効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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336 他がために鐘は鳴る①

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 ボロ家の周りでボロ服を着て、元気に遊びまわる子どもたち。
 兄妹……? いや、それにしては人数が多すぎる気がする。

「ちょっとあんたたちー! マインの調子がわるいんだから、近くであばれないのーっ!」
「へーいへい、外行こうぜみんなー!」

 年長の女の子に注意され、走り回っていた子らは大人しく外へ出ていった。
 よく見れば、屋内には病気で寝込んでいるらしき子供とそれを看病する少女の姿が見える。
 見つからぬよう、隠れて様子を伺う。

「ベルちゃんの家族……でしょうか」
「うむ……」

 いや、家族というよりは……ワシの考えを遮るように後ろに気配が生まれる。

「おにいちゃんたち、だれ?」

 5歳くらいの幼い少女がワシのコートをくいと引いている。
 しまった、見つかってしまったか。
 声に釣られるように、他の子どもたちも寄ってきた。

「ベルねーちゃん、かえってきたのー?」
「あれー? ベルねーちゃんじゃないよ?」
「ほんとだ、ちがうー!」
「にーちゃんたち、だれー?」

 口々にそう言いながら、子どもたちはあっという間にワシらを取り囲んでしまった。
 うむぅ、どうしたものか。戸惑っていると、クロードが自分に任せろとばかりに前に出る。

「こんにちは。ボクはクロード、こっちはゼフ君です。ベルちゃんに用があるんですが、どこに行っているかわかりますか?」
「さぁ、しらなーい」
「知らない大人とは話をするなって言われてるもんねー!」
「とくにおとこはね!」

 生意気なガキ共だ。
 クロードは苦笑いしながらたしなめる。

「……言っておきますけど、ボクは女ですからね」
「うそだー!」
「ボクってゆってるじゃん!」
「そ、それは……」
「しょーこみせろよ! しょーこ!」

 だがクロードのヤツ、悪ガキ共相手にたじたじである。
 やれやれ甘すぎるぞ。ガツンと食らわしてやらないから調子に乗るのだ。
 仕方ない、ここはワシが……子供の一人を掴まえようとした瞬間である。

「あんたたち、何してんのよ!」

 ワシらのすぐ後ろから、大きな声が聞こえてくる。
 振り返るとそこにいたのはアインそっくりな少女、ベルだ。
 ベルは腕を組み、気の強そうな目でワシらを睨みつけてくる……が、ワシらだと気付くとすぐに顔色を変えた。

「げっ、あんたたちは……」

 そして次の瞬間、手にしていた袋をぶん投げてきた。
 はたき落すと、どこかから手に入れてきたのであろう野菜が飛散る。

「あいつは悪い奴よっ! みんな、早く逃げなっ!」
「わぁぁぁあああ!」

 ベルの号令で、クモの子を散らすかのように逃げ出す子どもたち。
 その間、ベルはワシらに足元の石を拾って投げつけてくる。
 自分に注意を引き付けて子供を逃がそうというわけか。
 ワシは義手で弾き防ぎながら声をかける。

「やめろ、別に危害を加えに来たわけではない」
「うるさいバカっ! お金は返したでしょう! 早く帰りなさいよっ」

 だがベルは、ワシの声に聞く耳持たぬといった感じである。
 ったく、落ち着けというのに。
 仕方ない。少し静かにしてもらうか。
 ワシの顔面へ投げつけられた石を狙い、指で弾き返した。
 飛んで行った石は、ベルの額にぶち当たる。

「ぎゃうん!?」

 ……そしてベルは、犬のような呻き声を上げて倒れてしまった。
 完全に目を回しているな。
 当たりどころがあまり良くなかったようだ。

「あらら、大丈夫でしょうか。ベルちゃん」
「まぁすぐに目を覚ますだろう。それにしても、見れば見るほどアインそっくりだな」
「ですね……」

 クロードと二人、ベルの傍らに腰を下ろすと、逃げたはずの子どもたちが戻ってきた。
 敵意満々といった顔で、ワシらの前に並び立つ。

「ベルねーちゃんにさわるんじゃねーっ!」
「はなれろばかーっ!」

 ワイワイ騒ぎながら、子どもたちはワシらに飛びかかってくる。
 こ、こら服を引っ張るな! 伸びるだろうが!
 何とか引き剥がそうとしていると、気絶していたベルがヨロヨロと身体を起こす。

