上 下
18 / 29
二章 王都編

お爺ちゃん賢者は王都で新生活を始めました。

しおりを挟む
 翌日の早朝。

 転移門は既に完成し、広場に集められた村人たちが転移の瞬間を今か今かと待ち構えている。

 これも兄者と父上の迅速な対応のおかげだ。

 あの二人はこれからも頼りになるだろう。

 「整列終わったぞ息子よ」

 「有難うございますじゃ父上」

 父上の悪癖はいつもへらへらしていることじゃ。

 それがまた村人からの人気と信望を集めているのじゃがのう。

 儂もああなるべきなのじゃろうか(焦り)

 「スキュラ。転移門を開いてくれ」

 簡単に指示を出す。

 転移門というのは、実際には門のような形ではなく半球状のドームだ。

 事前に地面に書いてあった魔力線に沿って淡い水色の半球が象られていく。

 それを見て、周囲からは感嘆の声が溢れる。

 「行くぞ、いざ王都へ!」

 『【球状集団転移】!!』

 バチッという音と迸る青い閃光とともに、転移が始まった


     
           ****



 集団転移と言っても、厳密には途中の異空間で集団は分離される。

 こんなこと普通は不可能なのじゃが、スキュラと儂の魔力コントロールで強引に魔力の理を捻じ曲げている状態だ。

 何故、分離させられるかというとそれは居住空間の違うからである。

 儂やスキュラは公爵相当の宮殿に住まうことができるが、原則そのほかの村人は立ち入ることは出来ない。

 急遽村人が付いてくることになったため、王都近くの山を全部買い占めそこに村を作って住んでもらうことにしたのじゃ。

 金は、即席の神具を作って売り払って貯めた。

 こんな儂について来てくれたのじゃから、せめて儂が生活の場を用意せんとな。




 ……さて、そろそろ転移が終了しそうじゃ。

 目の前の大理石の屋敷が目に入ったところで、意識は暗転した。




            ****



 この文明レベルで良く用意できたな、と思うほどの技術力がこの屋敷には集められておる。

 大理石でできた壁もそうじゃし、伸びすぎず絶対に枯れない庭の草木などもじゃ。

 貴族の趣が存分に表現されたこの屋敷は、些か儂には不向きだ。

 儂は派手でなくても良いし、研究室と薬品が数百種類さえあれば満足なのじゃ。

 「どうぞお入りくださいませご主人様」

 メイドと思われる女が広大な庭を迷わないように案内してくれた。

 ここで異世界人の男なら「生メイドだッツ!?」となるのじゃろうが(前世での目撃者)

 儂はたいして驚きもしない。

 この世界では当たり前の制度だからだ。

 内装はそこまで凝っていなくて、むしろ意外なほどに質素な感じじゃった。

 研究室が無かったのがネックだが。



 こうして、王都での新しい生活が始まった。




         ****



 この悪趣味な家も、その内改修せねばな。

 そんなことを想いながら、儂は新しい屋敷を早速後にした。

 「精々死ぬんじゃないよ~♪」

 スキュラがまるで死刑宣告のようなことを言ってくる。

 儂は顔を引き攣らせながら手を振って屋敷の庭から出る。

 もはや転移から一日が経過しており、既に太陽は空で紅く燃え上がっている。

 照り付ける日光を肌で感じながら、目視で見える金ピカの王宮へと移動する。

 歩きながら転移魔法の魔力をため込んでいた儂はふと思った。

 「なんで儂呼び出されたのじゃろう……?」

 儂は転移の次の日から早速、王から呼び出しを食らっていた。



           ****


 「堅苦しい礼儀は面倒じゃ。顔を上げろ」

 「ハハッ!では……」

 顔を上げて見えたのは、そこそこ作りがいい端正な顔をした壮年の男だった。

 一時期は王であることを隠し、冒険者として名を上げたらしい。

 腕の筋力の膨らみはいまだ衰えを見せておらず、儂の頬を冷や汗が伝う。

 この者にはまだ勝てない。

 久々に感じる、生理的な死の恐怖だった。

 「そちを呼んだのは他でもない」

 処刑でもされるのだろうか。

 そうなったら儂は死ぬしかないじゃろう。

 いざとなったら王宮ごと焼き払って逃げ出すことも考えていたが、この王がいる限りそれは不可能だ。

 「俺と―――」

 ああ、王の一人称は俺なのか。

 そんなどうでもいいことを考えながら、次に発せられる言葉を予感して冷や汗を垂れ流す儂。

 既に片目は恐怖で閉じられ、片目は逃走経路を必死で窺っている。

 「勝負してくれんか?」

 「…………………………………………は?」

 予想外の申し出に、儂は口をパクパクさせて呆然としてしまった。




          ****



 「いくぞ元賢者」

 「……何故それをッツ!?」

 いきなり秘密をばらされ、動揺する。

 幸い、周囲には誰もいない。

 ここは王都裏の訓練場だ。

 連れていかれるにあたり、必死の抵抗をしたのだが抵抗むなしくここまで引き摺られてしまった。

 「そんなもの、ステータスを覗けばすぐ分かる。俺に相応しい能力を引き出せることもな」

 ステータス?初めて聞いた言葉じゃな。

 じゃが、決して儂に良いものではあるまい。

 「ほら、来いよ」

 ここまで来たらやるしかない。

 儂はそう腹を決めて、初手必勝とばかりに【原生簒奪プロティスト・セイズ】を放った。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】悪役令嬢と言われている私が殿下に婚約解消をお願いした結果、幸せになりました。

月空ゆうい
ファンタジー
「婚約を解消してほしいです」  公爵令嬢のガーベラは、虚偽の噂が広まってしまい「悪役令嬢」と言われている。こんな私と婚約しては殿下は幸せになれないと思った彼女は、婚約者であるルーカス殿下に婚約解消をお願いした。そこから始まる、ざまぁありのハッピーエンド。 一応、R15にしました。本編は全5話です。 番外編を不定期更新する予定です!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

愛しいあなたが、婚約破棄を望むなら、私は喜んで受け入れます。不幸せになっても、恨まないでくださいね?

珠宮さくら
ファンタジー
妖精王の孫娘のクリティアは、美しいモノをこよなく愛する妖精。両親の死で心が一度壊れかけてしまい暴走しかけたことが、きっかけで先祖返りして加護の力が、他の妖精よりとても強くなっている。彼女の困ったところは、婚約者となる者に加護を与えすぎてしまうことだ。 そんなこと知らない婚約者のアキントスは、それまで尽くしていたクリティアを捨てて、家柄のいいアンテリナと婚約したいと一方的に破棄をする。 愛している者の望みが破棄を望むならと喜んで別れて、自国へと帰り妖精らしく暮らすことになる。 アキントスは、すっかり加護を失くして、昔の冴えない男へと戻り、何もかもが上手くいかなくなり、不幸へとまっしぐらに突き進んでいく。 ※全5話。予約投稿済。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

処理中です...