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エンジョイガイド・タロット
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夕日が差し込む教会裏の墓地、エドワーズくんの墓石の前で、アタシは百合の花を置いた。
墓石の周りは他にも沢山の花が飾られていて、エドワーズくんが沢山の人に愛されていたことが伝わる。
「ねぇ、カイル。アタシさ、この子に、いつもみたく口から出任せ言っただけなんだ」
「あぁ、そうだろうな」
墓参りに付き合ってくれたカイルの服の裾を、アタシはきゅっと掴んだ。
「喜んでくれるだろう言葉を、ただ並べていっただけなんだ。この子の体がどんな状態か知ろうともしないで」
エドワーズくんはママやパパに「治る病」だって言われてたみたいだけど、子供は親の顔色を読むのが上手いからきっとそれは嘘だってわかっていたと思う。
だから将来の話をできた、無邪気に夢を語り合えたのが楽しかったんだろうな。
「でもそれで、こいつは救われたんだろう」
カイルは淡々と喋る。
「医者にもヒーラーにも、親にもできないことをやれたのは、マーシャが占い師だったからだ。他人で無責任で無知で、そこから出た虚言だからこそ、希望になることもある」
でもそんなの結果論だ。たまたまエドワーズくんの心に響いただけだ。たまたま、都合よく、慰めになったってだけ。
アタシの両目からぽろぽろと涙が零れ落ちてくる。
「う、ううう、うわぁあああんっ!」
とうとう我慢できなくなって、アタシは大声で泣き始めてしまった。
そんな情けないアタシの隣を、カイルは静かに立って居てくれている。
「アタシ、嫌だよ、まぐれで喜ばれたって、苦しいよ、悲しいよ」
常日頃いい顔したくて言うことコロコロ変えて嘘ついている癖に、人の生死に直面すると怖気ついちゃうだなんて、酷いよね。
「そうは言うが、他に何かできたか? 例えこいつの状態を知っていたとしても、してやれることに限りはある。何なら同じことを言ってやったかもしれない」
「そうかも、しれないけどっ! グスッ、アタシ、知らずに残酷なことを言いたくないっ! もっと、胸を張って、後悔しない占い、したいっ!」
ぐすぐす泣きながらアタシは必死に喋る。
「せめて、アタシの占いを受けてよかったなって、いい思い出になるように、したい……っ!」
「今までマーシャに占って貰った人間も、いい思い出になっていると思うぞ。そう自分を責めなくともいいと思うが」
カイルは不意にアタシの背中をぽんぽん軽く叩いた。
「ま、気がすむまで泣け泣け」
何だかお兄ちゃんみたい。そういえばカイルの方が年上なんだっけ? 見た目年齢的に。
どっちでもいいか、今は。お言葉に甘えて泣いて泣いて、目が腫れるくらい泣き続けて、日が落ちてすっかり暗くなってから、アタシたちは宿屋に戻った。
◇
翌朝、アタシは荷物をまとめて宿屋をチェックアウトをする準備をしていた。
カイルはほとんど荷物がないから準備もなにもなく、ベッドに腰掛けて忙しなく動くアタシを眺めている。
「町を出るのか?」
「うん! 本格的に占いの修行をして、誰もが認める占い師になったらまた《ボムフォード》に戻って来ようと思う!」
一箇所に留まるんじゃなくて色んな町を巡って、色んな人と接して、できればエルフとかドワーフとか他の《四大精霊の落とし子》とかとも接して、人生経験を積んで占いに活かしたいな。
そしていつか、胸を張って《ボムフォード》に帰ってきたい。その時はアイラさんに広告を頼みたいね。
「占いは続けるのか。辛い思いをしたんなら、占い師を辞める選択肢もあると思うが」
「……このまま辞めてもきっと、引きずっちゃうから。ちょっとでも気持ちを昇華できることをしていきたいの。アタシの自己満足でしかないけどさ」
