効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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304 ゴーストシップ④

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 ごおおん、と爆音が辺りに響き渡る。
 ゴーストシップの船体に、通算何度目かの風の槍が突き刺さった音だ。
 イエラはイエラで、ワシらが戦っている時もマイペースに攻撃していたようだ。
 どの程度ダメージを与えたのかとスカウトスコープで確認してみる。

 ゴーストシップ
 レベル99
 魔力値1135215/4614153

 ……大分減ってはいるが、まだかなり魔力値が残っているな。
 このままイエラに任せても倒してしまいそうだが、ここはチーム内でのイニシアチブを得ておく為にワシが活躍しておくのも悪くないだろう。
 あまりナメられるのは好きではないからな。
 特にミリィは軽く煽られただけですぐ熱くなるし、火種の元は出来るだけ消しておかねばならない。

「ゼフーっ! 大丈夫っ!?」

 噂をすればなんとやら、ミリィが甲板に駆けあがってきた。
 シルシュ、セルベリエも一緒だ。
 甲板の上の魔物が減った事で、船内にいた他のギルドの者たちも甲板に駆けつけたようである。
 くっくっ、いい具合に観客も集まってきたようだな。

「ぜ、ゼフ君がまた何か悪いことを考えています……」
「あっはは……いつものゼフっちだねぇ~」

 呆れるような声が聞こえるが気にしない。
 駆け寄ってきたミリィとセルベリエの手を掴むと、残った義手をゴーストシップへ向けて構える。

「セルベリエ、ブラックサンダーを頼む。ミリィは詠唱に合わせてブルーゲイルを」
「む、わかった」
「アレをやるのねっ!」
「そういう事だ」

 掴んだ手から、二人の魔力線とワシのを絡ませるように一体化させていく。

「あまねく精霊よ、嵐のごとく叫び、雷のごとく鳴け、天に仇なす我が眼前の敵を消し去らん……ブラックサンダー」

 セルベリエの詠唱が終わるのに合わせ、念じていたホワイトプラズムを発動させる。
 ミリィも上手くブルーゲイルを発動させた。
 よし、二人共いい具合だぞ。
 絡ませた魔力線により微調整し、三つの大魔導をぴたり同時に発現させる。
 ――――三重合成大魔導、ハウリングストーム。

 曇天を裂くように、稲光が、白光が、氷嵐が混ざり合い天変地異の如く、吹き荒れる。
 凄まじい程の破壊の嵐が広範囲に荒れ狂い、ゴーストシップの魔力を削っていく。

 ゴーストシップ
 レベル99
 魔力値1065215/4614153
 魔力値1012562/4614153
 魔力値995258/4614153

 大魔導三つの合成魔導ハウリングストームは範囲と持続時間に優れ、広範囲に継続して大ダメージを与え続ける事が出来る。
 手間がかかるので誰かの手を借りなければ使えないのが難点ではあるが、かなり強力だ。

「あだっ!」

 飛んできた氷塊が、ミリィの頭にクリーンヒットした。
 ……ちなみに攻撃範囲が広すぎて、こちらまで危ないという欠点もある。
 甲板の者は皆、それなりに避けているぞ。

「うぅ……痛い……」
「気を付けろよ、ミリィ」
「せめて気遣いの言葉をかけてよぉ……」

 ったく本当に手がかかる。
 涙目のミリィの頭の前に義手をかざしてガードしてやっていると、後ろからざわめき声が聞こえてきた。

「おい、何だあの魔導は……見た事がねぇぞ」
「あそこにいる魔導師が撃っているようだ」
「無名のギルドだと思っていたが……もしかして強いんじゃねえか?」

 ざわざわと、ワシらを噂するような声が聞こえてくる。
 くっくっ、ハウリングストームはとにかく派手だからな。
 ワシらの力をアピールするには効果的だ。

「よし、もう一度行くぞ」
「わかったわよぉ」
「くっくっ、次は当たるなよ」
「むぅ……当たらないもん」

 文句を言いつつもミリィは魔力を集中させていく。
 改めてもう一発、ワシらが構えるとセルベリエが詠唱を開始する。

「あまねく精霊よ、嵐のごとく叫び、雷のごとく鳴け――――」

 発動に合わせ、ワシとミリィが念唱を開始した瞬間である。
 ハウリングストームによる破壊の嵐を抜け、ゴーストシップの船体から二本の腕が伸びる。

「ゼフ君っ!」

 ワシらを庇うように、クロードが駆け寄り剣を振るう。
 ――――白閃華。
 白光に輝く剣閃が霊体の腕を切り裂く……が、斬り落としたのは一本のみ。
 もう一本、伸びていた腕がクロードの身体にくるくると巻き付いていく。
 クロードを捉えた霊体の指が更に蠢き、クロードの鎧や衣服の隙間からゆっくりと中に入っていく。

