宙空間では、一度加速すれば等速直線運動によって、重力発生装置の効果範囲圏内から離れたとしても動き続ける。
 確かに小さいデブリが一つ当たった程度では、艦に少し傷が付く程度だ。だが、その小さなデブリが何千何万何億と川のように流れてきたら、いくらシールドを持った駆逐艦といえどもひとたまりも無い。
 一滴の水で人間を押し流すことなど出来ない。だが、大量の水が川のように流れ、人にぶつかったとしたら人間に出来る事は無様に押し流されるしかない。
 いわば、海賊達は今デブリの川のど真ん中に居る様なものなのだ。
 今もなお、大量のデブリが、海賊の艦に


 スカルヴァイドの後方に居たオルガーが、駆逐艦ディロットを攻撃したビーム砲に向かって反撃し、ビーム砲は破壊された。
 だが、一方推進機関を破壊されたディロットは、バランスを崩し、グルグルと無軌道に回り始めていた。この状態では何も出来ない。下手をすればそのままデブリの中へ突っ込んだり、他の艦に衝突する危険がある。
 こうなってしまっては前に進む事など出来ない。ディロットの操舵士は制御を取り戻そうと必死に姿勢制御スラスターを吹かし、艦を停止状態にしようとしていた。
 その様子を、他の艦の海賊達が苦々しく思いながら見ていた。
 こんな状態では危なくて前進する事も出来ず海賊艦隊は、デブリの川で停止する事を余儀なくされてしまった。
 そこへ、研究所からの通信が入った。
 駆逐艦オルガーに乗るデアードが代表して出る。 
『さて糞餓鬼共。諦める気になったか?』
 通信が繋がるとプロフェッサーは開口一番そう言った。
「ここまで来ておめおめと引き下がれるかいな!博士はん!もう容赦せんで!」
 顔を真っ赤にして答えるデアード。もし、目の前にプロフェッサーがいたら噛み付くような勢いだ。
『そういえば、お前の目的はワシの直したパーツだったな?』
「なんや?いきなり何言うてますのん?」
 うろたえるデアード。そこでプロフェッサーがにやりと笑った。
『こんな物があるから争いが起きるんじゃ!ポチッとな!』
 わざとらしい台詞を口に出してボタンを押すと、研究所のハッチが開いた。そこはいつも商人が使っていたドックがある場所だ。
 デアードは、プロフェッサーが何をしようとしているのか分からない。
『そうしてこうじゃ!』
 さらに、プロフェッサーがボタンを押す。
「あっあああああああああああああ!なっ何をしてはりますのん!?」
 すると今度は、ドックの中から色々な大きさのコンテナが、宇宙空間へと放出された。
 それを見たデアードは、顔を真っ青にして叫んだ。
 何故ならそれは、研究所の倉庫で見たことのあるものばかりだったからだ。当然それらの中身はプロフェッサー謹製の違法改造パーツが詰まっている。
「嘘や!あれは、空のコンテナだけ捨てただけや!」
『そう思うじゃろ?けどな…ほい!ほい!ほい!』
 デアードがそう考える事を予想していたプロフェッサーが画面の向こうで悪い顔をしてさらにボタンを押す。
 すると宇宙空間へと放り出されたコンテナの扉が次々と開き、中身を外へと放出され、研究所の周囲で流れていくシールドリングのデブリに当たり、次々と壊れていく。
 中には、放射線などに曝露させてしまうと使い物にならなくなるデリケートなパーツも多数あるので、コンテナが開かれた時点でアウトなパーツも多い。
「あー!あー!何てことを!そんな事すれば!あー!」
 一人デアードが騒いでいる間にも、次々とパーツが放出されていく。
『これで、おんしらが、目的にしとったワシのパーツは全てなくなった。それでもまだ攻めてくるかの?後これを見るがいい』
 そういうとプロフェッサーは自身の着ている宇宙服の襟をぐいと広げた。
 プロフェッサーの首には、首輪としか言いようの無いものが嵌まっていた。
「それはっ!」
 それは、海賊達にも見覚えのあるものだった。
 プロフェッサーの首に嵌まっていたのは、海賊達から"奴隷の首輪"と呼ばれているものだ。
 その首輪には、爆弾が仕掛けられており、リモコンで爆破する事が出来る。その首輪を付けられた人間は、リモコンを持つ相手に文字通り命を握られることになる。
 当然そんな物は、作るのも、所持するのも非合法。だが、無法のこの宙域では平然と使われている。基本的に使われるのは、首の回らなくなった海賊相手だが、時々闇市の娼婦の首についている事もある。
 そしてプロフェッサーの手には、奴隷の首輪のものと思われるスイッチが握られていた。
 プロフェッサーはニヤリと笑って言った。
『お前らが、ワシの研究所に入ってきたらこのボタン押すからの』

