33 / 33
終章 サバの味噌煮
しおりを挟む
バースト神撃退から一ヶ月、南峰城市は落ち着きを取り戻していた。
殺人事件に関しては、刑事の死によって大騒動に発展するかと思いきや、佐武の自首と潔過ぎる供述によって、瞬く間に鎮火されてしまう。女装をした佐武を買った社会的害悪を殺してきたという動機も用意し、刑事殺害は不可抗力だったという酌量の余地も与え、世論も糾弾し難い状況にした成果と言える。袖崎には悪いが、道悟は事件の早期収拾を優先したのだ。報道機関にしてみれば、狐に摘ままれたような事件だったが、仲間を失った警察にとっては違う。彼はおそらく、一番重い刑に処される事だろう。それで、彼の肉体の罪は消える事になる。魂の方は、違う場所で永遠の業火に焼かれているので、事件は解決したと言って良いだろう。その過程で、佐武という人物がどの様にして魔に堕ちたのか、その真の道筋を知る事になった。ボンボンというのは本当で、父親のエジプト土産が事の発端らしい。それと、死後の世界を知りたがっていたのは本心だったようだが、道悟としては鼻で笑う程度の事でしか無い。
しょうようの方でも、この一ヶ月で大小様々な変化が起きていた。
小さい事から言うと、遙花を中心に、しょうよう常連によって缶蹴りグループが結成された。メンバーは、遙花、道悟、但馬、三山、三山の子ども、そしてすっかり常連になっていた諏方の計7人である。暇な時に、あの公園に集まって地味な遊びを敢行するのだ。逍子の参戦は遙花によって却下され、見学者としてベンチ入りになっている。今度、少年少女達とバトルする事になった。
さて、大きな変化だが、逍子が自力で料理をして見せたのだ。それは、ドライビーフシチューも修行明けし、新たに肉団子入りミネストローネを売り出し始めた時の事である。評判を聞き付け、あのくそみたいな料理発言をした常連だったお爺さんが現れたのだ。そして、注文してきたのはもちろん、メニューに無いサバの味噌煮。道悟は断りを入れようとしたのだが、逍子は易々と承り、厨房へとやって来た。道悟は、俺は作れないと忠告したが、逍子は自分が作るから大丈夫だと豪語する。そして、その言葉通り、逍子は手際良くちゃんとしたサバの味噌煮を作り、お爺さんへ提供した。今度はお爺さんの舌を唸らせることに成功し、完食した彼は今度はトンカツを食いに来ると言い残し、店を去っていった。なんとも、アグレッシブな爺さんである。逍子曰く、この日が来ると想定し、密かに練習を続けてきたらしい。こればかりは、自分の力で汚名を返上したかったそうだ。こうして、名実共にしょうようの女将として十分な資質を示した逍子。もうすぐ、猫の手も必要無くなるだろうと道悟は感じていた。
そんな、万事か上手い具合に動き始めた頃、道悟はカグとの本業を再開した。これまで入り口にしていた団地は、聖職者達によって監視され始めたので、使用不可となっている。そのせいで、聖職者達がしょうようへ通い詰めるようになったというオチは、シュール過ぎて道悟は笑えなかった。
新たに入り口として採用したのは、里山にある鳥居だけの空き地。神社の建立が財政難により途中で見送られ、鳥居だけが残ったのである。
とりあえず、この鳥居を門としてカグの社殿へ繋げる事にした。今夜の再開後初のお客様は、石田という人物である。さて、どんな願いを魔性に求めるのか。鳥居の前に来たという連絡を受け、道悟はゴドーとして鳥居の前に現れた。
「お待ちしておりました、石田・・・様?」
鳥居前に佇んでいた人物を見て、ゴドーは言葉に詰まってしまった。何故なら、石田として目の前に立っていたのが、逍子だったからである。
「うふふ、こんばんは、ゴドーさん? どうも、はた・・・石田です♪」
ゴドーは問い詰めたい衝動を抑えながら、極めて自然に彼女を迎え入れた。
鳥居をくぐり、カグの社殿へ至っても、逍子はいつもの笑みを崩さず、ゴドー後を付いてくる。ゴドーはその様子に、どこか慣れを感じずにはいられなかった。
「どうぞ・・・こちらです」
篝火の間へ通すと、逍子は迷わず篝火の前へ進み出ていった。
「・・・おひさしぶりです、カグ様」
逍子が篝火へ一礼すると、普段は依頼者の前に決して姿を見せないカグが、間髪入れずに現れた。
「貴様・・・やはり、あの時の娘か!」
