効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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1巻

1-3

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 学校が終わると、すぐさま行商隊が泊まっている宿に向かった。
 宿屋の主人に呼び出してもらうと、黒いボブカットの少女が小走りに駆けてきた。
 髪がぼさぼさでみすぼらしい格好をしている。恐らく小間使いの奴隷どれいか何かだろう。

「お待ちしておりました、ゼフさまですね?」
「うむ」

 少女に案内されて部屋の前に着いたワシは、扉を開けて中に入る。
 待ち構えていたように両手を広げ、笑顔でワシを迎える行商隊のリーダー。

「おぉ、よく来てくれたゼフ殿! 歓迎するぞ!」
「うむ。それでは、早速見せてもらえるか?」
「魔導師のゼフ殿なら、それ用のアイテムが希望なのだろう。こちらに用意してある。自由に選んでくれ」

 そばにいた少女が大きな宝箱を開けると、そこには荷馬車にあった大量のアイテムが並べられていた。特に高価なものをつくろっている辺り、中々好感の持てる男である。

「この宝箱の中のモノであれば、いくらでも持ち帰ってくれ」
「全部でも構わぬ、と?」
「もちろん」

 太い腹を突き出して答える。見た目通りの太っ腹だ。
 とはいえ、こんなデカい宝箱は持って帰れぬし、母さんに見つかったら一大事である。
 高いものからいくつか、母さんにバレない程度に頂いていこう。
 ガチャガチャと音を立てながら宝箱を漁っていく。
 こういうのは純粋に楽しい。何が入ってるかわからないおもちゃ箱には、誰でもワクワクするものだろう。
 魔導を覚えるために使うスクロールは無視だ。かさばるし、ワシはこの時代の魔導は全て習得している。……軽くて高価で、特殊な効果を持つアクセサリー、見るべきはこれだな。
 大量のアイテムの中から、蛇の骨をかたどったリングを見つける。
 ――蛇骨のリング。
 はくの魔導は、発動の際に媒体としてジェムストーンを必要とし、強力な魔導ほど大量のジェムストーンを消費する。
 初等魔導は一度使うとジェムにひびが入り、何度か使うと壊れる。中等魔導は一度につき一個、大魔導は一度で数個壊れてしまう。
 あまりにもカネがかかるため、魄の魔導は使い手が少ない。
 しかし、この蛇骨のリングを身につけていれば、初等レベルならジェムストーンを消費せずに使うことができるのだ。
 まずはこれ。それから次に……あった。
 ――テレポートピアス。
 これはテレポートという特殊な魔導が使用できるアクセサリーで、視界内であればどこにでも瞬時に移動することができる。
 ただし普通の魔導より集中力が必要なので、戦闘中に使用するのは難しい。テレポートで相手の攻撃を避けて、隙だらけの背中から攻撃する、といった使い方は不可能である。
 とはいえ、移動に関してはかなり使えるし、魔導師必須のアクセサリーといえた。
 あとは特にめぼしいものはないな。
 ワシは残りのアイテムのうち、換金率の高いアクセサリーを、上から持てるだけ頂いておいた。
 あらかじめ持ってきた風呂敷に、ひょいひょいとつまんで載せていく。
 行商隊のリーダーはワシの遠慮のない行動に苦笑いしていたが、特に止める様子はない。
 まぁ盗賊に全て奪われることに比べれば、この程度で済むならマシだ、ということなのだろう。
 遠慮することはあるまい。
 ワシはつくろったアイテムを風呂敷に包み、帰り支度をした。

「それではありがとう」
「あぁ、是非ぜひまた来てくれ、今度は客として」
「考えておくよ」

 何とも商売人らしいリーダーを尻目に、ワシは部屋を後にした。
 扉の前で待機していた少女に再び案内されて宿の外へ出ると、突然、少女はワシに頭を下げた。
 そのまま頭を上げようとしない少女に、ワシは尋ねる。

「……どうしたのだ?」
「お兄ちゃん、私のお姉ちゃんのかたきを取ってくれたんですよね……ありがとうございました」

 ……なるほど、そういうことか。
 この子は昨日、ワシの目の前で殺された少女の妹なのだろう。そういえば、少し目元が似ている気がする。
 ワシは少女の真っ直ぐな瞳から目を逸らし、答えた。

