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引きこもり、毒を使う②

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 翌日、ヴァットは集合場所のタイポイ南出口へと向かう。
 すでに待っていたエイスがヴァットを見つけると、プンプンと怒りを表すエモーションを頭上に浮かべた。

「もう! 遅いわよ!」
「悪い悪い、準備に手間取った」
「文句言ってる時間が惜しいわ。さ、早く狩りに行きましょ!」
「おう」

 二人は早速フィールドへと繰り出す。
 辺りは竹林が生い茂っており、所々に木漏れ日が差す美しいマップだった。

「わー、なんかワクワクするねぇ。VRとは思えない作り込み! デスゲームじゃなきゃ、色々見て回れるんだけどなぁ」
「だが待ってほしい。リアルも死んだら終わりだし、ある意味デスゲームと言えるんじゃないか?」

 ヴァットの言葉に、エイスはジト目を返す。

「……ヲタクっぽい意見ねぇ。リアルとは危険度が段違いでしょうが。モンスターとかいないしさ」
「それもそうだ。……そして噂のモンスターさんが出てきたぞ」

 竹藪をかき分けて出てきたのは、巨大なパンダのようなモンスターだ。
 頭には札を張られた中華帽子を被っており、そのすぐ上にはパンシーと表示されていた。

「ギョーン!」

 鳴き声一つ上げ、パンシーは両手を前に上げた。
 そしてぴょんぴょんと跳ねながら進んでくる。
 パンシーは白目を剥き、長い舌をだらしなく振り乱していた。
 それを見たエイスはドン引きしている。

「うわー、きもーい」
「パンダのキョンシーだな。素材は可愛いと思うんだが……」
「どうしてこうなったとしか言いようがないねぇ」
「ギョーン! ギョォォーン!」

 地の底から響くような鳴き声を上げながら飛び跳ね近寄ってくるパンシー。
 速度の遅さがより不気味さを漂わせていた。

「じゃあヴァット、支援よろしくー」
「いや、パンシーは移動速度は遅いがかなり強いモンスターだ。攻撃力が非常に高くまともに相手するのは危険だ。こいつを使う」

 そう言ってヴァットが取り出したのは、毒々しい紫色のポーションである。
 先日ヴァットが試したベナムポーションである。
 こぽこぽと中で泡が立つそれを見てエイスは青ざめた。

「ひぃっ! そ、そんなの飲まないからね……!」
「馬鹿、これはこうやって使うんだよ」

 ヴァットがパンシーの進行方向、地面に向けてベナムポーションを投げつけた。
 ポーション瓶が割れ、液体が飛び散るエフェクトと共に、毒々しい音が鳴る。
 パンシーの目の前に、紫色の泡立つ水たまりオブジェクトが現れた。
 それに触れたパンシーがの身体が毒に染まり、名前の横に毒状態を表すドクロのマークが表示された。

「ベナムポーション、これにより発生した毒の泉に触れたものはどんなモンスターでも毒状態になる。RROの毒は強烈で5秒間に10%のダメージが入るが普通はすぐに回復する。だがこの泉に更に触れ続ければ、毒は回復しない。50秒でどんな敵も倒せるんだ」
「なるほど……ってつまりどういうこと?」
「エイスにはパンシーをこの毒の泉に浸け続けるよう、上手くコントロールして欲しい」
「あーなるほどね。完全に理解した」
「……なんかよくわかってなさそうな返事だな」
「そんなことないっすよー」

 エイスはやや離れた場所からパンシーを斬りつける。
 するとパンシーはエイスをぎょろりと睨み付けると、そちらの方に向かっていった。
 エイスはパンシーを引き連れ、毒の泉の周りをぐるぐる連れ回す。

「……つまりこういう事でしょ?」
「だな。ナイス読解力」
「ふふーん、国語は60点以下は取った事がなくってよ?」

 微妙すぎる自慢をしながら、エイスはパンシーを引き連れていく。
 たまに接敵し攻撃を繰り出すが、エイスには当たらない。
 パンシーのHPはみるみる削れていく。

「ギョーン! ギョーン!」
「ギョーン! ギョギョーン!」

 そんな中、竹藪から他のパンシーが寄ってくる。
 エイス目掛けて突っ込んできた。

「やばっ! また来たよっ!」
「慌てるな。何体いても毒に当て続ければいい。捕まりそうになったら、アンチペインで振り切るんだ。ヤバそうなら蜘蛛糸ポーションを投げる」
「わ、わかったっ!」

 エイスはヴァットの指示通り、パンシーを連れ走り回る。
 戦闘時間は1体に付き50秒と雑魚にしてはかなり長めである。
 戦闘が長引けば、関係ない他のモンスターも近づいて来る。
 竹藪からわらわらと、追加のパンシーたちがエイスに向かってくる。

「ギョーン!」
「ギョーン! ギョギョーン!」
「ギョギョギョギョーーーン!!」

 いつの間にか群れとなったパンシーたちが、逃げるエイスを追う。

「きゃああああーーーんっ!」

 悲鳴を上げながらも毒の泉の周りを走り回るエイス。
 それでも毒の泉に当て続ける事は難しくなっており、ヴァットは追加のベナムポーションを地面に投げつけた。
 毒の泉はさらに広がり、パンシーたちを毒漬けにする。

「ちょっとーっ! あんまり毒を広げられたら走りにくくなるんですけどーっ!?」
「パーティメンバーには効果がないから安心して踏め!」
「うーっ! そうは言われても気になるわよーっ!」

 そう言いながらも背に腹は代えられないのか、時折つま先立ちで毒の泉に触れていた。
 無論、それで毒に侵されるようなこともない。

「な、言った通りだろ?」
「そーだけど! そーですけどーっ!」

 始めの方につれ回していたパンシーが倒れて消え、代わりに笹の葉をドロップした。
 それをヴァットがこまめに拾う。

「いいぞエイス! その調子だ!」
「ひぎーーー! らめぇーーー!」

 エイスの頭上でラッパを吹くような音がした。
 レベルが上がったようだった。
 同時にヴァットもレベルアップした。

「お、俺もだ。さーて、とりあえずDEXに振って、スキルはどれにしようかな……っと」

 ヴァットがコンソールを開きポチポチ操作していると、何かが近づいてくる気配を感じた。
 竹藪から近づいて来る巨大な影。
 どどどどどどどどど! と土煙を上げながら近づいて来るのは、巨大なラクダだった。
 ラクダの背には一人の少女が乗っていた。

「あんたらーーーっ! 今助けるでぇぇぇーーーっ!」

 少女は大きな声を上げながらパンシーの群れに突っ込んでいく。
 商人のスキルである「ライディング」は、習得すればラクダに騎乗することが出来る。
 背中に取り付けられた大型の鞄に大量のアイテムを入れることが出来、移動速度も格段に上がる。
 加えてスキルツリーを伸ばしていけば先刻のように体当たりを喰らわせる「チャージアタック」を覚える事も可能だ。

 ラクダの体当たりでパンシーたちは吹き飛ばされていく。
 パンシーらが消滅していくのを見て、少女は額の汗をぬぐった。

「ふぅ、大丈夫やったか? あんたら」

 ラクダの上で人懐っこい笑みを浮かべる少女。
 その頭上には花子と表示されていた。
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