「ひぎぃっ!?」

 猫のような悲鳴を上げたクロードは、びくんと大きく痙攣し、そのまま気を失ってしまった。
 自身にかけていた暗示の効果も、霊体に直接触られる事には耐えられなかったらしい。
 全身を霊体の腕に絡ませられ、クロードがゴーストシップの方へと移動していく。
 連れ去るつもりのようだ。

「やらせるかよっ!」

 即座に甲板を蹴り、ワシはクロードの身体に飛びつく……が、踏ん張りが利かない。
 ワシごとゴーストシップへと引っぱられていく。

「ゼフっち!?」
「ゼフーっ!」

 ミリィとレディアが手を伸ばすが届かない。
 そのままワシとクロードはエイジャス号を離れ、ゴーストシップの甲板の上にまで引き込まれてしまった。
 おのれ……中々小癪な手を使ってくれるではないか。

「……ちっ、いつまで掴んでいるつもりだ? いい加減離してもらおう……かっ!」

 霊体の腕を掴み、ワシはホワイトクラッシュを念じる。
 白い閃光が弾け、それに焼かれた霊体の腕は驚いたように空中でワシらを放した。
 クロードを抱きかかえたまま、ゴーストシップの甲板の上に着地する。

「う……」
「気が付いたか」
「ここは……えっ!? な、何故ボクはゼフ君に抱かれて……?」
「おい、落ち着けよ」

 困惑するクロードを降ろしてやると、まだ腰が砕けているのか、片膝をついた姿勢で座り込む。
 クロードが周囲を見渡すと、現状を把握したのか徐々に落ち着き始めた。

「……そうか。確かボクは霊体の腕に掴まれて気絶を……」
「うむ、助けようとしたのだが失敗してな。ワシまでゴーストシップの上まで引き込まれてしまったのだ」
「う……すみません……」
「気にするな。むしろ助ける手間が省けるというものだ。それよりどうやって脱出したものかな……」

 甲板の上はスケルトンパイレーツが数匹、ワシらを遠巻きに眺めている。
 大多数はゴーストシップがエイジャス号へ投げてしまったのだろう、残った数は少ないようだ。

「エイジャス号とかなり離れちゃいましたね……これじゃあ橋を渡すのも難しいかもしれません」
「ふむ、この霧の中ではテレポートで渡る事も出来んしな」
 
 テレポートで移動できるのは、しっかりと視認できる範囲のみである。
 濃い霧の中を渡る事は出来ない。
 どうしたものかと考えながらエイジャス号をみやると、艦橋付近で何かが光るのが見えた。
 ヤバい。直感的にクロードを押し倒す。
 直後、轟音と共にすぐそばにいた魔物たちが消し飛ぶ。

「ひゃっ!?」
「く……そういえばイエラがブラックゼロで攻撃していたのだったな……!」

 このまま甲板にいるのは危ない。
 やめさせるべく、ミリィに念話を繋ぐ。

 《聞こえるか、ミリィ》
 《ゼフっ! 大丈夫だった!?》
 《何とかな……先刻イエラの攻撃でやられそうになったが》
 《す、すぐにやめてもらうね!》
 《頼む。ついでに何とか脱出してみせるから、しばらくエイジャス号を幽霊船の近くに待機させておいてくれと伝えてくれ。トドメを刺すな、ともな》
 《わかった……絶対帰ってきてよね》
 《当たり前だ》

 ミリィとの念話を切ると、クロードが何かを見つけたようである。
 船べりに行き、海面を見下しているようだ。

「ゼフ君っ! 下に何かあります!」

 クロードの声に甲板の下を覗き見る。
 霧でよく見えないが、どうやら小舟のようだ。
 ゴーストシップの船体に備え付けられているのだろうか。
 あれに乗れば脱出できそうだ。

「ここから降りるのは……無理ですよね」
「船内を通っていくしかないか」
「うぅ……で、ですよね……」

 あまり気は進まないが、手はそれしかなさそうだ。
 甲板の中央にぽっかりと空いた船内への階段は、昏く不気味だ。
 それを見て、クロードはぶるりと身体を震わせるのだった。
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