「気にするな、ワシが自分のためにやったことだ」
「私たち奴隷どれいなの。いつか二人で自由になろうって決めてたんだけど……ダメ、だった……」

 少女はその年齢に似合わぬ、かげを帯びた表情でつぶやく。
 年不相応な仕草は苦労の年月の証なのだろう。
 少女の手を握り、風呂敷からアクセサリーを一つ出して渡す。

「これをやる」
「え……?」
「君が成長し、いつか自由を得るために……自分で自分を買うために使うんだ」

 あまり目利きは得意ではないが、少なくともれい一人分くらいは買える値段のアクセサリーである。
 少女の手を包んでアクセサリーを握らせると、少女はワシの顔を見上げてきた。

「……いいの?」
「あぁ、姉さんの分も幸せに生きろよ」

 宿を出るワシを、少女はいつまでも見送っていた。
 やれやれ、柄にもないことをしてしまったな。
 今日はもう家に帰ってゆっくり休むか。
 山の上の自宅を視界に捉え、テレポートを念じると一瞬にして自宅までたどり着いた。
 久しぶりに使ったがテレポート、やはり便利な魔導だ。
 これで行動範囲がかなり広がるな。


     ◆ ◆ ◆


 放課後。
 学校に通う子供は、基本的にこの時間を楽しみにしているだろう。
 遊びたい盛りの子供にとって、学校の勉強より大事なものなどいくらでもある。
 ワシもしかり。
 蛇骨のリングとテレポートピアスを手に入れたことで、ワシの行動範囲は大きく広がった。
 異界に干渉するはくの魔導はアンデッドや霊体など、この世のことわりに反した魔物に効果が高い。
 この手の魔物は非常にタフなので通常攻撃で戦うのは苦労するが、弱点である魄の魔導を使えば楽に倒せ、かつ得られる経験値も多めである。
 棲息域が少ないため狩場は限られているのだが、丁度運良く、ナナミの街から行ける距離にアンデッドのあらわれるダンジョンがあるのだよな。
 ダンジョンは、特に濃いマナの影響によって、強力な魔物が大量にあらわれるようになった場所である。
 その分、魔物を倒して得られる経験値も大きく、効率的に修業できるというワケだ。
 早速街を抜け出して、遠くに見える岩の近くまで移動するよう、テレポートを念じる。
 こうすれば、一足で相当な距離を稼げるのだ。やはりテレポートは便利だな。
 足元からアクアゼルがあらわれたが、無視だ。
 同様に繰り返してテレポートを念じると、ぐんぐん景色が流れていく。

「見えてきたな」

 遠くに古い建物を捉える。
 あそこだ。
 一旦、テレポートをやめ、建物に近づく前に瞑想めいそうを行う。
 魔力をかなり消費してしまったので、回復せねばな。
 辿たどり着いたのは、ち果てた教会。
 かつては孤児院の役割もしていて子供もたくさんいたそうだが、いつしか教会を利用する者がいなくなり、そのまま打ち捨てられてしまったのだ。
 今となっては、マナの影響で死者がかっするダンジョンと化している。
 ワシが駆け出しの頃、師匠に連れられて来たっけな。
 ……っと、そろそろ魔力も回復してきたし、行くとするか。
 ワシは教会に向け、テレポートを念じた。


「相変わらず不気味な雰囲気だな」

 教会の敷地内では朽ちた黒い木々にカラスが止まっており、空には黒雲が立ち込めている。
 ダンジョン化した場所は、あらわれる魔物に応じてその形を作り変えることもある。こうした影響からは、つくづくマナの強力さを思い知らされる。
 教会の敷地に一歩足を踏み入れると、墓のかげからいくつかの人影があらわれた。
 ――ゾンビである。
 人間の死体が動いているような魔物で、全体が腐っており、白い骨がちらほらと見える。
 といっても実際に死体が動いているワケではなく、ダンジョンのマナが死体を通透して具現化しているだけなのだ。

「三匹、か」

 ゾンビはノロノロとハエが止まりそうな動きで攻撃を仕掛けて来るが、遅すぎる。
 攻撃を軽く避け、ゾンビ三匹を対象にホワイトボールを念じる。
 蛇骨のリングが白く光り、ワシのてのひらから放たれた光弾はゾンビ三匹を一撃のもとにほうむり去った。