 サスケ達の防衛計画は、勝つ事を目的にしてはいない。
 海賊達…いや、商人デアードの目的は、研究所で作られた違法パーツとプロフェッサー自身だ。それが失われるという事は、襲撃の目的の喪失に等しい。
 既にパーツは失われ、たとえプロフェッサーの身を確保する為に研究所に突入したとしても、その時点でプロフェッサーは自爆する。
 つまり、どうあってもデアードの目的である研究所にあるパーツとプロフェッサー自身の確保という目的は完全に果せない事が確定した。
 その事に気付いたデアードは顔を真っ青にしてひあ汗を流し始めた。
「…デアードさん。こうなった場合俺達の報酬の件はどうなりますかな?」
「ひっ!?」
 声を掛けたのはオルガーの艦長だった。彼は、オルガーの艦長であると同時にロルド海賊団の団長でもあった。
『骨折り損のくたびれもうけじゃな。これ以上損が増えないうちに変える事をおススメするぞい。なぁにデアードに協力はしたんじゃ。ある程度の保障はしてくれるじゃろうよ。なぁに。今までワシのパーツを売って儲けた金があるはずじゃかの!ひひっ』
 船を動かすのに金が掛からないわけは無い。推進剤に食料、弾薬に人件費、項目を上げれば数多くあり、そしてそれらの値段もけっして安く無い。
 プロフェッサーの違法パーツには、その経費を掛けたとしても得る価値があると思ったオルガーの艦長であったが、この期に及んでは儲けが出るとは思えない。
 しばらく葛藤していたが、頭を上げると言った。
「…ちっ!総員撤退だ!こんな所に居ても時間の無駄だ。デアードさん、いやデアード。テメェにはゆっくり話したい事がある。おい!連れて行けっ!」
 オルガーの艦長がそう言うと、ブリッジの外に待機していた海賊が二人は言ってきて、固まってるデアードをブリッジから連れ出す。
「そんな!後生や!堪忍してや!」
 ブリッジから出て行くまでデアードは、体をバタバタさせて喚いていたが、ブリッジの扉が閉まるとそれも聞こえなくなった。
『それであんたらはどうするかね?デットロリポップの?』
『ああ!決まってんだろ!テメェのところに匿っている女を捕まえるまで引けるかってんだ!テメェが死のうがどうしようが関係ねぇんだよ。逆に礼を言いたいくらいだぜ。これで心置きなく撃てる!あの役立たずのボロ船を撃て!!』
 デルトンがそういうと、スカルヴァイドの主砲からビームが連射された。発射されたビームは、スカルヴァイドの前方で浮遊していた駆逐艦ディアードの船体を次々と貫き、穴だらけにする。
 必死に、もがいていたディロットは、あっけなく撃沈された。
「ふん外道め」
 それだけ言うと、オルガーの艦長は、こんな場所にもう用は無いと通信を切った。
 プロフェッサーも、オルガーの艦長もその行動は予想が出来ていたのか驚く事は無かった。
 そして、何事も無かったかのように、ロイガー海賊団は艦を回頭させないまま後退させていく。もちろんスカルヴァイドを警戒してのことだ。
 たとえ、同じ作戦に参加したとしても別の海賊団は、ライバルでしかない。すでに作戦が破綻している状況で、よその海賊団がどうなろうと知ったこっちゃ無いのだ。
 義理も無い海賊団のあだ討ちをしたって何の一文の得にもならない。

