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見守る者は私たち

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「それじゃ、今度はうちに行きましょ!」

 母さんが手をたたきながら大きな声で言う。

 「望乃華ちゃんも一緒に来る?」

 「えっ? 私もお邪魔させてもらってもいいんですか?」

 「当たり前だわ! なにせ今日からお隣さんになるんだものね~」

 なにやら母さんは含み笑いをして望乃華と話す。

 「それならば喜んでお邪魔させてもらいます!」

 彼女もまた不思議なほどに嬉しそうにしている。

 「今度は俺たちが清河さんを歓迎する番だね、存分にもてなそう」

 俺は敬語をやめ、でかい態度をとるが

 「歓迎するって・・・・・・私たちここに来るの初めてだよ? もてなすものなんてあるの?」

 宮菜は言い終わると同時に

 「しまった!」

 と口をふさぐ。

 「確かに・・・・・・新しい家に何があるかわからないか。それじゃまた別の日に改めて歓迎したほうがいいね、それでいいかな清河さん?」

 俺が望乃華に返事を求めると

 「・・・・・・そう・・・・・・ですね。ここに来るのは今日が初めてです・・・から・・・ね・・・・・・」

 みるみる声が小さくなっていき、しょんぼりしていく。

 「・・・・・・」

 俺がなんて声をかけてあげればいいか困っていると

 母さんがため息をつきながら

 「家にはもう十分な家具が置いてあるわ。食料はないけど、出前を頼めばいいんじゃないかしら」

 すかさず宮菜も乗ってくる。

 「そ、そうだよ! 出前いっぱい頼んでパーッと歓迎会やろうよ!」

 「まあそれならできるか・・・・・・清河さん、どうかな? 大したもてなしはできないけど参加してくれないかな?」

 俺は女子を誘う気恥ずかしさから、ほんのりと赤く頬を染めながら望乃華を歓迎会に招待する。

 俺が頬を赤くしたことに驚きながらも

 「はい、参加させていただきます!」

 今日の中で一番元気な声を出す。

 
 そんな2人を傍目に

 「おばさん、ありがとうございます、ののちゃんすごく嬉しそう・・・・・・」

 「別にこのくらい大したことないわ」

 わずかな間だけ沈黙が漂う。

 「2・・・・・・・」 

 「・・・・・・はい」

 「私たちはあなたたちがどういう終わりを迎えようともずっと温かく見守るわ。だから――紫皇と全力で向き合いなさい」

 おばさんの目は私たちを信頼し、私たちに紫皇を託す

 そういう目であった。

 

 俺たちは新居に入るとすぐに部屋を探索した。

 間取りは3LDK

 風呂は円形でいろいろな機能を兼ね備えた最新版のようだ。

 望乃華の家とは全然違うらしく、望乃華が一番騒いでいた気がする。

 ある程度部屋を探索し終えると

 俺たちは早速出前で何を頼むのか決める。

 「デザートはプリンとショートケーキとパフェとモンブランとそれから――」

 宮菜は次々と注文かごに入れていく。

 「宮菜さん、頼みすぎです、体に悪いですよ。・・・・・・! こ、これ頼みましょ! 絶対に写真映えしますよ!」

 ・・・・・・っておい! 注意してくれると思ったら乗っかるんかい!

 全くどうしてこう甘い物ばかり頼むんだか・・・・・・

 母さんのほうを見るとニコニコしてただ二人を眺めているだけだ。普段は栄養バランスにうるさいくせに猫を被ってるのか?

 (俺が注意するしかないのか・・・・・・百合に意見するとか俺今日死ぬんじゃね?)

 愕然としながら

 「二人ともそんなに――」

 「「黙ってて(ください)!」」

 ――しゅんっ

 俺は秒で黙る。

 (えーっとここは大体地面から170メートル、俺の体重は68キロ、重力加速度は――)

 俺は衝動的に物理を用いてここから飛び降りたときにどれくらい速さで地面に激突するか計算する。

 何のための計算かって? そんなの言うわけ無いだろ、俺は黙って去りたいんだ。

 だが俺が計算し終えることはなかった。

 パンッ

 デュクシッ

 ボコッ

 「デアッ!」

 「ブフォッ・・・・・・」

 俺は四連攻撃を受けて床に倒れてすでに瀕死になっている。

 どうやら俺の脳内放送が一般向けに開放されていたらしい。俺は冗談を言うのも命懸けのようだ。

 はじめの 「パンッ」 は優しさのあるビンタ、これは望乃華からのご褒美として受け入れることができる。

 「デュクシッ」 は完全に効果抜群の音だが、これはまあ・・・・・・軽い突きだったから許せるな。手の大きさ的に宮菜だな。

 問題はこのあとだ。

 「ボコッ」 はもうアウトでしょ! 母親からぐーパン食らったよ。これ如何に?

 「デアッ!」 に関してはもう声出ちゃってるよ? てか何で2重の意味で2回目のチョップしてくるの? 

 お義兄ちゃん、宮菜の将来が心配・・・だ・・・よ・・・・・・

 どんどん意識が遠のいてゆく。

 「ご、ごめん思ったより強くなっちゃった」

 宮菜の焦った声が聞こえてくる。

 最後の力を振り絞って声が聞こえた方を向くと

 制服姿の宮菜が思ったより近くにいたせいで、いや、いたおかげ

 見えてしまった。

 「ピンクか・・・・・・かわいいの履いてるな・・・・・・」

 「ブチュッ!」

 

 俺はゴキブリのゴキッチ! 最後に見た景色はサイコーだったど~~~

 そこで俺の意識は完全に途切れた。
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