虚言癖が酷くてパーティーから追放されたので、エセ占い師になって荒稼ぎしようと思います!

天海二色

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モデルと恋と告白と2

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「はぁ~。今日どうしよっかなぁ」

 早朝。アタシはカイルと冒険者ギルドに居た。文字を多少覚えたカイルは「これは『ごぶりん』か?」とか「これは200ガルか?」と、掲示板に貼られた依頼書の内容をアタシに確認しながら、どの依頼を受けようか吟味している。
 アタシまでここにいるのはカイルの手助けもあるけれど、無名で駆け出しなアタシが魅力的なお店がひしめく商業都市《ボムフォード》で露店を構えても、誰も見向きもしないって痛感したから。モデルのアイラさんが来たのが寧ろ奇跡っていうか、よく得体の知れないアタシに声をかけてきたなぁ。

「広告って大事だよねぇ、カイル。アイラさんが重宝されているのよくわかるよ」
「ん? あぁ、Fランクはネズミかゴブリン退治の二択が無難という話か?」
「いや全っ然違うっ!」

 話を聞いてないカイルは放っておいて、アタシはこの商業都市でどうやってお客を呼び込もうか頭の中でむむむと計画を立てる。
 まず知ってもらうことが大事だから、商人ギルドに依頼してチラシを作って貰おうかな。何でも占いますっ! 今ならお安いよっ! って大きく書いてもらって、あと店の位置も書き込んで……。

「おい、おいマーシャ」
「なぁに? アタシは今ちょっと考え事を……」
「昨日のモデルがやってきたぞ」
「そう、アイラさんが……。えぇええっ!?」

 カイルの言った通り、強面だったりムキムキで暑苦しい男性が多い冒険者ギルドに場違いも場違いなモデル、アイラさんがいる!
 でも昨日の格好と違ってぺたんこ靴で、体のラインが出るドレスじゃなくてちょっとダボっとしたオーバーオールを着ていて、あと何より、太めの黒縁のダサ……個性的なメガネをかけた格好で受付に向かっている。

(ほ、本当にいる……。何で……?)

 アイラさんの目的は冒険者の依頼を受けるんじゃなくて、依頼をお願いする方みたいで、受付で申請書に記入をしながら時々視線を泳がせている。
 視線を泳がせている? あっもしかして、受付の純朴そうなお兄さんが好きなのかな!?

(そっかぁ! 冒険者ギルドも役所だものね、盲点だったなぁっ)

 つんけんした態度が目立つアイラさんだけど、アドバイス通りに素直に伊達メガネをかけたり、純朴そうなお兄さんの前だとちょっと挙動不審だったり、わかりやすくって思わずにこにこしちゃう。

「マーシャ。受ける依頼を決めたんだが、お前はどうする? 来るか?」
「アタシ? アタシはやることが出来たから今日は一緒にいられないっ。また後で、宿屋で会おうねっ!」

 アタシはカイルと別れるとアイルさんに気付かれないようこっそりと、でも足早に冒険者ギルドから出る。
 そしてアタシは町のマップを見ながら高い場所に向かって走り出した! この町で一番高いところは高台にある、町を見下ろせる展望広場。急な階段を登った先にあるそこは、夜には街明かり星明かりが眺められて綺麗なんだとか観光ポイントが書いてあるけど、アタシの目的は夜景じゃないっ。

「よし、ここでいいかなっ」

 まばらに広場を訪れている人々から距離を置いて、東屋の柱の陰に隠れて杖を構える。

「――水の精霊よ、光の粒子を従えたまえ。今ここに、七色の橋を空にかけん。《ヴィブギョール・アクアリアス》!」

 そこで水魔法を応用した魔法を使って、空に雨雲をまばらに発生させた上に雨を降らせる。
 そして雨雲の隙間から差し込む光が雨による屈折を受けて、虹色の橋が大空に弧を描く。

(アイラさんがいつ外に出てくれるか、空を見てくれるかわからないけど、なるべく虹を保ってみせる!)

 魔法で人為的に出現させた虹に神秘も奇跡もない。アタシが出来ることは縁起のいいことを言って勇気付けること。背中を押すこと。
 幾らいい運勢を伝えたところで、結局は本人が行動しないと結果は変わらない。これでアイラさんが一歩進む手助けになればいいんだけど、そう都合よくいくかなぁ?

 ◇

(う~ん。今日も人が来なかったなぁ)

 魔力をギリギリまで使って虹を保った後、アタシは昨日と同じように街角で占い屋を構えていた。でもやっぱりというか、お客さんは一人もこなくて閑古鳥が鳴いている有様なんだけども。
 すっかり日が暮れちゃったし、もう店仕舞いして宿屋に向かおうかなぁ。でも今朝、魔力消耗し過ぎて疲れちゃっているからもう少しここで大人しくしていようかなぁ。

「あらあなた、まだここにいたの?」

 ぼげ~と虚空を見つめていたら、いつの間にか目の前にいたアイラさんに声をかけられて、アタシはハッと我に返る。

「ア、アイラさんっ!?」

 今朝見た時と服装が違うっ。体のラインが出る上品なドレスを着てる。いつ着替えたんだろ。今朝、見かけたことは言えないから訊けないけどっ。

「女の子が夜に一人だなんて不用心ね」
「ごご、ご心配ありがとうございますっ。で、でもそれはアイラさんも同じでは……?」
「私は護身術を身に付けているもの、問題ないわ。私の場合、昼間でも群がってくる男が大勢いるのよね。路地に連れ込もうとしてくるような奴なんか現れた時は、こうだけれど」

 アイラさんは不意に道端に落ちていた小石を拾うと、バキッとその場で握り潰してみせたっ!
 ひぇ……。身体強化魔法を使っているのかもしれないけど、それにしてもすごい怪力……。これは逆らっちゃダメな人だぁ。

「そ、そ、それで、こんな街角までどうしたんですか? 帰り道の途中ですか?」

 アタシがだらだら冷や汗をかきながら訊ねると、アイラさんは何か腕を組んで落ち着かない仕草をして、それから意を決したようにこう言った。

「……こ、広告、してあげてもいいわよ」
「はい?」
「~っ! あなたの店、広告してあげてもいいわよ!?」

 えっ!? カリスマモデルがアタシの占い屋を広告って、本当に!?
 いきなりそんな事を言い出すって事は、冒険者ギルドのお兄さんと上手くいったってことかな!? わぁ~、すっごく気になるぅ~っ!

「どうしたんですか、アイラさん。提案はとても嬉しいですけれど、アタシはアイラさんに見合うお金が払えるかわかりませんよ?」
「そこは、心配しなくていいわ。特別にタダでやってあげる。ただし一回だけよ? 一回だけ繁華街の広告映像に流すの。それでもいいならやってあげる」

 これは、千載一遇のチャンスッ!
 ここでアイラさんが広く勧めてくれたら、きっと次の日から途切れなくお客さんが来てくれて、アタシは一気にお金持ちに……!
 という所まで妄想して、でもアタシはふと我に返って、杖をぎゅっと握り締めた。

「ありがとうございます、アイラさん。……でも、遠慮します」
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