激しく燃え上がり、逍子へ手を伸ばそうとするカグ。人にとっては致死のそれをゴドーが間に割って入り阻止した。
「何をしているんだ、カグ!」
「忘れたか道悟、それはお前に我を移した娘だぞ!」
「俺に・・・カグを?」
道悟の思考は数年前、カグと出会った頃を顧みる。
道悟の幼少期は碌なものでは無かった。元から共働きだった彼の両親は、衝突を繰り返し、最終的には再スタートを切ろうとする。双方が彼の養育権を放棄して。
全てが決する前日、道悟は夜の散歩へと繰り出していた。咎める者など、もう居ない。幼心でも判るほど、先の人生には重苦しい濃霧が掛かっていた。もう、諦めても良いのではないだろうか。
色々な思惑を胸に、夜の住宅街で啜り泣く声が聴こえてきた。かなりホラーな状況だが、絶望に瀕している少年には関係無い。むしろ、祟り殺して欲しいと期待しながら声のする方へ歩いていくと、ブランコに腰掛けて女の子が啜り泣いていた。これは間違い無いと期待に胸を膨らませながら、少女に声を掛けてみると、彼女がただの家出少女だと判明してしまう。落胆を隠しながら話を聴いていると、少女とその友人らは興味本意で神様を怒らせてしまい、呪いを掛けられ、友人らが祟り殺されて、彼女が最後の一人なのだという。
これは僥光、その呪いは移せもするというので、ぜひ譲って欲しいと頼んだ。少女は最初、頑なに断ってきたが、色々と言い聞かせ、最終的には呪いを移す事に同意した。呪いを受け取った後は、少女を家に帰らせて、刻限だという真夜中を待った。そして、時計の針が真夜中を過ぎたその時、道悟の前に人の半身の姿の炎が舞い降りた。
それが、道悟とカグの出会いである。二人は何故か意気投合、話をするうちに道悟の身の上を知ったカグは自らの望みを手伝う使徒となる事で力を貸すと申し出てきた。彼も産みの親との確執があるらしい。道悟はそれを快諾し、使徒となる。使徒ゴドー(名前反転)となった道悟は、両親の魂をカグへ捧げ、道徳心溢れる中身を持つ人形へ変えた。彼らは今、道悟が送金しているNPO団体の代表をしている。それから間もなく、道悟は現在のシステムを構築した。そして、高校進学を期に一人暮らしを始め、現在に至る。
「やっぱり、新田君だったのね」
ゴドーの背後で逍子が呟く。ゴドーはため息をついて指を鳴らし、道悟の姿へ戻った。
「・・・女将、貴女が?」
「ええ、君に呪いを託してしまったのは私・・・今日はその償いに来たの」
逍子は懐から封筒を取り出し、道悟に押し付けた。
「対価は持ってきたわ・・・私の願いは、カグ様から新田君を解放することよ」
「・・・どうやって、それを?」
「お店の純利益よ・・・貴方が居なければ、稼げなかったわ」
「どうやって、申し込みを?」
「悠梨ちゃんに聞いた噂と友達のお父さんに起きた珍事を掛け合わせて、そのお父さんから此処の事を聞き出したの」
「・・・どうして、俺が関わっていると?」
「最初に見た時から、あの時の男の子だって気付いていたの。生きているのだから、何かしらカグ様と関わっているはずだと思ったの・・・まさか、また頼ってしまうなんて思いもしなかったけどね。これは2つの借りを返す為のもの、貴方を普通の暮らしに戻すための・・・」
「はぁ・・・女将、俺はそんなことを頼んだ覚えはありません。頼んでも無いことで借りを返さないでください。ここが俺の居場所なんです。第一、解放されようものなら、生活苦に陥るのですが?」
「そ、それは・・・うちでトンカツを揚げ続ければ、良いんじゃない?」
「それは・・・心踊りませんね」
「踊らないの~!?」
逍子はその場に膝を突き、両手で顔を覆った。
「ずっと、ずっと・・・あの日の決断に負い目を感じていて・・・どんなに辛くても、パパやママが死んじゃっても、あの子を犠牲にした人生だから、諦めないようにしようって・・・うぅ」
「気持ちはありがたいですが、俺は感謝しているくらいなんですよ? 貴女のおかげで、俺はカグと出会えたのですから」
「うぅ・・・お礼を言うのは、私の方で・・・」
「では、お互いありがとうという事で・・・俺はカグに願いを叶えてもらったので、彼の願いを叶えないといけません。お金を大事に、どうかお幸せに・・・」
「・・・新田君?」
道悟は逍子の眼前に炎を現出させ、彼女を眠りにつかせた。
「・・・カグ、彼女の記憶を操作する。カグや俺についての記憶を消す・・・だから、手を出さないでくれ」
