効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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303 ゴーストシップ③

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「では頼む」
「ふふ、無論だ」

 セシルがワシの前に立ちはだかり、魔物を一手に引きつける。
 壁を背にしてサモンサーバントを念じると、光と共に大神剣アインベルが生まれた。

(も~またなの? いい加減疲れたよぉ~)
(馬鹿を言うな。たまにしか働かないのだから、奴を倒すまでくらいは働いて貰うぞ)
(はいはいはい……ん?)
(はいは三回もいらん。……む、どうしたアイン?)
(何かあの人、変な感じがする……)

 セシルの事を指して、そう呟くアイン。
 変とは一体……どういうことなのかはわからんがアインは意外とカンがいいからな。
 何かあるのかもしれないし、一応気を付けておくか。

(ともあれ行くぞ、アイン)
(ういー)

 大神剣アインベルを構え、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはレッドウエポン、ブルーウエポン、グリーンウエポン。
 武器に属性を付与する強化魔導。それを大神剣アインベルに、込める。

(あ……くぅ……っ)

 苦悶の声を上げるアインに気を取られた次の瞬間である。
 目の前に迫りくる、スケルトンパイレーツの剣。
 何とか躱すが、その際に大神剣アインベルを弾かれてしまう。

「しま……っ!」
「カァァァア!」

 奇声を上げながらの斬撃。
 勝利を確信したかのような、スケルトンパイレーツの表情。

「……調子に乗るなよ」

 そう吐き捨てて、迫りくる刃に義手を叩き込む。
 ――――ホワイトインパクト。
 ホワイトクラッシュを込めた義手での一撃は、スケルトンパイレーツの持つ剣ごと、その胴体を破壊した。
 胸にポッカリと穴の空いたスケルトンパイレーツは、カタカタと歯を動かしながら消滅していく。

 ふん、先刻は不意を突かれたから攻撃を許しただけだ。
 弾き飛ばされ、くるくると宙を舞う大神剣アインベルをキャッチする。

(なーいすきゃっち♪)

 アインもワシの心配など微塵もしておらず、のんきなものである。
 それにしてもセシルの奴め、やってくれるではないか……任せろと言っておきながら何という体たらく。
 おかげで魔力をかなり無駄にしてしまったぞ。
 文句の一つでも言ってやろうと思い、セシルのいた方へ視線を向ける。

 ――――と、同時にがらんと金属の落ちる音が鳴った。
 セシルの持っていた剣、である。
 何とセシルは魔物共に両手足を掴まれ、拘束されていた。

「く、そぉ……っ 離せっ! 貴様らっ!」
「カカカカカ……」

 必死にもがくが多勢に無勢、セシルは動く事が出来ないようだ。
 スケルトンパイレーツは、手に持った剣をゆらゆらと弄んでいる。

「セシルっ!」
「クカカーッ!!」

 高笑いし、剣を振るうスケルトンパイレーツ。
 だがセシルの身体は傷つく事なく、代わりにその身に纏う鎧や衣服が弾き飛ばされていく。
 野郎共……遊んでいやがるな。いい趣味をしているではないか。

 だが馬鹿め、獲物を前に舌なめずりは三下のやる事だぞ。
 今のうちにいきがっているがいい。
 待っていろセシル、すぐに助け出してやる。

 ――――そう思い駆け出そうとした瞬間であった。
 セシルの胸甲が音を立てて落ちると共に、その胸が露わになる。
 分厚い服と帷子に覆われて分かりにくい程の大きさではあるが、そこには紛れもなく二つの膨らみがあった。

「セシル、お前……」
「くっ!」

 目を背け、歯噛みをするセシル。
 女とバレたのが余程イヤなのか、顔を真っ赤にし目に涙も浮かばせている。
 確かに女顔だとは思ったが、まさか本当に女だったとは……
 ワシはもちろんだが、魔物の方も驚いているのだろう。
 一瞬、周りの時間が止まったような感じがした。

「こんな辱めを……い、いっそ殺せっ!」

 セシルの言葉を聞いてハッとなったワシは、魔物へ向かって駆ける。
 セシルを捉えていたスケルトンパイレーツへ向け、勢いのままに義手を叩きこんだ。
 ――――ホワイトインパクト。
 白光放つ義手が、スケルトンパイレーツの頭蓋を砕く。

 更にもう一体、セシルの足を掴んでいた腕を踏みながら、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはホワイトクラッシュを三回。
 ――――ホワイトクラッシュトリプル。
 眩い閃光の中、スケルトンパイレーツの身体が蒸発するように消えていく。
 支えを失い、崩れ落ちたセシルは呆然とした顔でワシを見ていた。

「さ、これで動けるだろう」
「ぁ……う、うん……」

 本来なら手の一つも差し伸べるべきではあるが、あえて後ろを向いて放置しておく。
 いきなり女扱いなどされたら、プライドの高そうなセシルはまた暴れそうだからな。
 剥かれた鎧を集め直し、セシルは鎧を装着し直す。

 ……とはいえ少々気まずい。
 空気を読んでいるのか単純に動揺しているのか、魔物たちも動けない様だ。
 鎧を着直したセシルが立ち上がり、ワシをキッと睨みつけてきた。

「言っておくがこの事は……」
「あー……わかっている。だれにも言わぬよ」

 クロードもそうだが、女である事を隠して冒険者になる者は意外と多い。
 やはりナメられる事も多いし、仲間に寝込みを襲われると言う事もなくはないだろう。
 もちろんそういった女の武器を使ってのし上がっていく方法もあるのだが、セシルはそれを隠しこれだけのギルドを作り上げたのだ。
 女だと言う事がバレでもしたら、どうなるかわかったものではない。

(白鷹の旅団が崩壊するのはどうでもいいが、今は行動をともにしているのだ。狭い船の上で雰囲気を悪くされては敵わんからな……)

 幸いにして、レディアもクロードも離れていた為、見えてはいないだろう……多分。
 アインの感じていた違和感の正体はこれなのかもしれない。

(んーそうなのかな~……まぁいっか!)

 セシルが女という事も、アインは全然気にしていないようである。
 能天気すぎるアインに呆れつつ、気を取り直して大神剣アインベルを構える。

「クカカカーッ!」

 思い出したかのようにワシに斬りかかって来るスケルトンパイレーツの持つ剣へ大神剣アインベルを振るいながら、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはブラックウエポン、ホワイトウエポン。
 先刻込めていた分と合わせ、大神剣アインベルが白金色の輝きを放つ。
 ――――五重合成魔導、プラチナムウエポン。

 瞬間、受け止めたスケルトンパイレーツの剣はまるで何もなかったかのようにするりと通り抜け、二つに割れて地面に転がった。
 勢いそのままに、剣筋にいたスケルトンパイレーツも真っ二つに両断する。
 何が起きたのかわからぬといった顔のまま、消滅していくスケルトンパイレーツ。

 武器に属性を付与するウエポン、その五重合成魔導プラチナムは武器に強力な破壊属性を付与する。
 元々五重合成魔導はマナによって構成されたダンジョンや、魔物の身体を破壊する性質を持っており、その破壊属性が付与された武器は、あらゆるものを破壊する事が可能。

「この剣のサビになりたい奴から、かかってこい……!」
「カーッ!」

 ワシの言葉に怯むことなく、突っ込んでくるスケルトンパイレーツたち。 
 大神剣アインベルが閃く度に増えていく骨塊。ワシらの周りにいたスケルトンパイレーツ共は次々に無力化していく。
 だがこの武器は威力がありすぎる……船や味方を傷つけぬようにしなければな。
 プラチナムウエポンにより強化した武器を使うのは、結構神経を使うのである。

(いだっ! いだだっ! それホントに痛いんだからやめてよーっ!)

 その上、破壊属性の付いた武器は刀身へのダメージも半端ではない。
 大神剣アインベルでもなければ、一撃で折れてしまうのだ。
 安いナイフで実験した時は、一発で折れてしまった。
 頑張れアイン。

「ゼフ君っ!」
「ゼフっち!」

 だがその甲斐あって周囲の魔物はすぐに全滅し、二人とも合流できた。
 船の魔物もいつの間にか大分減っている。ゴーストシップめ、投げる魔物がなくなったのだろう。

(も、もう帰っていいよね……)
(うむ、十分だ)

 魔力もだいぶ減っていたしな。
 アインを戻しながら、足元のスケルトンパイレーツをホワイトクラッシュで焼き潰す。

「さぁて残るは貴様だ。ボロ船よ、覚悟はいいか?」

 ニヤリと笑いながら、ワシは目の前の不気味な船を睨みつけるのであった。


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