「一撃か、あっけないものだ」

 はくの魔導は使用の際にジェムストーンや蛇骨のリングなどの媒体になるものが必要だが、その代わり他の系統の魔導より効果が高いものが多い。
 ホワイトボールは他系統のボール系の魔導と違い、一度に複数を対象にすることが可能なのだ。
 ゾンビを倒し、経験値がワシの身体に蓄積されるのを感じていると、前方に多数の魔物の気配を感じる。
 どうやら一気にあらわれたようだな……好都合だ。
 ワシはニヤリと笑い、きびすを返して歩き出した。

「~♪ ~♪」

 不気味な空気漂う墓地を、鼻歌交じりに歩いていく。
 後ろには大量のゾンビ。二十匹はいるだろうか。
 あーうーとうめき声を上げながら、ワシの後ろをのろのろとついてくる。

「そろそろいいか」

 墓地を歩き回り、通路の狭まったところで立ち止まった。
 そして、後ろを振り向き、ゾンビに手をかざしてホワイトボールを念じる。
 白い光弾がゾンビの群れに降り注ぎ、ぼろぼろと穴だらけになりながらゾンビたちは地に還っていった。
 ――と同時に。
 ぐん、と力の上昇を感じる。
 む、レベルが上がったな。
 まだレベルが一桁であるワシが、経験値の高いゾンビを二十体も倒したのだ。
 そりゃ上がるさ。
 自身をおとりにしてわざと魔物をかき集め、ある程度集まったところで一掃する戦法は「列車」と呼ばれ、魔力を節約できる優れた戦い方なのである。
 ただし、倒せなければ自らのかき集めた魔物の大群に反撃される羽目になり、下手をすると命を落としてしまうため、素人にはオススメできない。
 自分が追いつめられるリスクを考えると、足が遅くて頭の悪いゾンビなどにしか使えない。
 ゾンビの大群を消し去ってまた歩き始めると、すぐに次のゾンビが湧き始める。
 うむ、敵の数も申し分ない。
 やはり、ここは良い狩場だ。


 何時間繰り返しただろうか。
 つい夢中になって、時間を気にしていなかった。
 没頭すると時間を忘れてしまうのは、ワシの悪いくせである。
 だが、これがなければ前世で魔導師として大成することもなかったであろう。
 ちなみに母さんもワシのこの性格は熟知しており、最近では余程遅くならぬ限り怒られることもない。

「そろそろ帰るか」

 教会敷地の出口まで行き、そこまでついてきたゾンビの大群をホワイトボールで消し去る。
 教会からテレポートで何度も飛び、帰宅する頃には少し暗くなり始めていた。
 ギリギリ夕飯に間に合ったので、母さんから説教を受けずにすんだ。
 食事を済ませてすぐ自分の部屋に行き、スカウトスコープを念じる。


 ゼフ=アインシュタイン
 レベル10
 魔導レベル
  緋:6/62
  蒼:6/87
  翠:9/99
  空:8/89
  魄:7/97


 バランス良く上がっている。
 これからも、しばらくはち果てた教会で狩りを続けるつもりだ。
 できればはく以外の魔導でも、一撃でゾンビを消しされるようになっておきたい。
 魔導レベルは、高レベルになるほど、上がりにくくなる。
 実際、スカウトスコープで確認するとよくわかる。
 すいくうの魔導は他の魔導より二倍近く使っているはずだが、そこまでの差はついていない。
 むしろ、今日初めて使った魄の魔導に追いつかれつつある。
 まぁ経験値の高いゾンビを効率的に倒したので、それも当然といえるのだが。
 ある程度まで全系統の魔導を伸ばし、その中で気に入った魔導を一点集中できたえるのが普通の魔導師の修業方法だが、こんじょうでワシは全ての魔導を才能限界まで伸ばしたい……いや、伸ばす。
 今後の修業の算段をしながら、ワシは寝床についたのであった。