それに何だかんだ資格もお店も元手も人手もなくっても、いつでもどこでも出来る占い師って、ぼっちなアタシにぴったりなお仕事だってわかったしね。
「カイルはどうする? ここを拠点に落ち着いて冒険業をするって言うなら、お別れになっちゃうけど」
「俺か? 俺はマーシャについて行くだけだが?」
「えっ?」
カイルは当たり前のようにアタシの同行を決めていた。
「俺は常識を知らない少数民族だ。しかも元奴隷剣闘士。マーシャたち《プルハの民》と一緒にいた方が何かと都合がいい」
《プルハの民》かぁ。久し振りに聞いたな。この《プルハール大陸》の開拓地を治める王国の多数民族かつ国民の通称、《プルハの民》。アタシもその国民の一人扱い。
けど孤児のアタシが本当にその国民の血が流れているのかわかんないし、多数民族なだけあってわざわざ呼ばれること少ないから意識してないんだよね。
「ツケも払い終えていないし、文字もまだまだ教わりたい」
「授業料取るよ~?」
「あと何かと危なっかしいしな、マーシャは」
「むっ。危なっかしいって何よ! カイルこそ見境なく人を煽ってトラブル起こしているんじゃないっ!?」
「……」
「ちょっと、目をそらさないっ! もーっ!」
結局いつも通り言い合いながら、アタシたちは二人で宿屋を、商業都市《ボムフォード》を後にした。
目指す先は隣町、べリッジ城っていう観光名所がある《べリッジ町》! といっても徒歩で行くとすると暫く時間がかかるから、しばらくは二人の珍道中になっちゃうだろうけど。途中で旅人とエンカウントしたら嬉しいんだけどなぁ。
「ところで店の名前は決めたのか? 宿屋でも考え込んでいたようだが」
「ふっふっふっ。実は、決めたのっ!」
アタシは昨日の内に購入していたこの先お世話になるだろう商売道具、魔法使いと相性がいいとか言われてる《タロットカード》を取り出して高らかに宣言したっ!
「『エンジョイガイド・タロット』! どう? わかりやすくて覚えやすくて、何よりキャッチーでしょっ!」
「あぁ、いいんじゃないか。形から入るところとか本当、マーシャらし、ぶふっ」
「あ、ちょっと! 笑うなぁ~っ!」
墓石の周りは他にも沢山の花が飾られていて、エドワーズくんが沢山の人に愛されていたことが伝わる。
「ねぇ、カイル。アタシさ、この子に、いつもみたく口から出任せ言っただけなんだ」
「あぁ、そうだろうな」
墓参りに付き合ってくれたカイルの服の裾を、アタシはきゅっと掴んだ。
「喜んでくれるだろう言葉を、ただ並べていっただけなんだ。この子の体がどんな状態か知ろうともしないで」
エドワーズくんはママやパパに「治る病」だって言われてたみたいだけど、子供は親の顔色を読むのが上手いからきっとそれは嘘だってわかっていたと思う。
だから将来の話をできた、無邪気に夢を語り合えたのが楽しかったんだろうな。
「でもそれで、こいつは救われたんだろう」
カイルは淡々と喋る。
「医者にもヒーラーにも、親にもできないことをやれたのは、マーシャが占い師だったからだ。他人で無責任で無知で、そこから出た虚言だからこそ、希望になることもある」
でもそんなの結果論だ。たまたまエドワーズくんの心に響いただけだ。たまたま、都合よく、慰めになったってだけ。
アタシの両目からぽろぽろと涙が零れ落ちてくる。
「う、ううう、うわぁあああんっ!」
とうとう我慢できなくなって、アタシは大声で泣き始めてしまった。
そんな情けないアタシの隣を、カイルは静かに立って居てくれている。
「アタシ、嫌だよ、まぐれで喜ばれたって、苦しいよ、悲しいよ」
常日頃いい顔したくて言うことコロコロ変えて嘘ついている癖に、人の生死に直面すると怖気ついちゃうだなんて、酷いよね。
「そうは言うが、他に何かできたか? 例えこいつの状態を知っていたとしても、してやれることに限りはある。何なら同じことを言ってやったかもしれない」
「そうかも、しれないけどっ! グスッ、アタシ、知らずに残酷なことを言いたくないっ! もっと、胸を張って、後悔しない占い、したいっ!」
ぐすぐす泣きながらアタシは必死に喋る。
「せめて、アタシの占いを受けてよかったなって、いい思い出になるように、したい……っ!」
「今までマーシャに占って貰った人間も、いい思い出になっていると思うぞ。そう自分を責めなくともいいと思うが」
カイルは不意にアタシの背中をぽんぽん軽く叩いた。
「ま、気がすむまで泣け泣け」
何だかお兄ちゃんみたい。そういえばカイルの方が年上なんだっけ? 見た目年齢的に。
どっちでもいいか、今は。お言葉に甘えて泣いて泣いて、目が腫れるくらい泣き続けて、日が落ちてすっかり暗くなってから、アタシたちは宿屋に戻った。
◇
翌朝、アタシは荷物をまとめて宿屋をチェックアウトをする準備をしていた。
カイルはほとんど荷物がないから準備もなにもなく、ベッドに腰掛けて忙しなく動くアタシを眺めている。
「町を出るのか?」
「うん! 本格的に占いの修行をして、誰もが認める占い師になったらまた《ボムフォード》に戻って来ようと思う!」
一箇所に留まるんじゃなくて色んな町を巡って、色んな人と接して、できればエルフとかドワーフとか他の《四大精霊の落とし子》とかとも接して、人生経験を積んで占いに活かしたいな。
そしていつか、胸を張って《ボムフォード》に帰ってきたい。その時はアイラさんに広告を頼みたいね。
「占いは続けるのか。辛い思いをしたんなら、占い師を辞める選択肢もあると思うが」
「……このまま辞めてもきっと、引きずっちゃうから。ちょっとでも気持ちを昇華できることをしていきたいの。アタシの自己満足でしかないけどさ」
それに何だかんだ資格もお店も元手も人手もなくっても、いつでもどこでも出来る占い師って、ぼっちなアタシにぴったりなお仕事だってわかったしね。
「カイルはどうする? ここを拠点に落ち着いて冒険業をするって言うなら、お別れになっちゃうけど」
「俺か? 俺はマーシャについて行くだけだが?」
「えっ?」
カイルは当たり前のようにアタシの同行を決めていた。
「俺は常識を知らない少数民族だ。しかも元奴隷剣闘士。マーシャたち《プルハの民》と一緒にいた方が何かと都合がいい」
《プルハの民》かぁ。久し振りに聞いたな。この《プルハール大陸》の開拓地を治める王国の多数民族かつ国民の通称、《プルハの民》。アタシもその国民の一人扱い。
けど孤児のアタシが本当にその国民の血が流れているのかわかんないし、多数民族なだけあってわざわざ呼ばれること少ないから意識してないんだよね。
「ツケも払い終えていないし、文字もまだまだ教わりたい」
「授業料取るよ~?」
「あと何かと危なっかしいしな、マーシャは」
「むっ。危なっかしいって何よ! カイルこそ見境なく人を煽ってトラブル起こしているんじゃないっ!?」
「……」
「ちょっと、目をそらさないっ! もーっ!」
結局いつも通り言い合いながら、アタシたちは二人で宿屋を、商業都市《ボムフォード》を後にした。
目指す先は隣町、べリッジ城っていう観光名所がある《べリッジ町》! といっても徒歩で行くとすると暫く時間がかかるから、しばらくは二人の珍道中になっちゃうだろうけど。途中で旅人とエンカウントしたら嬉しいんだけどなぁ。
「ところで店の名前は決めたのか? 宿屋でも考え込んでいたようだが」
「ふっふっふっ。実は、決めたのっ!」
アタシは昨日の内に購入していたこの先お世話になるだろう商売道具、魔法使いと相性がいいとか言われてる《タロットカード》を取り出して高らかに宣言したっ!
「『エンジョイガイド・タロット』! どう? わかりやすくて覚えやすくて、何よりキャッチーでしょっ!」
「あぁ、いいんじゃないか。形から入るところとか本当、マーシャらし、ぶふっ」
「あ、ちょっと! 笑うなぁ~っ!」
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