「ヌゥ・・・お前が何も気にしていないのなら、我は異存無い」
「ありがとう・・・きっと、そもそも俺が居ない方が自然だったんだよ。それに戻るだけの話さ・・・じゃあ、始めようか」
道悟は、学校から自宅へと直帰する。
昨日の一件に合わせて、この数ヵ月、彼としょうようの繋がりを知る者全員からその記憶を奪った。辻褄を合わせるのに苦労したが、諏方が話し掛けて来なかった事から、上手く作用しているのは間違い無いだろう。これからは、また静かな生活に戻れる。
意気揚々と最寄り駅へ降り立った道悟の肩を叩く者がいた。顧みた道悟の顔が、一瞬にして凍り付く。逍子は、手帳と道悟を見比べてから、少し気恥ずかしそうにある言葉を言い放った。
「わ、私の記憶を奪ったわね、新田君! そう簡単には逃がさないぞ♪」
数秒間、時すらも凍り付く。道悟は逍子から手帳を奪い取り、見比べていたページを確認した。
「・・・記憶に異常を感じたり、この記述に覚えが無ければ以下の事を実行せよ」
手帳には、道悟の写真と今さっき逍子が行なった行動が事細かに指示されていた。
「ご、ごめんなさい・・・やっぱり可笑しいですよね、私!」
顔を真っ赤にして恥じらう逍子に対し、道悟は盛大に肩を竦めてみせた。
「まったく・・・・・・女将には叶いませんね」
道悟は嘆息し、逍子の眼前で指を打ち鳴らした。
殺人事件に関しては、刑事の死によって大騒動に発展するかと思いきや、佐武の自首と潔過ぎる供述によって、瞬く間に鎮火されてしまう。女装をした佐武を買った社会的害悪を殺してきたという動機も用意し、刑事殺害は不可抗力だったという酌量の余地も与え、世論も糾弾し難い状況にした成果と言える。袖崎には悪いが、道悟は事件の早期収拾を優先したのだ。報道機関にしてみれば、狐に摘ままれたような事件だったが、仲間を失った警察にとっては違う。彼はおそらく、一番重い刑に処される事だろう。それで、彼の肉体の罪は消える事になる。魂の方は、違う場所で永遠の業火に焼かれているので、事件は解決したと言って良いだろう。その過程で、佐武という人物がどの様にして魔に堕ちたのか、その真の道筋を知る事になった。ボンボンというのは本当で、父親のエジプト土産が事の発端らしい。それと、死後の世界を知りたがっていたのは本心だったようだが、道悟としては鼻で笑う程度の事でしか無い。
しょうようの方でも、この一ヶ月で大小様々な変化が起きていた。
小さい事から言うと、遙花を中心に、しょうよう常連によって缶蹴りグループが結成された。メンバーは、遙花、道悟、但馬、三山、三山の子ども、そしてすっかり常連になっていた諏方の計7人である。暇な時に、あの公園に集まって地味な遊びを敢行するのだ。逍子の参戦は遙花によって却下され、見学者としてベンチ入りになっている。今度、少年少女達とバトルする事になった。
さて、大きな変化だが、逍子が自力で料理をして見せたのだ。それは、ドライビーフシチューも修行明けし、新たに肉団子入りミネストローネを売り出し始めた時の事である。評判を聞き付け、あのくそみたいな料理発言をした常連だったお爺さんが現れたのだ。そして、注文してきたのはもちろん、メニューに無いサバの味噌煮。道悟は断りを入れようとしたのだが、逍子は易々と承り、厨房へとやって来た。道悟は、俺は作れないと忠告したが、逍子は自分が作るから大丈夫だと豪語する。そして、その言葉通り、逍子は手際良くちゃんとしたサバの味噌煮を作り、お爺さんへ提供した。今度はお爺さんの舌を唸らせることに成功し、完食した彼は今度はトンカツを食いに来ると言い残し、店を去っていった。なんとも、アグレッシブな爺さんである。逍子曰く、この日が来ると想定し、密かに練習を続けてきたらしい。こればかりは、自分の力で汚名を返上したかったそうだ。こうして、名実共にしょうようの女将として十分な資質を示した逍子。もうすぐ、猫の手も必要無くなるだろうと道悟は感じていた。
そんな、万事か上手い具合に動き始めた頃、道悟はカグとの本業を再開した。これまで入り口にしていた団地は、聖職者達によって監視され始めたので、使用不可となっている。そのせいで、聖職者達がしょうようへ通い詰めるようになったというオチは、シュール過ぎて道悟は笑えなかった。