「う……あ、あんたたち……何で逃げないのよ……」

 赤くなった額をさすりながら呟くベルの方を向き、子供らは叫ぶ。

「ベルねーちゃん! いまのうちに、にげて!」
「ここはぼくらがとめるからっ!」
「はやく~っ!」
「いだっ! いたたたっ! や、やめてくださいよっ!」

 ベルを守るべく、クロードに飛びかかる子供たち。
 子供に力いっぱい髪を引っ張られ、クロードは涙目になっている。
 全く甘すぎるぞクロード。
 仕方ない、少し脅かすか。
 魔導でビビらせようとした瞬間である。

「……もうやめな。あんたたち」
「ベルねーちゃん……?」
「こいつらは私に用があるんだよ。あんたたちにも手を出さなかったし、そんなに悪い奴じゃなさそうだ」

 ベルの一言で、子供たちはワシらから手を離した。
 人を悪者扱いしているが、先に手を出してきたのはお前だぞ。
 人の財布をスっておいて偉そうに……流石、邪な心を集めた存在なだけはある。

(だが、そこまで悪い奴に思えんのも事実なんだよな)

 自分を囮にして子供たちを助けようとしたし、一応ではあるが盗んだ金も返してきた。
 それに子供というのは正直だ。根っからの悪人には懐く事はない。

「? 何よ私の顔をじっと見て。気持ち悪いわね」
「誰が気持ち悪いだ誰が」
「あんたよ、銀色。名前は?」
「ゼフだ。ゼフ=アインシュタイン」
「ふーん、あっそ。知ってるかもしれないけど私はベルね」
「えと、ボクはクロードといいます」
「あんたには聞いてないし」
「う……っ!」

 ジト目で睨みつけられ、口ごもるクロード。
 失礼で生意気な所はアインとよく似ている。
 若干こちらの方が悪質だがな。

「とりあえずここじゃ話も出来ないでしょ。ついてきなよ」

 そう言って、ベルは家から離れていく。

「ベルねーちゃん!」
「あんたたちは来なくていいから。ゴハンの準備でもしてな」
「う、うん……」

 ついてこようとする子どもたちをたしなめるベル。
 こちらとしても子供らについてこられるとうっとおしいから丁度いい。
 ベルについて行くと、どんどん人の気配がなくなっていく。

「どこまで行くつもりなのだ? 別に隠れて話したいわけではないぞ」
「いーからいーから」

 歩き始めて、1時間は経っただろうか。
 辺りにはボロ屋の一軒も見当たらなくなっている。
 森に足を踏み入れる一歩手前といった具合だ。
 人気のない所で話をするなら、十分ではないか。
 時折キョロキョロと辺りを見渡している。
 何かを探しているのだろうか。
 だが少々街から離れすぎだ。このままでは結界の外に出てしまうぞ。

「おいベル……」

 いい加減にしろ、そう言おうとした瞬間である。
 ざり、と砂を踏む音が聞こえて草むらから獣があらわれた。
 迷彩色の分厚い毛を纏い、鋭い爪と牙を鳴らしながらゆっくり近づいてくる。

 ガオル
 レベル77
 魔力値31559/31559

 スカウトスコープに映る数値は、高めだ。
 どうやら予想以上に結界から離れてしまったようである。
 二体目、三体目のガオルが草むらから進み出て、ワシらを取り囲む。

「ちっ、言わんこっちゃない! おい、魔物が出てきたではないか!」
「いやーん、まさかこんなところに魔物が出て来るなんてーキャー助けてゼフさーん!」
「…………」

 ワシの言葉に棒読みで返してくるベル。
 なんて白々しい……ワシとクロードに睨まれながらも、ベルは平気な顔で口笛を吹いている。

「……ちっ、やるしかないか。クロード!」
「はいっ!」
「ガゥゥアアアア!!」

 飛びかかるガオルの群れに、ワシはレッドスフィアを放つ。戦闘開始だ。
 ……数分後、一筋の煙を残してガオルの群れは消滅した。
 それなりの強さではあったが、ワシらの敵ではないな。

「おっつかれさまー!」

 満面の笑みでワシらを迎えるベル。
 その手には、何やら妙な形の草が抱えられていた。

「……おい、なんだそれは」
「んあっ!? えーと……いやぁべ、別に何でもないけど?」

 そう言って目を逸らすベル。

「もしや、それを採取する為にワシらをここまで連れ出したのではないだろうな……」
「い、いやだなーゼフったら、被害妄想が強いんじゃなーい?」
「……ワシらはまんまと利用されたというワケだ」
「あは、あはは……もーそんな怒らないでってば。お礼っちゃなんだけど、話ならいくらでもしたげるからさぁ」

 やはりそうか。ワシらをこんな遠くまで連れ出した理由は、その草を取る為のいわば護衛である。
 全く持って、悪知恵の働く事だ。
 流石純粋な邪といったところか。
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