 3


「――あまねく精霊よ、嵐のごとく叫び、雷のごとく鳴け。天にあだなす我が眼前の敵を消し去らん……ブラックサンダー!」

 雷雲から数本の稲光がひらめき、うごめくゾンビたちを一撃のもとに消し去る。
 この朽ち果てた教会は、常に曇天どんてんなのがいい。これもマナの影響だろうか。
 条件がそろわないと使えない上に、詠唱も長いブラックサンダーであるが、動きの遅いゾンビ相手ならば何とか使用することができる。
 今のワシの魔力で使える大魔導は、これくらいしかない。
 以前盗賊に使ったときよりはマシとはいえ、それでも一回で魔力を七割は持って行かれるな。
 ワシは魔力を回復させるべく、即座に瞑想めいそうを開始する。
 倒すだけならホワイトボールで十分なのだが、くうすいなど、使いにくい魔導にも慣れておかねばならない。
 強力な魔物相手に、全くきたえていない魔導を使うのは危ないからな。
 最近はブラックサンダーを中心に、様々な魔導も試している。
 とはいっても、やはりホワイトボールに頼る場面も多々あるのだが。
 瞑想を終えて、また列車戦術を開始しようとすると、遠く離れた教会の建物のかげにゾンビの群れが見えた。
 あれは……ただ群れているわけではないな。
 目を凝らすと、その中心には王冠を被りしゃくじょうを持った、赤いマントを羽織った骸骨がいこつがいた。
 そのくらがんこうに目玉は見えぬが、強い意志を感じる。

「死者の王、か」

 あれはこのち果てた教会のボス。
 一定周期であらわれる、通常の魔物とは比べ物にならぬ強さを持った魔物である。
 強力なマナで構築された身体はほとんどの攻撃を弾き、その討伐は容易ではない。
 しかし、倒せば他の魔物の数倍の経験値を得られ、相当な高値で売れるレアアイテムをドロップすることもあるのだ。
 ボスは基本的に一人で倒せるものではなく、何人かのパーティを組んで戦うものであり……まぁ、今のワシでは倒すのは絶対に無理だろう。
 ソロでのボス狩りができる者は相当限られ、周到な準備をして何とか可能、という話を聞いたことがある。

「そう言えば師匠も、昔よくボス狩りをしたと言っていたな」

 ワシもその域に足を踏み入れるときが、いつか来るかもしれないな。
 死者の王に待っていろよとつぶやくと、ワシはテレポートでさらに死者の王から距離をとって狩りを続けたのであった。


     ◆ ◆ ◆


 ――そんなゼフを、木の陰から見つめる少女が一人。
 左右に結ばれた美しい金髪が、短いスカートと共にひらりとなびく。
 少女はゼフを見て目を細め、笑った。

「あれが……ナナミの街の少年魔導師ね」

 そう言って、少女はスカウトスコープを念じる。
  
 ゼフ=アインシュタイン
 レベル16
 魔導レベル
  緋:12/62
  蒼:11/87
  翠:13/99
  空:12/89
  魄:15/97
  
「ゼフ=アインシュタイン……か、結構きたえてるじゃない。でも……」

 少女はゾンビの群に手をかざし、ブルーゲイルを念じる。
 ――そう系統大魔導、ブルーゲイル。
 大気中に水流の渦を発生させ、水竜巻を生み出す魔導である。
 小さな魔物は空中に巻き上げ叩き落とし、大きな魔物は水流の刃で削る。
 大魔導の中では比較的威力が低めだが、その分念唱時間が短く使いやすい。
 ゾンビたちは水竜巻に巻き込まれ、空中に舞い上げられていく。

「にひひ♪ この程度のゾンビで尻尾巻いて逃げるようじゃあね」

 得意げに笑う少女の横を、黒い魔力球がかする。
 その直後、背後で炸裂した魔力球に少女は小さい悲鳴を上げた。少女が竜巻の中を見ようと目を凝らすと、いきなり死者の王が少女に向かって突撃してきた。

「――な、死者の王っ!?」

 大魔導であるブルーゲイルを使った直後なので、集中力のいるテレポートをすぐに使うことはできない。
 少女は即座に後ろに跳んでブルーボールを放つが、死者の王の足止めにはならなかった。
 死者の王が無表情で少女の足をつかひねり砕く……そうなる一瞬前、ギリギリで少女はテレポートで回避することができた。

「はあーっ……はぁーっ……や、やばかった……っ!」

 獲物を見失って辺りを徘徊はいかいする死者の王の様子を、荒い息を吐きながらうかがう少女。
 壁に寄りかかり、額をぬぐった少女は死者の王をちらりと横目で見つつ、精一杯強がったように笑う。

「た、たまにはボスと戦ってみるのも悪くはないかな! 彼みたいに逃げてばっかりじゃ、いざ強敵と出会っても狼狽うろたえるだけだし……ま、まだまだってところかしら! あはっあはははっ!」

 ち果てた教会の片隅で苦しい笑い声が響いたのだが、それを聞いた者はゾンビしかいなかった。


     ◆ ◆ ◆
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