コンバート・ユア・マインド

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第六章 獅子頭 二節

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 私は猫君を地面に降ろし、先導されるがまま、迷路へと続く階段を下りていった。
「まあ、そう緊張する必要はないさ。此方がしっかりとルートを把握しているからね」
 そう言って、猫君が初めて曲がった角の先は行き止まりになっていた。
「ちょっと藤園さん、行き止まりなんですけど? もしかして、壁をぶち抜くのが最短ルートとか言わないよね?」
「そんな・・・おかしい・・・いきなり行き止まりだなんて」
「どうしたの? トラブル?」
「・・・・・・悔しいけど、その通りだ。どうやら、俯瞰から見えた構造と実際の迷路の造りは別物だったらしい・・・」
「しっかり対策されてたわけだ・・・ほんと難易度高いな、このゲーム」
「先ほどの曲がり角まで戻り、次は反対へ曲がろう。そこからはしらみ潰しになるが、此方で曲がった方向と場所は覚えておく。パターンが見えるまで、白枝君の勘で進んでくれるかい?」
「了解! ・・・それにしても、藤園さんが変に意固地じゃなくて助かったよ」
「それは、どういう意味かな?」
「ほら、天才って頑固なイメージがあるからさ。自分の非を認めないで袋小路に迷い混みがちだと思っていたけど・・・藤園さんはすぐに間違いを認め、リスクを最小限に抑えた。さっきのは、それに対する称賛の言葉だよ?」
「本来なら、そうなのかもね・・・此方は此方で最も合理的な判断を下したに過ぎない。攻略する事に対して頑固になっているんだよ」
「頑固の方向性が違うって事か・・・それじゃあ、ボチボチ探索を開始しましょうかね?」
 私は藤園さんの提案通り、何も考えずに迷路の中を歩き回った。数多の選択肢の中、行き止まりになったら直前の分かれ道へ戻り、違う方向へ曲がるの繰り返しだ。そして遂に、八方塞がりへ陥る時が来た。
「全部行き止まりか・・・どこからやり直そうか、藤園さん?」
「ふむ・・・セオリーなら、二つ前まで戻るところだけれど、その必要はない。君が途方もなく歩き回ってくれたおかげで、パターンが割り出せた・・・どうやらこの迷路、上から見たものとは反転していたようだね。ルートは割り出せたから、4つ前の分かれ道へ戻ってくれるかい?」
「了解・・・迷路に居過ぎて、閉所恐怖症になるところだったよ」
 ここからは、猫君の先導に従い、迷路を進んでいく。こうもスムーズに進めると、立派な迷路も最早、移動が面倒な場所でしかなくなる。ただ猫君が角を曲がるのに続こうとしたその時、反対の道から雄ライオンみたいな頭を乗せた武人がふらりと現れた。
「あ、どうも」
 互いに会釈し、擦れ違った後、同時に振り返り、呼応する様に驚嘆の声を張り上げる。
「Gaaaa!?」
「なんじゃあ!?」
 片肌脱胴具足の様で、スケイルメイルな甲冑を纏った獅子の武人は、得物である薙刀を振りかぶり、こちらへ斬り掛かろうとしてきた。対する私は、虎頭の見よう見まねで、空中を撫でる感じで正面の武人に爪を立ててみる。
 すると次の瞬間、武人の甲冑が弾け飛び、その胴には肩口からザックリと刻まれた爪の跡が痛々しく煌めいていた。
「はは~ん・・・なるほどね」
 私はアッパーカットでも決めるかの如く、下から上に爪を立てて見た。すると、獅子の武人の頭部が、まるでシャンパンの蓋の如く、小気味良い音と共に吹き飛んでいく。スケールダウンしたと藤園さんは語っていたが、なかなかどうして使い勝手が良いではないか。
 武人の亡骸が灰に変わるのを見届けていると、先を行っていた猫君が引き返してきた。
「もしかして、接敵していたのかい?」
「あぁ、うん・・・何か、ライオン頭の武人と出くわしちゃって」
「小獅子頭か・・・つまり、さっきの鳴き声は・・・・・・ちょっとマズイ事になったかもね」
「まさか・・・お仲間が駆け付けてくる、とか?」
「その通り、敵性反応がここを目指してくる・・・迷ってるみたいだけど。とりあえず、迷路を抜け出そう。ここはどうにも、分が悪い」
「了解・・・迷ってるって、ちょっと可愛いな」
 それから私と猫君は、迷路の脱出ルートを駆け足で抜ける事にした。
 途中、小獅子頭と遭遇する事が度々あったものの、反応に気を配っていた藤園さんが事前にそれを注意喚起、出会い頭で私が引き裂くという通り魔的プレイで切り抜けていく。
 ようやく迷路を脱けた頃には、私もずいぶんと虎頭爪を使いこなせる様になっていた。
「ふぅ・・・どうにか突破出来たね。少し休ませてあげたいところだけれど、小獅子頭の注意が未だ迷路に向いているようだから、先を急ごうか?」
「そうだね・・・藤園さんは大丈夫?」
「ああ、クレームブリュレとダージリンがあるからね・・・少し話は変わるが、君のサポートを始めてから体重が増加したのだが、どうしてくれるんだい?」
「はぃ? 何その冤罪・・・藤園さんが毎回毎回、俺が死闘を繰り広げている時に、陽気なアフタヌーンティーを楽しんでいるからでしょうが!」
「はぁ? 此方も別にケーキセットばかり食べてはいないのだけど?」
「ちょっと待って・・・ケーキセット、ばかり?」
「・・・・・・ラーメンも少々」
「ラーメン!? えっ、じゃあ・・・たまにノイズが混じってるかな~と思ってたのは、ラーメンを啜る音だったわけか!」
「もちろん、ラーメンは啜るものだよ。君には解らないさ、ずっと食堂でサポートする者の気持ちなんて!」
「開き直ったよ、この人!?」
「ちなみに、食堂では塩味時々しょうゆ味だよ」
「そのチョイスは、何故か判る気がする・・・けど論点はそこじゃない!」
「まったく、仕方ないな・・・君の肉体に一口詰めておくから、それで良いだろう。 何なら、ダージリンも注ごうか?」
「それ、ただの拷問だから!」
「思いの外ワガママなんだね、白枝君は・・・それより、君が大声を出すものだから、小獅子頭たちが気付かれてしまったみたいだよ?」
「いや、藤園さんの突拍子の無い小話のせいでしょうに・・・・・・まどろっこしいから、血路を拓いて行こう。コソコソ隠れるより、楽な気がしてきた」
「御随意に、白枝君」
 それから私は、襲い来る小獅子頭を片っ端から薙ぎ倒していった。
 虎頭爪は余りにも迎撃、殲滅戦に向いている。見えたら爪でなぞるだけで良いのだから、よくこんなえげつないものを持ったボスを倒せたものだと、我ながら感嘆せざるをえない。
 やがて使い魔の襲撃が止む頃、気が付けば私は、遺跡の最奥手前までやった来てしまっていた。
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