新たに入り口として採用したのは、里山にある鳥居だけの空き地。神社の建立が財政難により途中で見送られ、鳥居だけが残ったのである。
とりあえず、この鳥居を門としてカグの社殿へ繋げる事にした。今夜の再開後初のお客様は、石田という人物である。さて、どんな願いを魔性に求めるのか。鳥居の前に来たという連絡を受け、道悟はゴドーとして鳥居の前に現れた。
「お待ちしておりました、石田・・・様?」
鳥居前に佇んでいた人物を見て、ゴドーは言葉に詰まってしまった。何故なら、石田として目の前に立っていたのが、逍子だったからである。
「うふふ、こんばんは、ゴドーさん? どうも、はた・・・石田です♪」
ゴドーは問い詰めたい衝動を抑えながら、極めて自然に彼女を迎え入れた。
鳥居をくぐり、カグの社殿へ至っても、逍子はいつもの笑みを崩さず、ゴドー後を付いてくる。ゴドーはその様子に、どこか慣れを感じずにはいられなかった。
「どうぞ・・・こちらです」
篝火の間へ通すと、逍子は迷わず篝火の前へ進み出ていった。
「・・・おひさしぶりです、カグ様」
逍子が篝火へ一礼すると、普段は依頼者の前に決して姿を見せないカグが、間髪入れずに現れた。
「貴様・・・やはり、あの時の娘か!」
激しく燃え上がり、逍子へ手を伸ばそうとするカグ。人にとっては致死のそれをゴドーが間に割って入り阻止した。
「何をしているんだ、カグ!」
「忘れたか道悟、それはお前に我を移した娘だぞ!」
「俺に・・・カグを?」
道悟の思考は数年前、カグと出会った頃を顧みる。
道悟の幼少期は碌なものでは無かった。元から共働きだった彼の両親は、衝突を繰り返し、最終的には再スタートを切ろうとする。双方が彼の養育権を放棄して。
全てが決する前日、道悟は夜の散歩へと繰り出していた。咎める者など、もう居ない。幼心でも判るほど、先の人生には重苦しい濃霧が掛かっていた。もう、諦めても良いのではないだろうか。
色々な思惑を胸に、夜の住宅街で啜り泣く声が聴こえてきた。かなりホラーな状況だが、絶望に瀕している少年には関係無い。むしろ、祟り殺して欲しいと期待しながら声のする方へ歩いていくと、ブランコに腰掛けて女の子が啜り泣いていた。これは間違い無いと期待に胸を膨らませながら、少女に声を掛けてみると、彼女がただの家出少女だと判明してしまう。落胆を隠しながら話を聴いていると、少女とその友人らは興味本意で神様を怒らせてしまい、呪いを掛けられ、友人らが祟り殺されて、彼女が最後の一人なのだという。
これは僥光、その呪いは移せもするというので、ぜひ譲って欲しいと頼んだ。少女は最初、頑なに断ってきたが、色々と言い聞かせ、最終的には呪いを移す事に同意した。呪いを受け取った後は、少女を家に帰らせて、刻限だという真夜中を待った。そして、時計の針が真夜中を過ぎたその時、道悟の前に人の半身の姿の炎が舞い降りた。
それが、道悟とカグの出会いである。二人は何故か意気投合、話をするうちに道悟の身の上を知ったカグは自らの望みを手伝う使徒となる事で力を貸すと申し出てきた。彼も産みの親との確執があるらしい。道悟はそれを快諾し、使徒となる。使徒ゴドー(名前反転)となった道悟は、両親の魂をカグへ捧げ、道徳心溢れる中身を持つ人形へ変えた。彼らは今、道悟が送金しているNPO団体の代表をしている。それから間もなく、道悟は現在のシステムを構築した。そして、高校進学を期に一人暮らしを始め、現在に至る。
「やっぱり、新田君だったのね」
ゴドーの背後で逍子が呟く。ゴドーはため息をついて指を鳴らし、道悟の姿へ戻った。
「・・・女将、貴女が?」
「ええ、君に呪いを託してしまったのは私・・・今日はその償いに来たの」
逍子は懐から封筒を取り出し、道悟に押し付けた。
「対価は持ってきたわ・・・私の願いは、カグ様から新田君を解放することよ」
「・・・どうやって、それを?」
「お店の純利益よ・・・貴方が居なければ、稼げなかったわ」
「どうやって、申し込みを?」
「悠梨ちゃんに聞いた噂と友達のお父さんに起きた珍事を掛け合わせて、そのお父さんから此処の事を聞き出したの」
「・・・どうして、俺が関わっていると?」
「最初に見た時から、あの時の男の子だって気付いていたの。生きているのだから、何かしらカグ様と関わっているはずだと思ったの・・・まさか、また頼ってしまうなんて思いもしなかったけどね。これは2つの借りを返す為のもの、貴方を普通の暮らしに戻すための・・・」
