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連載
250 決闘、そして
しおりを挟む辺りを包み込んでいた眩い光が晴れていく。
ゆっくりと目を開けると、光の中からあらわれたのは倒れ伏したオックスの姿。
その手には黒い剣はなく、気を失っているようだ。
オックス=グランベル
レベル25
「緋」魔導値0 限界値0
「蒼」魔導値0 限界値0
「翠」魔導値0 限界値0
「空」魔導値0 限界値0
「魄」魔導値0 限界値0
魔力値0/322
念の為スカウトスコープを念じてみるが……ふむ、どうやら取りついていた黒い魔物は倒せたようだ。
元のオックスに戻ったようだな。
一応呼吸もしているようだし生きているようである。
とりあえず死ななくてよかったというところか。
「確かにちょっとお腹が減ったかも……!」
目を輝かせ、腹をぷにぷにしているアイン。
お前はいつも腹が減ったと言っているだろうが。
緊張感のない奴である。
呆れていると、アインは満足げな表情で光に包まれ消えて行った。
「ゼフ君っ!」
不意に後ろから聞こえる声。
振り向くと両親を連れたクロードが駆けてくる。
急いでいたのか、寝間着にいつもの軽鎧と言うマニアックな姿だ。
いつもはぴしりと正した襟もだらしなく曲がっており、胸元も大きく開いている。
「大丈夫でしたかっ!」
「あぁ、何とか無事だよワシもオックスもな」
「……よかったっ!」
走ってくる勢いそのままにワシに抱きついてくるクロード。
その細い腰に腕を回し、抱き寄せてやる。
それにしてもクロードめ、ケインといいオックスといい……妙な男にばかり執着されているな。
何とも危なっかしい奴である。
悪い男に引っかからぬよう、しっかり守ってやらねばならないだろう。
「うぅ……」
と、考えていると足元から声が聞こえ、倒れていたオックスが立ち上がりこちらに近づいてくる。
ワシはクロードを後ろに下がらせ、軽く身構えた。
「……心配しなくていい、僕はいつもの僕さ」
降参したと言わんばかりに両掌を見せてくるオックス。
その目には正気の光が宿り、表情も普段と同じである。
「……ふむ、やっと正気に戻ったようだな」
「おかげさまで。でももう少し優しくしてくれても良かったんじゃあないかい? アバラが数本イってしまったよ」
「死ななかっただけマシだと思うがな」
「はは、言ってくれるね……痛つつ……」
「大丈夫ですか!? オックスさんっ!」
腹を押さえてしゃがみ込むオックスにクロードが駆け寄る。
だがしかし、オックスはクロードを突き放した。
「オックス、さん……?」
不思議そうな顔のクロードだが……まぁオックスの奴、黒い魔物に操られていたとはいえクロードを奪うべくワシと戦っていたのだからな。
クロードは気づいていない様だが、優しくされても逆に傷つくだろう。
そのままゆっくりと立ち上がり、オックスはワシの方を向き直る。
「……ゼフ、頼みがあるんだ」
「何だ」
そう返すが、頼みについては何となく予想がつく。
一呼吸した後、オックスはワシを戦意たっぷりの目で見据え、言い放つ。
「……クロードさんをかけて、僕と勝負してくれないか?」
「はいぃっ!?」
素っ頓狂な声を上げるクロード。
ま、ワシはその言葉を予想していたけれどな。
「ゼフ、暗闇の中で聞いた君の言葉で目が覚めたよ。確かに欲しい女性がいるなら正々堂々、力づくで奪い取らないとね」
「うばっ……お、オックスさんっ!? な、何を言って……っ」
慌てた様子でワシとオックスを交互に見やるクロード。
真っ赤になってあわあわしているクロードを下がらせ、ワシはオックスを睨み返す。
「……それは構わんがオックス、お前先刻の戦闘で身体が痛んでいるだろう? 日を改めてからでも構わんぞ?」
オックスの身体はボロボロで、立っているのもやっとといった感じだ。
二発程義手で腹をぶん殴ったし、肋骨は数本イっているだろう。
だがオックスは脂汗を浮かべながらもニヤリ、と不敵に笑う。
「いいや、その必要はないさ。……なぁゼフ、キミは今、魔導を使う事が出来るかい?」
「む」
言われて自身の身体に意識を向けると体内の魔力が殆ど残っていないのが分かる。
おかしい……ワシ程の使い手ともなれば何もせずとも自然と瞑想状態に移行し、既に魔力は全回復していてもおかしくないハズなのだが。
(しかも意識して瞑想を行っても回復する気配が一切ない……か)
全身を巡っているハズの魔力線がいくつか途中で断線しているかのような感覚。
これはオックスがやったのか。
「――――魔導師殺し、レイルリッパー。先刻の黒い剣で斬られたモノは、魔力を回復させることが出来ないのさ」
よく見れば先ほどの戦闘で、幾つか傷を負っていたようである。
傷を負った部分に意識を集中すると、その部分だけ魔力線が機能を失っているようだ。
「魔導が使えぬ今であれば、ワシを倒せると言う事か? だがワシは拳も強いぞ。……それに、この事を教えずに戦えば動揺の一つも誘えたのではないか?」
「正々堂々だよ。そうだろ? ゼフ」
「ハッ……一丁前ではないか」
そう言ってワシは義手を外し、地面へと放り投げた。
この戦いには不要なものだ。
オックスもワシの意を汲んでくれたのだろう、苦笑している。
お互い、どちらが先と言うでもなく拳を突き出し構える。
「ぜ、ゼフ君にオックスさんっ! それ以上戦って何になるんですかっ!」
「……いいから下がっていろ、クロード」
オロオロとワシらを見比べるクロードを下がらせる。
数秒、睨みあった後ワシらの間に一陣の風が吹く。
それを合図に、ワシとオックスは地を蹴るのだった。
――――数分後、クロードをかけての決闘はワシの勝利で終わった。
ボコボコにしたオックスを、クロードが膝枕し手当してやっている。
「もうっ、やりすぎですよゼフ君!」
「……悪かった」
「ボクに謝っても仕方ないでしょう! オックスさんに謝ってください!」
「はっはっは……いてて……」
顔面が赤く腫れあがったオックスが、痛々しい表情で笑っている。
いくらなんでもやり過ぎだ、クロードは怒っているのだ。
しかしオックスが戦意を失っていなかったから攻撃を止めなかったワケで……ワシだって結構反撃されたのだぞ。
まぁしかし、若干やり過ぎたのは事実だ。
「……悪かったな。オックス」
「気にしなくていいさ……それよりゼフ君」
オックスが語りかけてくる。
顔を伏せ、声を震わせているようだ。
……流石にショックだったのだろう。
「僕の負けだ、クロードさんを……幸せにしてあげてほしい……」
「……あぁ、任せておけ」
「……っ」
言葉を詰まらせるオックス。
最後の方は聞き取れぬほどに声が掠れていた。
泣いているのだろう。
ワシに背を向け、肩を震わせているオックスの頭を、クロードはよしよしと撫でるのであった。
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