 ディロットを所有していたフィア海賊団は、いわば零細海賊団だった。
 古くからこのリンデット宙域で活動していたものの、闇商人達が作った闇市や、新たにこの宙域に流れてきた他の海賊団との縄張り争いに負け続け、団の運営資金まで危なくなってきている。海賊活動で使っている駆逐艦ディロットも老朽化が進み、レーダーに、もどうしようもない不具合が出てきていた。
 そんな時にデアードによって舞い込んできたのが、今回の話だった。
 デットロリポップ海賊団とロルド海賊団の合同で海賊の中では有名な違法パーツを作っている変人の住処を襲い。違法パーツを奪うという話。
 デットロリポップ海賊団と一緒に動くのは、危険だとフィア海賊団の誰もが思った。しかし、その時点においてフィア海賊団の消滅は時間の問題だった。ならば一か八か、噂になっているプロフェッサーの違法パーツを奪い。艦を刷新、大逆転を狙おうとしたのだ。
 結果、彼らは、プロフェッサーに推進機を破壊され、邪魔だとデットロリポップ海賊団によって撃沈された。
 フィア海賊団の団長は、最後まで"こんなはずでは"と思いながら死んでいった。

 デルトンは、駆逐艦ディロットが小爆発を連鎖的に引き起こしながら撃沈していく様をニヤつきながら眺めている。
 既に通信はオルガーとの通信は切られ、プロフェッサーとデルトンは一対一で向き合っていた。
 プロフェッサーを前にさぁこれからが本番だ。といわんばかりにデルトンは笑っている。

『予想通りおぬしは、帰らんのじゃな?』
「当然だろう?てめぇんとこにあの小娘が居るんだからな!」
 すると横から、諦めたようにため息をつきながら、フレームインした。プロフェッサーの背後に立ち、プロフェッサーの前にあるコンソールに右手を付いた格好で。
 クレハも、ロンドモス号から脱出してきた時に着ていた宇宙服を身に着けていた。
『まったく、しつこいわね。そんなんじゃ女の子にモテないわよ』
「ハッ!やっぱり居やがったな?デルトン様を馬鹿にした事を後悔させてやる」
『あんたは、やっぱり三流海賊のチンピラどまりね。言ってる台詞が、三下過ぎるわ』
 クレハは、怖がりもせず、画面の向こうに居る泣く子も黙る海賊出るデルトンを見下している。
 実際は、膝ががくがく震えているのだが、カメラには上半身だけしか映っていないのでデルトンには見えない。
「けっ!お尋ね物の癖に」
『あら、私は、人に言って恥ずかしい事なんて、した事は無いわよ』
「はっ!なら何でテメェが追われているんだ?」
『知らないわよ!こっちは、それで逃亡生活なんて迷惑してるんだからね!』
「まぁ、いいさ!こちとらテメェを殺れば良いんだからな!」
『やって見なさいよ!やった事を後悔させて上げるわっ!私達がやられるままとは、思わない事ね!』
 ディロットが完全に爆散するとデルトンは命じた。
「全速前進!ヤツの懐に入る!そうすりゃこっちのもんだ!」
 その時、研究所のレーダーと、スカルヴァイドのレーダーが、同時にけたたましくアラームが鳴った。
「何事だ!」
「艦後方から高エネルギー反応確認!これは…」
 デルトンが、部下から報告を聞く前に、撤退していたロイガー海賊団の二隻の駆逐艦が、駆逐艦の主砲とは比べ物にならない位強力なビームによって同時に貫かれた。
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