「はぁ・・・女将、俺はそんなことを頼んだ覚えはありません。頼んでも無いことで借りを返さないでください。ここが俺の居場所なんです。第一、解放されようものなら、生活苦に陥るのですが?」
「そ、それは・・・うちでトンカツを揚げ続ければ、良いんじゃない?」
「それは・・・心踊りませんね」
「踊らないの~!?」
逍子はその場に膝を突き、両手で顔を覆った。
「ずっと、ずっと・・・あの日の決断に負い目を感じていて・・・どんなに辛くても、パパやママが死んじゃっても、あの子を犠牲にした人生だから、諦めないようにしようって・・・うぅ」
「気持ちはありがたいですが、俺は感謝しているくらいなんですよ? 貴女のおかげで、俺はカグと出会えたのですから」
「うぅ・・・お礼を言うのは、私の方で・・・」
「では、お互いありがとうという事で・・・俺はカグに願いを叶えてもらったので、彼の願いを叶えないといけません。お金を大事に、どうかお幸せに・・・」
「・・・新田君?」
道悟は逍子の眼前に炎を現出させ、彼女を眠りにつかせた。
「・・・カグ、彼女の記憶を操作する。カグや俺についての記憶を消す・・・だから、手を出さないでくれ」
「ヌゥ・・・お前が何も気にしていないのなら、我は異存無い」
「ありがとう・・・きっと、そもそも俺が居ない方が自然だったんだよ。それに戻るだけの話さ・・・じゃあ、始めようか」
道悟は、学校から自宅へと直帰する。
昨日の一件に合わせて、この数ヵ月、彼としょうようの繋がりを知る者全員からその記憶を奪った。辻褄を合わせるのに苦労したが、諏方が話し掛けて来なかった事から、上手く作用しているのは間違い無いだろう。これからは、また静かな生活に戻れる。
意気揚々と最寄り駅へ降り立った道悟の肩を叩く者がいた。顧みた道悟の顔が、一瞬にして凍り付く。逍子は、手帳と道悟を見比べてから、少し気恥ずかしそうにある言葉を言い放った。
「わ、私の記憶を奪ったわね、新田君! そう簡単には逃がさないぞ♪」
数秒間、時すらも凍り付く。道悟は逍子から手帳を奪い取り、見比べていたページを確認した。
「・・・記憶に異常を感じたり、この記述に覚えが無ければ以下の事を実行せよ」
手帳には、道悟の写真と今さっき逍子が行なった行動が事細かに指示されていた。
「ご、ごめんなさい・・・やっぱり可笑しいですよね、私!」
顔を真っ赤にして恥じらう逍子に対し、道悟は盛大に肩を竦めてみせた。
「まったく・・・・・・女将には叶いませんね」
道悟は嘆息し、逍子の眼前で指を打ち鳴らした。
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっ☆パラ
うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!?
新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!
引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます
ジャン・幸田
キャラ文芸
アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!
そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。

職業、種付けおじさん
gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。
誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。
だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。
人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。
明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。
※小説家になろう、カクヨムでも連載中
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる